稟議を動かす相手は目の前にいない|DMU攻略で複数決裁に備える

「商談相手にしっかり響けば、あとは前向きな返事を待つだけ」——BtoBの営業・マーケティングには、目の前の担当者を説得できれば受注に近づく、という感覚が今も根強く残っています。しかし実際の法人購買では、その担当者が席に戻った後、あなたの知らない会議室で、あなたが一度も会わない人たちが採否を議論します。米調査会社ガートナーは、複雑なBtoBソリューションの購買には通常6〜10人の意思決定者が関わるとしています。この見えない関与者の集まりがDMU(Decision Making Unit=意思決定関与者)です。本記事では、稟議が動いていく時系列のシナリオでDMUの実像を描きながら、目の前の担当者を「社内を説得する主人公」として支援するという発想への転換、役割別の訴求とコンテンツの作り分け、AIでの想定問答づくりまでを解説します。
カメ先生BtoBの購買はね、1人では決まらないんだ。ガートナーの調査では、複雑な法人購買には通常6〜10人の意思決定者が関わるとされている。目の前の担当者は、その中の1人にすぎないんだよ。
カメ子えっ、私、商談で話しているあの担当者さえ納得してくれれば受注できると思っていました…。残りの関与者には、私たちの説明は直接届かないんですか?
カメ先生届かないことが多い。決裁者や購買部門が見るのは、担当者が作った稟議書と添付資料だけだ。だからこそ、担当者が社内で戦うための武器——役割別の資料や想定問答——を持たせることが勝負になるんだ。
カメ子説得する相手ではなくて、一緒に戦う味方だったんですね。まずはうちの提案資料が「社内に回せる形」になっているか、見直してみます!
- BtoBの購買は目の前の担当者だけでは決まらない。背後に6〜10人の意思決定関与者(DMU)がいる
- 決裁の場に営業は同席できない。稟議を運ぶ担当者を「社内を説得する主人公」として支援する
- 使用者・決裁者・購買・情シスで関心事は異なる。役割別の訴求と資料を先回りで用意する
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「担当者を説得すれば売れる」は半分しか正しくない
個人の買い物なら、財布と決定権は本人にあります。ところが法人購買では、使う人・払う人・決める人・審査する人がそれぞれ別にいます。目の前の担当者が「ぜひ導入したい」と言ってくれても、それは組織の意思決定ではなく、関与者の1人の意見表明にすぎません。担当者の説得は受注の必要条件であって、十分条件ではないのです。「熱意ある反応だったのに音沙汰がなくなった」という営業の定番の悩みの多くは、断られたのではなく、社内の合意形成のどこかで案件が止まっている状態です。
この構造を数字で裏付けるのが、ガートナーが公表しているBtoB購買の時間配分です。買い手が購買検討に使う時間のうち、供給候補の営業担当者と会っている時間はわずか17%。複数社を比較している場合、1社あたりに割かれる時間は5〜6%程度とされます。残り8割超の時間、買い手は社内での情報整理・関係者との調整・比較検討に費やしています。営業のプレゼンがどれだけ見事でも、それが直接影響できるのは購買プロセスのごく一部なのです。
では担当者の説得は無意味かといえば、逆です。検討の起点を作り、社内で旗を振れるのは目の前のその人しかいません。問題は「説得して終わり」にすること。米国のセールスの世界では、買い手側との接点が1人しかない商談を「シングルスレッド(単線)の商談」と呼び、その1人の異動・退職・多忙で案件ごと消えるリスクの高い状態として警戒します。担当者の納得はゴールではなくスタートラインであり、そこから始まる社内の長い道のりをどう支援するかが、受注率を分けます。
DMUとは:目の前の1人の背後にいる関与者たち
DMU(Decision Making Unit)とは、組織の購買・契約の意思決定に関与する人々の集合を指す言葉です。1960〜70年代の米国の組織購買研究で体系化された「バイイングセンター(購買センター)」の考え方に由来し、近年は「バイイングコミッティ(購買委員会)」という呼び方も広まっています。米CEB社(現在はガートナーに統合)の調査では、BtoBの購買決定には平均5.4人が関与するとされ、この数字は書籍などを通じて広く知られるようになりました。
DMUの構成は、典型的には次の役割で説明されます。検討を言い出す起案者、実際に製品を使う使用者、専門的な意見で判断に影響を与える影響者、最終的な承認権限を持つ決裁者、価格や契約条件を精査する購買担当、そして情報や面会の流れを管理する門番(ゲートキーパー)です。日本企業の実務では、情報システム部門・法務・経理が、影響者と門番を兼ねる形で稟議に登場することが多くなります。
重要なのは、これが肩書きではなく役割だということです。中小企業では社長が決裁者と使用者を兼ねることもあれば、大企業では1つの役割に複数の部署が並ぶこともあります。商談相手の名刺を見ても、DMUの全体像は分かりません。誰がどの役割を担っているかは、案件ごとに聞いて描くしかないのです。
数字で見る複数決裁:関与者は増え、合意は難しくなっている
ガートナーは、複雑なBtoBソリューションの典型的な購買グループを6〜10人と説明し、しかも各メンバーが独自に集めた4〜5個の情報を持ち寄ると指摘しています。10人が別々の情報源を持ち寄れば、前提の食い違いが起きるのは必然です。同社の調査では、BtoBの買い手の77%が、直近の購買を「非常に複雑または困難だった」と振り返っています。
さらに2025年に発表されたガートナーの営業調査では、BtoBの買い手チームの74%が、意思決定の過程で「不健全な対立」を経験していると報告されました。現場は早く楽になりたい、購買はもっと安く、情シスはもっと慎重に——関与者が増えるほど利害はぶつかり、購買はベンダー同士の競争である前に、買い手社内の合意形成との戦いになっています。
この環境で本当に怖いのは、競合他社に負けることだけではありません。買い手が社内で合意できず、検討自体が立ち消えることです。稟議が途中で止まる、決裁者の一言で振り出しに戻る、担当者の異動で案件が消える——競合に負ける前に、買い手社内の「決められない」に負ける案件をどう減らすか。DMUへの備えとは、この社内側の失速を防ぐ設計のことです。
シナリオ序盤:現場の困りごとが「検討」に変わるまで
ここからは、稟議が動く典型的な時系列を架空のシナリオで追います(登場する企業・人物は典型例をもとにした創作です)。従業員300人の製造業で営業企画を担当する佐藤さんは、月次レポートの作成に毎月丸3日かかることに限界を感じ、業務自動化ツールの情報収集を始めました。検索で解説記事を読み、3社の資料をダウンロードし、比較表を自分で作る——この段階では、まだどの会社の営業担当者とも話していません。
2週間後、佐藤さんは課長に切り出します。「レポート作成を自動化したいんです。良さそうなツールを見つけました」。課長の反応は前向きですが、質問が続きます。「いくらかかる?」「他の選択肢とは比べた?」「セキュリティは大丈夫なのか」「情シスには話を通したのか」。この時点で答えられない質問の数だけ、検討は減速します。佐藤さんは宿題を抱えて席に戻り、ベンダーへの問い合わせを始めました。
注目すべきは、ベンダー側から見える景色です。資料がダウンロードされ、問い合わせが来て、初回商談の佐藤さんは乗り気——ここまでしか見えません。しかしその裏ではすでに課長という2人目の関与者が現れ、最初の関門が始まっています。初回商談の熱量だけで案件の確度は判断できない理由がここにあります。
シナリオ中盤:稟議書が回り、関与者が次々に現れる
課長の内諾を得た佐藤さんは、稟議書の起案に取りかかります。稟議とは、起案者が作成した承認文書を関係部門へ順に回して承認を集めていく、日本企業に広く根付いた意思決定の形式です。佐藤さんの会社の承認ルートは、課長→部長→情報システム部→購買部→経理部→担当役員。ここで初めて、商談には一度も登場しない複数の部門が意思決定に加わります。
回覧が始まると、差し戻しと質問が飛んできます。情シスからは「データの保存先はどこか。社外サーバーなら規程の確認が要る」。購買からは「相見積は取ったのか。この価格の妥当性をどう説明する」。経理からは「どの予算科目で処理するのか。今期に枠はあるのか」。佐藤さんは本来業務の合間にこれらへ回答し続けることになります。回答が数日滞るだけで、稟議は誰のせいでもなく止まります。
ベンダー側では、この期間が「音沙汰のない数週間」として観測されます。追いかけのメールに返信がないのは、興味を失ったからではなく、佐藤さんが社内対応に追われているからかもしれません。このタイミングで営業ができる最良の支援は「ご検討状況はいかがですか」という催促ではなく、社内から出ている質問を聞き取り、そのまま転送できる回答材料を届けることです。
シナリオ終盤:決裁の場に、営業は一人もいない
1か月半後、案件は役員決裁に到達しました。経営会議の議題は10件、この稟議に割り当てられた時間は5分です。説明するのは営業ではなく佐藤さんの部長。手元にあるのは、佐藤さんが社内向けに作り直した1枚のサマリーだけです。役員の質問は3つ。「これで何がいくら浮くのか」「やめた場合のリスクは何か」「なぜこの会社を選んだのか」。
ここで案件が落ちるとき、理由の多くは製品の機能不足ではありません。費用対効果が一言で説明できない、リスクへの回答が用意されていない、比較検討の過程が示せない——つまり説明の不備で落ちるのです。営業がどれだけ良いプレゼンをしても、その内容が佐藤さんの資料に翻訳されていなければ、決裁の場には存在しないのと同じです。
このシナリオが示す結論は明快です。BtoBの営業・マーケティングの仕事は「会える人を説得すること」だけでなく、「会えない人に届く材料を、会える人に持たせること」まで含みます。あなたの製品の最後のプレゼンは、あなたの知らない会議室で、顧客社内の誰かが行う——この前提に立つと、用意すべきものが変わってきます。
役割別の関心事:同じ製品でも、見る場所がまるで違う
シナリオに登場した関与者たちは、同じ製品をまったく違う角度から見ています。使用者である佐藤さんが見ているのは「毎月3日の作業がどれだけ減るか」。決裁者の役員が見ているのは「投資がいつ回収でき、経営課題とどうつながるか」。関心事が違えば、響く言葉も必要な証拠も違います。
購買部門が見るのは価格の妥当性です。値引きの大きさそのものではなく、相見積で比較できる形になっているか、価格の内訳に説明がつくかを気にします。情報システム部門が見るのはリスクです。セキュリティ認証の取得状況、データの保存場所、既存システムとの連携、障害時のサポート体制——導入のメリットは、彼らの評価項目にはほとんど入っていません。
厄介なのは、これらの関心事がしばしば衝突することです。前述の「74%が不健全な対立を経験」という数字は、この構造から生まれます。全員に同じ総合パンフレットを配るアプローチでは、この対立は解消されません。各自が自分の関心事への答えを探し、見つけられず、疑問が残ったまま稟議だけが回っていくことになります。
発想の転換:担当者は「社内を説得する主人公」
ここまでを踏まえると、商談相手への向き合い方が変わります。目の前の担当者は「説得する相手」ではなく、社内という長い道のりを進み、各関門で関与者を説得して回る主人公です。海外のセールス手法では、こうした社内の推進者をチャンピオンと呼び、その支援を商談戦略の中心に置く考え方が定着しています。
主人公には事情があります。稟議を通せなければ、費やした時間が無駄になるだけでなく、「見立てが甘い」という社内評価につながりかねません。つまり担当者は、あなたの製品に自分の信用を賭けています。担当者が本当に欲しいのは営業の熱意ではなく、社内で恥をかかないための安心材料です。
支援の基本姿勢は「売り込む」から「装備を渡す」への転換です。具体的な装備は3種類。役割別に響く訴求、そのまま社内に回せる提案資料、そして想定される反対質問への回答集です。この発想に立つと商談の締め方も変わります。次回日程の調整で終えるのではなく、「社内へのご説明はいつ、どなたに行いますか。その場で使える資料をご用意します」と尋ねる——稟議の予定を聞くこの一言が、支援の起点になります。以降のセクションで、装備3点の作り方を順に見ていきます。
役割別訴求の早見表
まず全体像です。稟議に登場する主な役割ごとに、関心事・響く訴求・用意しておくコンテンツを一覧にしました。自社の商材に合わせて中身を書き換えれば、営業とマーケティングの共通ツールとしてそのまま使えます。
| 役割 | 主な関心事 | 響く訴求 | 用意するコンテンツ |
|---|---|---|---|
| 使用者(現場) | 日々の作業がどれだけ楽になるか | 操作の簡単さ・移行負担の小ささ・時間削減の具体値 | デモ動画・操作画面・現場担当者の声 |
| 決裁者(部長・役員) | 投資に見合うか・経営課題との整合 | 費用対効果・回収期間・同業の導入状況 | 1枚サマリー・投資対効果の試算・導入事例 |
| 購買・経理 | 価格と契約条件の妥当性 | 価格の根拠・内訳の透明性・契約の柔軟さ | 見積内訳・料金表・契約条件の説明資料 |
| 情シス・法務(門番) | セキュリティと運用リスク | 認証取得状況・データ管理・サポート体制 | セキュリティチェックシート回答集・技術仕様書 |
使い方のコツは、商談の早い段階で「この検討には、ほかにどの部署の方が関わりそうですか」と尋ね、出てきた役割の行の資料を先回りで渡すことです。関与者が実際に現れてから慌てて用意するのではなく、登場が予想される関門の通行証を、主人公に先に持たせておくイメージです。
訴求の作り分け実践:現場・決裁者・管理部門
現場(使用者)向けの訴求は、導入後の1日を描くことに尽きます。機能一覧ではなく「毎月3日かかっていたレポート作成が半日になる」という業務の変化を、操作画面やデモ動画とセットで示します。専門用語を避け、現場がそのまま上司に話せる言葉で書くのがポイントです。移行時の負担(データ移行・習熟期間)を正直に書くと、かえって信頼されます。
決裁者向けは、結論先出しのA4・1枚に集約します。盛り込む数字は費用・効果・回収期間の3つまで。細かい機能説明は思い切って落とし、詳細は添付資料に回します。決裁者が稟議1件にかける時間は数分です。1枚で「承認して問題ない」と判断できる材料密度が勝負になります。同業・同規模の導入事例が1行あるだけで、「前例がある」という安心感が大きく変わります。
管理部門(購買・情シス・法務)向けは、相手の様式に合わせるのが最短です。多くの企業はセキュリティチェックシートや購買の確認項目リストを持っています。よくある確認項目への回答をあらかじめ文書化して渡しておけば、担当者は質問が出るたびにベンダーへ問い合わせる往復を省けます。この往復の省略が、稟議の停滞をそのまま短縮します。
会えない関与者は、検索でやってくる
役割別の訴求は、営業が手渡す資料だけの話ではありません。2025年に発表されたガートナーの調査では、BtoBの買い手の61%が、営業担当者を介さない購買体験を好むと回答しています。決裁者や情シス担当者の多くは、稟議の途中で疑問が湧いたとき、営業に問い合わせるのではなく自分で検索します。社名やサービス名で検索した関与者がそこで何を見つけるか——ここまでがDMU対応の射程です。
マーケティング側の具体策は、役割別の受け皿ページを自社サイトに用意することです。決裁者向けには数字入りの導入事例と費用対効果の解説、情シス向けにはセキュリティ・データ管理・認証取得状況を1ページに集約した信頼性ページ、購買向けには料金体系の考え方の説明。よくある質問も「現場の方から」「情報システムご担当から」のように役割別に分けて置くと、稟議中の関与者が自分の疑問に直行できます。営業資料と同じ素材を流用できるため、追加の制作コストは見た目ほど大きくありません。
シナリオの佐藤さんの案件でいえば、情シス担当者が社名を検索してセキュリティページを見つけられれば、チェックシートの往復は何往復分も減ります。営業が渡す提案キットと、検索で見つかるWebコンテンツ。この二層で備えることで、会えない関与者への説明を「担当者の頑張り任せ」から「仕組み」に変えられます。
社内提案を支援する資料チェックリスト
担当者に渡す「社内提案キット」として、そろえておきたい資料を挙げます。最初からすべてを完璧に作る必要はありませんが、自社に何があり何が欠けているかの棚卸しに使ってください。前セクションの受け皿ページと素材を共通化すれば、二重の制作にはなりません。
- 決裁者向けの1枚サマリー(結論先出し・費用対効果・回収期間入り)
- 編集可能な形式の社内説明用スライド(担当者が自社の体裁に直せる)
- 同業種・同規模の導入事例(できれば数字入りで2〜3件)
- 競合・代替案との比較表(「現状維持」との比較を含む)
- セキュリティチェックシートのよくある項目への回答集
- 見積の内訳と価格の根拠が分かる資料
- 導入スケジュールと顧客側の作業負担の一覧
- 社内で想定される反対質問への回答集(想定問答)
特に効くのが「編集可能な形式」です。体裁の整ったPDFパンフレットより、担当者が自部門の数字や社内用語に差し替えられるスライドのほうが、社内資料として実際に使われます。担当者が「自分の言葉」に直せる余白を残すことが、資料が社内を旅する条件です。もう1つの要点は「現状維持との比較」。稟議で最も強い対抗馬は競合他社ではなく「何もしない」という選択肢だからです。
想定問答:社内の反対意見に先回りする
稟議で出る質問は、かなりの精度で予測できます。大きく4系統に整理できます。①費用系(高すぎないか・今期でなくてもよいのでは)、②リスク系(セキュリティは大丈夫か・失敗したらどうする)、③比較系(他社製品は見たか・現状のやり方ではだめか)、④実行系(誰が運用するのか・現場の負担は増えないか)。この4系統に2〜3問ずつ、計10問前後の想定問答を用意すれば、大半の関門をカバーできます。
質問の素材は自社の過去案件にあります。失注理由や停滞理由の記録、商談の議事録、営業日報に残る「先方からの宿題」——これらから実際に出た質問を拾い上げると、業界・商材に固有の問いが集まります。汎用の想定問答より、「前回の案件で実際に聞かれた質問」の再利用のほうがはるかに実戦的です。
書式は、質問→2〜3文の短い回答→裏付け資料への参照、の3点セットにします。長文の回答は担当者が覚えられず、その場で使えません。稟議の回覧中にメールで飛んでくる質問へ、担当者がコピーして貼れる粒度——それが想定問答の実用ラインです。
DMUマップを作る4ステップ
個別の案件でDMUを可視化する道具が、DMUマップです。関与者を役割別に配置し、関心事とスタンスを書き込んだ1枚の地図で、営業チーム内の情報共有にも、マーケティングのコンテンツ企画にも使えます。作り方は次の4ステップです。
商談で「この検討には、ほかにどなたが関わりますか」「最終的な承認はどなたですか」と率直に尋ねます。答えにくそうなら「他社様では購買部門と情報システム部門の確認が入ることが多いのですが、御社ではいかがですか」と例を示すと聞き出しやすくなります。
出てきた関与者を起案者・使用者・影響者・決裁者・購買担当・門番に分類し、それぞれの関心事の仮説を書き込みます。分からない欄は無理に埋めず、空欄のまま残します。
各関与者を推進・中立・慎重の3段階で見立てます。根拠のない楽観は禁物で、情報がない人は「不明」と正直に記録します。
役割とスタンスの組み合わせごとに、渡す資料と次のアクションを決めます。慎重な門番には回答集を、中立の決裁者には事例と1枚サマリーを、といった具合です。
マップは一度作って終わりではなく、商談のたびに更新します。経験則として、「不明」の欄が多いまま進んでいる案件ほど、終盤で想定外の関与者が現れて停滞します。マップの空欄は、次の商談で聞くべき質問リストそのものです。道具は表計算ソフトやホワイトボードで十分で、初回の作成は30分もかかりません。さらに複数案件のマップを並べて見ると、自社の商材が毎回引っかかる関門——たとえば「いつも情シスで止まる」——が浮かび上がり、回答集やコンテンツ整備の優先順位づけにもつながります。
AIで役割別訴求文と想定問答を作る
ここまでの準備をゼロから人手で作ると、相応の工数がかかります。生成AIが最も効くのは、1つの製品情報を役割別の複数視点に展開する作業です。視点の切り替えと言い換えはAIの得意分野であり、たたき台づくりの時間を大きく短縮できます。プロンプトの例を挙げます。
あなたはBtoBマーケティングのコピーライターです。
以下の製品情報をもとに、法人の稟議に関わる4つの役割
それぞれに響く訴求文を作ってください。
・製品情報:(概要・価格・導入効果を貼り付け)
・役割:(1)現場の使用者 (2)決裁者(部長・役員)
(3)購買・経理 (4)情報システム部門
各役割について「関心事の仮説→訴求文(150字以内)→
裏付けとして用意すべき資料」の順で出してください。
製品情報から確認できない数値や事例は使わず、
必要な場合は「要確認」と明記してください。
想定問答づくりにも使えます。製品情報と想定顧客のプロフィールを渡し、「稟議の過程で社内から出そうな反対質問を、費用・リスク・比較・実行の4系統で20個挙げ、それぞれに2〜3文の回答案を付けてください」と指示すると、人間だけのブレストでは出にくい門番視点・経理視点の質問まで網羅されます。ただし回答案の事実確認と、自社の実績数字への置き換えは必ず人間が行います。
- AIが生成した数値・事例・顧客名はそのまま使わない。自社で確認できた事実だけを残す
- 顧客企業の組織情報や商談内容を入力する場合は、社名・個人名を伏せ字にする
- 役割別訴求はあくまで仮説。商談で聞き取った実際の関心事で上書きし続ける
DMU対応でやりがちな失敗
最後に、DMUの視点を持ったつもりでも陥りやすい失敗を整理します。
- 全員に同じ総合カタログを渡す:誰の関心にも深くは刺さらず、どの関門の通行証にもならない
- 決裁者への直接アプローチに固執する:担当者の頭越しの接触は、最大の味方であるはずの主人公の信頼を失う
- 担当者の熱量だけで案件を評価する:本人が乗り気でも、決裁者・購買・情シスの欄が「不明」なら停滞予備軍
- 買い手の予算サイクルを無視する:予算編成が締まった後の提案は、内容が良くても来期送りになる
共通する根っこは、目の前の1人を購買の全体と見なす思い込みです。担当者との関係が良好なほど、この錯覚は強まります。案件の確度は「担当者の温度」ではなく「DMUマップの埋まり具合と各関与者のスタンス」で測る——この習慣が、見込みの読み違いを減らします。
まとめ
BtoBの購買では、商談相手の背後に6〜10人の意思決定関与者(DMU)がいて、最後のプレゼンはあなたのいない会議室で行われます。買い手が営業と会う時間は購買プロセスの17%にすぎず、勝負の大半は社内の稟議と合意形成の中で決まります。だからこそ、目の前の担当者を説得の対象ではなく「社内を説得する主人公」と捉え直し、使用者・決裁者・購買・情シスという役割別の訴求、編集可能な社内提案資料、実戦的な想定問答という装備を持たせることが、営業・マーケティングの仕事になります。受注を分けるのは、会えない人に届く材料を用意できたかどうかです。役割別の展開や想定問答のたたき台はAIで効率化できます。次の商談ではまず、「この検討には、ほかにどなたが関わりますか」という1つの質問から始めてみてください。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
AI活用を戦略に落とす前に、まずは導入・定着から始めませんか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
