シナリオプランニングで複数の先を持つ|一本の予測に賭けない

「先が読めないので、来期の計画をどう置けばいいのか決まりません」「シナリオプランニングを一度やってみたのですが、結局どれが当たるのかが決まらないまま終わりました」——先の見えなさを扱う手法をめぐって、この2つはほとんど対で届きます。2つ目の声には、この手法に対する誤解がそのまま出ています。シナリオプランニングは、当たる筋書きを1本選ぶための手法ではありません。本当は、複数の筋書きを並べたうえで、どの筋書きが来ても取る手と、来た筋書きによって変える手を分けるための道具です。この記事では、6つの工程で筋書きを作る手順と、軸の選び方、傾きを知らせる目印の決め方を整理します。生成AIをどの工程で使い、どの判断を人に残すのかも、工程ごとに書き分けます。
カメ先生先を複数持つと言うと、当てる確率を上げるための工夫だと思われがちなんだ。でも実際にやっているのは、当てる作業ではなく、決め方を先に決めておく作業のほうだね。
カメ子当てないのに、計画は立つのですか。
カメ先生立つよ。どの筋書きでも同じ手を打つと分かった部分は、迷わず今日から着手できる。分かれる部分だけを、あとで選べる形にして残しておけばいい。
カメ子決める時点を意図的に後ろへずらすための道具、ということですね。
- 予測の手法ではない。目的は、どの筋書きでも取る手と、筋書きごとに変わる手を仕分けること
- 軸に選ぶのは、影響が大きく、かつ先が読めず、互いに連動しない2つの要因だけ。読める要因は前提に回す
- 本体は目印を決める工程。傾きが分かる指標と閾値と見る人を決めない限り、作った筋書きは開かれない
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「先が読めないから決められない」の原因は、読めないことではない
来期の計画が止まっている理由を尋ねると、多くの場合「前提が定まらないから」という答えが返ってきます。生成AIをめぐる規制がどう決まるか、競合がどこまで機能を出してくるか、来期の予算がどう動くか。どれも確定していないので、計画の数字が置けない。この説明は筋が通っているように見えますが、止まっている本当の理由は情報の不足ではありません。前提が定まらないまま、それでも今日決めてよいことを切り分ける手続きが社内に無いだけです。
情報が揃うまで待つ方針を採ると、待っている期間は何もしないことが確定します。仮に半年後に前提が定まったとしても、そこから動き始めるのでは着手が半年遅れる。しかも実務では、前提がすべて定まる日は来ません。1つが定まると別の1つが揺れ始めるからです。先が読めないことは、計画を立てられない理由にはなりません。読めないまま決めるための段取りが無いことが理由です。
シナリオプランニングは、その段取りを作る道具です。先を1本に決めるのではなく、ありうる先を数本並べ、全部に共通して必要な手と、筋書きによって分かれる手に仕分ける。仕分けたあと、共通する手はすぐに着手し、分かれる手は「どちらへ傾いたかが分かった時点で選ぶ」形にして手元に置いておきます。決める内容を減らすのではなく、決める時点を設計するのがこの手法の働きです。
これは予測の手法ではない。当たる1本を作ろうとすると必ず失敗する
最初に外しておくべき誤解が1つあります。この手法は、複数の未来像を作ってその中から確度の高いものを選ぶ作業ではありません。4つ作って1つを選ぶなら、それは4通り検討した予測であって、シナリオプランニングにはなっていません。4つを最後まで4つのまま抱えることに意味があります。抱えたまま打ち手を書くから、共通する手と分かれる手の線が引けるからです。
当たる1本を作ろうとして始めると、途中で必ず議論が破綻します。どれが起きやすいかの推定が始まり、確率の低い象限が捨てられ、残った1つが「本命」と呼ばれ始める。ここまで来ると、作業前と何も変わっていません。ある解説では、極端に悲観的あるいは楽観的な筋書きに偏ることが典型的な失敗として挙げられています。良い未来と悪い未来の2本に落ちるのも、同じ症状の別の形です。
実務での見分け方は単純で、作業の終わりに何が残ったかを見ます。残ったのが「いちばんありそうな絵」なら失敗、残ったのが「4つ全部に共通する着手リスト」と「分岐点で選ぶ選択肢の一覧」なら成功です。成果物は未来像ではなく、意思決定の仕分け表だと最初に宣言しておくと、議論が確率の話へ滑り落ちにくくなります。
出自を押さえると、この手法が何に効くのかが分かる
シナリオという発想を高い不確実性の状況に持ち込んだのは、1950年代のランド研究所にいたハーマン・カーンだとされています。もともとは軍事戦略の文脈で、起こりうる事態を筋書きとして書き出しておく手法でした。民間企業に持ち込んだのが、ロイヤル・ダッチ・シェルのロンドン本社にいたピエール・ワック(1922年生まれ、1997年没)です。最初の油価シナリオが上級役員へ提出されたのは1971年半ばとされています。
ワックは1985年に2本の論文を発表しており、未来学者だったカーンの考えを経営戦略の側へ持ち込んだ最初期の仕事として知られています。この手法が生まれたのは、当たる予測が欲しかったからではなく、当たらない前提で意思決定を続ける必要があったからです。軍事も石油も、外れたときの損害が大きく、かつ待つという選択肢が取れない領域でした。
この出自は、使いどころの目安になります。効くのは、外れたときの痛みが大きく、しかも決断を先送りにできない論点です。逆に、外れても取り返しがつく論点や、情報がもうすぐ確定する論点には向きません。手法の重さと、論点の重さを合わせる。一般的な解説では作業に数か月から1年ほどかかるとされており、軽い論点に持ち出すと費用が見合いません。
目的は「どの筋書きでも取る手」と「筋書きごとに変わる手」を分けること
この手法の中心にあるのは、打ち手を2種類に仕分ける作業です。1つ目は、4つの筋書きのどれが来ても必要になる手。2つ目は、来た筋書きによって是非が変わる手。ある解説でも、各シナリオの機会と脅威を分析したうえで、どのシナリオでも有効な戦略を重視すべきだと明記されています。仕分けの結果、共通の手はその場で承認まで進められます。
実際にやると、共通の手が思ったより多く出てきます。データの整備、業務の記録の取り方、社内の教育、契約の条項。どの筋書きでも要るのに、前提が定まらないという理由で止まっていたものが、この工程で解放されます。止まっていた案件の半分近くが、実は分岐と無関係だったと分かることは珍しくありません。ここだけでも作業した価値が出ます。
分かれる手のほうは、その場で決めません。決めるべきなのは、いつ決めるかと、何を見て決めるかの2つです。「規制の方向が示された時点で、選択肢のどちらかを選ぶ」「競合が特定の機能を出した時点で、投資額を見直す」という形にしておく。この形にしておくと、その時が来たときに議論が最初からやり直しになりません。
作る手順は6つの工程。順番を入れ替えないこと
進め方は複数の流儀がありますが、実務で回すなら次の6工程に落とすのが扱いやすい形です。よくある解説では7段階として整理されており、テーマの設定、外部環境の分析、不確実性要因の特定、4象限での記述、対応戦略の検討、兆候の定義、実行と見直しという並びになっています。ここでは、外部環境の分析と要因の特定を1つにまとめて6工程にしています。
何を決めるための作業かを1文で書く。時間軸と対象範囲もここで固定する。論点が2つ以上あるなら、作業も2回に分ける
その論点に影響する外部の要因を、政治・経済・社会・技術の面から広く挙げる。この段階では絞らず、数を出す
影響の大小と、読めるか読めないかの2つの尺度で並べ、両方が大きい領域から2つだけを選ぶ。ここが最も重い判断になる
各軸の行き着く先を両端に書き分け、交差させて4つの象限を作る。各象限に、読んで情景が浮かぶ長さの物語を書く
4つそれぞれについて、機会と脅威と打ち手を書く。書き終えたら、4つに共通する手と、筋書きごとに変わる手に仕分ける
軸ごとに、傾きを先に知らせる指標と、その閾値と、見る人と、見る頻度を決める。ここまでやって1回の作業が終わる
この順番は入れ替えられません。論点を決める前に要因を洗うと、要因が無限に増えて収束しなくなります。軸を選ぶ前に物語を書くと、書きやすい物語に合わせて軸が後から作られます。特に飛ばされやすいのが最後の工程で、ここを飛ばした作業は成果物が残っても運用されません。
工程1と2:論点を1つに絞り、効いてくる要因を洗う
最初の工程は、決める対象を1文にすることです。「生成AIの動向を踏まえて今後どうするか」では広すぎて、要因を洗う段階で収拾がつきません。「自社の主力商材について、今後3年の開発投資をどこに寄せるか」まで絞ると、洗うべき要因も自然に決まります。論点が絞れないまま先へ進んだ作業は、例外なく途中で止まります。時間軸も同時に決めます。一般的な解説では10年から20年先を扱う例が多いのですが、技術の動きが速い領域では2年から3年に短くするほうが実務に噛みます。
2つ目の工程は、要因の洗い出しです。政治・経済・社会・技術の4面から広く挙げるのが定型で、この段階では絞りません。数が力になる工程なので、20から30は出します。同じ会社の別部署を混ぜると、出てくる要因の種類が明らかに増えます。営業だけで洗うと顧客側の話に、開発だけで洗うと技術の話に寄るからです。
洗い出しで注意するのは、要因の粒度を揃えることです。「生成AIの進化」と「特定の機能の提供時期」が同じ表に並ぶと、次の工程で比べられません。すべての要因を「今後3年でどう振れるか」という同じ問いに答えられる形に書き直してから、次へ進みます。書き直せない要因は、粒度が粗すぎるか、そもそも外部要因ではありません。
工程3:軸に選んではいけない要因が3種類ある
この手法でいちばん判断が重いのが、洗い出した要因から2つを選ぶところです。選ぶ条件は、影響が大きいことと、先が読めないことの両方を満たすこと。ここまでは多くの解説が同じことを書いています。実務で効くのは、むしろ選んではいけないほうの条件です。次の3種類を軸に置くと、そのあとの工程が全部無駄になります。
| 軸に選んではいけない要因 | 選んでしまうと何が起きるか | その要因の正しい扱い方 |
|---|---|---|
| 先が読める要因 | 4つの象限のうち2つが、はじめから起きない絵になる | 読めるなら分岐ではないので、4つ全部に共通する前提として本文に書く |
| 影響が小さい要因 | 4つの筋書きを並べても、打ち手が全部同じになる | 監視の対象からも外し、要因の一覧に残すだけにする |
| もう1つの軸と連動する要因 | 対角の2象限だけが厚くなり、残る2つが空白になる | 2つを1本にまとめ、空いた軸に別の独立した要因を入れ直す |
| 社内で決められる要因 | 外部環境の絵ではなく、自社の方針の場合分けになる | 打ち手の側へ移す。軸は自社が動かせないものだけで組む |
3つ目の連動は、見落とされやすいわりに被害が大きい失敗です。たとえば「規制の強さ」と「企業の導入意欲」を2軸に置くと、規制が強い世界では導入意欲も下がるため、右上と左下に絵が寄って、残る2象限が誰も想像できない世界になります。軸を選んだら、4象限それぞれを1文で言えるかを先に確かめる。言えない象限があるなら、その2軸は連動しています。
4つ目も実務では頻繁に起きます。「自社が新規事業に投資するかどうか」を軸に置いてしまう例です。それは意思決定であって外部環境ではないので、置いた瞬間にこの作業は自社の方針の場合分けに変わります。軸に置いてよいのは、自社が何をしても動かないものだけだと決めておくと、この取り違えは起きません。
工程4:2つの軸で4つの筋書きを作り、物語として書く
軸が決まったら、各軸の行き着く先を両端に書きます。ある解説では、それぞれの軸の「とどのつまり」の極限の帰結を上下と左右に書き分けると、十字が現れて4象限が現れる、という表現が使われています。中間の姿を書かないのが要点です。中間を書くと4つの絵が似てきて、仕分けが機能しなくなります。
4象限が出たら、それぞれに物語を書きます。箇条書きではなく、読んで情景が浮かぶ文章にします。その世界で自社の顧客が何に困っていて、誰にいくら払っていて、どんな言葉で相談してくるかまで書けると、次の工程で打ち手が出しやすくなります。同じ解説では、4つのシナリオが十分に差別化された印象を与えるように整えると書かれています。似ている2つが出たら、軸の取り方を疑います。
物語には名前を付けます。象限の位置で呼ぶと、会議で毎回「右上の」と言い直すことになり、内容が思い出されません。名前は評価語を避けます。「良い未来」「最悪の未来」と名付けた瞬間に、良いほうの検討が薄くなり、悪いほうが誰にも読まれなくなるからです。名前は起きている事実で付ける、という決めごとにしておくと安全です。
工程5:打ち手を書き、起きたときの痛みで備えの重みを変える
4つの物語ができたら、それぞれについて機会と脅威と打ち手を書きます。書き終えたら仕分けです。4つ全部に出てきた打ち手は共通の手、1つか2つにしか出てこない打ち手は分岐の手。この仕分けを表にして、共通の手には着手予定日を、分岐の手には「何が起きたら選ぶか」を書き添えます。
ここで避けたいのが、4つに同じ重みで備えようとすることです。備えには費用がかかるので、全部に同じだけ備えると、どれにも中途半端にしか備えられません。判断の基準は起きやすさではなく、起きたときの痛みの大きさと、起きてから対応を始めた場合に間に合うかどうかの2つです。痛みが大きく、起きてからでは間に合わないものだけ、先に費用を払って備えます。
痛みが小さいか、起きてからでも間に合うものは、備えずに目印だけ置きます。この線引きを明示しないと、備えの議論が「起きる確率は何割か」に戻ってしまいます。確率の議論に戻った時点で、この手法を使っている意味がなくなる。備えるかどうかは確率ではなく、間に合うかどうかで決めると書いておくと、会議が短くなります。
工程6:目印を決める。ここがこの手法の本体
作った筋書きが使われるかどうかは、この工程で決まります。目印とは、4象限のどちらへ世界が傾きつつあるかを先に知らせる指標のことです。よくある解説でも、各シナリオの到来を示す先行指標を定義して監視対象にする段階が明示されています。例として挙げられているのは、法規制の緩和の動き、大手企業の投資額、免許の取得率、サービス会員数の伸び率といった、外から観測できる数字です。
目印は3つの条件を満たす必要があります。1つ目は、公開情報か自社の既存データで取れること。取るために毎回調査が要るものは、3か月で見られなくなります。2つ目は、閾値が書いてあること。「増えたら」ではなく「四半期で2割を超えて増えたら」まで書きます。3つ目は、見る人と見る頻度が名前で決まっていることです。全員の担当は誰の担当でもありません。
- 軸ごとに目印を2つから3つ。1つだと、その指標が取れなくなった時点で監視が止まる
- 取得元を指標ごとに書く。官公庁の公表資料、業界団体の統計、自社の受注記録など、名指しで書く
- 閾値は数字で書く。上か下かではなく、どれだけ動いたら傾いたと見なすかを決める
- 見る人を役職ではなく名前で決め、四半期に1回など頻度を固定する
- 見た結果を、動きが無かった場合も含めて1行で記録する。記録が無いと、次の引き直しで比べられない
この工程を飛ばした作業は、成果物が立派でも運用されません。作った資料は引き出しに戻り、半年後に「そういえば去年やりましたね」と言われて終わります。逆に言えば、目印さえ動いていれば、筋書きの完成度が多少低くても手法として機能します。優先順位を間違えないことです。
シナリオを作る実務仕様:人数・時間・成果物の形
運用に載せるには、作業の形をあらかじめ決めておく必要があります。毎回その場で決めていると、担当者が変わった時点で再現できなくなるからです。一般的な解説では、この手法には数か月から1年ほどの期間がかかり、専門的な知識も要ると説明されています。ただし、これは経営全体を対象にした大規模な形の話です。1つの論点に絞れば、もっと軽い形で回せます。
実務で回している形の目安を書き出します。参加者は5人から8人。多いと発散し、少ないと視点が偏ります。所属は必ず3部署以上にします。作業は3回に分け、1回目で論点と要因、2回目で軸と物語、3回目で打ち手と目印。1回あたり2時間半から3時間で、間に2週間の間隔を置きます。間隔を置くのは、要因の追加調査と、物語の書き直しに時間が要るからです。連日で詰めると、最初に出た案がそのまま通ります。
- 成果物は3つに固定する。4象限の図、打ち手の仕分け表、目印の監視表。資料を増やすと読まれなくなる
- 議事録は残さない。決まったことだけを3つの成果物に反映し、途中の議論は捨てる
- 参加していない役員に説明する時間を、作業とは別に確保する。4象限の図だけを見せると必ず「どれが本命か」と聞かれる
- 次の引き直しの日付を、作業の最終日に決めて共有する。決めないと引き直しは起きない
参加者の選び方に1つだけ条件を付けるなら、その論点で実際に手を動かす人を必ず入れることです。企画だけで作ると、打ち手の粒度が「検討する」「強化する」で止まります。手を動かす人がいると、そこが「誰が何をいつまでに」に変わる。この差が、目印の運用が続くかどうかにそのまま出ます。
半年で前提が変わる領域では、引き直しの周期と引き金を先に決める
生成AIをめぐる動向のように、半年で前提が変わる領域では、作った筋書きの寿命が短くなります。一般的な解説でも、少なくとも年に1回はシナリオの前提を見直すべきだとされ、一度作ったものを更新せずに陳腐化させることが典型的な失敗として挙げられています。動きの速い領域では、年1回では追いつきません。
実務では、周期と引き金の2本立てにします。周期は半年に1回。これは何も起きていなくても実施します。引き金は、周期とは別に「これが起きたら即座に引き直す」という条件で、たとえば軸に置いた要因のどちらかが両端のどちらかに到達したとき、目印のどれかが閾値を2四半期続けて超えたとき、あるいは4象限のどこにも当てはまらない出来事が起きたときです。3つ目の「どこにも当てはまらない」が、最も重要な引き金です。
引き直しは、ゼロから作り直すこととは違います。多くの場合、軸はそのままで物語の中身だけが変わります。軸まで変える必要が出たときは、要因の洗い出しからやり直します。どこから直すかを毎回判断せず、引き金の種類ごとに直す範囲を先に決めておくと、引き直しが軽くなり、実際に実行されるようになります。ある解説では、AIに関わる技術の相互作用は組み合わせが膨大で追跡しきれず、単一の大きな不確実性を前提にした古典的な形はそのままでは効きにくくなっている、という指摘もされています。
生成AIの使いどころ:材料集め・物語化・目印の候補探し
この手法のどこに生成AIを入れるかは、はっきり決められます。人が苦手で、機械が得意なのは、量を出す作業と、体裁を整える作業です。逆に、量を絞る作業と、責任を伴う選択は機械に渡せません。具体的には、次の3か所が向いています。
- 要因の候補を数多く出させる:論点を渡して、影響しうる外部要因を政治・経済・社会・技術の面から40個ほど挙げさせる。社内で洗うと20個前後で止まるので、この差が価値になる
- 筋書きごとの物語を書かせる:軸と両端を人が決めたうえで、4象限それぞれの世界を文章にさせる。書く速さが上がるだけでなく、書いてみて初めて破綻に気づける
- 目印になりそうな指標を探させる:軸の要因について、公開情報で継続的に取れる指標の候補を挙げさせる。官公庁や業界団体の統計は、探す作業が最も面倒な部分にあたる
1つ目の使い方には、続きがあります。出てきた40個のうち、社内で挙がらなかったものだけを抜き出して、なぜ挙がらなかったかを話す。抜けていた要因の種類には、その組織の視野の癖が出ます。技術の話ばかり挙がるなら顧客側の変化が見えていない、規制の話が出ないなら法務が議論に入っていない。要因を増やすこと自体より、この診断のほうが効くことがあります。
2つ目の物語化では、条件を1つ付けます。物語の中に出てくる数字と固有名詞を、すべて人が確かめること。生成AIはもっともらしい内容を作れますが、内容が正しいとは限らないため、人による確認が欠かせないという指摘は各所でされています。確かめられない数字は物語から削ります。削って情景が消えるなら、その象限はまだ理解されていません。
AIに決めさせてはいけないのは、どれを軸にするかの判断
生成AIに渡してはいけないのは、要因を2つに絞る工程です。理由は能力の問題ではなく、出力の性質にあります。学習した資料の中で多く語られている見方が出やすいため、返ってくるのは平均的で穏当な未来になります。そして、いちばん備えるべき筋書きは、たいてい平均的でも穏当でもありません。
実際に試すと分かりますが、軸の候補を挙げさせると、どの論点でも「規制の強弱」と「技術の普及速度」に近いものが上位に来ます。当たっていないわけではないものの、その2軸で作った4象限は、どの会社が作ってもほとんど同じ絵になります。同じ絵からは、その会社にしか効かない打ち手は出てきません。ある論考でも、計画する側の思い込みが可能性の幅を狭め、型破りだが重要な未来を無意識に除外してしまうと指摘されています。
線の引き方はこうです。候補を出させるところまでは機械、そこから2つを選ぶのは人。選んだ理由を1行で書き残す。書き残す理由は、次の引き直しのときに、選んだ判断が正しかったかを検証できるようにするためです。判断の記録が無いと、引き直しのたびに同じ議論を最初からやり直すことになります。機械に選ばせた場合、この理由が誰の手元にも残りません。
BtoBの法人商材で使うときに、教科書と変わるところ
一般的な解説は、消費者向けの市場や、業界全体の構造変化を念頭に書かれていることが多く、法人商材でそのまま使うといくつか噛み合いません。1つ目は時間軸です。10年から20年先という例がよく出てきますが、法人向けの商材で10年先の絵を描いても、担当役員の在任期間を超えるため、誰も自分の意思決定として受け取りません。2年から4年に短くするほうが実務に噛みます。
2つ目は、軸に置く要因の性質です。消費者向けなら人口動態や生活様式の変化が軸になりますが、法人向けでは顧客企業側の予算の付き方と、決裁の通り方の変化のほうが効きます。たとえば、AIへの投資が情報システム部門の予算から出るのか、事業部門の予算から出るのか。この違いは、提案の相手も、資料の作り方も、価格の見せ方も変えます。
3つ目は、検証に使える件数です。法人向けは案件数が少ないので、目印を自社の受注データだけで作ると、四半期あたり数件の動きで指標が跳ねます。自社データだけで目印を組まず、外部の公開統計と組み合わせるのが実務的な回避策です。件数が少ない領域では、自社の数字は結果の確認には使えても、傾きを先に知らせる役には立ちません。
やりがちな失敗と、使うのをやめる条件の一覧
最後に、実際に起きる失敗と、途中でやめる判断の基準をまとめます。この手法は始めるより、やめる判断のほうが難しい類のものです。作業に人手と時間がかかっているぶん、成果が出ていなくても続けたくなるからです。やめる条件を先に書いておくと、この引き止めが効かなくなります。
- 良い未来と悪い未来の2本にする。2本にした時点で、それは楽観と悲観の見積もりであって、筋書きの仕分けにはならない
- 筋書きを5つ以上に増やす。増やすほど網羅した気になるが、打ち手を書く工数が増えて、仕分けの前に力尽きる
- 物語を作って満足し、打ち手を書かないまま解散する。読み物としてよく出来ているほど、この失敗は起きやすい
- 目印を決めない。決めないと、傾いたことに誰も気づかず、作った筋書きは一度も参照されずに古くなる
- 過去の延長線上だけで筋書きを書く。連続的な変化しか入らないと、4つの絵が似た顔になる
- 自社の方針を軸に置く。外部環境の筋書きではなく、社内の場合分けの表になってしまう
| 使うのをやめるべき状態 | その状態で起きていること | 代わりに先にやること |
|---|---|---|
| 決める論点が1つに絞れていない | 要因の洗い出しが発散し、何を決める作業か誰も言えない | 論点を1文で書く。書けないなら、まず論点の候補を並べて優先順位を決める |
| 目印を誰も見ていない | 成果物は存在するが、傾きの検知が働いていない | 見る人を名前で決め、四半期の定例の議題に固定する。それができないなら作業を止める |
| 作ること自体が目的になっている | 筋書きの完成度の議論が続き、打ち手の議論に進まない | 打ち手の仕分け表を先に埋める。筋書きは仕分けに必要な粗さがあれば足りる |
| 外れても取り返しがつく論点を扱っている | 手法の重さに対して、判断の重さが釣り合っていない | その論点は通常の意思決定に戻す。この手法は痛みの大きい論点にだけ使う |
| 前提がもうすぐ確定する | 待てば分かることに、数か月の作業を割いている | 確定を待ち、待つ間にどの筋書きでも要る準備だけを進める |
表の4つ目と5つ目は、やめるというより最初から使わない判断です。この手法は費用がかかるので、使う論点を選ぶ段階で半分は決まります。すべての不確実な論点に使うのではなく、外れたときの痛みが大きく、かつ待てない論点にだけ使う。この線引きが、運用が続くかどうかを分けます。
まとめ
先が読めないことは、計画を止める理由にはなりません。止まっているのは、読めないまま決めるための段取りが無いからです。シナリオプランニングは、当たる1本を探す作業ではなく、ありうる先を4つ抱えたまま、どの筋書きでも取る手と、筋書きによって変わる手を仕分けるための道具でした。仕分けた瞬間に、前提待ちで止まっていた案件のかなりの部分が動き始めます。
作業の重心は、筋書きの完成度ではなく最後の工程にあります。どちらへ傾いたかを知らせる目印を、指標と閾値と見る人と頻度まで決めること。ここを決めない作業は、成果物が残っても運用されません。軸に選んでよいのは、影響が大きく、先が読めず、互いに連動せず、自社が動かせない要因だけです。生成AIには要因の候補出しと物語化と指標探しを任せ、どれを軸にするかの判断と、その理由を書き残す仕事は人が持ちます。
そして、使わない判断も同じくらい大事です。論点が絞れていない、目印を誰も見ていない、作ること自体が目的になっている、外れても取り返しがつく、前提がもうすぐ確定する。この5つのどれかに当てはまるなら、この手法は使いません。使う論点を選ぶところから、すでにこの作業は始まっています。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
AI活用を戦略に落とす前に、まずは導入・定着から始めませんか?
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