ウォレットシェアで大口顧客の伸び代を測る|相手の予算をAIで推定

「取引額の上位10社には毎期いちばん手をかけているのに、売上がほとんど動かない」「大口の顧客ほど、もう伸びないのか、まだ伸びるのかが分からない」。法人営業の企画やマーケの責任者から、こうした声がよく届きます。上位の顧客ほど判断が難しくなるのには理由があります。手元にある数字は自社の取引額だけで、相手がその分野に全部でいくら使っているかは、どの社内の資料にも載っていないからです。一方で、上場企業の有価証券報告書には、設備投資の目的や金額、研究開発費、従業員数を事業の区分ごとに書く決まりがあります。伸び代を測る鍵は、取引額の大きさではありません。本当は、相手の財布の大きさを公開情報から推定し、そのうち自社がどれだけ取れているかを見ることです。この記事では、その推定をAIに手伝わせる手順と、人が決めて残すべき所を整理します。
カメ先生ウォレットシェアは、顧客が同じ種類の物に使うお金のうち、自社が取れている割合のことなんだ。法人の取引だと、大口の顧客の伸び代を見る物差しになるんだよ。
カメ子取引額が大きい顧客ほど、伸び代も大きいということではないのですか。
カメ先生そこが逆になっていることが多いんだ。取引額が大きくても、相手の予算のほとんどをすでに取っていれば、伸び代は小さい。分母になる相手の予算を推定しないと、それが見えないんだよ。
カメ子相手の予算は外からは見えないはずですが、どこまで推定できるものなのでしょうか。
- ウォレットシェアは、自社の取引額を分子、相手がその分野に使う総額を分母にした割合。売上順のリストでは伸び代が見えない
- 分母は有価証券報告書・中期経営計画・求人・発表資料から推定する。AIには根拠の資料と箇所を1行ずつ書かせ、根拠の書けない推定は使わない
- 推定の幅、採るか捨てるか、どの顧客に手を寄せるかは人が決める。推定の数字は社内の判断にだけ使い、相手に見せない
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ウォレットシェアは「相手の財布のうち自社の取り分」
ウォレットシェアは、顧客内シェアやシェアオブウォレットとも呼ばれます。ある顧客が特定の種類の商品やサービスに払った金額のうち、自社に払われた割合を指します。市場全体での自社の割合とは違い、顧客1社ごとに測る点が特徴です。計算は、自社の取引額を、相手がその分野に使った総額で割るだけです。
この記事では、法人の大口取引に絞って扱います。部品や資材の継続取引、業務の委託、研修、広告、情報システムの保守のように、1社の顧客が複数の取引先に発注を分けている分野が対象です。消費者が家計の中で何にお金を使うかの話は扱いません。法人の取引では、分母になる相手の予算の一部が、公開された資料から読み取れることがあるからです。
似た物差しに顧客単価があります。顧客単価は自社の請求の記録だけで出せますが、ウォレットシェアは相手の総額という外の数字が要ります。自社の請求の記録だけで単価を上げる方法は、顧客単価を扱った別の記事で整理しています。この記事は、外の情報から分母を推定する部分に限ります。
用語集の説明では、この物差しは、顧客が取引先を比較的変えやすい分野に向くとされています。逆に、契約で取引先が固定される分野や、相手が1社にしか発注しない決まりを持つ分野では、割合が高くても低くても動かせる余地が小さくなります。割合を測る前に、その分野で相手が取引先を選び直せるかを確かめておきます。
売上順の大口リストでは、伸び代が見えない
多くの会社では、大口の顧客を取引額の順に並べ、上から順に手厚く担当を付けています。この並べ方の弱点は、取引額の大きさと伸び代の大きさを同じものとして扱ってしまうことです。取引額は、相手の財布の大きさと、自社の取り分の両方を掛け合わせた結果にすぎません。
たとえば、自社との取引が年3億円の会社Aと、年1億円の会社Bがあるとします。会社Aがその分野に年3億5千万円しか使っていなければ、取り分はすでに8割を超えています。会社Bが同じ分野に年10億円使っていれば、取り分は1割です。売上順では会社Aが先に来ますが、伸び代が大きいのは会社Bです。
取り分がすでに高い顧客に手を厚くし続けると、営業の時間は守りに使われ、売上は伸びません。それ自体は悪いことではありません。取り分が高い顧客を失えば損害は大きいからです。問題は、守りの手当てと伸ばす手当てを区別せずに、同じ「大口への注力」として扱うことです。
ウォレットシェアを測る目的は、この区別を付けることです。分母が推定できれば、守る顧客と伸ばす顧客を分けて、担当の時間と提案の手間を配り直せます。取引額は「今の大きさ」、ウォレットシェアは「残っている大きさ」を示す、と考えると使い分けやすくなります。
進め方の全体像:5つの手順
ここからは、ウォレットシェアを測って提案に生かすまでの手順です。全体を5つに分けます。AIが手伝えるのは主に手順2の推定で、手順1と手順3から5は、人が決める部分が中心になります。
自社の取引額の範囲を決める。グループ会社、期間、品目の範囲、代理店を通した取引を、分母と同じ切り方に揃える。
有価証券報告書・中期経営計画・求人・発表資料から、相手がその分野に使う総額を推定する。AIに根拠を1行ずつ書かせる。
1つの数字にせず、下限と上限で持つ。幅の決め方と、幅が広すぎる先を外す基準は人が決める。
分母の大きさと取り分の2つで顧客を分け、伸ばす先を選ぶ。取り分が小さい理由も分けておく。
選んだ顧客の公開された重点に合わせて提案を組み立てる。推定の数字は社内の判断にだけ使う。
最初から全顧客で回す必要はありません。取引額の上位20社程度で回すと、推定にかかる手間と、営業が持っている情報で幅がどこまで縮むかが分かります。最初の一巡は、推定の型を作るための試しと位置付けると、後の顧客に広げやすくなります。
この手順は、どの顧客を狙うかを一から選ぶ方法ではありません。対象は、すでに取引のある大口の顧客です。新しく狙う会社の選び方や、1社ごとの攻め方の計画の書き方は、それぞれ別の記事の範囲になります。
手順1:分子を揃える——自社の取引額の範囲を決める
意外に手間がかかるのが、分子になる自社の取引額です。請求の記録から合計を出すだけに見えますが、相手の会社の範囲をどこで切るかで数字が大きく変わります。親会社だけか、子会社まで含めるか。海外の拠点はどうするか。最初にこの範囲を決め、分母の推定も同じ範囲で行います。
次に、品目の範囲です。自社が複数の商品を扱っていると、分母の分野をどこまで広く取るかで割合が変わります。研修の会社なら、管理職の研修だけか、新人の研修や資格の研修まで含めるか。分子と分母が同じ財布を指していないと、割合は意味を持ちません。分野の定義は1行の文で書いて残します。
代理店や商社を通した取引も見落としやすい所です。直接の請求だけを数えると、相手から見れば自社の商品なのに、分子から抜けてしまいます。逆に、代理店が自社以外の商品と抱き合わせて納めている場合は、分けられない金額が出ます。分けられない分は、含めたか除いたかを記録しておきます。
期間は、相手の決算の期間に合わせるのが基本です。分母の材料になる有価証券報告書は相手の事業年度で書かれているため、自社の期間で取引額を集計すると数か月ずれます。分子の範囲・品目・期間を、分母の材料に合わせて切るのが、この手順で一番大事な点です。
手順2:分母の材料になる公開情報
分母は、相手がその分野に使っている総額です。正確な数字は相手の社内にしかありませんが、上場企業であれば手がかりになる資料がいくつもあります。有価証券報告書の様式では、設備投資の目的・内容・金額や、研究開発の状況と研究開発費、従業員数を、事業の区分ごとに書くことになっています。
| 資料 | 読み取れること | 分母への使い方 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 有価証券報告書 | 事業の区分ごとの設備投資の金額と目的、研究開発費、従業員数 | 設備や研究に関わる分野の規模の上限を見る。人数から1人当たりの支出で積み上げる | 連結と単体を混ぜない。前年度の実績である |
| 中期経営計画 | 重点の事業、投資の総額と配分、人員の計画 | これから増える分野と減る分野を見る | 計画の値で、実績ではない |
| 求人の情報 | 募集している職種と人数、使っている道具、新しい拠点 | その分野の体制が増えているかを見る | 掲載の時期で古くなる。人数は推測にとどめる |
| 発表資料・報道 | 新しい工場や拠点、提携、システムの刷新 | 一時的に財布が大きくなる時期を見る | 金額が書かれていないことが多い |
どの資料も、分母そのものは書いてありません。読み取れるのは、分母を組み立てるための部品です。設備投資の金額は分野によっては分母の上限になり、従業員数は1人当たりの支出と組み合わせて積み上げる材料になります。どの部品を、どういう計算で分母にしたかを残すことが、推定の中身そのものです。
上場していない会社では、有価証券報告書が使えません。その場合は、会社の公式サイトの会社概要、拠点の一覧、求人、発表資料が中心になります。材料が少ないほど推定の幅は広くなります。幅が広すぎる会社は、無理に数字を出さず、手順3で対象から外す判断も含めて扱います。
資料の時期にも目を配ります。有価証券報告書は事業年度が終わってから3か月以内に出されるため、手に入るのは早くても数か月前までの実績です。相手の事業が大きく動いている時期には、報告書の数字と今の財布の大きさがずれます。報告書は実績の土台に、発表資料と求人は直近の動きの補正に使うと、役割を分けて読みます。
- 表の資料はどれも、相手が公開している範囲の情報です。取引の中で知った相手の社外秘の数字は、推定の材料にも、AIに渡す資料にも使いません
- 資料の記載の項目や時期は、制度の改正で変わることがあります。使うときは、その年度の原本で確かめてください
分母を組み立てる3つのやり方
部品から分母を組み立てるやり方は、大きく3つあります。1つ目は積み上げです。従業員数や拠点の数に、1人や1拠点あたりの支出をかけ算して出します。研修や事務用品のように人数に比例しやすい分野で使えます。1人当たりの支出は、自社が取り分のほぼ全部を持っている別の顧客の実績から置くのが現実的です。
2つ目は比率です。相手の売上高や設備投資に、その分野の支出が占める比率をかけ算して出します。比率は業界の調査に頼ることになります。たとえば情報システムの分野では、日本情報システム・ユーザー協会の企業IT動向調査が業種ごとの予算の傾向を毎年まとめています。業種の比率を使うときは、調査の年度と原典を必ず記録します。
3つ目は似た顧客からの類推です。業種と規模が近く、自社が取り分のほぼ全部を持っている顧客がいれば、その顧客への売上が、その規模の会社の財布の大きさの目安になります。自社の実績に基づくため、外の比率より当てはまりやすい一方、似た顧客が1社しかないと偏ります。
3つのやり方で別々に出し、数字が近ければ推定は比較的しっかりしていると考えられます。大きく離れていれば、どこかの部品か前提が間違っている合図です。1つのやり方だけで出した分母は、検算のしようがないので、少なくとも2つのやり方で出して突き合わせます。
AIに推定させる手順と、根拠を1行ずつ書かせる指示
公開資料を読み、部品を拾い、計算の下書きを作る作業は、生成AIが得意とする所です。有価証券報告書は分量が多く、1社読むだけでも時間がかかります。AIに資料を渡し、決めた分野に関わる記述と数字を抜き出させると、担当者が読む範囲を絞れます。ただし、AIに渡すのは公開資料だけにします。
指示では、出力の形を決めておきます。1行に1つの部品を書かせ、各行に、資料の名前、年度、該当する箇所の見出し、書かれていた数字、その数字が実績か計画か、を並べさせます。根拠の資料と箇所を書けない数字は、出力に含めないよう指示します。AIは、それらしい数字を作ってしまうことがあるからです。
計算も、AIに一気に答えを出させるのではなく、式を書かせます。どの部品とどの部品をかけ算したか、どの比率を使ったかを、文で並べさせます。担当者は式を見て、前提の置き方がおかしくないかを確かめます。答えの数字だけを受け取ると、どこで間違ったのかを追えません。
事実と推測を分けて書かせることも大事です。資料に書いてあった数字は事実の欄に、そこから計算した数字や、AIが補った前提は推測の欄に置かせます。事実の欄と推測の欄を混ぜた推定は、使わないと決めておくと、後から見直す人が迷いません。
AIの推定で起きやすい間違い
AIの下書きを確かめるとき、起きやすい間違いには型があります。担当者が1件ずつ見るときの目安として、次のような点を先に知っておくと、確かめる時間を短くできます。
- 連結の数字と単体の数字を混ぜ、子会社を含むかどうかが分子とずれる
- 古い年度の資料を読み、今の事業の区分や規模と合わない数字を使う
- 中期経営計画の目標の値を、実績の数字として扱う
- 百万円と千円のような単位を取り違え、桁が変わる
- 資料に無い数字を、一般的な比率として補ってしまい、根拠の欄が空になる
中でも見落としやすいのは、計画と実績の取り違えです。中期経営計画は、3年間の投資の総額のように、期間全体の目標で書かれていることがあります。これを1年分の財布として扱うと、分母が数倍に膨らみます。計画の数字は、年数で割り、達成されない可能性も見込んで幅の上限の側に置きます。
確かめる担当者は、営業ではなく、数字に慣れた企画や分析の担当が向いています。営業が自分の担当の顧客を確かめると、伸び代を大きく見たい気持ちが入りやすいからです。営業には、次の手順で現場の情報を足してもらう役割を任せます。
AIに資料を探させるところから任せるのも避けます。会社の名前だけを渡して調べさせると、名前の似た別の会社の資料や、古い年度の資料を拾ってくることがあります。読ませる資料は、担当者が相手の公式サイトや金融庁の開示の仕組みから原本を取り出し、年度を確かめてから渡します。資料を選ぶのは人、読むのを手伝うのがAI、という分担です。
手順3:推定に下限と上限の幅を持たせる
推定した分母は、1つの数字ではなく、下限と上限の幅で持ちます。公開資料から組み立てた数字には、必ず前提の置き方による揺れがあるからです。1つの数字にすると、その数字が独り歩きし、会議では本当の財布の大きさのように扱われてしまいます。
幅の決め方は人が決めます。たとえば、2つのやり方で出した数字の小さい方を下限、大きい方を上限にする。計画の値を使った場合は上限の側に置く。こうした決まりを先に1つにしておかないと、担当者ごとに幅の付け方が変わり、顧客どうしを比べられなくなります。幅の付け方の決まりは、推定を始める前に文書にして残します。
幅が広すぎる顧客は、無理に比べる対象に入れません。上限が下限の3倍を超えるような場合は、取り分が1割なのか3割なのかすら分からないため、手を寄せる判断に使えないからです。そうした顧客は、次の手順で営業の聞き取りを先に行う候補として別に置きます。
幅と並べて、確からしさを3段階で付けておくのも有効です。資料の数字を直接使えたものは高、比率や類推で組み立てたものは中、材料が求人や報道だけのものは低、といった分け方です。幅と確からしさを並べておけば、数字の強さを読み違えないようになります。
営業の聞き取りで、幅を縮める
公開資料だけで縮められる幅には限りがあります。そこを補うのが、担当の営業が日頃の会話で得ている情報です。相手が他にどの取引先を使っているか、予算を決める時期はいつか、来期に増やす分野はどこか。こうした情報は、推定の前提を直接正せる材料になります。
聞き取りは、数字を直接尋ねる形にしないほうが進めやすくなります。「御社のこの分野の予算はいくらですか」と聞いても、答えられない相手がほとんどです。それよりも、他の取引先にどんな仕事を出しているか、どの部署が発注を決めているかを聞くほうが、分母の範囲を確かめる材料になります。聞くのは金額ではなく、財布の範囲と持ち主です。
聞き取った内容は、推定の記録と同じ表に書き足します。誰が、いつ、誰から聞いた情報かを1行で残します。営業の印象と、相手が実際に話した内容は分けて書きます。印象だけで幅を縮めると、推定の根拠が人の思い込みに置き換わってしまいます。
営業の情報で幅が縮んだら、その顧客の確からしさを1段上げます。逆に、聞き取りで前提が崩れることもあります。相手の発注が実は別の子会社にまとまっていた、といった場合です。そのときは推定をやり直し、前の推定は捨てた理由とともに残しておきます。
手順4:取り分の小さい大口を選ぶ
分母の幅が出そろったら、顧客を2つの軸で分けます。縦の軸は分母の大きさ、横の軸は自社の取り分です。分母が大きく取り分が小さい顧客が、伸ばす候補になります。分母が大きく取り分が大きい顧客は、守る顧客です。分母が小さい顧客は、取り分にかかわらず、大きな伸び代は見込みにくくなります。
取り分は、分母の幅に合わせて幅で出ます。下限の分母で割った取り分と、上限の分母で割った取り分です。どちらの端で見ても取り分が小さい顧客を、伸ばす候補の中心に置きます。幅の片方の端でしか小さく見えない顧客は、聞き取りを先に回すほうが安全です。
候補の顧客を選ぶのは人です。AIに顧客を並べ替えさせ、伸び代の大きい順の一覧を作らせることはできます。しかし、その顧客との関係、競合の強さ、相手の事業の先行きは、一覧の数字には表れません。AIの一覧は候補の材料として受け取り、最終的にどの顧客に手を寄せるかは、営業の責任者と企画が話し合って決めます。
守る顧客を、伸ばす顧客と同じ物差しで評価しないことも大切です。取り分が高い顧客の売上が伸びないのは当然で、守る顧客で見るべきは、取り分が下がっていないかです。伸ばす顧客は取り分の増加、守る顧客は取り分の維持と、評価の物差しを分けて決めておきます。
取り分が小さい理由を分けてから、手を寄せる
取り分が小さい顧客を選んだら、すぐに提案に動く前に、取り分が小さい理由を分けます。理由によって、打てる手がまったく違うからです。大きく分けると、競合に長期の契約で押さえられている、発注を決める部署が自社の接点と違う、自社が扱っていない品目に予算が流れている、相手が取引先を分散させる方針を持っている、の4つがあります。
競合の長期の契約が理由なら、契約の更新の時期まで提案は届きません。更新の時期を聞き取り、その前に関係を作る手当てになります。発注を決める部署が違うなら、今の接点の部署から紹介を頼む動きになります。別の部署への広げ方は、別部署への展開を扱った別の記事で整理しています。
自社が扱っていない品目に予算が流れている場合は、伸び代に見えても、今の商品では取れません。品目を増やすかどうかは、営業の判断を超えた事業の判断になります。この理由の顧客を伸ばす候補に入れると、営業の努力では動かない数字を目標にしてしまいます。
取引先を分散させる方針は、相手の調達の決まりとして持たれていることがあります。1社への集中を避ける決まりがある顧客では、取り分には上限があります。その上限に近ければ、伸び代は見た目より小さくなります。理由の4分類は、営業の聞き取りで確かめ、推定の表の横に書き足します。
手順5:提案に寄せる——推定の数字は相手に見せない
伸ばす顧客を決めたら、提案に寄せます。ここで気を付けたいのは、推定した分母の数字を提案の資料に載せないことです。相手の予算を外から推定した数字は、相手から見れば根拠の分からない数字です。外れていれば信頼を失い、当たっていても、自社の予算を探られたと受け取られかねません。
提案の材料にするのは、分母の推定に使った公開情報のほうです。中期経営計画で重点に挙がった事業、発表された新しい拠点、求人で増えている職種。相手が自分で公開した重点に合わせて提案を組み立てれば、推定の数字を見せずに、財布の大きい所へ話を向けられます。
提案の文面の下書きは、AIに作らせてもかまいません。その際も、相手の公開資料のどこを根拠にした提案かを、文面の外に1行ずつ書かせます。営業はその根拠を確かめてから使います。相手の資料を読み違えた提案は、読み込んでいないことを相手に知らせてしまいます。
同じ部署への追加の提案の進め方は、アップセルの手順を扱った別の記事に譲ります。1社ごとの計画の項目の書き方も、アカウントプランの記事で整理しています。この記事で押さえたいのは、推定は社内で手を寄せる先を決めるための道具で、相手に向ける材料ではないという線です。
推定の根拠を1行ずつ書く記入表
推定を、担当者が代わっても引き継げる形にするために、記入表を1つに決めておきます。1行に1つの部品を書き、最後の行に分母の幅を書く形です。顧客ごとに1枚にまとめ、見直しのたびに行を足していきます。
| 欄 | 書くこと | 記入の例 |
|---|---|---|
| 分野の定義 | 分子と分母が指す財布の範囲を1文で | 国内の連結子会社を含む、管理職向けの社外研修 |
| 部品 | 推定に使った数字を1行に1つ | 国内の従業員数 約4,000人 |
| 根拠 | 資料の名前・年度・見出し | 有価証券報告書 前年度 従業員の状況 |
| 事実か推測か | 資料の数字か、計算や補った前提か | 事実 |
| 計算の式 | どの部品をどうかけ算・割り算したか | 管理職の割合1割と1人当たりの年額をかけ算 |
| 分母の幅 | 下限と上限、使ったやり方 | 下限 6千万円 上限 1億2千万円(積み上げと類推) |
| 確からしさ | 高・中・低と、その理由 | 中(1人当たりの額が類推のため) |
| 聞き取り | 誰がいつ誰から聞いたか | 担当営業が人事部の課長から、他に2社へ発注と聞いた |
表の例は、記入の形を示すための架空の値です。実際に書くときは、すべての行に根拠の欄を埋めます。根拠の欄が空の行は、推定に使わないという決まりを表の上に書いておくと、AIの下書きをそのまま貼る事故を防げます。
記入表は、推定を確かめる人が読む前提で作ります。確かめた人の名前と日付も、表の最後に残します。AIが作った下書きのままの表と、人が確かめた表を、見た目で区別できるようにしておくためです。
見直しの周期と、推定を捨てる条件
分母の推定は、一度作れば終わりではありません。材料の多くが年に1回更新されるためです。有価証券報告書は事業年度ごとに出され、中期経営計画は数年ごとに更新されます。見直しは、相手の決算の発表に合わせて年に1回を基本にし、大きな発表があったときに臨時に行います。
見直しの時には、前回の推定と実際の動きを比べます。伸ばす候補に選んだ顧客で取り分が上がったか、上がらなかったならどの前提が外れていたか。外れた前提を記録し、次の推定のやり方に戻すことで、推定の精度は少しずつ上がります。
推定を捨てる条件も決めておきます。相手が事業を売却した、大きな組織の再編があった、聞き取りで分母の範囲そのものが違うと分かった、といった場合です。こうした変化の後に古い推定を使い続けると、守るべき顧客を伸ばす候補に入れるような間違いが起きます。捨てた推定は、理由を書いて残します。
運用の持ち主も決めておきます。推定の表を誰が持ち、誰が見直しの時期を知らせるか。営業の担当に任せると、異動のたびに途切れます。推定の表は企画が持ち、営業は聞き取りを足すという分担にすると、担当が代わっても続けやすくなります。
まとめ
ウォレットシェアは、相手がその分野に使う総額のうち、自社が取れている割合です。取引額の順のリストでは見えない、大口の顧客に残っている伸び代を示します。進め方は、分子を揃える、分母を公開情報から推定する、幅を持たせる、取り分の小さい大口を選ぶ、提案に寄せる、の5つです。公開資料の読み取りと計算の下書きはAIに任せられますが、根拠の資料と箇所を1行ずつ書かせ、根拠の書けない推定は使いません。推定の幅の決め方、採るか捨てるか、どの顧客に手を寄せるかは、AIに判断させず人が決めます。推定の数字は社内の判断にだけ使い、相手には公開された重点に合わせた提案で向き合う。この線を守ることが、推定を長く使い続ける前提になります。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
データ分析にAIを活かす第一歩、まずは導入から始めませんか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
