SaaSのマーケは何が違う?|継続前提の設計に変える

SaaSのマーケは何が違う?|継続前提の設計に変える

受注が決まった時点で、マーケティングの仕事は終わり。この前提で設計された施策は、SaaSでは機能しません。契約から半年後に解約されれば、獲得にかけた費用は回収できていません。SaaSは使い続ける体験が事業の中核にあり、継続課金とLTVの最大化、解約の防止が経営の中核指標になります。そのため、マーケティングが追う数字も、施策の対象範囲も変わります。買い切りの商材と同じ設計のまま運用すると、獲得だけが積み上がって収益が伸びない状態になります。この記事では、何が具体的に違うのか、どの指標を追うのか、どこから手をつけるのかを整理します。


カメ先生カメ先生

SaaSのマーケティングは何が違うか、と聞かれたらどう答えると思う。


カメ子カメ子

獲得の後も関係が続く、ということでしょうか。


カメ先生カメ先生

そこが本質だ。売った時点では収益が確定していない。使い続けてもらって初めて成立する事業だから、追う数字が変わる。


カメ子カメ子

獲得数だけを見ていては足りないんですね。


この記事のポイント
  • SaaSは継続課金が前提。獲得数だけでなくLTVとチャーン(解約)が中核の指標になる
  • チャーンレートには顧客数ベース、収益ベース、BtoBで使うアカウントベースの3種類がある
  • 組織内の複数の意思決定者を説得する必要があり、機能面と心理面の両方の設計が求められる

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目次

売って終わりではない構造

SaaSと買い切りの商材で最も大きく違うのは、収益が確定するタイミングです。買い切りなら受注時点で売上が立ちますが、SaaSでは契約から時間が経つほど収益が積み上がります。逆に、早期に解約されれば獲得費用を回収できません。

BtoB SaaSは使い続ける体験が中核であり、継続課金、LTVの最大化、チャーンの防止が経営の中核指標になります。マーケティングの評価も、獲得した件数ではなく、獲得した顧客がどれだけ継続したかを含めて見る必要があります。

この構造が意味するのは、獲得の質が事後的に判明することです。合わない顧客を大量に獲得しても、短期の獲得数は伸びますが、数か月後に解約されて収益は残りません。獲得の段階で相手を選ぶという判断が、買い切りより重くなります。

したがって、施策の設計も変わります。件数を追う設計から、続く顧客を選んで獲得する設計に切り替える必要があるということです。この違いを社内で共有しないまま獲得数を目標に置くと、解約率が悪化します。

具体的な現れ方として、獲得の入口で条件を示すという設計があります。対象となる企業規模や、前提となる業務の形をあらかじめ明示しておく。合わない相手に問い合わせてもらわないことは、機会の損失ではなく解約の予防になります。営業とマーケティングの間で、どういう相手が続いているかの情報を共有しておくと、この条件を具体化できます。過去に解約した顧客の共通点を洗い出す作業から始めると、条件の輪郭が見えてきます。

よくある質問と前提の共有

SaaSのマーケティングを社内で議論する際、前提の共有が足りていないことが議論の停滞につながります。よく出る疑問を整理しておくと、会議が短くなります。

最も多い疑問は、獲得数を目標にしてはいけないのかというものです。目標にしてよいのですが、単独では不十分です。獲得数と、獲得した顧客の3か月後の継続率を並べて見る形にすれば、質を落とさずに数を追えます。継続率が下がっているのに獲得数だけが伸びている状態は、収益に結びついていません。

次に多いのは、既存顧客向けの施策は誰の仕事かという疑問です。組織によって答えは変わりますが、情報提供とコミュニケーションの設計であればマーケティングが担うのが自然です。個別の対応はカスタマーサポート、仕組みとしての設計はマーケティングという分担が機能します。

3つ目は、指標が多すぎて追いきれないという声です。すべてを毎月見る必要はありません。月次で見るのは獲得数と収益チャーン、四半期でLTVと活用率を見るという頻度の分け方で足ります。

追う指標が変わる

SaaSで見るべき指標は、獲得の数だけではありません。継続と収益の指標が同じ重みを持ちます。どれを主要な目標に置くかで、施策の方向が決まります。

中心になるのはLTVです。1顧客が契約期間全体で生む収益を示す指標で、獲得にかけられる費用の上限を決める材料になります。LTVが分からないまま獲得単価を議論しても、その単価が高いのか安いのか判断できません

あわせて必要なのがチャーンレートです。解約の比率を示す指標で、LTVの計算に直接影響します。チャーンが高ければLTVは小さくなり、獲得にかけられる費用も下がります。この2つは連動して見る必要があります。

獲得の指標は残りますが、位置づけが変わります。獲得数は入口の指標であり、LTVとチャーンが結果の指標になるという階層です。報告では両方を並べ、獲得だけを主役にしないでください。

LTVの計算方法は複数あり、事業の段階によって使い分けます。契約期間の実績が十分にある場合は、実績の平均から算出できます。事業開始から間もない場合は、月あたりの平均収益をチャーンレートで割る簡易的な方法が使われます。どちらの方法を使うかを決めて社内で共有し、期をまたいで同じ方法を使ってください。計算方法が変わると、推移が比較できなくなります。

チャーンレートの3つの種類

チャーンレートには複数の計算方法があり、どれを使うかで数字が変わります。社内で定義を揃えておかないと、議論が噛み合いません。

1つ目はカスタマーチャーンレートで、ユーザー数や契約数をもとに解約率を示します。2つ目はレベニューチャーンレートで、収益ベースで算出します。同じ月に大口が1社解約し小口が3社解約した場合、この2つの数字は逆方向を示します。

3つ目は、BtoB企業でよく使われるアカウントチャーンレートです。企業との契約件数を対象にした指標で、1社で複数のライセンスを契約する形態に適しています。ライセンス数の増減と契約社数の増減を分けて見られます。

実務では、少なくとも顧客数ベースと収益ベースの2つを見ることを勧めます。顧客数は減っていないのに収益が減っている場合、契約規模の縮小が起きているという状況が読めます。この状況は顧客数だけでは見えません。

1%の差が持つ意味

チャーンレートの改善は、地味に見えて収益への影響が大きい施策です。数字で示すと、その重みが分かります。

SaaSをはじめとするサブスクリプション型のビジネスでは、チャーンレートの1%の差がLTVを数十万円単位で変えます。契約単価が高いBtoBでは、この影響がさらに大きくなります。獲得数を1割増やす労力と、チャーンを1%下げる労力を比べると、後者のほうが小さいことがあります。

この関係が意味するのは、既存顧客への施策が収益に直結するということです。新規獲得のほうが目に見える成果として扱われやすいものの、収益への貢献では既存の維持が勝る場合があります

予算配分の議論では、この点を数字で示す価値があります。チャーンを1%改善したときのLTVの変化を計算して示すと、既存向け施策の予算が通りやすくなるという効果があります。

あわせて、解約の理由を分類して示すと打ち手の議論に進めます。使われなかった、期待した成果が出なかった、担当者が異動した、予算が削られた。理由ごとに対応できる部門が違うため、マーケティングが担う範囲も明確になります。使われなかったという理由が多い場合は、導入直後の案内が不足している可能性が高くなります。この分類は営業やサポートへの聞き取りで作れます。

マーケの守備範囲が広がる

買い切りの商材では、マーケティングの範囲は受注までです。SaaSではその先まで含まれます。この違いが、組織の設計にも影響します。

含まれるようになるのは3つです。導入直後の立ち上がり支援、活用の促進、そして契約更新に向けた価値の再確認です。いずれも従来はカスタマーサポートや営業の領域とされてきた部分です。

マーケティングが関わる理由は、これらが情報提供とコミュニケーションの設計だからです。活用事例の共有、機能の使い方の案内、成果の可視化。いずれもコンテンツと配信の設計で対応できます。個別対応より効率的に届けられます。

届ける形も設計に含めます。メールでの定期的な情報提供、製品内での案内、既存顧客限定の勉強会。どの手段を使うかは、顧客の利用状況によって変わります。使い始めの段階では操作の案内が有効で、定着した段階では応用的な使い方や他社の事例が求められます。段階ごとに届ける内容を分けておくと、同じ情報を繰り返す状態を避けられます。

組織の形は各社で違いますが、役割の分担は明確にする必要があります。既存顧客への情報提供を誰が担うかを決めないと、その領域が空白になるという状況が起きやすい部分です。

無料トライアルの位置づけ

SaaSでは無料トライアルや無料プランが一般的です。これをどう位置づけるかで、獲得の設計が変わります。

トライアルは、資料請求とは性質が違います。資料請求は情報を得る行為ですが、トライアルは実際に使う行為です。使ってみて合わなければ、その時点で候補から外れます。この点で、獲得の入口としては質が高い一方、離脱も起きやすくなります。

そのため、トライアル中の体験設計が獲得率を左右します。登録した直後に何をすればよいかが分からない状態では、使われずに期間が終わります。最初の操作を案内する仕組みが必要になります。

測るべき指標も変わります。トライアルの登録数ではなく、実際に使われた比率と、そこから有料に転換した比率です。登録数だけを追うと、使われないトライアルが積み上がるという状態になります。

トライアルの期間の長さも設計の対象です。長ければ検討の余裕が生まれますが、期限が遠いと後回しにされます。短ければ集中して試されますが、業務の繁忙期に当たると使われずに終わります。実務的には、期間を固定するより、開始後の案内で最初の操作に到達させることのほうが効きます。期間を延長できる仕組みを持っておくと、使い始める前に終わってしまう相手を拾えます。

PLGという考え方

SaaSの成長の方法として、プロダクト主導の成長という考え方があります。営業活動に依存せず、製品そのものが獲得の主役になる形です。

PLGはProduct-Led Growthと呼ばれ、セールスやプロモーションにかけるコストや手間を大幅にカットできる可能性があります。利用者が自分で登録し、使い始め、価値を感じて有料に移行する。この流れが成立すれば、獲得の効率は大きく変わります。

この形が機能するには条件があります。製品が単独で価値を理解でき、設定に専門知識が要らず、少人数から使い始められることです。導入に工数がかかる製品では成立しません。

マーケティングの役割も変わります。製品の入口までを設計し、製品内での体験は製品側が担う。PLGではマーケと製品開発の境界が曖昧になり、連携が前提になるという特徴があります。

PLGが向かない商材

PLGは万能ではありません。向かない商材で無理に適用すると、獲得も定着も進みません。判断の基準を持っておく必要があります。

向かないのは3つの条件に当てはまる場合です。導入に既存システムとの連携が必要な場合、利用開始に社内の承認が必要な場合、そして全社導入が前提で個人が試せない場合です。

こうした商材では、従来型の営業を伴う獲得のほうが機能します。トライアルを用意しても、決裁の壁があるため個人の判断では導入まで進みません。無理にPLGの形を作ると、登録だけが増えて転換しない状態になります。

判断は商材の性質で決まります。個人が試して価値が分かるならPLG、組織の判断が必要なら営業を伴う獲得という切り分けです。両方を併用する形もあり、規模によって使い分ける設計が現実的です。

複数の意思決定者への設計

BtoBのSaaSでは、導入の判断に複数の人が関わります。この構造への対応が、獲得率を左右します。

SaaSは組織内の複数の意思決定者を説得する必要があるため、機能的な便益と情緒的な便益の両面の設計が求められます。現場の担当者が求めるものと、決裁者が求めるものは違います。

担当者が知りたいのは、日々の業務がどう楽になるかです。決裁者が知りたいのは、投資に見合う効果があるかと、リスクがないかです。同じ資料で両方に応えようとすると、どちらにも刺さらない内容になります

対応としては、対象別に資料を分けるのが基本です。担当者向けの使い勝手の資料と、決裁者向けの投資判断の資料を別に用意する形です。担当者が社内で説明するための材料を渡すという視点が重要になります。

指標の設計

SaaSで見る指標を整理します。すべてを毎月追う必要はありませんが、どの指標が何を示すかは把握しておく必要があります。

指標見ているもの使う場面
LTV1顧客が生む生涯収益獲得単価の上限を決める
顧客チャーンレート解約した顧客の比率定着の状況を見る
収益チャーンレート失った収益の比率契約規模の変化を含めて見る
トライアル転換率無料から有料への移行入口の質を見る
活用率機能が使われている度合い解約の予兆を掴む
獲得単価1件の獲得にかかる費用LTVと比べて投資判断する

この表で重要なのは、獲得単価とLTVを必ず並べて見ることです。獲得単価が高いという議論は、LTVとの比較なしには成立しません。LTVが十分に大きければ、高い獲得単価も合理的な投資になります。

活用率は、他の指標より先に動く性質があります。活用率の低下は、数か月後の解約の先行指標として使えるため、早期に手を打つ材料になります。

コンテンツの役割が変わる

買い切りの商材では、コンテンツの役割は獲得までです。SaaSでは獲得後にも役割があります。この違いが企画の幅を広げます。

獲得前のコンテンツは、課題の認識と比較検討を支えます。獲得後のコンテンツは、使い方の習得と活用の深化を支えます。後者は、既存顧客向けの資産として蓄積されます。

具体的には、機能の使い方の解説、活用事例の共有、業務への組み込み方の提案です。これらは解約の防止に直結し、あわせて新規の獲得にも使えます。検討中の相手が導入後の姿を具体的に想像できるためです。

制作の効率という観点でも有利です。既存顧客向けに作ったコンテンツが、そのまま検討層向けの材料になるという二重の効果があります。用途を分けて作る必要はありません。

値上げと契約更新の設計

SaaSでは価格の改定が定期的に議題になります。継続を前提とする事業のため、値上げの伝え方が解約率に直接影響します。マーケティングが関わる領域です。

伝える順序が結果を左右します。値上げの通知だけを送ると、受け取った側は価格の話としてしか受け取りません。直前の期間に機能の追加や改善を伝えていれば、価値の変化とあわせて理解されます。改善の情報を平時から届けているかどうかが、この場面で効いてきます。

契約更新の時期も接点として設計できます。更新の1〜2か月前に、その期間に得られた成果を整理して届ける形です。利用状況のデータがあれば、どれだけ使われたかを具体的に示せます。数字で価値を確認できれば、更新の判断は容易になります。

この設計は既存顧客向けの施策の一部です。更新の直前だけ接触するのではなく、平時から価値を伝え続ける形が前提になります。直前だけの接触は、営業的な意図が透けて逆効果になることがあります。

解約の予兆を掴む

解約は突然起きるわけではなく、その前に兆候が現れます。この兆候を掴めるかどうかが、チャーンの改善を左右します。

兆候として使えるのは3つです。利用頻度の低下、利用する機能の範囲の縮小、そして問い合わせやサポートへの接触の減少です。3つ目は意外に見落とされますが、関心が薄れた状態を示します。

これらを把握するには、製品の利用データを見る必要があります。マーケティング側がこのデータにアクセスできる状態を作ることが、施策の前提になります。データが開発部門にしかない状態では、兆候を掴めません。

掴んだ後の打ち手も準備しておきます。利用が減った顧客への活用案内、使われていない機能の紹介。兆候を掴む仕組みと、掴んだ後の打ち手をセットで用意することで初めて効果が出ます。

打ち手は自動化できる部分から始めます。利用が一定期間ない顧客に、使い方の案内を自動で送る。この仕組みは一度作れば継続して動きます。個別の対応が必要な顧客だけを人が拾う形にすれば、少人数でも回せます。どの条件で自動、どの条件で人が動くかの線引きを最初に決めておいてください。

切り替えの手順

買い切りの商材と同じ設計で運用してきた場合、次の順番で切り替えると混乱が少なくなります。指標の整備から始めます。

STEP1
LTVとチャーンレートを算出する

現状の数字を出します。チャーンは顧客数ベースと収益ベースの両方を計算します。

STEP2
獲得単価とLTVを並べて確認する

獲得にかけられる費用の上限を確認します。現在の単価が上限内かを見ます。

STEP3
既存顧客向けの施策の担当を決める

活用促進と情報提供を誰が担うかを決めます。空白になっている場合が多い領域です。

STEP4
解約の兆候を掴む仕組みを作る

利用データを確認できる状態にし、閾値を決めます。打ち手も同時に用意します。

STEP5
報告の指標を組み替える

獲得数だけの報告から、LTVとチャーンを含めた報告に変えます。

1番目でつまずく場合が多くあります。LTVの計算には契約期間の実績が必要で、事業開始から間もない場合は推定になります。その場合は暫定値で進め、実績が積み上がった時点で更新してください。

5番目の組み替えは、社内の期待を変える作業でもあります。報告する指標を変えることが、組織の関心を変える最も確実な方法です。

やりがちな失敗

SaaSのマーケティングで見られる失敗を挙げます。いずれも買い切りの設計を引き継いだことから起きます。

  • 獲得数だけを目標に置く:合わない顧客の獲得が増え、数か月後にチャーンが悪化します
  • LTVを知らずに獲得単価を議論する:高いか安いかの判断ができず、投資の意思決定ができません
  • 既存顧客向けの施策を誰も担わない:解約の防止が空白になり、収益の土台が崩れます
  • トライアルの登録数を成果として報告する:使われていないトライアルが積み上がり、転換しません

1つ目は、目標設定の構造から生まれる失敗です。獲得数だけが評価される状態では、担当者は質より数を追うのが合理的になります。評価の指標に継続の要素を含めることで、行動が変わります。

  • LTVとチャーンの定義は社内で1つに揃える。部門ごとに違う計算をしていると議論が進まない
  • 製品の利用データへのアクセス権は、早い段階で確保しておく

まとめ

SaaSのマーケティングは、売って終わりの商材とは追う指標が変わります。継続課金が前提のため、LTVとチャーンレートが中核になり、獲得数は入口の指標になります。チャーンレートには顧客数ベース、収益ベース、アカウントベースの3種類があり、少なくとも前2つを見る必要があります。1%の差がLTVを数十万円単位で変えるため、既存顧客への施策が収益に直結します。組織内の複数の意思決定者に対応するため、担当者向けと決裁者向けの資料を分ける。まずは現状のLTVとチャーンを算出し、獲得単価と並べて確認するところから始めてください。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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