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病院が外国人の患者向けの検査・入院・会計の説明文書を改訂のたびに多言語へ訳し、用語集で医療用語の訳をそろえて、数値と用語の確認表を付ける

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

外国人の患者に渡す検査・入院・会計の案内文書が改訂されるたびに、Word や PDF の様式を保ったまま英語・中国語・ベトナム語に訳します。用語集で医療用語の訳をそろえ、原文と訳文の数値と用語を段落ごとに照らした確認表を付けて確認に回します。

サマリー
AIサービス
Azure AI/Google Document AI
対象業界
介護/医療/自治体
対象部門
総務
対象業務
内容確認・チェック/書類作成
主な課題
属人化している/書類作成に時間がかかる/確認ミスが多い
AIで行う処理
翻訳
主な効果
品質標準化/属人化解消/工数削減
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
本格構成
費用感
API連携(中)
人間の確認
条件付き
現在工数
60h/月
AI導入後
24h/月
想定削減
60%
年間削減
432h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 部署から改訂した原文の Word が届く
  2. 担当が前の版と見比べ、どの段落が変わったかを確かめる
  3. 段落ごとに文章を機械翻訳の画面に貼り、訳文を Word の様式の同じ位置に貼り戻す
  4. 表の中の文字、箇条書き、見出しの体裁を直す
  5. 院内の用語の一覧を見ながら、医療用語の訳を一覧の訳に置き換える
  6. 数値・日付・時刻・電話番号・部屋番号を、原文と1つずつ見比べる
  7. 医療通訳者と外部の確認者に確認を頼み、直しを入れて PDF にする
  8. 古い版を棚と端末から下げ、新しい版を置く
導入後(After)
  1. 人部署が改訂した原文の Word を、文書の管理の「改訂確定」のフォルダに置く
  2. 自動保存をきっかけに処理が動き、文書の種類・版・パスワードの有無を確かめる
  3. 自動Azure AI Translator のドキュメント翻訳が、3言語それぞれの用語集を付けて文書ごと訳す
  4. 自動Azure AI Document Intelligence のレイアウト モデルが、原文と訳文から段落と表を取り出す
  5. 自動プログラムが段落を対応させ、数値・日付・時刻・電話番号が原文と訳文で同じかを照らす
  6. 自動用語集の語が原文にあるのに、訳文に決めた訳が無い段落を拾う
  7. 自動訳文に日本語の文字が残っている段落(訳し残し)を拾う
  8. 自動気になる段落について、訳文を日本語に戻した逆訳を並べる
  9. 自動段落ごとの確認表を作り、`照合済み` / `要確認` を付ける
  10. 人総務課の担当が確認表の `要確認` を見て、明らかな直しを入れる
  11. 人医療通訳者と外部の確認者が、訳文と確認表を見て訳を確かめる
  12. 人確認が済んだ版を PDF にして配布し、古い版を下げる
各工程の詳しい説明を読む
  1. 部署から改訂した原文の Word が届く
  2. 担当が前の版と見比べ、どの段落が変わったかを確かめる
  3. 段落ごとに文章を機械翻訳の画面に貼り、訳文を Word の様式の同じ位置に貼り戻す
  4. 表の中の文字、箇条書き、見出しの体裁を直す
  5. 院内の用語の一覧を見ながら、医療用語の訳を一覧の訳に置き換える
  6. 数値・日付・時刻・電話番号・部屋番号を、原文と1つずつ見比べる
  7. 医療通訳者と外部の確認者に確認を頼み、直しを入れて PDF にする
  8. 古い版を棚と端末から下げ、新しい版を置く

(a)訳文の差し替えが遅れる。 改訂が届いてから3言語の訳文が棚に並ぶまで、2〜3週間かかることがあります。 そのあいだ、日本語の版は新しく、外国語の版は古いままです。検査の前の注意が変わっていれば、外国人の患者だけが古い注意を読んでいることになります。

(b)訳語が文書ごとにそろわない。 「絶食」が、ある文書では fasting、別の文書では no eating と訳され、同じ患者が2枚の案内を読むと、同じことか違うことか分かりません。 用語の一覧はありますが、置き換えは担当が目で探して行うので、漏れが出ます。

(c)数値の写し間違いが目で拾えない。 段落を貼り戻すときに、時刻や電話番号の入った段落を1つ前の版のまま残すことがあります。原文と訳文を並べて見ても、読めない言語の中の数字は見落とします。 ベトナム語の版は、総務課のだれも読めません。

(d)体裁の直しが人に付いている。 表の中の文字を貼り戻す手順と、崩れた体裁の直し方は、1名の担当がいちばんよく知っています。 その人が休むと、改訂が止まります。

  1. 【人】 部署が改訂した原文の Word を、文書の管理の「改訂確定」のフォルダに置く
  2. 【自動】 保存をきっかけに処理が動き、文書の種類・版・パスワードの有無を確かめる
  3. 【自動】 Azure AI Translator のドキュメント翻訳が、3言語それぞれの用語集を付けて文書ごと訳す
  4. 【自動】 Azure AI Document Intelligence のレイアウト モデルが、原文と訳文から段落と表を取り出す
  5. 【自動】 プログラムが段落を対応させ、数値・日付・時刻・電話番号が原文と訳文で同じかを照らす
  6. 【自動】 用語集の語が原文にあるのに、訳文に決めた訳が無い段落を拾う
  7. 【自動】 訳文に日本語の文字が残っている段落(訳し残し)を拾う
  8. 【自動】 気になる段落について、訳文を日本語に戻した逆訳を並べる
  9. 【自動】 段落ごとの確認表を作り、照合済み / 要確認 を付ける
  10. 【人】 総務課の担当が確認表の 要確認 を見て、明らかな直しを入れる
  11. 【人】 医療通訳者と外部の確認者が、訳文と確認表を見て訳を確かめる
  12. 【人】 確認が済んだ版を PDF にして配布し、古い版を下げる

5番目から7番目が、この設計の分かれ目です。 訳文を全部読める人がいなくても、数字が同じか、決めた訳語が入っているか、日本語が残っていないかは機械で確かめられます。総務課が見るのはその結果だけで、訳の中身は確認者が見ます。

10番目と11番目を分けているのも、意図してのことです。 総務課の担当が直せるのは、数字の食い違いや訳し残しのような原文と照らせば分かる直しだけです。訳が医療の内容として正しいかは、言語と医療の両方が分かる人が決めます。

02今回想定するシステム構成

構成図
改訂した原文(Word。古い文書は PDF)
   │
   ▼【トリガー】文書の管理の「改訂確定」フォルダへの保存
Azure Functions
   ├──▶ 文書の種類・版・パスワードの有無を確認、Blob の原文コンテナへ
   ▼
Azure AI Translator(ドキュメント翻訳。非同期のバッチ)
   │   訳文の言語:en / zh-Hans / vi
   │   言語ごとの用語集(ja-en.tsv / ja-zh-Hans.tsv / ja-vi.tsv)
   ▼   訳文コンテナへ(様式を保った Word)
Azure AI Document Intelligence(レイアウト モデル)
   │   原文と訳文の段落・表・見出し
   ▼
Azure Functions ── 段落の対応づけ、数値の照合、用語集の適用の確認、訳し残しの検出
   │                 気になる段落は Translator のテキスト翻訳で逆訳
   ▼
確認表(段落ごと:照合済み / 要確認)
   ▼
【総務課が要確認を直し、確認者と医療者が訳を確かめる】
   ▼
配布用の PDF、古い版の取り下げ
役割想定する製品代替候補
翻訳Azure AI Translator(ドキュメント翻訳と用語集)DeepL API(文書の翻訳と用語集)、Google Cloud Translation
OCRAzure AI Document Intelligence(レイアウト モデル。原文と訳文の段落と表の取り出し)Google Document AI(Layout Parser)
連携Azure Functions(保存を起点に翻訳と取り出しを呼び、照合して確認表を作る)Azure Logic Apps
保管Azure Blob Storage(原文・訳文・用語集のコンテナ)SharePoint のドキュメント ライブラリ

生成AIは使いません。 訳はドキュメント翻訳が、照合はプログラムが行います。文書ごと訳して様式を保つ仕事と、数字が同じかを確かめる仕事に、文章を作る機能は要りません。

土台は、Translator のドキュメント翻訳です。 公式ページでは、元の文書の構造とデータ形式を保ったまま複数の複雑な文書を訳せるとされ、Blob Storage の原文と訳文のコンテナを使う非同期のバッチと、1ファイルを訳して応答で返す同期の翻訳の2つがあります。改訂は1日に複数本届くので、バッチを使います。

対応する形式には、Word(docx)と PDF が含まれます。 PDF については、スキャンした PDF の文字を OCR で取り出して訳し、元のレイアウトを保つとされています。紙しか残っていない古い案内も、スキャンして同じ流れに入れられます。

用語集は、TSV・CSV・XLIFF の形式で渡します。 バッチの要求では、訳文の言語ごとに glossaries に用語集の URL と形式を書きます。用語集は1つの言語の組に1つなので、3言語なら3つです。

照合のための段落の取り出しには、Document Intelligence のレイアウト モデルを使います。 公式ページでは、テキスト・表・選択マーク・文書の構造を取り出し、段落には見出しなどの役割が付くとされています。Word からは段落と語が、PDF からは表も取り出せます。原文と訳文の同じ位置の段落を並べるために、同じ仕組みで両方から取り出します。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

部署が改訂を確定して、原文を「改訂確定」のフォルダに置いたことを起点にします。 下書きの段階では動かしません。下書きを訳すと、確認者が古い文を確かめることになります。

保存を検知したら、Azure Functions が原文を Blob Storage の原文コンテナに写し、ドキュメント翻訳のバッチを1件起こします。1本の文書から3言語の訳文を1回の要求で作ります。 公式ページの上限では、バッチ1回の訳文の言語は10までです。

バッチの状態は、ジョブと文書の状態を取得する操作で見ます。訳文が訳文コンテナに出そろったことを確かめてから、次の取り出しに進みます。 出そろう前に進むと、2言語分だけの確認表ができます。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
原文改訂した Word(古い文書は PDF)、文書の番号と版文書の管理の「改訂確定」フォルダ
前の版の原文と訳文前の版の Word と、確認が済んだ3言語の訳文文書の管理の版の履歴
用語集言語ごとの TSV。原文の語と、決めた訳総務課と確認者が管理する表から書き出す
照合の規則数値・日付・時刻・電話番号・部屋番号として拾う形設定に持つ
訳文様式を保った3言語の WordTranslator の訳文コンテナ
段落と表原文と訳文から取り出した段落・表・見出しAzure AI Document Intelligence

質を決めるのは、用語集です。 ドキュメント翻訳は、用語集が無ければ一般の訳で訳します。「限度額適用認定証」「造影剤」「絶食」のような語は、病院が決めた訳がなければ、文書ごとに違う訳が出ます。 用語集は総務課だけで作らず、医療通訳者と確認者が訳を決めて、表で管理します。

前の版の訳文は、変わっていない段落の確認を省くために持ちます。 原文の段落が前の版と同じなら、確認者は前の版で確かめた訳と新しい訳を見比べるだけで済みます。

Step3

データの取得方法を決める

翻訳は、バッチの要求に原文コンテナ・訳文コンテナ・訳文の言語・用語集を書いて送ります。 用語集の要求の例では、訳文ごとに targetUrl、language、glossaries(glossaryUrl と format)を書きます。原文の言語は ja と明示します。公式ページでは、原文の言語は省略できるが、明示したほうが自動判定より訳の質がよいとされています。

取るものどこから何に使うか
3言語の訳文訳文コンテナ配布用の版の元
ジョブと文書の状態状態を取得する操作出そろったか、失敗した文書は無いか
原文と訳文の段落レイアウト モデルの paragraphs と役割段落の対応づけと照合
原文と訳文の表レイアウト モデルの tables表の中の数値の照合
逆訳Translator のテキスト翻訳(訳文の言語から ja)気になる段落の確認の手がかり

段落の対応づけは、見出しと順番で行います。 原文と訳文は様式が同じなので、段落の数と並びはおおむねそろいます。数がそろわない文書は、対応づけをせずに全体を 要確認 にします。 無理に並べると、違う段落どうしの数値を照らすことになります。

逆訳は全部の段落には付けません。 数値の食い違いや用語集の不適用が出た段落と、前の版から変わった段落だけです。総務課の担当は、ベトナム語が読めなくても、逆訳で何が書かれたかの見当をつけられます。 ただし、逆訳は訳の正しさの証拠にはしません。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. パスワードの有無を確かめる … 公式ページでは、パスワードで暗号化された文書や、内容のコピーが制限された文書は訳せないとされています。保護を外した版を部署に出してもらいます
  2. 大きさを確かめる … バッチでは1文書40MB、1回の合計250MBまでです。画像の多い入院のしおりは超えないかを見ます
  3. 混じった言語を確かめる … 1つの文の中に複数の言語が混じると、訳しきれないことがあるとされています。「MRI(磁気共鳴画像)」のような書き方は、原文の側で整えます
  4. 前の版と比べる … 変わった段落に印を付けます。確認表で「変更あり」の列に出します
  5. 用語集を書き出す … 表から言語ごとの TSV を作り、重複した原文の語や、空の訳が無いかを確かめてから用語集のコンテナに置きます。用語集の大きさはバッチで10MBまでです
  6. 画像の中の文字を確かめる … 原文の図の中に文字があるかを見ます。図の中の数字は、照合の対象から漏れやすいので印を付けます

5番目を軽く見ないでください。 用語集に同じ語が2行あると、どちらの訳が使われたかが文書を見るまで分かりません。表で訳を決めた時点で、1つの語に1つの訳にしておきます。

3番目は、原文の書き方の問題です。 医療の文書には、英語の略語と日本語の説明を1つの文に混ぜる書き方が多く、そのまま訳すと略語の前後が崩れます。 部署に書き方の決まりを1つ渡すだけで、訳の崩れが減ります。

Step5

AIに処理させる

機械翻訳にさせるのは、文書を様式ごと訳し、用語集の語を決めた訳にすることだけです。 照合はプログラムが規則で行います。

見るもの照らし方合わないときの扱い
数値・単位原文と訳文の段落から数字の並びを取り出し、同じかを見る要確認。どちらの数字かを並べる
日付・時刻「前日の21時」「午前8時30分」などを時刻に直して比べる要確認。12時間表記と24時間表記の違いも並べる
電話番号・内線・部屋番号数字の並びを桁ごとに比べる要確認。1桁の違いも出す
用語集の語原文にある用語集の語に対し、訳文に決めた訳があるか用語の不適用。原文と訳文の該当箇所を並べる
訳し残し訳文にひらがな・カタカナ・漢字が残っていないか(中国語の訳文では漢字を除く)訳し残し
段落の数原文と訳文の段落の数と見出しの並び合わなければ文書全体を 要確認

1行目から3行目が、この構成でいちばん大事な照合です。 訳の言い回しが多少ぎこちなくても患者は読めますが、時刻と電話番号が違えば、患者は違う行動をとります。 機械で確かめられるところを、機械で確かめます。

4行目には注意が要ります。 公式ページでは、ドキュメント翻訳の用語集は既定で大文字と小文字を区別し、文の一部に当てるときは大文字・小文字が合わないと当たらないとされています。日本語の原文では起きにくいのですが、原文に英語の略語や製品名がある場合は、用語集の側の書き方を原文に合わせます。

させないこと理由
訳の正しさの判断医療の内容として正しいかは、医療者と確認者が決める
数値の食い違いの自動の直しどちらが正しいかは原文を作った部署に確かめる
原文の書き換え原文の誤りに気づいても、直すのは部署
逆訳を根拠にした合否逆訳は手がかりで、訳の証拠ではない
確認なしの配布確認者の確認が済むまで配布用の版にしない

2行目を外さないでください。 原文の「前日21時以降は絶食」と訳文の「20時」が食い違ったとき、原文が誤っていることもあります。 改訂のときに日本語の側だけを直し忘れた例です。どちらに合わせるかは、原文を作った部署に聞きます。

Step6

指示内容を固定する

この構成では生成AIに指示文を渡しません。機械翻訳への指示は、用語集とバッチの要求の中身です。 用語集(ja-en.tsv)は、原文の語と訳をタブで区切って1行に1語を書きます。

絶食	fasting
造影剤	contrast agent
内視鏡検査	endoscopy
会計窓口	Payment Counter
高額療養費	High-Cost Medical Expense Benefit

訳の語は、医療通訳者と確認者が決めた訳をそのまま書きます。 上の訳は書き方の例で、病院として採る訳は確認者と決めてください。

バッチの要求では、訳文の言語ごとに用語集を付けます。

{
  "inputs": [
    {
      "source": { "sourceUrl": "https://<storage>.blob.core.windows.net/source-ja", "language": "ja" },
      "targets": [
        { "targetUrl": "https://<storage>.blob.core.windows.net/target-en", "language": "en",
          "glossaries": [ { "glossaryUrl": "https://<storage>.blob.core.windows.net/glossaries/ja-en.tsv", "format": "tsv" } ] },
        { "targetUrl": "https://<storage>.blob.core.windows.net/target-zh-hans", "language": "zh-Hans",
          "glossaries": [ { "glossaryUrl": "https://<storage>.blob.core.windows.net/glossaries/ja-zh-Hans.tsv", "format": "tsv" } ] },
        { "targetUrl": "https://<storage>.blob.core.windows.net/target-vi", "language": "vi",
          "glossaries": [ { "glossaryUrl": "https://<storage>.blob.core.windows.net/glossaries/ja-vi.tsv", "format": "tsv" } ] }
      ]
    }
  ]
}

用語集に入れるのは、複合の名詞に限ります。 Custom Translator の辞書の公式ページでは、フレーズの辞書は製品名や固有名、機能名のような複合の名詞に向き、動詞や形容詞には向かないとされ、文の一部を置き換えると残りの文の訳の質が落ちることがあるとも書かれています。数字だけの語や、2〜3文字の略語を原文の語にすることも避けるよう案内されています。「飲まないでください」のような言い回しを用語集で固定しないでください。

言い回しまでそろえたくなったら、Custom Translator の出番です。 辞書だけで学習するモデルを作れ、ドキュメント翻訳では category に Custom Translator のカテゴリ ID を渡して使うとされています。最初は用語集だけで始め、確認者の直しの傾向を見てから考えます。

Step7

出力形式を固定する

確認表は、文書1本・言語1つごとに、段落を1行にした表で作ります。 機械で処理できるよう、同じ中身をJSONでも残します。

{
  "doc_id": "EX-CT-012",
  "version": "2026-10",
  "target_language": "vi",
  "paragraph_count": { "source": 24, "target": 24 },
  "rows": [
    { "index": 7, "changed_from_previous": true,
      "source_text": "", "target_text": "", "back_translation": "",
      "numbers": { "source": ["21", "0120-xxx-xxx"], "target": ["21", "0120-xxx-xxx"], "match": true },
      "glossary": [ { "term": "絶食", "expected": "nhịn ăn", "applied": true } ],
      "untranslated_japanese": false,
      "status": "照合済み | 要確認" }
  ],
  "document_status": "照合済み | 要確認 | 対応づけ不可"
}

1つ目の理由は、numbers と glossary を段落ごとに残せることです。 確認者は、どの段落の何が合わなかったかを表の1行で読めます。

2つ目は、changed_from_previous で確認の範囲を絞れることです。 変わっていない段落で、照合がすべて合っているものは、確認者が流し見で済みます。

3つ目は、document_status で配布を止められることです。 対応づけ不可 の文書は、段落の照合ができていないので、確認者が全文を見るまで配布用の版にしません。

条件status
数値・用語集・訳し残しがすべて問題なし照合済み
数値の不一致、用語の不適用、訳し残しのどれか要確認
原文と訳文の段落の数が合わない文書全体を 対応づけ不可
Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
文書の管理の「改訂確定」フォルダAzure Functions のトリガー保存を検知して処理を始める
Blob Storage原文・訳文・用語集のコンテナドキュメント翻訳の入出力
Azure AI Translatorドキュメント翻訳のバッチ、テキスト翻訳3言語の訳文と、逆訳
Azure AI Document Intelligenceレイアウト モデルの呼び出し原文と訳文の段落と表
確認表文書の管理に Word か表で置く確認者と医療者が見る

ストレージへの権限は、マネージド ID で渡します。 用語集の要求の例も、システム割り当てのマネージド ID にストレージの役割を付けた形で書かれています。SAS トークンを使う場合は、期限を短くします。

配布用のフォルダへは、この構成から書き込みません。 確認が済んだ版を、総務課の担当が PDF にして置きます。訳文コンテナの訳文は、確認前の下書きです。

Step9

人が確認する

  1. 総務課の担当が 要確認 の段落を見る … 数値の不一致は原文と訳文を並べ、原文の誤りか訳の誤りかを見分けて、原文の誤りなら部署に返します
  2. 訳し残しと用語の不適用を直す … 訳文の Word で該当の語を直します。用語集の側の漏れなら、用語集に足します
  3. 確認者が訳を確かめる … 医療通訳者と外部の確認者が、変更のある段落と 要確認 だった段落を中心に訳を読みます
  4. 医療者が内容を確かめる … 検査の前の注意など、患者の行動を決める段落は、原文を作った部署の医療者が訳の確認者と一緒に確かめます
  5. 確認の記録を付ける … だれが、どの言語の、どの版を確かめたかを残します

3番目と4番目を省かないでください。 数値と用語が合っていても、否定の向きが逆になる、条件の範囲が変わる、といった訳の誤りは照合では拾えません。 「21時以降は食べないでください」が「21時までに食べてください」になる種類の誤りです。

総務課の目標は、120件をならして1件12分です。 それより多い月は、用語集の漏れか、原文の書き方を見直す合図です。

Step10

例外に対処する

起きること対応
パスワード付きの文書訳せない。保護を外した版を部署に出してもらう
文書の大きさが上限を超えるバッチで1文書40MB。画像を軽くするか、文書を分ける
1つの言語の訳だけが失敗する文書ごとの状態を見て、その言語だけ出し直す。3言語がそろうまで確認表を作らない
段落の数が合わない対応づけ不可。全文を確認者が見る
図の中の文字照合から漏れる。図の中の数字は人が見る
原文と訳文の数値が食い違うどちらが正しいかを原文の部署に聞く
用語集の語が当たらない原文の書き方と用語集の書き方の違いを確かめ、用語集を直す
スキャンした PDF の原文訳はできるが、読み取りの誤りが訳にも入る。原文の側も確認者が見る

上の3行は、仕組みの問題です。 部署に渡す原文の決まり(保護をかけない、画像を重くしない)を1枚にまとめておくと、ほとんど起きなくなります。

Step11

記録を残す

  • 原文と前の版の原文、文書の番号と版
  • ドキュメント翻訳のジョブの ID と、文書ごとの状態
  • そのとき使った用語集の版(3言語それぞれ)
  • 3言語の訳文(確認前の下書きと、確認後の配布版)
  • 確認表のJSONと、要確認 をどう直したかの記録
  • 確認者・医療者の確認の記録(だれが、どの言語の、どの版を)
  • 配布した日と、古い版を下げた日

3つ目で用語集の版を残すのは、用語集が改訂されるためです。 「絶食」の訳を途中で変えると、古い版の文書がなぜ前の訳のままなのかを、用語集の版で説明できます。

04実装レベルの3段階

最小構成:プレイグラウンドで1本ずつ用語集を付けて訳す / 様式を保った訳と、用語集の効き目の確認
半自動化:上記+フォルダを起点にバッチで3言語を訳し、訳文を確認者に回す / 訳と様式の保持
本格構成:上記+原文と訳文の段落を取り出し、数値・用語・訳し残しを照らした確認表を付ける / 訳と照合の全体

最小構成では件数がさばけません。 確かめるための段階です。 半自動化で、1件30分が18分程度になります。 貼り戻しと体裁の直しは無くなりますが、数値と用語の照合が目で残ります。 本格構成で12分になり、この段階が本記事の想定です。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
2 名
月間件数
120 件
1件あたり現在時間
30 分
1件あたり導入後時間
12 分
現在  120件 × 30分 ÷ 60 = 60 時間/月
導入後 120件 × 12分 ÷ 60 = 24 時間/月
月間削減時間
36h
削減率
60%
年間削減時間
432h
年間金額換算(時間単価3,000円)
130万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 外国人の患者が一定数あり、検査の前の注意、入院の案内、会計・支払いの案内などの説明文書を複数の言語で用意している病院・診療所・健診センター。原文の改訂が毎月あり、そのたびに訳文の差し替えが遅れる、訳語が文書ごとにそろわない場合。文書を Word や PDF の様式で配っていて、訳したあとの体裁の直しに時間がかかっている場合。
向いていない
  1. 外国人の患者が少なく、多言語の文書が数種類で、改訂もほとんど無い場合。説明を通訳や電話の通訳サービスですべて行っていて、文書を配っていない場合。同意書のように、訳文そのものに法的な意味を持たせる文書を、確認なしで配りたい場合。なお、訳が医療の内容として正しいかの判断は医療者と訳の確認者が行うもので、この構成では代替できません。

07最小構成で試す方法

  1. 検査・入院・会計から、最近改訂した文書を3本ずつ、計9本を選ぶ(表と箇条書きの多いものを入れる)
  2. 院内の用語の一覧から、9本に出てくる医療用語を30語選び、ベトナム語の訳を確認者と決めて TSV にする
  3. Foundry の Translator のプレイグラウンド(クラシックのポータル)で、同期の文書翻訳に原文と用語集を渡して訳す
  4. 訳文の体裁が崩れていないか、用語集の語が決めた訳になっているかを見る
  5. 原文と訳文の数値・時刻・電話番号を、手で1つずつ見比べる

9本は必ずやってください。 バッチや照合を組む前に、様式が保たれるのか、用語集が効くのかを確かめます。

出てきた内容判断
体裁が保たれ、用語集の語が当たっているバッチと照合の仕組みに進む
用語集の語が当たらない原文と用語集の書き方の違い。用語集を直せば構成は有効
表の中の体裁が大きく崩れるその様式の原文を整えてから試し直す

2行目が出ることは珍しくありません。 原文の表記ゆれ(「絶飲食」と「絶食」)が、そのまま用語集の漏れになっているだけです。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
用語集を1つにまとめて全言語に付ける用語集は言語の組ごとに1つ。 3言語なら3ファイル
用語集に言い回しまで入れて訳が崩れる複合の名詞に限る
原文の英語の略語に用語集が当たらない大文字・小文字と書き方を原文に合わせる
2言語分だけの確認表ができる3言語の訳文が出そろってから照合に進む
違う段落どうしの数値を照らす段落の数が合わない文書は 対応づけ不可
数値の食い違いを訳文の側だけ直す原文の誤りのこともある。部署に聞く
逆訳で合格としてしまう逆訳は手がかり。訳は確認者が確かめる
図の中の数字が照合から漏れる印を付けて人が見る
パスワード付きの原文で止まる部署に保護を外した版を出してもらう
用語集の重複で訳が揺れる1つの語に1つの訳。書き出す前に確かめる

上の2行が、この構成の失敗のほとんどです。 どちらも、用語集を「訳を何でも決められる表」と考えるところから出発しています。用語集は語の訳を決めるもので、言語の組ごとに分け、名詞に絞ると効きます。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 患者向けの説明文書で、個人の情報は含みません。 病院の電話番号、窓口の場所、検査の手順、費用の手続きです。

  1. 患者の個人の情報を入れない … この流れに入れるのは、配布用の説明文書だけです。患者ごとに名前や検査の日時を書き込んだ文書は、この流れで訳しません
  2. 処理する地域を確かめる … 公式ページでは、Translator のリソースを作った地域が、文書の内容が処理され一時的に保管される場所を決めるとされています。リソースを作る前に地域を決めます
  3. 訳の正しさを代替しない … 訳が医療の内容として正しいかは、医療者と訳の確認者が決めることです。 この構成が出すのは、数値と用語が原文と合っているかという事実です
  4. 確認前の訳を配らない … 訳文コンテナの訳文は下書きです。確認が済むまで配布用の版にしません
  5. 同意書は別に扱う … 同意書の説明の訳は、訳文そのものに重い意味があります。この構成で下書きは作れますが、確認の手順は通常の案内より重くします
  6. 用語集を院内の資産として管理する … 用語集は確認者の判断が詰まった表です。だれが、いつ、どの訳を変えたかを残します

誤りが起きた場合のリスクは、数値の食い違いを見落として配ることと、否定や条件を取り違えた訳を配ることの2つです。 前者は照合で、後者は確認者と医療者の確認で防ぎます。照合で拾えるものを機械に任せ、拾えないものに人の時間を使う設計です。

10まず何から始めるか

1週目:9本で様式と用語集を試す

検査・入院・会計から3本ずつ選び、30語の用語集を付けてプレイグラウンドで訳します。体裁が保たれているか、用語集の語が当たっているかを最優先で見ます。

2週目:用語集の作り方を決める

医療通訳者と確認者と一緒に、用語集の表の列と、訳を決める手順を決めます。 原文の語の表記ゆれ(「絶食」「絶飲食」)をどちらに寄せるかも、ここで決めます。

3週目:バッチで3言語を訳す

Blob Storage のコンテナとマネージド ID を用意し、「改訂確定」のフォルダを起点に3言語のバッチを起こします。この時点では照合をせず、訳文を確認者に回すだけにします。

4週目:照合を足す

レイアウト モデルで原文と訳文の段落を取り出し、数値・日付・時刻・電話番号の照合だけを先に作ります。 用語集の適用と訳し残しの確認は、その次に足します。

2か月目: 前の版との比較と、逆訳を足し、確認表の形を確認者と決めます。3か月目以降: 1件30分が何分になったかを実測し、改訂から配布までの日数を数えます。確認者の直しの傾向を用語集に戻し、要確認の段落が減ってきた時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-15/最終更新:2026-10-15
確認した内容情報源確認日
ドキュメント翻訳が元の文書の構造とデータ形式を保って訳すこと。Blob Storage を使う非同期のバッチと、1ファイルの同期の翻訳があること。カスタムの用語集を使えること。Word・PDF などに対応し、スキャンした PDF は OCR で文字を取り出して訳すこと。用語集の形式が CSV・XLIFF・TSV であること。Translator のリソースを作った地域が、文書の処理と一時的な保管の場所を決めること。クラシックの Foundry ポータルのプレイグラウンドで同期の文書翻訳を試せることMicrosoft Learn: What is Azure Translator document translation?2026-10-15
用語集が1つの原文の言語から1つの訳文の言語への対応であること。バッチの要求で訳文ごとに glossaryUrl と format を書くこと。既定で大文字と小文字を区別し、文の一部に当てるときは大文字・小文字が合わないと当たらないこと。マネージド ID の例Microsoft Learn: Use glossaries with Document translation2026-10-15
フレーズの辞書が複合の名詞に向き、動詞・形容詞には向かないこと。文の一部を置き換えると残りの訳の質が落ちうること。数字だけの語や2〜3文字の略語を避けること。辞書だけで学習するモデルを作れることMicrosoft Learn: What is a Translator custom dictionary?2026-10-15
バッチの上限が1文書40MB、1回の合計250MB、ファイル1,000、訳文の言語10、用語集10MBであること。パスワードで暗号化された文書を訳せないこと。1つの文に複数の言語が混じると訳しきれないことがあることMicrosoft Learn: Translator service limits2026-10-15
英語(en)・中国語簡体字(zh-Hans)・ベトナム語(vi)・日本語(ja)がテキスト翻訳とドキュメント翻訳の対象であることMicrosoft Learn: Translator language support2026-10-15
原文の言語は省略できるが明示したほうが訳の質がよいこと。category に Custom Translator のカテゴリ ID を渡すことMicrosoft Learn: Synchronous document translation2026-10-15
レイアウト モデルがテキスト・表・選択マーク・文書の構造を取り出し、段落に見出しなどの役割が付くこと。Word からは段落と語を取り出すことMicrosoft Learn: Layout model2026-10-15

訳が医療の内容として正しいか、どの訳語を採るかは、医療者と訳の確認者で決めてください。 本記事は公式ページで確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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