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倉庫で働く外国人スタッフの作業中の質問に、作業手順書を根拠に母語で答え、答えられない質問をリーダーへ回す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

外国人スタッフが作業中に母語で打った質問に、作業手順書の該当箇所を根拠にして母語で即答します。手順書に根拠がない質問と安全に関わる質問はAIが答えず、日本人リーダーへ回します。

サマリー
利用ツール
Azure AI/ChatGPT/Claude/Gemini/Google Apps Script/Google Vertex AI
対象業界
EC/小売/物流/製造
対象部門
物流
対象業務
問い合わせ対応/情報検索
主な課題
人手が足りない/問い合わせが多い/引き継ぎができていない
AIで行う処理
翻訳
主な効果
対応スピード向上/工数削減/教育コスト削減
導入難易度
★★☆☆☆
実装レベル
半自動化
費用感
API連携(中)
人間の確認
必須
現在工数
80h/月
AI導入後
24h/月
想定削減
70%
年間削減
672h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. スタッフが作業中に分からないことに気づき、手を止める
  2. 近くの日本人リーダーを探す。見つからなければ、同じ母語の先輩スタッフに聞く
  3. リーダーが自分の作業を中断して、その場へ行く
  4. 翻訳アプリ、身振り、実物を指さしながら説明する
  5. 伝わったかを確かめるため、スタッフにやってみせてもらう
  6. リーダーは自分の持ち場へ戻る。質問の内容はどこにも記録されない
導入後(After)
  1. スタッフが工程の共用タブレットで、母語のまま質問を入力する(端末の音声入力を使ってもよい)
  2. 自動安全に関わる語が含まれていないかを、先に機械的に確かめる
  3. 自動Gemini API が質問を日本語に直し、作業手順書を検索する
  4. 自動手順書に根拠がある場合は、母語の回答と、該当する手順書の見出し(日本語)を画面に出す
  5. 自動根拠がない場合、安全に関わる場合、スタッフが「分からない」を押した場合は、リーダーのChatスペースへ回す
  6. 回されてきた質問に、リーダーがその場へ行って答え、答えた内容を記録する
  7. 自動すべての質問と回答、回付の有無をスプレッドシートに残す
  8. リーダーが毎日10件を抜き取り、回答が手順書どおりかを確かめる
  9. 【自動+人】 毎月、回付された質問を手順書の工程ごとに集計し、手順書担当が追記・修正を決める
各工程の詳しい説明を読む
  1. スタッフが作業中に分からないことに気づき、手を止める
  2. 近くの日本人リーダーを探す。見つからなければ、同じ母語の先輩スタッフに聞く
  3. リーダーが自分の作業を中断して、その場へ行く
  4. 翻訳アプリ、身振り、実物を指さしながら説明する
  5. 伝わったかを確かめるため、スタッフにやってみせてもらう
  6. リーダーは自分の持ち場へ戻る。質問の内容はどこにも記録されない

問題は5つあります。

(a)質問がリーダーに集中する。 6名のリーダーに、1日60件前後の質問が来ます。リーダー自身も出荷の締め時刻を抱えており、質問のたびに作業が止まります。 締め時刻の直前に質問が重なると、どちらかが遅れます。

(b)先輩スタッフの答えが正しいとは限らない。 リーダーが見つからないとき、同じ母語の先輩に聞くのは自然な流れです。しかし先輩の答えが、改訂前の手順や本人の自己流であることがあります。 誤った手順が母語のまま広がり、リーダーは気づけません。

(c)翻訳アプリでは現場の言葉が通じない。 「仮置き」「ロケ」「欠品」「ケース出し」といった現場の言葉は、翻訳アプリに入れても意味が伝わりません。正しく訳せても、センター固有のルールまでは訳せません。

(d)スタッフが質問を遠慮する。 リーダーが忙しそうだと、聞かずに自己判断で進めます。誤出荷や破損は、聞かれなかった質問から起きます。

(e)同じ質問が繰り返され、手順書が直らない。 口頭で答えた内容は残らないため、どの手順が分かりにくいのかを誰も数えていません。 新しく入ったスタッフが、半年前と同じところでつまずきます。

  1. 【人】 スタッフが工程の共用タブレットで、母語のまま質問を入力する(端末の音声入力を使ってもよい)
  2. 【自動】 安全に関わる語が含まれていないかを、先に機械的に確かめる
  3. 【自動】 Gemini API が質問を日本語に直し、作業手順書を検索する
  4. 【自動】 手順書に根拠がある場合は、母語の回答と、該当する手順書の見出し(日本語)を画面に出す
  5. 【自動】 根拠がない場合、安全に関わる場合、スタッフが「分からない」を押した場合は、リーダーのChatスペースへ回す
  6. 【人】 回されてきた質問に、リーダーがその場へ行って答え、答えた内容を記録する
  7. 【自動】 すべての質問と回答、回付の有無をスプレッドシートに残す
  8. 【人】 リーダーが毎日10件を抜き取り、回答が手順書どおりかを確かめる
  9. 【自動+人】 毎月、回付された質問を手順書の工程ごとに集計し、手順書担当が追記・修正を決める

自動化されるのは「訳す」「手順書を探す」「根拠のある答えを返す」「答えられない質問を回す」「記録する」の5つです。残るのは、答えられない質問への対応と、手順書を直すことです。

安全に関わる質問には、AIが答えません。 フォークリフトの動線、重量物、刃物、危険物、けが、体調不良に関わる質問は、手順書に記載があっても「作業を止めてリーダーを呼んでください」とだけ返し、即時にリーダーへ回します。言葉の行き違いが、そのまま事故につながる領域だからです。

手順書にないルールをAIに作らせません。 根拠が見つからないのに「たぶんこうです」と答えると、先輩の自己流が広がるのと同じことが起きます。

02今回想定するシステム構成

構成図
作業手順書(Google ドライブ:工程ごとのPDF / Word、用語集)
   │
   ▼【取り込み】手順書の改訂時
Gemini API の File Search ストア(工程・版・改訂日をメタデータで付与)

共用タブレット(各工程)
   │
   ▼【トリガー】スタッフが質問を送信
Google Apps Script のウェブアプリ
   │
   ├──▶ 安全に関わる語の機械チェック(多言語の語リスト)
   │
   ├──▶ Gemini API(システム指示 + File Search + 構造化出力)
   │       └── 日本語訳、根拠の有無、母語の回答、回付の要否
   │
   ├──▶ 画面に母語の回答と手順書の見出しを表示
   │
   ├──▶ 回付が必要なら Google Chat のリーダー用スペースへ通知
   │
   └──▶ Google スプレッドシートに質問ログを記録
   │
   ▼【毎月第1営業日】
回付された質問を工程・手順書の見出しごとに集計 → 手順書の追記候補
役割想定する製品代替候補
処理Gemini APIClaude API、OpenAI API
検索基盤Gemini API の File SearchGoogle Vertex AI、Azure AI Search
連携Google Apps ScriptAppSheet、社内のウェブ画面
集計Google スプレッドシートExcel
通知Google ChatMicrosoft Teams、LINE WORKS
手順書の置き場Google ドライブSharePoint、ファイルサーバー

Gemini API の File Search を検索に使います。 公式ドキュメントでは、Gemini API は File Search ツールで検索拡張生成(RAG)を行え、データを取り込み、分割し、索引を作ると説明されています。PDF、Word、表計算などの形式を取り込め、応答には回答に使った文書の箇所を示す引用が付くことがあり、その中にファイル名、PDFのページ番号、文書に付けた独自のメタデータが含まれます。この引用を、スタッフの画面に出す「根拠の見出し」とリーダーの確認に使います。 料金は取り込み時の埋め込みにかかり、保存と検索時の埋め込みは無料とされています。

フロントに Google Apps Script のウェブアプリを使います。 doGetdoPost を持つスクリプトをウェブアプリとしてデプロイでき、実行は「所有者として」か「アクセスしているユーザーとして」を選べます。所有者として実行すれば、APIキーをスタッフの端末に置かずに済みます。

Workspace の Gemini アプリの Gem で済ませない理由があります。 Gem には指示を書き、ナレッジとしてファイルを追加し、共有できます。第8章の最小構成ではこれを使います。ただし派遣スタッフには社内アカウントがないことが多く、会話の記録を月次の集計に使う形にもなりません。 質問ログを残すことが目的の半分なので、本構成は API で組みます。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

スタッフが共用タブレットのウェブアプリで質問を送信したときに処理が始まります。1問ごとに即時で応答します。作業中の質問なので、待たせてよい時間は数十秒までです。 回答に時間がかかる場合は、「確認中」を表示してスタッフが作業に戻れるようにします。

もう1つの起点は、毎月第1営業日の集計です。前月にリーダーへ回された質問と、スタッフが「分からない」を押した回答を、手順書の工程ごとにまとめます。

手順書の取り込みは、手順書を改訂したときに行います。定時で全件を入れ直す必要はありません。改訂の担当者が、改訂した文書だけを取り込み直します。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
質問文スタッフの母語のままウェブアプリの入力欄
スタッフの情報登録番号、母語、担当工程(氏名は渡さない)スタッフ台帳(スプレッドシート)
端末の場所どの工程の共用タブレットか端末ごとのURLに付けた識別子
作業手順書工程ごとの手順、写真の説明文、改訂日File Search ストア
用語集現場の言葉と、各言語での固定の訳スプレッドシート(システム指示に埋め込む)
安全に関わる語の一覧各言語の語(フォークリフト、刃物、けが、痛い、薬品など)スプレッドシート
リーダーの当番表工程・時間帯ごとの担当リーダースプレッドシート
直前のやり取り同じスタッフの直前の質問と回答(追加の質問に答えるため)Gemini API の会話の連結
Step3

データの取得方法を決める

作業手順書: Google ドライブの手順書を File Search ストアへ取り込みます。公式ドキュメントでは、ストアへ直接アップロードする方法と、Files API でアップロードしてから取り込む方法の2通りが示されています。取り込むときに「工程」「版」「改訂日」をメタデータとして付けてください。 引用にメタデータが含まれるため、回答の根拠が何版の手順書かを画面とログに残せます。

改訂した手順書は、古い版を残したままにしないでください。 新旧の版が両方ストアにあると、AIが古い手順を根拠に答えることがあります。改訂のたびに、古い版を取り込み対象から外す手順を、改訂の担当者の作業に組み込みます。

用語集: 「仮置き」「ロケ」「ケース出し」「欠品」などを、各言語でどう訳すかを固定します。用語集はシステム指示に埋め込み、訳語を毎回変えさせません。 スタッフが先週聞いた答えと今日の答えで訳語が違うと、別のものだと受け取られます。

直前のやり取り: 「さっきの答えの3番目がよく分からない」といった追加の質問に答えるため、同じスタッフの直前の会話をつなげます。公式ドキュメントでは、Interactions API で前回のやり取りの識別子を渡すと会話の履歴をサーバー側で管理できると説明されています。会話は1つの作業の単位で区切り、スタッフが端末を離れたら新しい会話にします。 別のスタッフの会話が混ざらないようにするためです。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 手順書の書き方をそろえる … 1つの手順に1つの見出しを付け、番号を振ります。見出しがない長文の手順書は、引用の箇所が広すぎて根拠として使えません
  2. 写真の説明を文字にする … 「この写真のように置く」という書き方は検索できません。写真の下に、何がどう置かれているかを1〜2文で書き足します
  3. 安全に関わる語の機械チェック … 質問文に一覧の語が含まれていれば、AIに渡す前に安全の区分として扱います。AIの判定だけに頼らず、語の一致で先に止めます
  4. 個人の情報を外す … スタッフが質問文に自分や同僚の名前を書くことがあります。氏名はそもそも渡しませんが、質問文に含まれる名前はログに残す前に伏せ字にします
  5. 質問の長さを制限する … 数語から数文を想定し、極端に長い入力は切り詰めます
Step5

AIに処理させる

機械的な処理(Apps Script)にさせること:

処理内容
安全に関わる語の検知語の一覧との一致
スタッフ情報の付与登録番号から母語・担当工程を引く
回付先の決定工程と時間帯から当番のリーダーを引く
記録質問・回答・回付の有無をシートへ書く

Gemini API にさせること:

処理内容
日本語訳質問を日本語に直す(ログとリーダーのため)
手順書の検索File Search で該当する手順を探す
根拠の有無の判定手順書に答えがあるか、ないか、あいまいか
母語の回答根拠がある場合だけ、短い手順の形で答える
回付の要否と理由根拠がない、安全に関わる、判断が要る、の区分
手順書の不足の区分記載がない、記載があいまい、現場の実態と違う可能性

「根拠の有無の判定」が、この構成の要です。 生成AIは、手順書に答えがなくてももっともらしい答えを作れます。根拠が見つからないときに「答えられない」と返させ、それを回付と手順書の改善に回す。 この流れが崩れると、仕組み全体が「自己流を広める先輩」と同じになります。

判断が要る質問も回させます。 「この箱は少しへこんでいるが出荷してよいか」は、手順書に基準があっても現物を見ないと決められません。AIが基準を示すことはできますが、出荷してよいかの判断は現物を見たリーダーが行います。

Step6

指示内容を固定する

システム指示として渡します。公式ドキュメントでは、システム指示でモデルの振る舞いを指定できると説明されています。

あなたは物流センターの作業手順の案内係です。
外国人スタッフが作業中に出した質問に、作業手順書だけを根拠にして、
スタッフの母語で短く答えてください。

【厳守事項】
- 回答の根拠は、File Search で見つかった作業手順書の記載だけです。
  手順書に書かれていないことを、一般的な常識や推測で補わないでください。
- 手順書に根拠が見つからない場合、または記載があいまいな場合は、
  answerable を false にし、回答欄には次の文だけを母語で書いてください。
  「この質問はリーダーに確認します。作業を止めて待つか、別の作業に移ってください。」
- 次の内容に関わる質問には、手順書に記載があっても答えないでください。
  safety を true にし、回答欄には次の文だけを母語で書いてください。
  「作業を止めて、その場でリーダーを呼んでください。」
  フォークリフト・台車の動線、重量物、高所、刃物、薬品・危険物、
  けが、体調不良、火災・地震などの緊急時
- 現物を見て決める必要がある判断(出荷してよいか、破損とみなすか、
  数量の差をどう扱うか)は、手順書の基準を示したうえで needs_judgement を true にしてください。
  「出荷してよい」「問題ない」と言い切らないでください。
- 回答は3つ以内の手順に分け、1つの手順は短い1文にしてください。
- 現場の言葉は、下の用語集の訳を必ず使ってください。
  用語集にない言葉は日本語のまま残し、かっこ内に説明を付けてください。
- 回答の最後に、根拠にした手順書の見出しを日本語のまま示してください。
  スタッフがその画面をリーダーに見せて確認できるようにするためです。
- スタッフを責める言い方、急かす言い方をしないでください。
- 質問が作業と関係ない場合(給与、在留資格、寮、シフトなど)は、
  topic を other にし、「この質問は担当の窓口に確認してください」とだけ母語で答えてください。

【手順書の不足の区分】
not_written ... 手順書に該当する記載がない
ambiguous ... 記載はあるが、この質問に答えられるほど具体的でない
conflict ... 質問の内容から、手順書と現場の実態が違う可能性がある
none ... 手順書で答えられた

【用語集】
{glossary}

【スタッフの情報】
母語:{language}
担当工程:{process}
端末の場所:{station}

「手順書に書かれていないことを、一般的な常識で補わない」の1行が重要です。 倉庫の作業には一般論で答えられそうな質問が多くあります。「重い箱は下に置く」は正しそうに見えますが、センターによっては重量物の専用ロケーションがあり、一般論どおりに置くと誤りになります。

安全の区分は、AIへの指示と機械的な語の一致の二重にします。 指示だけでは、言い回しによって安全の区分から漏れることがあります。前処理で語が一致した質問は、AIの判定にかかわらず回付します。

conflict の区分は、手順書を直す手がかりになります。 「手順書では青いかごに入れるとあるが、青いかごがない」という質問は、手順書と現場のどちらかが変わっています。スタッフの誤りと決めつけず、リーダーが現場を見に行く対象にします。

月次の集計では、別の指示を使います。

下は、先月リーダーへ回された質問の一覧です(日本語訳、工程、
手順書の不足の区分、リーダーが答えた内容)。

【厳守事項】
- 同じ内容の質問をまとめ、手順書の見出しごとに件数を数えてください。
- まとめた質問ごとに、手順書に追記すべき内容の案を1〜2文で書いてください。
  リーダーが答えた内容に基づいて書き、それ以外を足さないでください。
- リーダーの回答がスタッフごとに違う場合は、案を書かずに
  「回答がそろっていない」と書いてください。
- スタッフ個人を特定できる内容を書かないでください。

{escalated_questions}

「リーダーの回答がそろっていない」を拾わせることが大切です。 同じ質問にリーダーAとリーダーBが違う答えをしているなら、直すべきは手順書より先に、リーダーの間の認識です。

Step7

出力形式を固定する

{
  "question_ja": "",
  "language": "",
  "topic": "work | other",
  "answerable": true,
  "safety": false,
  "needs_judgement": false,
  "answer_native": ["", "", ""],
  "source_headings": [""],
  "manual_gap": "not_written | ambiguous | conflict | none",
  "escalation_reason": ""
}

構造化出力でこの形に固定します。公式ドキュメントでは、JSONのMIMEタイプとJSONスキーマを指定すると応答をスキーマに沿った形にでき、enum で値を区分に限れると説明されています。File Search と構造化出力を組み合わせられるのは対応するモデルに限られるため、使うモデルが対応しているかを先に確かめてください。 また公式ドキュメントは、形式が正しくても値の正しさはアプリ側で確かめるよう注意しています。

構造化出力を使う理由は、画面の出し分けとログの集計です。 answerablesafety の組み合わせで、画面の表示と回付の要否が機械的に決まります。自由文の回答から「答えられたかどうか」を読み取る処理を書かずに済みます。

source_headings が空なのに answerable が true の応答は、根拠なしに答えていることになります。Apps Script 側でこの組み合わせを検知したら、回答を表示せず回付に切り替えてください。 引用の情報とも突き合わせ、引用が1件もなければ同じ扱いにします。

Step8

システムへ連携する

スタッフの画面: 母語の回答を大きな文字で3行以内に出し、その下に根拠の見出しを日本語で出します。画面の下に「分かった」「分からない」の2つのボタンを置きます。 「分からない」が押されたら、その質問も回付します。

リーダーへの回付: Google Chat の着信 Webhook で、工程ごとのリーダー用スペースへ通知します。公式ドキュメントでは、Webhook は外部から Chat のスペースへ一方向の通知を送る仕組みで、会話型ではないと説明されています。Google Workspace の Business または Enterprise のアカウントが必要で、スペースごとに1秒1件の上限があります。

通知の中身は次のとおりです。

項目中身
区分安全/根拠なし/判断が要る/「分からない」が押された
場所工程と端末の場所
質問日本語訳と原文
AIが示した根拠手順書の見出し(ある場合)
記録用のリンクリーダーが答えた内容を入れるシートの行

安全の区分は、通知の先頭に目立つ形で出します。 Webhook は一方向なので、リーダーが Chat 上で返信してもスタッフの画面には届きません。リーダーはその場へ行って答えます。 これは制約ですが、現場の質問は現物を見て答えるほうが確実なので、この構成では問題になりません。

記録: リーダーは答えた後、シートの該当行に「答えた内容」を1〜2文で入れます。この1〜2文が、翌月の手順書の追記案の材料になります。 入力の手間を減らすため、よくある答えは選択肢にしておきます。

Step9

人が確認する

AIが答えた質問は、事前には確認しません。 作業中の質問に即答することが目的なので、全件をリーダーが確かめてから表示する形にすると意味がなくなります。そのかわり、答えてよい範囲を「手順書に根拠がある、安全に関わらない、判断が要らない」に絞っています。

確認は次の4つです。

  • 回付された質問 … リーダーがその場で答える。安全の区分は最優先
  • 毎日の抜き取り … 当番のリーダーが、AIが答えた質問から10件を選び、回答が手順書どおりかを確かめる
  • 「分からない」が押された回答 … 翌日までに全件を見る。回答が正しくても伝わっていないなら、訳語か手順書の書き方に問題がある
  • 月次の追記候補 … 手順書の担当者が、集計を見て追記・修正を決める

抜き取りで誤りが見つかったら、同じ見出しを根拠にした回答をすべて見直します。 誤りの原因は、手順書の書き方か、古い版の残りか、用語集の訳であることが多いためです。

Step10

例外に対処する

起きること対応
安全に関わる語が含まれるAIの判定にかかわらず回付。画面には「作業を止めてリーダーを呼んでください」だけを出す
手順書に根拠がない回付し、manual_gap を記録する
根拠の見出しが空なのに答えている回答を表示せず回付に切り替える
母語が判定できない、訳がおかしい回付し、スタッフの登録言語で「リーダーに確認します」と出す
作業と関係ない質問(給与、寮、在留資格)担当の窓口を案内し、回付しない。ログには区分だけ残す
通信が切れた、応答が遅い「リーダーに直接聞いてください」と出す。AIの応答を待たせ続けない
当番のリーダーが不在工程のスペース全体へ通知し、最初に反応した人が対応する
手順書と現場が違うという質問conflict として回付。スタッフの誤りと決めつけず現場を見る
同じスタッフが短時間に何度も同じ質問をする回付に切り替える。AIの答え方が伝わっていない
古い版の手順書を根拠にしている回答を止め、ストアから古い版を外す
Step11

記録を残す

この記録が、手順書を直す材料になります。

  • 質問の日本語訳と原文、母語、工程、日時(氏名は残さない)
  • AIの回答と根拠の見出し、手順書の版
  • answerable safety needs_judgement manual_gap の値
  • 「分かった」「分からない」の押下
  • 回付の有無、対応したリーダー、答えた内容
  • 抜き取り確認の結果

「リーダーが答えた内容」を必ず残してください。 回付された質問とその答えが積み上がると、手順書に何を書き足せばよいかが、そのまま分かります。 答えが残っていないと、集計しても「この見出しの質問が多い」までしか分かりません。

安全の区分で回付された質問は、別のシートにも写します。 同じ場所で同じ種類の質問が続くなら、作業の配置や表示を見直す対象です。

04実装レベルの3段階

最小構成:リーダーが Gem に質問を投げて答え方を確かめる / 回答の試行のみ
半自動化:共用タブレットのウェブアプリ+Gemini API+回付の通知+質問ログ / 即答と回付と記録
本格構成:上記+月次の追記候補の集計+手順書の改訂と取り込みの連動+「分からない」の分析 / 手順書の改善まで

半自動化の時点で、リーダーの1件あたりの時間は4分から1.5分程度になります。 即答できる質問でリーダーが呼ばれなくなるためです。本格構成では1.2分になります。減るのは、手順書が直ることで同じ質問が回付されなくなる分です。 本格構成の価値は、回付される質問が月ごとに減っていくことです。 追記した見出しの質問が翌月に回付されなくなったかを追えば、手順書の追記が効いたかを確かめられます。 回付が減らない見出しは、書き方を変える必要があります。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
6 名
月間件数
1,200 件
1件あたり現在時間
4 分
1件あたり導入後時間
1.2 分
現在  1,200件 × 4分 ÷ 60 = 80 時間/月
導入後 1,200件 × 1.2分 ÷ 60 = 24 時間/月
月間削減時間
56h
削減率
70%
年間削減時間
672h
年間金額換算(時間単価2,800円)
188万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 物流センターや倉庫で、派遣・技能実習・特定技能などの外国人スタッフが30名以上働いており、母語が複数に分かれている現場。作業手順書は日本語で整備されているが、スタッフが読めずに日本人リーダーへ口頭で質問が集中している場合。リーダーが質問対応のたびに持ち場を離れ、出荷の締め時刻に影響が出ている場合。同じ質問が何度も出るのに、手順書のどこが足りないのかを誰も把握していない場合。
向いていない
  1. 外国人スタッフが数名で、リーダーが全員と直接やり取りできている場合。作業手順書がなく、手順がリーダーの頭の中にしかない場合(先に手順書を作る)。現場で端末を使えない、または通信環境がない場合。質問の大半がフォークリフトや危険物など、必ず人が立ち会うべき安全作業に関するものである場合。

07最小構成で試す方法

  1. 質問の多い工程を1つ選ぶ(ピッキングや検品など)
  2. その工程の作業手順書と用語集を用意する
  3. リーダーが Workspace の Gemini アプリで Gem を作り、手順書をナレッジに追加し、第7章のシステム指示を書く
  4. リーダーが、過去に受けた質問を30件思い出して書き出し、各言語に訳して投げる
  5. 答えがあるべき質問と、答えるべきでない質問(安全・判断)の両方を混ぜる
  6. 同じ母語の先輩スタッフに回答を読んでもらい、意味が通じるかを確かめる

見るのは次の3点です。

見る点判断
手順書にない質問で「答えられない」と返したか推測で答えたものが1件でもあれば、指示を見直す
安全・判断の質問を答えずに回したか漏れがあれば、安全に関わる語の一覧に加える
母語の回答が先輩スタッフに通じたか通じない言語は、本構成の対象から外すか訳語を見直す

3つ目を言語ごとに確かめてください。 言語によって訳の質に差が出ることがあります。通じない言語を対象に含めたまま始めると、スタッフが「分からない」を押し続け、リーダーの負担が減りません。

あわせて、答えられなかった質問を数えてください。 30件中10件が「手順書に根拠なし」になるなら、この構成の前に手順書の追記が要ります。それ自体が、この試行の成果です。

ワークフローやウェブアプリを作らずに、ここまでは試せます。所要は1〜2日です。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
手順書にないことを推測で答える根拠がなければ「答えられない」と返させる。根拠の見出しが空の回答は表示しない
安全に関わる質問に答えてしまう語の一覧で先に止める。AIの判定だけに頼らない
古い版の手順書を根拠にする改訂時に古い版を外す手順を、改訂担当の作業に組み込む
訳語が毎回変わる用語集をシステム指示に埋め込む
通じない言語がある最小構成で言語ごとに確かめ、通じない言語は対象から外す
リーダーが答えた内容を記録しないよくある答えを選択肢にして、入力を1回で済ませる
回付が多すぎてリーダーの負担が減らない月次の集計で手順書を追記する。最初の数か月は減らない前提で始める
別のスタッフの会話が混ざる端末を離れたら会話を区切る
手順書と現場が違う質問をスタッフの誤りにするconflict として回付し、現場を見る
給与や在留資格の質問が来る担当窓口を案内する。この仕組みでは答えない

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: スタッフの質問文、母語、担当工程、作業手順書。質問文には、本人の不安や体調、同僚とのやり取りが書かれることがあります。

  1. 無料枠で運用しない … Gemini API の利用規約では、無料のサービスでは入力と応答が製品の改善に使われ、人が読むことがあるとされています。有料のサービスでは、プロンプトや応答を製品の改善に使わないとされています。スタッフの質問を扱うので、有料の契約で運用してください
  2. 氏名を渡さない … 回答に氏名は要りません。登録番号だけを使い、氏名はシートの表示のときに引きます
  3. 質問ログを評価に使わない … 質問の多いスタッフを「仕事ができない」と見なす使い方をすると、スタッフは質問しなくなり、誤出荷と事故の芽が戻ってきます。 ログは手順書を直すためだけに使うと、スタッフに説明してください
  4. 派遣スタッフの扱い … 派遣元との契約や、派遣元が定める情報の取り扱いを確認してください。質問ログの保存期間と閲覧者を決めておきます
  5. 安全の判断をAIにさせない … 安全に関わる質問は必ず人が対応します。AIの回答は作業指示ではなく、手順書の案内だと位置づけます
  6. 手順書の社外秘の範囲 … 取り込む手順書に、取引先名や顧客の情報が含まれていないかを確かめます
  7. ウェブアプリの公開範囲 … 端末ごとのURLを社外に出さない。共用タブレットは現場用の共通アカウントでログインしておきます
  8. 自動実行してよい範囲 … 手順書に根拠のある回答、回付、記録までです。安全に関わる対応、現物を見て決める判断、手順書の改訂は人が行います

誤りが起きた場合のリスクは、誤った手順による誤出荷や破損、安全に関わる質問への不適切な回答、スタッフの情報の目的外利用です。2つ目は事故につながるため、語の一覧による機械的な停止を省かないでください。

10まず何から始めるか

1週目:質問の実態を数える

リーダー6名に、1週間だけ受けた質問を工程と内容の一言でメモしてもらいます。「手順書に書いてあること」「書いていないこと」「安全に関わること」に分けて数えます。 書いていないことが半分を超えるなら、先に手順書を直します。

2週目:Gem で答え方を確かめる

質問の多い工程の手順書で Gem を作り、第8章の30件を投げます。推測で答えたもの、安全の質問に答えたものが1件でもあれば、指示を直してから次へ進みます。 同じ母語の先輩スタッフに、訳が通じるかを言語ごとに見てもらいます。

3週目:手順書と用語集を整える

1つの手順に1つの見出し、写真には説明文、現場の言葉は用語集に。ここを整えないと、根拠の見出しが広すぎてリーダーが確かめられません。

4週目以降: 1つの工程で、共用タブレットのウェブアプリと回付の通知を作り、1か月運用します。安全に関わる語の一覧を最初から入れてください。

2か月目以降: 月次の集計を始め、回付の多い見出しから手順書を追記します。追記した見出しの質問が翌月に減ったかを見ます。 減ったら工程を広げます。

半年後: リーダーの間で答えがそろっていない箇所を洗い出し、リーダー同士で答えを合わせます。ここまで来ると、この仕組みは質問に答える道具から、手順書とリーダーの認識をそろえる道具になります。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-09-24/最終更新:2026-09-24
確認した内容情報源確認日
Gemini API が File Search ツールで検索拡張生成を行い、データの取り込み・分割・索引作成を行うこと。ストアへ直接アップロードする方法と、Files API から取り込む方法があること。応答に、ファイル名、PDFのページ番号、独自のメタデータを含む引用が付くことがあること。PDF、Word、表計算などを扱え、音声と動画は対象外であること。料金は取り込み時の埋め込みにかかり、保存と検索時の埋め込みは無料であることGemini API: File Search2026-09-24
JSONのMIMEタイプとJSONスキーマを指定して応答をスキーマに沿わせられること。enum で値を区分に限れること。File Search などの組み込みツールと組み合わせられるのは対応するモデルであること。値の正しさはアプリ側で確かめるべきことGemini API: Structured outputs2026-09-24
システム指示でモデルの振る舞いを指定できること。Interactions API で前回のやり取りの識別子を渡すと、会話の履歴をサーバー側で管理できることGemini API: Text generation2026-09-24
無料のサービスでは入力と応答が製品の改善に使われ、人が読むことがあること。有料のサービスではプロンプトや応答を製品の改善に使わないことGemini API 追加利用規約2026-09-24
Apps Script のウェブアプリは doGetdoPost を持ち、デプロイ時に「所有者として」か「アクセスしているユーザーとして」の実行を選べることApps Script: Web Apps2026-09-24
Google Chat の着信 Webhook が一方向の通知で会話型でないこと。Business または Enterprise の Workspace アカウントが必要なこと。スペースごとに1秒1件の上限があることGoogle Chat: Incoming webhooks2026-09-24
Gem に指示を書き、ナレッジとしてデバイス・Google ドライブ・NotebookLM のファイルを追加でき、共有できること。仕事用のアカウントでは別の条件が適用される場合があることGemini アプリ ヘルプ: Gems2026-09-24

各言語での回答の質は、言語と現場の言葉によって差が出ることがあります。対象とする言語ごとに、最小構成で通じるかを確かめてください。 共用タブレットの配置、通信環境、派遣スタッフのアカウントの扱いは現場によって異なり、この部分は利用環境に応じた個別確認が必要です。 派遣スタッフの質問ログの扱いは、派遣元との契約を確認してください。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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