技術営業は説明の上手さで決まらない|答える範囲を先に決める

技術営業は説明の上手さで決まらない|答える範囲を先に決める

「設計の担当を商談に連れて行ったら、その場でできますと答えてしまいました。戻ってから工数を数えたら、3か月分ありました」「先方の購買から仕様書の数値の根拠を求められて、うちの技術者がカタログの値をそのまま読み上げました。使用条件が違うので、訂正の文書を出しています」。どちらの商談も、その場は和やかに終わっています。困りごとが出てくるのは、いつも2週間から1か月あとです。技術営業でつまずくのは、説明の技術ではありません。答えてよい範囲を、場に出る前に決めていないことです。この記事では、答えを外す原因を仕様値・適合性・契約・見積・競合比較・秘密保持の6つに分け、答える範囲の決め方と、約束の記録の残し方を整理します。商談の前後の準備を生成AIにどこまで回せるかは、工程を分けて中ほどに置きます。


カメ先生カメ先生

技術営業は製品にいちばん詳しい人を出せば成り立つと思われがちですが、詳しさが増えるほど断定も増えます。商談であとから困るのは、知識の不足ではなく断定の置き場所です。


カメ子カメ子

詳しい人ほど言い切ってしまう、ということですか。


カメ先生カメ先生

言い切りが起きるのは、聞かれた側に答えないという選択が渡されていないからです。答えてよい範囲が決まっていないと、人はその場の空気で埋めます。空気で埋めた部分だけが、後で約束として残ります。


カメ子カメ子

範囲を決めるのは技術者本人ではなく、送り出す側の仕事になりますね。


この記事のポイント
  • 商談で外れるのは知識ではなく答えの単位。性能値は測定条件つき、適合性は型式か品目つき、納期は数量と検査の枠つきの値である
  • 書面がなくても契約は成立するため、場で言ったできますが、後の工数と納期を書く材料になる
  • 想定される技術の質問の洗い出し、職種別の言い換え、記録からの約束の抜き出しは機械に回せる。断定と可否は人が署名して出す

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目次

説明はうまかったと言われた商談が、後で工数と納期に化ける

技術者を商談に出す設計を決める側が最初に気づくのは、商談の評価ではなく、そのあとに増えた作業です。設計の担当が同席した回は、先方の技術の質問が深くなり、場の満足度は上がります。ところが2週間ほどして、設計から「あの案件は標準品では通らない」と上がってきます。場で答えた内容が、図面の変更と試験の追加に変わっているのです。場の評価が高い商談ほど、この差が大きく出ます。深く答えれば答えるほど、断定の数が増えるからです。

準備の側だけを見ると、道具はすでに入っています。総務省が2026年7月に公表した令和8年版の情報通信白書は、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると答えた割合が日本で86.4%だったと書いています。業務類型では「議事録・メール作成補助」が約7割で最も高く、「営業・販売」が約6割、「社内ヘルプデスク」が約5割と続きます。導入効果を実感したという回答も、議事録とメールの補助が約7割で、ほかの類型に比べて顕著に高いとされています。書く工程には機械が入り、場で何を答えるかを決める工程には入っていないという形です。

外れたときに出る損は3つに分かれます。1つ目は設計の工数で、図面の変更と追加の試験がここに乗ります。2つ目は納期で、材料の手配と検査の枠を取り直すことになります。3つ目が信用です。訂正の文書を1度出すと、先方は次の商談から自社の資料をそのまま使わず、必ず裏取りを入れるようになります。3つ目がいちばん高くつきます。工数と納期は数えれば回収の見通しが立ちますが、裏取りが増えて商談が長くなる分は、どの帳簿にも載りません。

外れているのは知識ではなく、答えの単位

原因を「勉強不足だった」で片付けると、同じことが次の商談でも起きます。実際に外れているのは知識ではなく単位です。性能値は測定条件つきの値、適合性は型式または品目についた状態、納期は数量と在庫と検査の枠つきの日数、価格は前提条件つきの金額です。どれも単独の数字としては存在しません。ところが商談で求められるのは、いつも単独の数字です。「それで、結局いくつ出るのですか」。

単位を落とすと何が起きるかは、はっきりしています。落とした条件は、聞いた側の頭の中で「自分たちの使用条件」に置き換わります。技術者は標準条件の値を言い、購買は自社の運転条件で読みます。どちらも嘘をついていません。それでも数字は合いません。条件を言わない数字は、聞いた側の条件で読み替えられます。読み替えは悪意ではなく、条件が空いている場所を自分の前提で埋めるという、ごく普通の読み方です。

だから対策は言い方の訓練ではなく、単位の固定です。値を言うときは、条件を数字より先に言います。「常温、定格の負荷、規格に定められた測定方法で」と前置きしてから数字を出す。順番を逆にすると、数字だけが記憶に残ります。条件は数字の後ろではなく前に置きます。議事録も同じで、条件を文末に書くと、要約したときにまず落ちます。この順番の決めごとは、社内の様式に書いておけば守られます。個人の心がけにすると守られません。

カタログ値は使用条件つきの値で、条件は口頭で落ちる

カタログの値は、決まった試験条件で測った値です。温度、湿度、電源、負荷、測定の方法、測定器の等級。使用条件が違えば値は変わります。この差を「性能が出ていない」と読まれると、話は契約の側に移ります。民法第562条第1項は、引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができると定めています。第563条は代金の減額の請求、第564条はこれらの規定が損害賠償の請求と解除権の行使を妨げないことを定めています。

分かれ目は「契約の内容」に何が入るかです。契約書に書いた仕様だけとは限りません。商談で示した資料、提案書、メールでのやり取りが、契約の内容を解釈するときの材料になりえます。場で言った数字は、後から契約の内容の側に置かれる可能性があります。「これは参考値です」と言い添えたか、その一言が記録に残っているかが、そこで効いてきます。

期間の話も押さえておきます。民法第566条は、種類または品質に関して契約の内容に適合しない目的物を引き渡した場合において、買主が不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除ができないとしています。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときはこの限りでないという、ただし書きが付いています。知っていて言わなかった場合は、この期間の制限で守られません。「たぶん出ないと思ったが、その場では黙っていた」が、ここに寄っていく形です。

  • 使用条件を聞かないまま、カタログの値をそのまま読み上げる
  • 「実力値はもっと出ます」と、社内の試作でしか測っていない数字を口で言う
  • 測っていない条件について「たぶん大丈夫です」で可否を答える
  • 先方の運転条件を聞いたあとで、値を上のほうに言い直す
  • 参考値だと言い添えたのに、その一言を議事録に書かない

適合性は会社にではなく、型式と品目についている

「うちは法令の対応は済んでいます」。この答えは、そもそも単位が合っていません。電気用品安全法第9条第1項は、届出事業者は、その製造または輸入に係る電気用品が特定電気用品である場合には、当該特定電気用品を販売する時までに、経済産業大臣の登録を受けた者の検査を受け、かつ証明書の交付を受け、これを保存しなければならないと定めています。同法第2条第2項は、特定電気用品を「構造又は使用方法その他の使用状況からみて特に危険又は障害の発生するおそれが多い電気用品であつて、政令で定めるもの」と定義しています。つまり、その品目が特定電気用品に当たるかどうかが政令で決まり、そのうえで型式ごとに証明書があるかが問われる、という2段の構えです。

表示も同じ単位で立ちます。同法第10条第1項は、届出事業者は、その届出に係る型式の電気用品の技術基準に対する適合性について義務を履行したときに、経済産業省令で定める方式による表示を付することができるとしています。同条第3項は、その場合でなければ、何人も同項の表示またはこれと紛らわしい表示を付してはならないとしています。適合は会社ではなく型式に付きます。だから「弊社は適合しています」は、答えとして成り立ちません。なお同法第3条は、製造または輸入の事業を行う者に、事業開始の日から30日以内の届出を求めています。届出をしたことと、型式ごとの適合性の検査を終えたことは、別の段です。

分野が変わると単位も変わります。医療機器は、医薬品医療機器等法第2条第5項から第7項で、高度管理医療機器、管理医療機器、一般医療機器の3つに分かれます。いずれも厚生労働大臣が薬事審議会の意見を聴いて指定するものです。同法第23条の2の23第1項は、厚生労働大臣が基準を定めて指定する高度管理医療機器、管理医療機器または体外診断用医薬品について、品目ごとに登録認証機関の認証を受けなければならないとしています。食品に触れる器具と容器包装は、食品衛生法第18条第3項が、政令で定める材質の原材料について、含まれる物質の許容される量が規格に定められていないものは使用してはならないとしています。使ってよい物質の側から決まる形なので、「この材質なら問題ありません」という答えは出せません。

扱う分野根拠になる条文適合が紐づく単位場で言えないこと
電気を使う機器電気用品安全法 第9条第1項・第10条型式(特定電気用品は登録を受けた者の検査と証明書)弊社は対応済みですという会社単位の答え
医療機器医薬品医療機器等法 第2条第5項から第7項・第23条の2の23品目(指定されたものは登録認証機関の認証)区分がどれに当たるかのその場の断定
食品に触れる器具と容器包装食品衛生法 第18条第2項・第3項材質の原材料に含まれる物質この材質なら問題ありませんという言い方

場での答え方は、断らずに単位を示す形にします。「この型式については証明書があります。証明の範囲は型式ごとなので、ご検討中の構成が同じ型式に入るかを確認して、書面でお返しします」。適合していますとは言わず、どの単位で立っているかを言います。この一言があると、先方の購買は稟議の資料に何を添えればよいかが分かります。断定の代わりに範囲を渡すほうが、相手の仕事は前に進みます。

書面がなくても契約は成立する。だから場のできますが残る

民法第522条第1項は、契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示に対して相手方が承諾をしたときに成立すると定めています。そして同条第2項は、契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しないとしています。書面は契約の成立の要件ではありません。この一行が、技術営業の場にそのまま効いてきます。

もっとも、商談での1回のやり取りだけで売買契約が成立したと評価される場面は、そう多くありません。実務で起きるのは、もう少し回り道をした形です。「その形状なら対応できます」と答えた記録が残る。先方はその前提で仕様書を書く。書き上がった仕様書に双方が押印する。その時点で、場の発言が契約の内容として固まります。場の発言は契約に化けるのではなく、契約の内容を書く側に材料を渡します。材料を渡した記憶がない側だけが、あとで驚くことになります。

だから場で言うのは「可否」ではなく「確認する対象」です。「その形状は、抜きの角度と肉厚の下限を見れば判断できます。今日いただいた図で、3営業日のうちに設計から回答します」。可否を言わずに前へ進める形です。持ち帰りが負けにならないのは、この言い方で返したときだけです。「社内で確認します」だけでは、先方は何が確認されるのかが見えないので、待たされたと感じます。

見積の数字だけを口で言うと、前提が消える

見積は前提条件の束です。数量、材質、公差、表面処理、試験の有無、輸送の条件、検査成績書を付けるかどうか、支払の条件。前提が1つ変われば値が変わります。口頭で「だいたいこのくらいです」と言うと、束のうち金額だけが残ります。口で言った金額は、書面より先に社内を回ります。回った先で他社の見積と並んだ時点で、前提の差はもう見えません。

見積書の有効期限にも、法律の側の話があります。民法第523条第1項は、承諾の期間を定めてした申込みは撤回することができないとしています(申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでないという、ただし書きが付いています)。見積書がここでいう申込みに当たると評価される場合には、期限内の撤回が制限されうるということです。だから有効期限は、返事をもらう都合ではなく、原材料の値動きと在庫の見通しから決めます。期限を長く書くほど、値上がりの分を自社が抱えることになります。

実務でやることは2つです。1つ、見積書の1枚目に前提条件を7項目以内で並べ、前提が変わったときは再度見積りをすることを、同じ紙に書いておく。2つ、口頭では金額を言わず、「前提の一覧をお送りしてから金額をお伝えします」に言い方をそろえる。この2つ目は、技術者よりも営業の側が破ります。場の空気を良くするために概算を口で出したくなるからです。概算を口で出した回数を数えると、月に何度あるかが見えます。数えはじめると減ります。

競合より優れていると断定した瞬間に、証明する側に立つ

消費者庁は、優良誤認表示に当たりうる例として、「この技術を用いた商品は日本で当社のものだけ」と表示していたが、実際は競争業者も同じ技術を用いた商品を販売していた、という場合を挙げています。技術営業の場でいちばん出やすい形が、これです。「この構造は、ほかにありません」。自社の技術に自信があるほど、この一言は自然に出ます。

適用の範囲は正確に見ておきます。景品表示法第5条第1号は、条文に「一般消費者に対し」と書かれています。事業者だけを相手にした商談での口頭のやり取りが、そのまま同条の対象になるとは限りません。ただし、同じ内容をカタログや自社の記事に載せれば、一般消費者が読む表示になりえます。そして同法第7条第2項は、表示が第5条第1号に該当するか判断するため必要があると認めるときは、期間を定めて表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、事業者が資料を提出しないときは、その表示を同号に該当する表示とみなすとしています。第8条第1項の課徴金は、対象期間の売上額に100分の3を乗じた額で、その額が150万円未満のときは納付を命ずることができないとされ、対象期間は同条第2項により最長で3年までとされています。

事業者の間の話は、不正競争防止法の側にあります。同法第2条第1項第20号は、商品もしくは役務もしくはその広告もしくは取引に用いる書類もしくは通信に、品質、内容、製造方法、用途、数量について誤認させるような表示をする行為を、不正競争として挙げています。見積書、提案書、メールは、この書類もしくは通信に入りえます。同項第21号は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、または流布する行為を挙げています。同法第3条は差止めの請求、第4条は損害賠償を定めています。「あちらの製品は、その条件だと焼き付きます」は、根拠を示せなければ第21号の側に寄っていく言い方です。

場での答え方は決めておきます。比較を求められたら、比べるのは自社の測定値と測定条件までにします。相手の製品の値は、公表されている資料に書かれている値をそのまま読み、自社では測っていないことを言い添えます。競合の値は、自社で測っていないと断りを付けて読みます。この断りがあると、先方は自分で確かめる前提で聞いてくれます。断りを外すと、確かめた人の発言として記録に残ります。

他社案件の話し方に、秘密保持の線が出る

実績を求められると、技術者は具体で答えたくなります。「同じ構造を、ある食品機械の会社に納めています」。不正競争防止法第2条第6項は、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています。秘密として管理されていること、事業活動に有用であること、公然と知られていないこと。この3つがそろっているものが営業秘密です。自社の未公開の加工条件も、他社の案件の情報も、ここに入りえます。なお同条第1項第10号は、営業秘密のうち技術上の情報であるものを技術上の秘密と呼び分けています。

商談で漏れるのは、名前ではなく組み合わせです。業種と数量と時期の3つをそろえて言うと、聞いた側は相手を絞れます。「食品機械向けに、月に2万個を昨年から」。同じ業界の技術者なら、これで候補は数社に落ちます。特定できる情報は、社名を言わなくても出ています。判断の物差しは「名前を言ったか」ではなく「特定できるか」です。

同法第2条第1項第7号は、営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、またはその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用しまたは開示する行為を挙げています。目的の要件が付いているので、うっかり口が滑った場面が直ちにこれに当たるとは限りません。ただし、秘密保持の取り決めに違反すれば、契約の側の責任は別に立ちます。法令に当たるかどうかを場で考えさせるより、言ってよい実績の一覧を先に作るほうが早いのです。

一覧は3段で作ります。1段目は、先方の了解を得て公表済みの事例。社名まで言えます。2段目は、業種と用途だけ言える事例。数量と時期は言いません。3段目は、何も言えない事例。「実績はありますが、お話しできる範囲にありません」で止めます。商談に出る技術者には、この一覧だけを渡します。元の顧客名簿を渡すと、場で判断が起きます。判断を場でさせないことが、一覧を作る目的です

答える範囲を、商談の前に3段で決める

決めるのは3段です。場で答える、条件つきで答える、持ち帰る。この3段を、質問の型ごとに割り当てます。割り当ては商談ごとに作るのではなく、製品群ごとに1度作って使い回します。商談の直前に作ると、必ず抜けが出ます。抜けるのは、めったに聞かれないけれど外すと痛い型、つまり適合性と秘密保持です。

聞かれる型場で答えてよい形場で言ってはいけない形持ち帰る先
性能値測定条件と測定方法を先に置いてから値を読む条件を省いた単独の数字品質保証
適合性この型式または品目について証明書の有無だけ法令の対応は問題ありませんという断定品質保証と法務
カスタム対応同種の実績があることと、判断に必要な情報できますという可否の即答設計と生産管理
納期標準の納期と、それが変わる条件(数量・在庫・検査の枠)具体の日付生産管理
価格前提が変わると値が変わることと、前提の一覧の送付単価や総額の概算営業
競合との比較自社の測定値と測定条件、公表資料の引用あちらは劣るという評価マーケと法務
他社の実績公表済みの事例か、業種と用途だけ顧客名と数量と時期の組み合わせ営業

この表で要になるのは真ん中の列、条件つきで答える段です。答えないと答えるの二択にすると、技術者は黙るか断定するかしかなくなります。答えないと答えるの間に、条件つきで答える段を置きます。条件つきの答え方は、型ごとに文面を先に決めておきます。「この条件ではこの値です。ご検討の条件を伺ったうえで、改めて数字でお返しします」。文面が決まっていれば、場で言葉を探さなくて済みます。

STEP1
過去1年の商談記録と問い合わせ履歴から、技術の質問を全部書き出す

記憶で書き出すと、印象の強い質問だけが並びます。記録から機械的に抜き出して、重複をまとめる作業にします。件数は数百になっても構いません。

STEP2
質問を7つの型に分ける

性能値、適合性、カスタム対応、納期、価格、競合との比較、他社の実績。どの型にも入らない質問が出たら、型を足すのではなく、その質問がなぜ来たのかを先に見ます。

STEP3
型ごとに、場で答える・条件つき・持ち帰るを割り当てる

割り当てるのは技術部門と営業部門の責任者の両方が入った場です。片方だけで決めると、営業は場で答える側に、技術は持ち帰る側に寄ります。

STEP4
条件つきの答え方の文面を、型ごとに1つずつ書く

文面は2文までにします。長いと場で使われません。1文目で答えられる範囲を示し、2文目で何をいつ返すかを言う形にそろえます。

STEP5
持ち帰りの宛先と、返す期限の標準を決める

宛先は部署名ではなく役職まで書きます。期限は当日中、3営業日、10営業日の3段にします。測る必要があるものは10営業日、資料を探せば済むものは3営業日です。

技術の言葉を、購買と情報システムと経営の言葉に置き換える

同じ商談の席に、見ているものが違う相手が3種類います。購買が見るのは総額と納期と代替の有無、情報システムが見るのは既存の仕組みとの接続と運用の手間、経営が見るのは投資の回収と、止まったときに何が起きるかです。技術の説明をそのまま出すと、3人のうち誰にも届きません。技術の話が届かない商談は、最後に価格だけで比べられます。比べる物差しが1本しか残らないからです。

置き換えは、製品ごとではなく用語ごとに作ります。たとえば公差なら、購買には「狭めると単価と不良の率が上がる」、情報システムには関係がないので触れない、経営には「歩留まりに効く」。冗長な構成なら、購買には「同じ部品を2つ買う」、情報システムには「切り替えの手順と、その試験が要る」、経営には「止まる時間が短くなる」。用語ごとに作れば、製品が増えても表は増えません。製品ごとに作ると、製品が増えた分だけ作り直しになります。

落とし穴は、言い換えを丁寧にするほど正確さが落ちることです。だから紙は2枚用意します。1枚目は言い換えた説明、2枚目は正確な仕様。場で話すのは1枚目、置いていくのは2枚を綴じたものにします。言い換えた説明の裏に、正確な仕様を必ず綴じます。1枚目だけを置いていくと、先方の社内で言い換えのほうが仕様として回ります。回った先で、言い換えの言葉が仕様書に書かれることがあります。

持ち帰りを負けにしない。場で決める4項目

「持ち帰って確認します」で終わる商談が弱く見えるのは、持ち帰り自体ではなく、返し方が決まっていないからです。場で決めるのは4つです。誰が(部署と役職)、いつまでに(日付)、何を(数字か図か文書か)、どの形で(メールか、対面か、試験の成績書か)。4つのうち、何をがいちばん抜けます。「確認して連絡します」で終わると、返ってきたものが先方の期待と食い違います。

4つを場で言い切るには、宛先の一覧が事前に要ります。性能値は品質保証、適合性は法務と品質保証、カスタム対応は設計と生産管理、納期は生産管理、価格は営業。この対応表を、商談に出る技術者が手元に持っている状態にします。持っていないと「社内で確認します」に落ちます。誰に確認するかまで言えると、先方は待てます。待てる持ち帰りは、負けではありません。

期限は日付で言います。なるべく早くと言った持ち帰りは、必ず遅れます。当日中、3営業日、10営業日の3段にしておくと、場で選ぶだけで済みます。測る必要があるものは10営業日。試験の枠が埋まっていれば、枠が空く日を先に伝えて、そこから数えます。期限を守れないことより、期限を言わないことのほうが信用を落とします

  • 持ち帰る内容を、数字・図・文書・試験の成績書のどれで返すかを場で言った
  • 返す人を、部署ではなく役職まで言った
  • 期限を、当日中か3営業日か10営業日のどれかで言った
  • 測る必要があるものは、試験の枠が空く日から数えて期限を言った
  • 場で答えたことと答えなかったことを、その日のうちに同じ様式に書いた

生成AIに準備させる工程と、人が決める工程

準備の側は、かなり機械に回せます。過去の商談記録と問い合わせ履歴から、技術の質問を洗い出す。洗い出した質問を7つの型に分ける。用語の言い換えの下書きを、購買と情報システムと経営の3列で作る。仕様書と提案書の記載のくい違いを探す。商談後の記録から、約束したことを抜き出す。持ち帰り事項の宛先と期限を整理する。ここまでが渡してよい範囲です。どれも社外に対する約束にはならない工程だからです。

白書に載っている事例を見ると、記録の側はすでに動いています。令和8年版の情報通信白書は、明治安田生命がAIを活用したデジタル秘書をほぼ全従業員に提供し、AIによる面談記録の作成やデータの蓄積の支援を行っており、今後はAIエージェントが過去の面談情報や社内情報を参照して、自律的に次の提案内容の検討や提案書の作成を行うといった支援を構想として考えている、と書いています。設計の側では、同じ白書がパナソニックホールディングスの設計AIについて、設計上の重要な点を可視化して重要な領域に絞った設計を可能にし、計算速度が従来の7倍に向上したとしていると書いています。いずれも白書が引いた各社の説明であり、こちらで測った数字ではありません。

人が決める工程は4つです。性能値、適合性、納期、価格の断定。カスタム対応の可否。競合との優劣。秘密保持に触れる範囲。この4つは、機械の出力をそのまま採りません。理由は共通していて、どれも社外に対する約束になるからです。約束になる出力は、人の署名を通してから外に出します。署名は形式ではなく、後で「誰の判断か」を辿れるようにするための仕組みです。

運用の約束は3つ決めます。1つ、AIには根拠を書かせます。どの資料の何ページか、または社内文書の番号までです。根拠の欄が空の行は、そのまま消します。2つ、人が確認する範囲を、商談の前に決めておきます。後から決めると全部が確認の対象になり、結果として誰も読みません。3つ、AIの下書きをそのまま客先に出しません。3つ目を破ると、根拠のない数字が先方の社内資料に入り込みます。入り込んだ数字は、こちらからは回収できません。

AIの下書きを客先に出す前に通す関門

関門は3つで足ります。1つ目は数字の出どころで、社内文書の番号か測定の記録の番号が付いているかを見ます。2つ目は条件の有無で、値に測定条件が付いているかを見ます。3つ目は断定の言葉が残っていないかです。3つ目は文字列で探せます。目で通すのは1つ目と2つ目に絞れば、1本の文書で数分で終わります。

探す言葉を先に決めておくと速く済みます。対応可能、可能です、適合しています、問題ありません、実績があります、他社より。この6つを探して、残っていたら条件つきの形に書き換えます。書き換えの文面は、範囲を決めたときに作った型を使います。毎回その場で考えると、担当ごとに表現が揺れます。揺れた表現は、後で「どちらが会社の答えなのか」という問いを生みます。

機械の失敗の型も知っておきます。過去の商談記録から想定される質問を作らせると、出てくる並びは頻度の順になります。ところが備えが要るのは、頻度が低くて外すと痛い質問、つまり適合性と秘密保持と、カスタム対応の可否です。痛い質問は、頻度で並べると下に沈みます。だから並べ替えは人がやります。指示の側に「外したときの影響の大きさで並べる」と書いても、影響の大きさは自社の事情なので、機械の側には材料がありません。

約束したことの記録は、後の紛争と引き継ぎのために残す

記録の目的は2つあり、先に分けておくと様式が決まります。1つは、後で争いになったときの説明の材料です。いつ、誰が、何を、どの条件で言ったかが要ります。もう1つは、担当が変わったときの引き継ぎです。こちらは、なぜその答えにしたかが要ります。2つ目を書いていない記録は、担当が変わると読めなくなります。「持ち帰り」とだけ書かれた行は、半年後には誰も理由を思い出せません。

  • 日付・場所・出席者(先方と自社の全員。所属と役職まで)
  • 場で答えた内容と、そのときに付けた条件(温度・数量・測定の方法など)
  • 場で答えなかったことと、その理由(測っていない・型式が違う・法務の確認が要る)
  • 持ち帰り事項(何を・誰が・いつまでに・どの形で)
  • 先方が示した使用条件と、その出どころ(先方の口頭か、先方の資料か)
  • 訂正した内容と、訂正を伝えた日と相手

この一覧のうち、抜けやすいのは3行目と5行目です。答えなかったことを書く習慣がないと、後から「あのとき何も言われなかった」という主張に反論する材料がありません。先方が示した使用条件の出どころも同じで、口頭で聞いた条件を自社の記録に書き写すと、後から見たときにどちらが言った条件か分からなくなります。民法第566条の1年は、買主が不適合を知った時から数えます。引渡しの前のやり取りが残っていれば、何を契約の内容としたかを説明できます。

保存の実務は、商談ごとに1件、同じ様式でそろえるだけです。様式がそろっていないと、機械に抜き出させたときに漏れが出ます。抜き出させたい項目を先に決めて、その項目が必ず埋まる様式にします。約束したこと、付けた条件、持ち帰り、期限の4つが埋まれば、後から機械に読ませて一覧にできます。自由に書く欄だけを大きく取った様式は、書く側は楽ですが、後から使えません。

技術者を商談に出す設計。誰を出し、誰を出さないか

出す人を選ぶ基準は、詳しさではありません。答えないと言える立場かどうかです。設計の若手を1人で出すと、場の空気で埋めます。埋めるなという指導では直りません。断る権限を渡してから、場に出します。権限とは、「その判断は自分の担当ではないので持ち帰ります」と言っても評価が下がらない、という社内の合意のことです。この合意がないまま送り出すのが、いちばん危ない形です。

出る回数も設計します。商談の全部に出すと、設計の工数がそこで消えます。出るのは3つの回に絞ります。先方の技術者が同席する回、仕様が確定する回、試験の条件を決める回。それ以外は、質問を持ち帰って文書で返します。文書で返すほうが、条件を落とさずに済みます。口頭は条件が落ち、文書は条件が残ります。

出したあとの振り返りは、数を数えるだけにします。その商談で、条件を付けずに断定した回数と、条件つきで答えた回数を数えます。評価はしません。数えるだけです。数えると、次から断定が減ります。ただし断定だけを減らそうとすると、場が進まなくなって「何も答えない会社」になります。だから条件つきの回数も一緒に数えて、断定が減り、条件つきが増えているかを見ます。この2つの数だけで、範囲の決め方が現場で使えているかが分かります。

よくある質問

技術者に答えられませんと言わせると、頼りない印象になりませんか

答えられませんと言わせる設計ではありません。条件つきで答える段を真ん中に置くのが要点です。「常温、定格の負荷ではこの値です。ご検討の条件を伺って、3営業日で数字を返します」。これは答えている形であり、断定ではありません。頼りなく見えるのは、答えの範囲が示されないときです。何を誰がいつ返すかまで言えていれば、印象はむしろ上がります。

範囲の一覧を作っても、その場では守られません

守られない原因は、たいてい2つです。1つは一覧が長いこと。型が7つを超えると、場で思い出せません。もう1つは、条件つきの文面が書かれていないことです。「持ち帰る」とだけ書いてあると、場で言葉を探すことになり、探しているうちに空気で埋まります。型ごとに2文の文面を書き、商談の直前に読み合わせる。この読み合わせを5分だけ入れると、守られる率が変わります。

カタログに書いてある値なら、そのまま答えてよいのでは

値をそのまま読むこと自体は問題になりません。外れるのは、測定条件を添えずに読んだ場合です。カタログの値は決まった試験条件で測った値なので、使用条件が違えば結果は変わります。民法第562条は、引き渡された目的物が品質に関して契約の内容に適合しないときの買主の権利を定めています。条件を添えずに読んだ値が契約の内容の側に置かれると、適合していないという主張の材料になりえます。読むときは、条件を先に、値を後にします。

競合の製品名を出さずに比較する方法はありますか

比べる対象を製品ではなく型にすると、名前を出さずに済みます。「この方式は起動が速く、あの方式は連続の運転に強い」という形です。そのうえで、自社の測定値と測定条件だけを示します。相手の値に触れるときは、公表されている資料に書かれている値をそのまま読み、自社では測っていないと言い添えます。不正競争防止法第2条第1項第21号は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、または流布する行為を挙げています。根拠のない断定は、この規定の側に寄ります。

商談の記録をAIに書かせると、誰が責任を持つのですか

下書きを機械が作り、内容の責任は出席した人が持つ、という形にします。機械が作った下書きに、出席した人が2か所だけ手を入れます。1か所は、場で答えた値に付けた条件が正しく書かれているか。もう1か所は、答えなかったことがその理由とともに書かれているか。この2か所は機械には埋められません。条件は場の口頭にしかなく、答えなかった理由は本人の頭の中にしかないからです。手を入れた人の名前を記録の先頭に置けば、責任の所在は残ります。

設計の担当が商談に出る余力がありません

出る回数を3つに絞ったうえで、それでも足りないなら、出る代わりに文書で返す道を先に整えます。技術の質問を営業が持ち帰り、決めた宛先に回し、決めた期限で文書が戻る。この道が動いていれば、場に出なくても商談は進みます。動いていないから同席が求められる、という順番になっていることが多いです。同席の依頼が増えているときは、まず持ち帰りの道が詰まっていないかを見てください。

まとめ

技術者が商談で答えを外すのは、知識が足りないからではありません。性能値は測定条件つき、適合性は型式または品目つき、納期は数量と検査の枠つき、価格は前提条件つきの値であって、単独の数字としては存在しないからです。そして民法第522条第2項のとおり、契約の成立に書面は要りません。場で言ったことは、契約の内容を書く側に材料を渡します。だから決めるのは説明の仕方ではなく、答えてよい範囲と、その言い方の文面です。範囲は7つの型に分けて、場で答える・条件つき・持ち帰るの3段で割り当てる。持ち帰りは、誰が・いつまでに・何を・どの形でを場で言う。準備の側は、質問の洗い出しと職種別の言い換え、記録からの約束の抜き出しまで機械に回す。断定と可否だけを人の署名で出す。この形にしておくと、次の商談で技術者が空気を読んで埋める場面が減ります。減ったかどうかは、断定の回数と条件つきの回数を数えれば分かります。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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