規程管理をAIで軽くする方法|改定で崩れる整合を防ぐ

「法改正に合わせて内部通報の規程を直したら、半年後の監査で、別の規程が古い条番号を参照したままだと指摘された」「社内の質問に答えるAIを作ったら、すでに改定した規程の旧い条文を根拠に答えていた」。規程を主管する法務・コンプライアンス部門と、社内AIを作る情報システム部門の双方から聞こえる声です。たとえば公益通報者保護法は2025年6月に改正され、改正法が2026年12月1日に施行されます。通報できる人にフリーランスが加わるといった変更は、内部通報の規程1本で閉じず、業務委託の管理や情報の取扱いを定めた規程にも届きます。規程管理の重さは、1本を書き直す手間ではありません。本当は、直した1本と、それを参照するほかの規程との整合を保つことにあります。この記事では、規程の台帳と版をそろえる準備から、関係する条項の洗い出し、食い違いの発見、新旧対照表の下書き、条文を示して答える窓口、見直しのきっかけまでを、AIに任せる所と人が決める所に分けて整理します。
カメ先生規程管理は、条文を正しく書くことだと思われがちなんだけど、本当に崩れるのは条文と条文のつながりなんだ。1本を直すと、それを参照していたほかの規程が古いまま残る。
カメ子直した本人は正しく書いたのに、別の場所で食い違いが生まれる、ということですか。
カメ先生そう。だから改定のたびに、関係する条項を全部洗い出す必要がある。その読む作業をAIに任せるわけだ。ただ、どの文言に確定するか、決裁と施行日は人が決める。
カメ子AIは探して並べる係で、決めるのは主管の部署なんですね。
- 規程の改定で崩れるのは、条番号の参照・金額・権限・期限・用語といった、規程どうしのつながり
- 準備は、規程の台帳を1枚にすることと、AIに読ませる版を施行中のものだけに固定すること
- 条項の洗い出し・食い違いの候補・新旧対照表と改定理由の下書きはAI、条文の確定・決裁・施行日・規程の優先は人が決める
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改定は1本ずつではなく、つながった束で起きる
事実から見ます。消費者庁によれば、公益通報者保護法は令和7年(2025年)6月11日に改正法が公布され、令和8年(2026年)12月1日に施行されます。消費者庁のハンドブックでは、通報する人に、労働者や役員に加えてフリーランスと、業務委託の終了から1年以内のフリーランスであった者が含まれると説明されています。通報から1年以内の解雇や懲戒は、民事裁判上、通報を理由としたものと推定されるとも書かれています。
これを社内規程の側から見ると、直す所は1か所では済みません。内部通報の規程で通報者の範囲を書き換えると、業務委託先の管理を定めた規程に通報窓口の案内を足すか、処分の手続きを定めた条項に確認の段階を足すか、通報に関わる情報を情報管理の規程でどう扱うか、が続けて問われます。1つの法改正が、主管の違う複数の規程に同時に届くのです。
規程は、基本の規程、個別の規程、細則、要領と階層を重ねて作られています。上位の規程が決めた金額や権限を、下位の細則が具体的な手順に落とす形が一般的です。階層が深くなるほど、上位の1か所の変更が届く先は増え、担当者の記憶だけでは追いきれなくなります。主管が部署ごとに分かれていれば、なおさらです。
ここにAIの使いどころがあります。全規程を読み、改定する条項に関係する箇所を挙げ、食い違いの候補を並べる作業は、量が多く単調で、人が行うと漏れが出ます。AIに任せるのは、読む・突き合わせる・下書きするの3つです。どの文言に決めるか、いつから施行するかは、主管の部署と決裁者が決めます。以下では、この分担を前提に準備から順に見ていきます。
- 公益通報者保護法の改正の公布日と施行日は、消費者庁「公益通報者保護法と制度の概要」に基づきます
- 通報する人の範囲と1年以内の推定は、消費者庁「公益通報ハンドブック 改正法(令和8年12月施行)準拠版」に基づきます。自社の規程に反映する際は、条文の原文で確かめてください
改定で崩れる整合の5つの型
規程どうしの整合が崩れる形は、おおむね5つに分けられます。先に型を持っておくと、AIに何を探させるかの指示が具体的になり、出てきた候補も型ごとに仕分けられます。
- 参照のずれ:条を足したり削ったりして番号が動き、ほかの規程の「第○条に定める」が別の条を指している
- 金額・上限のずれ:上位の規程で改めた決裁の上限や支払の基準が、下位の細則で古い数字のまま残っている
- 権限のずれ:組織変更で決裁者や承認者の役職が変わったのに、一部の規程が旧い役職名で書かれている
- 期限・日数のずれ:報告や届出の期限が、規程によって「速やかに」「3営業日以内」「翌月末まで」とばらばらになっている
- 用語のずれ:「委託先」「取引先」「外部の事業者」のように、同じものを規程ごとに違う言葉で定義している
5つのうち、もっとも起きやすいのは参照のずれです。条を1つ足すと、それ以降の条番号がすべて動きます。同じ規程の中の参照は編集の段階で気づけても、別の規程から参照されている条番号は、改定した本人の目に入りません。数年たって、誰も直していない参照が監査で見つかることになります。
権限のずれと用語のずれは、法改正よりも組織の変化で起きます。部の統合や役職名の変更があると、決裁の権限表は直しても、個別の規程の本文に書かれた「○○部長の承認を得る」は残りがちです。規程の食い違いの多くは、条文の誤りではなく、直し忘れです。だからこそ、探す作業を仕組みにする価値があります。
この記事が扱う範囲:規程をAIで管理する側
本稿は、全社の社内規程(規程・細則・要領)の改定と整合を、AIを使って軽くする方法を扱います。向きに注意してください。生成AIの使い方を規程で決める、つまり「AIを規程で管理する」話ではなく、「規程をAIで管理する」話です。生成AIの社内ルールを規程のどの階層に置くかは、別の記事「AIの決まりは新しい規程にしなくてよい」で扱っています。
文書全般の整え方、たとえばファイルの命名、保存年限、廃棄、閲覧の権限の付け方にも、本稿では立ち入りません。それらは別の記事「AIが社内資料を探せない原因と対策」で扱っています。本稿は、規程という1種類の文書の、改定と整合に絞ります。
法令の当てはめ、つまり「この取引は法律上問題があるか」をAIで一次処理する手順も範囲外です。それは別の記事「法令の確認をAIで一次処理する方法」にまとめています。本稿で法令が出てくるのは、法改正が規程の改定のきっかけになる場面だけです。読者は、規程を主管する法務・コンプライアンス部門と、規程を根拠に答える社内AIを作る情報システム部門やAI推進の担当者を想定しています。
準備1:規程の台帳を1枚にする
AIに関係する条項を探させる前に、何が全社の規程なのかを1枚の台帳にまとめます。台帳がないと、AIに渡す規程の範囲が担当者ごとに変わり、洗い出しの結果も毎回違ってしまいます。台帳には次の項目を持たせます。
| 台帳の項目 | 書く内容 | AIの作業で使う場面 |
|---|---|---|
| 規程名と番号 | 正式な名称と、社内の管理番号 | 洗い出しの結果を規程ごとに並べる |
| 階層 | 基本の規程・規程・細則・要領の別 | 食い違いの候補で、どちらが上位かを示す |
| 主管の部署と担当者 | 部署名と、担当者の氏名 | 洗い出した条項を主管ごとに振り分ける |
| 施行中の版と施行日 | 版の番号と、その版の施行日 | AIに読ませる版を固定する |
| 上位の規程・根拠の法令 | どの規程・法令に基づくか | 法改正のときに影響する規程を絞る |
| 参照している条項 | ほかの規程の、どの条を参照しているか | 参照のずれを見つける |
| 次の見直しの予定 | 予定の時期と、見直しのきっかけ | 棚卸しの対象を選ぶ |
この中で手間がかかるのは「参照している条項」の欄です。全規程を人が読み直して書き出すのは重い作業なので、ここは初回からAIの下書きが役立ちます。施行中の版の規程を1本ずつ渡し、「第○条」「○○規程に定める」「別に定める」といった、ほかの規程を指す記述を条番号とともに抜き出させます。
抜き出した結果は、主管の担当者が確かめてから台帳に入れます。AIは「別に定める」のように相手の規程名が書かれていない参照を、推測で特定の規程に結びつけることがあります。相手が書かれていない参照は「相手不明」として残させ、人が決めるようにします。担当者の欄は部署名だけでなく氏名で書いておくと、改定のときに誰に確かめればよいかが迷いません。
準備2:AIに読ませるのは施行中の版だけにする
規程をAIに読ませる仕組みで、もっとも多い失敗が版の混在です。改定前の版、決裁は済んだが施行前の版、すでに廃止した規程が同じ置き場にあると、AIはどれも同じ重みで読みます。その結果、廃止した条文や、まだ施行されていない条文を根拠に答えることが起きます。
これを防ぐために、規程の置き場を3つに分けます。1つ目は施行中の版だけを置く場所で、AIの参照先はここだけにします。2つ目は決裁済みで施行日を待っている版の場所、3つ目は改定前の版と廃止した規程を保管する履歴の場所です。AIが日常の質問に答えるときに読むのは、1つ目の場所だけに限ります。
施行前の版は、改定の作業のときだけ使います。新旧対照表を作る、施行後に影響する条項を洗い出すといった場面では、施行中の版と施行前の版の両方をAIに渡します。このときは指示の冒頭で、どちらが施行中でどちらが改定案かを明記し、答えの中でも区別して書かせます。
各規程の冒頭には、版の番号と施行日を本文の一部として書いておきます。ファイル名だけに版を書くと、AIが本文を読んだときに版が分かりません。版と施行日を本文の1行目に入れると、AIの答えに版を示させる仕組みが作りやすくなります。この点は後の窓口の節でも使います。
工程1:改定に関係する条項をAIに洗い出させる
準備ができたら、改定のたびに関係する条項を洗い出します。手順は次のとおりです。ここで大事なのは、AIに「関係がありそうか」を判断させるのではなく、根拠となる文言の引用とともに候補を挙げさせることです。
法改正や組織変更を受けて、どの規程のどの条を改めるかを主管の担当者が決めます。改める理由と、変わる内容の要点を数行で書き出します。
改める条と変更の要点、台帳にある施行中の全規程をAIに渡します。量が多い場合は、規程を数本ずつに分けて渡します。
規程名・条番号・関係の種類(参照・同じ数字・同じ役職・同じ用語)・根拠となる文言の引用を、1件1行の表で出させます。引用できない候補は出させません。
挙がった条項を台帳の主管の欄で振り分け、各部署の担当者に確かめてもらいます。改める必要があるかどうかは、各主管が決めます。
台帳の「参照している条項」の欄と照らし、AIの結果に出てこなかった参照がないかを確かめます。出てこなかった理由も記録します。
手順3で「引用できない候補は出させない」としているのは、AIがもっともらしい関係を作り出すのを防ぐためです。根拠の文言を書けない候補は、候補として扱わない。逆に、引用があれば、担当者は原文のその箇所を開くだけで確かめられ、確認の時間が大きく減ります。
洗い出しで漏れやすい3つの関係
AIに洗い出させても、漏れやすい関係があります。1つ目は条番号を書かない参照です。「前条の定めにかかわらず」「別に定めるところにより」といった書き方は、相手の条が文言から特定できず、AIの結果から落ちやすくなります。台帳の段階で「相手不明」として拾っておいた参照は、改定のたびに人が見直します。
2つ目は、同じことを別の言葉で書いた条項です。ある規程では「稟議」、別の規程では「決裁の申請」と書いていると、改定の要点に使った言葉で探すだけでは見つかりません。指示の中で、同じ意味の言い換えも含めて探すよう、言い換えの例を具体的に添えると拾える範囲が広がります。用語のずれは、この洗い出しの段階で見つかることも多くあります。
3つ目は、規程の本文ではなく別表や様式に書かれた内容です。決裁の権限表や、届出の様式に印字された期限は、本文と別のファイルで管理されていることがあります。台帳に別表と様式も載せ、AIに渡す範囲に含めます。
もう1つ、AIの側の限界も知っておきます。一度に大量の規程を渡すと、長い文書の途中にある記述を見落とすことがあります。規程を数本ずつに分けて渡し、結果を合わせるほうが確実です。一度に全部を渡すより、分けて渡して合わせる。分け方は、主管ごとか階層ごとにすると、結果の振り分けも楽になります。
工程2:条文どうしの食い違いをAIに見つけさせる
洗い出しが改定の前後で行う作業だとすれば、食い違いの発見は、規程全体の健康診断にあたります。前の節の5つの型を指示に書き、施行中の規程を2本ずつ、または上位と下位の組で渡して、食い違いの候補を挙げさせます。
出させる形は、規程Aの条項と引用、規程Bの条項と引用、食い違いの中身、型の区分、の4列の表です。たとえば「上位の規程では決裁の上限を一定額としているのに、下位の細則では別の金額を上限としている」「ある規程では報告の期限を3営業日以内、別の規程では速やかにとしている」といった候補が、引用とともに並びます。
ここで指示に必ず入れることがあります。どちらの条文が正しいかは書かせないことです。AIに正しい側を選ばせると、新しく見える文言や、一般的な水準に近い数字を正しいと判断しがちです。しかし規程の優先は、階層の上下、改定の決裁の経緯、例外として意図した定めかどうかで決まります。これは文書の外にある事情で、AIには見えません。
食い違いの候補は、1回で全部を出させようとせず、型ごとに分けて探させると精度が上がります。金額だけ、役職名だけ、期限だけ、と探す対象を絞ると、AIの答えの中で型が混ざらず、担当者の確認も型ごとにまとめて行えます。型を1つに絞って探させるのが、結果を読みやすくする近道です。
食い違いの候補を読むとき:誤検知と見落とし
AIが挙げた食い違いの候補には、本当は食い違いではないものが混ざります。確認の担当者は、候補を1件ずつ次の点で見ていきます。
- 部署や取引の種類ごとに、意図して違う上限を定めているのに、食い違いとして挙げている
- 例外を定めた条項を読まずに、原則の条項どうしを矛盾として挙げている
- 税込と税抜、営業日と暦日のように、単位の違う数字を同じものとして比べている
- 履歴の場所に移したはずの廃止済みの規程を、比べる相手に使っている
- 言い回しが違うだけで意味が同じ条文を、食い違いとしている
候補は3つに仕分けます。1つ目は直し忘れで、主管が改定の対象に入れます。2つ目は意図した差で、直さずに「意図した差」として理由とともに記録します。3つ目は、どちらを優先すべきか判断が要るもので、法務の担当者に回します。3つ目をAIの答えで片づけないことが、この工程の要です。
意図した差の記録は、次回の作業を軽くします。台帳の別欄に「この2つの条項の違いは意図したもの、理由は○○」と書いておき、次にAIに食い違いを探させるときに、その記録も一緒に渡します。記録にある差は候補から外すよう指示すれば、毎回同じ誤検知を読み直さずに済みます。
見落としの側にも備えます。AIが候補を出さなかったからといって、食い違いがないとは限りません。年に1回は、主管の担当者が重要な規程の組を選び、人の目でも突き合わせます。AIの結果と人の確認の両方に出たものと、片方だけに出たものを記録しておくと、AIに任せてよい型と、人が見続けるべき型が分かってきます。
工程3:新旧対照表と改定理由の下書き
改定案が固まったら、決裁に付ける新旧対照表と改定理由を作ります。新旧対照表は、改定前と改定後の条文を左右に並べ、変わった箇所を示す表です。改定理由の欄を設けて、なぜ改めたかを条ごとに書く形も広く使われています。
ここでは作業を2つに分けます。改定前と改定後の文字の差を取り出す作業は、文書の比較の機能や、規程管理の仕組みが持つ対照表の作成機能に任せます。AIに条文を写させると、文字を1字落としたり、句読点を整えたりして、原文と違う条文を対照表に載せることがあるからです。対照表の条文そのものは、機械的な比較で作ったものを使います。
AIに任せるのは、改定理由の下書きと、変更の要点を短くまとめた説明です。法改正が理由なら、法律名、改正の要点、施行日を書かせますが、法律名と施行日は所管官庁の原文で確かめてから決裁に付けます。生成AIは学習した時点までの情報で書くため、施行されたばかりの改正や、公布後に決まった施行日を誤ることがあります。
改定理由の下書きには、工程1で洗い出した関係する条項も添えさせます。「本改定に伴い、○○規程第○条の参照を改める」のように、連動して直す条項を対照表の末尾に一覧で付けておくと、決裁者は改定の影響の広さを一目で確かめられます。連動する改定を同じ決裁に載せれば、片方だけが施行される事態も防げます。
改定のときにAIに渡す範囲と人が決める範囲
ここまでの工程を、AIに任せる部分と人が決める部分に分けて一覧にします。右の列の「確認の記録」は、監査で改定の経緯を問われたときに説明する材料になります。
| 工程 | AIに渡す・任せる | 人が決める | 確認の記録 |
|---|---|---|---|
| 改定の範囲 | 法改正や組織変更の要点の整理 | どの規程のどの条を改めるか | 改定の理由と担当者 |
| 関係する条項の洗い出し | 引用つきの候補の一覧 | 改める必要があるかどうか | 候補と、採否の理由 |
| 食い違いの発見 | 型ごとの候補の一覧 | 直すか、意図した差か、法務に回すか | 仕分けの結果 |
| 新旧対照表 | 改定理由と要点の下書き | 条文の最終の文言 | 比較に使った版 |
| 法改正の反映 | 影響しそうな条項の当たり付け | 法律名と施行日の原文での確認 | 確かめた原文の出典 |
| 決裁と施行 | 任せない | 決裁、施行日、規程どうしの優先 | 決裁の記録 |
| 社員への周知文 | 変更点を平易に書いた下書き | 周知の文面と時期 | 周知した日 |
表を見ると、AIが担うのは左の列で、どれも「候補を挙げる」「下書きする」で止まっています。条文の確定、決裁、施行日、規程どうしの優先は、表のどの行でもAIに渡していません。これらは会社としての決定で、誤れば社員の行動の基準そのものが誤るからです。
この表は、作って終わりにせず、規程の改定の手順書に組み込みます。担当者が替わったときに、AIに任せてよい範囲が口伝えになっていると、ある担当者はAIの答えをそのまま決裁に付け、別の担当者はAIを使わない、というばらつきが生まれます。任せる範囲を手順書に書いて、担当者が替わっても変えないことが運用を定着させます。
工程4:社員の質問に、条文を示して答える窓口
規程の主管には、社員から「この場合はどの規程に従えばよいか」「この経費は精算できるか」といった質問が日常的に届きます。施行中の規程だけを読ませたAIに一次回答の下書きを作らせると、主管の担当者は根拠を探す時間を減らせます。社内の問い合わせ全般をAIで受ける仕組みの作り方は、別の記事「社内の問い合わせをAIで受ける5工程」で扱っており、ここでは規程に答える窓口に固有の点だけを見ます。
規程に答える窓口で、回答に必ず含めさせるのは次の4つです。
- 根拠とした規程の名称と条番号
- その規程の版の番号と施行日
- 根拠となる条文の引用(要約ではなく原文のまま)
- 引用した条文で答えきれない部分があれば、その旨と主管の部署名
4つの中で、とくに版と施行日を示させることに意味があります。回答に版が出ていれば、質問した社員も主管の担当者も、古い版で答えていないかをその場で確かめられます。根拠の条文を引用できない質問には、答えを作らせず「規程に定めがありません。主管の部署に確認してください」と返させるのが原則です。
答えさせない質問の線も先に決めておきます。すでに起きた出来事について「これは規程違反か」を尋ねる質問、処分や懲戒に関わる質問、通報にあたる内容は、AIの一次回答に乗せず、主管の担当者や通報窓口へ直接回します。規程を引用できても、事案への当てはめは人の判断です。
版が古いまま答えるのを防ぐ手順
規程に答えるAIで、もっとも信頼を失うのが、改定前の条文を根拠に答えることです。準備2で置き場を分けていても、施行日に参照先を差し替える作業が抜けると、改定後もしばらく旧い版で答え続けます。これを防ぐ手順を、改定の手順の一部として決めておきます。
- 決裁のときに、施行日と、参照先を差し替える担当者の氏名を決めておく
- 施行日の当日に、施行中の場所から旧い版を外して履歴の場所に移し、新しい版を置く
- 差し替えの後、改定した条について試しに質問し、回答に新しい版と施行日が出るかを確かめる
- 月に1回、台帳の「施行中の版」と、参照先に置かれている規程の版を突き合わせる
手順3の試しの質問は、短い時間で済みます。改定した条に関わる質問を2〜3件用意しておき、回答の版と施行日を見るだけです。差し替えの確認を、改定の決裁と同じ記録に残すと、施行日の作業が抜けたときに後から気づけます。
施行前の期間の質問にも備えます。改定の決裁が済み、施行日を待っている間に「新しい規程ではどうなるか」と聞かれることがあります。このときは施行前の版を参照先に入れず、主管の担当者が答えます。AIに施行前の版を読ませると、施行中の版と混ぜて答えるおそれがあるためです。
もう1つの落とし穴は、AIが規程に書かれていない一般論で答えを補うことです。「一般的には○○です」という答えは、自社の規程と食い違っていても、もっともらしく聞こえます。指示の中で、規程にない内容は答えないこと、一般論を書く場合はそれが規程の定めではないと明記することを求めます。
規程管理のクラウドに任せる所と、自社で作る所
規程管理の専用のクラウドにも、AIの機能が載り始めています。たとえばキテラ社の規程管理クラウド「キテラビズ」は、公式の機能一覧(2026年10月時点)で、参照条文番号の自動補正、新旧対照表の作成、AIによる規程レビュー、版の管理、社員が規程について質問できるアシスタントを掲げています。製品の比較は本稿の目的ではないので、ここでは任せ方の考え方だけを整理します。
こうした仕組みに任せやすいのは、条番号の補正、対照表の作成、版の記録のような、規則どおりに機械が処理できる作業です。人が行うと手間がかかり、AIに文章として書かせると誤りが混ざる作業でもあるので、専用の機能に任せる価値が大きい部分です。
一方で、製品を入れても自社で決めなければならない部分は残ります。どの規程を台帳に載せるか、意図した差をどう記録するか、窓口でAIに答えさせない質問の線、施行日の差し替えの担当者は、製品の外にある決めごとです。製品が変えるのは作業の手間で、決める人は変わらないと考えて導入を判断します。
専用の製品を入れるか、既存の文書の置き場と社内のAIで回すかは、規程の本数、改定の頻度、グループ会社をまとめて管理する必要があるか、で判断します。改定が年に数回で規程の本数も限られるなら、台帳と版の置き場を整え、社内のAIに洗い出しと下書きを任せるだけでも、多くの手間は減らせます。
見直しのきっかけを4つ決めておく
規程の改定を、気づいたときだけ行う運用にすると、整合の崩れは少しずつ溜まります。そこで見直しのきっかけを4つ決めておきます。1つ目は法改正、2つ目は組織変更や役職名の変更、3つ目は社員からの質問の記録、4つ目は監査や内部の点検での指摘です。
法改正では、所管官庁の公表を人が確かめたうえで、台帳の「根拠の法令」の欄から影響しそうな規程を絞り、AIに関係する条項を洗い出させます。冒頭の公益通報者保護法のように、施行まで1年以上ある改正もあります。施行日から逆算して、洗い出し・改定案・決裁・差し替えの日程を引くと、施行の直前に慌てずに済みます。
組織変更は、権限のずれと用語のずれの最大の原因です。部の統合や役職名の変更が決まったら、旧い部署名と役職名を一覧にしてAIに渡し、全規程から該当する箇所を引用つきで挙げさせます。組織変更の発令と同じ日に規程を直せるよう、発令の準備の段階で洗い出しを始めます。
社員からの質問の記録は、規程の書き方の弱い所を教えてくれます。同じ条項について質問が重なるなら、その条文は読み手によって解釈が分かれている可能性があります。月に1回、窓口の記録をAIに渡して、質問が集中している条項を集計させ、主管が書き直しの候補にするかを決めます。質問が集まる条項は、書き直しの候補として台帳の見直しの欄に載せます。
AIに決めさせない4つ:条文の確定・決裁・施行日・規程の優先
最後に、AIに決めさせてはいけないことを4つにまとめます。1つ目は条文の確定です。AIの下書きは読みやすく整っていても、規程の文言は社員の行動の基準であり、1語の違いで適用の範囲が変わります。最終の文言は、主管の担当者が原文と関係する条項を確かめて決めます。
2つ目は決裁、3つ目は施行日です。どちらも会社としての決定で、社内外に説明する責任が伴います。法改正に合わせた施行日は、所管官庁の原文で確かめた施行の日付と、社内の周知に必要な期間から人が決めます。AIが書いた施行日を、原文と照らさずに決裁に載せないことを手順書に書いておきます。
4つ目は、規程どうしが食い違ったときに、どちらを優先するかの判断です。階層の上下だけで決まらない場合も多く、決裁の経緯や、例外として意図した定めかどうかを知っている人でなければ判断できません。AIには候補と引用を出させ、判断は法務の担当者が記録とともに行います。
この4つをAIから外すと、AIの役割は狭く見えるかもしれません。しかし規程管理の手間の大半は、全規程を読み、関係する箇所を探し、対照表と理由を書く部分にあります。判断は人に残し、読む・探す・下書きするをAIに渡す。この線を守れば、規程の本数が増えても、改定のたびに整合を保てます。
まとめ
規程の改定で崩れるのは、条番号の参照、金額や上限、権限、期限、用語といった、規程どうしのつながりです。1つの法改正や組織変更が、主管の違う複数の規程に同時に届くため、人の記憶だけでは整合を保てません。準備として、規程の台帳を1枚にし、AIに読ませる版を施行中のものだけに固定します。そのうえで、関係する条項の洗い出し、食い違いの候補、改定理由の下書き、社員の質問への条文を示した一次回答をAIに任せ、根拠の文言を必ず引用させます。条文の確定、決裁、施行日、規程どうしの優先は、主管の担当者と決裁者が決めてください。見直しは、法改正・組織変更・質問の記録・監査の指摘の4つをきっかけに回します。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
AIの導入・活用、何から始めるべきかお悩みですか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
