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「この支出はどの科目か」の問い合わせに、科目表と過去の仕訳を根拠に答える

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

「この支出はどの勘定科目か」という現場からの問い合わせに、自社の科目表と過去の仕訳を根拠にして候補を返します。経理担当者の作業は、1件ずつ調べて答えることから、判断が割れる件だけを見ることに変わります。

サマリー
利用ツール
ChatGPT/Claude/Gemini/Google Apps Script/Microsoft Copilot/Power Automate/Python
対象業界
IT・SaaS/その他/広告/建設/教育
対象部門
経理
対象業務
問い合わせ対応/情報検索
主な課題
判断に時間がかかる/問い合わせが多い/属人化している
AIで行う処理
検索(RAG)
主な効果
工数削減/教育コスト削減/検索時間短縮
導入難易度
★★☆☆☆
実装レベル
半自動化
費用感
既存ツールのみ(小)
人間の確認
条件付き
現在工数
54h/月
AI導入後
18h/月
想定削減
67%
年間削減
432h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 現場の社員が経費を申請しようとして、科目が分からず経理へ聞く
  2. 経理担当者が、何を買ったのか・何のために使ったのかを確かめる
  3. 科目表を開き、該当しそうな科目の定義を読む
  4. 会計システムで、似た摘要の過去の仕訳を検索する
  5. 金額の基準(少額資産の扱いなど)を確かめる
  6. 迷う場合は、上位の担当者に相談する
  7. 回答を返す
  8. 申請が上がってきたら、その科目で起票されているかを確認する
  9. 違っていれば差し戻して説明する
導入後(After)
  1. 現場の社員が、Teams のエージェントに「この支出はどの科目か」と聞く
  2. 自動何を買ったのか・何のためかを、足りなければ聞き返す
  3. 自動科目表と、過去の仕訳の索引を検索する
  4. 自動該当しそうな科目の候補を、根拠となる記述とともに返す
  5. 自動金額の基準に触れる場合は、その条件も示す
  6. 自動判断が割れる可能性がある場合は、経理へ回すよう案内する
  7. 人経理担当者が、回された件だけを見て答える
  8. 自動質問と回答を記録に残す
  9. 人経理が記録を月次で見て、科目表に足すべき項目を決める
各工程の詳しい説明を読む
  1. 現場の社員が経費を申請しようとして、科目が分からず経理へ聞く
  2. 経理担当者が、何を買ったのか・何のために使ったのかを確かめる
  3. 科目表を開き、該当しそうな科目の定義を読む
  4. 会計システムで、似た摘要の過去の仕訳を検索する
  5. 金額の基準(少額資産の扱いなど)を確かめる
  6. 迷う場合は、上位の担当者に相談する
  7. 回答を返す
  8. 申請が上がってきたら、その科目で起票されているかを確認する
  9. 違っていれば差し戻して説明する

問題は7つあります。

(a)同じ問い合わせが繰り返される。 「懇親会の費用は交際費か福利厚生費か」という質問が、月に何度も来ます。過去の回答が記録されていないため、毎回ゼロから調べています。

(b)過去の仕訳を探すのに時間がかかる。 摘要欄の書き方が人によって違うため、キーワードで引いても出てきません。「セミナー」「研修」「講習」のどれで書かれているか分からないからです。

(c)判断がベテラン1〜2名に集中する。 3名で対応していることになっていますが、迷う件は結局同じ人に回ります。その人が休むと、回答が止まります。

(d)答えが人によって違う。 同じ支出でも、聞いた相手によって科目が変わります。部署ごとに科目の使い方がばらつく原因がここにあります。

(e)聞かずに申請する人がいる。 「聞くと時間がかかる」と思われると、自己判断で申請されます。差し戻しが増え、結果として経理の作業が増えます。

(f)回答の根拠が残らない。 口頭やチャットで答えるため、なぜその科目にしたのかが残りません。監査で聞かれたときに説明できません。

(g)科目表が更新されない。 判断に困る支出が増えても、科目表の定義は古いままです。現場の実態と表がずれていきます。

この業務が重くなる構造を、もう一度整理しておきます。 科目表は「定義」を書いた文書です。一方、現場が知りたいのは「この支出はどれに当たるか」という当てはめです。定義から当てはめを導く作業を、毎回経理が代行しています。

当てはめの知識は、経理の担当者の頭の中に蓄積されています。「この種の支出はこう処理する」という判断が、数百件たまっています。 それが文書になっていないため、聞かれるたびに取り出しています。

この構成がやろうとしているのは、その取り出しの自動化ではありません。 蓄積されている当てはめの知識を、科目表の「含まないもの」「判断の分かれ目」として文書へ移すことが本体です。移してしまえば、答えるのは誰でも——そして機械でも——できるようになります。

  1. 現場の社員が、Teams のエージェントに「この支出はどの科目か」と聞く
  2. 【自動】 何を買ったのか・何のためかを、足りなければ聞き返す
  3. 【自動】 科目表と、過去の仕訳の索引を検索する
  4. 【自動】 該当しそうな科目の候補を、根拠となる記述とともに返す
  5. 【自動】 金額の基準に触れる場合は、その条件も示す
  6. 【自動】 判断が割れる可能性がある場合は、経理へ回すよう案内する
  7. 【人】 経理担当者が、回された件だけを見て答える
  8. 【自動】 質問と回答を記録に残す
  9. 【人】 経理が記録を月次で見て、科目表に足すべき項目を決める

自動化されるのは「聞き返す」「探す」「候補を示す」「根拠を添える」の4つです。残るのは、判断が割れる件の決定と、科目表そのものの改善です。

科目を確定させません。 エージェントが返すのは候補と根拠です。「この科目で計上してよい」という承認ではありません。 申請された内容の確認は、これまでどおり経理が行います。

税務上の判断もさせません。 交際費の損金算入、少額資産の即時償却といった判断は、税法と自社の方針で決まります。「この支出は損金になります」といった記述を出させないでください。

過去の仕訳が正しいとは限らないことにも注意してください。 過去に誤った科目で処理されていれば、それを根拠に同じ誤りが繰り返されます。記録を見直す仕組みを、あとで述べます。

02今回想定するシステム構成

構成図
科目表(Excel / SharePoint)
過去の仕訳の索引(会計システムから月次で書き出し)
経理の回答集(過去の照会と回答)
社内の経費規程
   │
   ▼ SharePoint に置く(知識ソース)
   │
Microsoft Copilot Studio のエージェント
   │
   ├──▶【トリガー】社員が Teams で質問する
   │
   ├──▶ 足りない情報を聞き返す
   │      ・何を買ったか
   │      ・何のために使ったか
   │      ・案件に紐づくか、社内利用か
   │      ・金額
   │
   ├──▶ 生成回答ノードで知識ソースを検索
   │      ・検索するソースを限定する
   │      ・引用(出典の文書とページ)を必ず付ける
   │
   ▼
回答(科目の候補 / 根拠の記述 / 迷う場合の案内)
   │
   ▼
社員が経費精算システムで申請 ──【人】
   │
   ▼
判断が割れる件 ──▶ 経理担当者が回答 ──【人】
   │
   ▼
質問と回答を記録(SharePoint リスト)
   │
   ▼
経理が月次で見直し ──【人】科目表に足す項目を決める
役割想定する製品代替候補
生成AIMicrosoft Copilot StudioClaude(プロジェクト)、ChatGPT(プロジェクト)、Gemini(Gem)
連携Power AutomateGoogle Apps Script、Python
保管SharePointBox、Google ドライブ
記録SharePoint リストGoogle スプレッドシート
会計システム既存の会計システム各社の製品

経費精算システムに科目の推奨機能があるなら、まずそちらを確認してください。 申請の入力画面で科目が絞られるなら、照会そのものが起きません。自前で組む価値があるのは、その機能がないか、自社の判断基準を反映できない場合です。

Copilot Studio を選ぶ理由は、SharePoint をそのまま知識ソースにできることです。 科目表も回答集も、すでに SharePoint にあります。別の場所へ移し替える作業が要りません。

知識ソースとして使えるのは、公開Webサイト、Dataverse にアップロードした文書、SharePoint、Dataverse、コネクタ経由の社内データです。SharePoint は GraphSearch で検索され、利用者本人の Microsoft Entra ID で認証されるため、その人が見られる文書だけが回答に出ます。

生成回答ノードで扱える形式は、SharePoint のモダンページ、Word(docx)、PowerPoint(pptx)、PDF です。 科目表が Excel のままだと対象外になるため、PDF か Word に直すか、SharePoint リストへ移す必要があります。

引用が付くかどうかが、この構成の要です。 Copilot Studio には「根拠のない回答を許可する」設定があり、これをオフにすると、知識ソースへの本文中の引用を含む回答だけを返します。 引用が付かないときは回答を差し控えます。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

社員が Teams でエージェントに質問したときを起点にします。

窓口を Teams に置くことが重要です。 経理への問い合わせは、いまも Teams とメールと口頭に分かれています。エージェントを別のアプリに置くと、そこへ行く手間が増えて使われません。

メールと口頭は残してください。 「エージェントに聞け」と強制すると、使いにくいと感じた人が聞かずに申請します。聞かずに申請されるほうが、経理の手戻りは大きくなります。

もう1つの起点として、経費精算システムで申請が差し戻されたときがあります。差し戻しの理由が科目の誤りなら、その時点で正しい科目と根拠を示せると、同じ誤りが減ります。

月次の見直しのトリガーも置いてください。 月初に、前月の質問と回答を集計して経理へ渡します。この見直しがないと、科目表は古いままになります。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
科目表科目コード、名称、定義、含むもの、含まないもの、判断の分かれ目経理部の文書
過去の仕訳の索引摘要、金額、科目、部署、取引先、計上日会計システム(月次で書き出し)
経理の回答集過去の照会と、そのときの回答・理由記録
経費規程精算の対象、上限、必要な証憑社内規程
金額の基準少額資産の基準、按分の考え方経理部の文書
部署と案件の一覧質問者の所属、進行中の案件人事・プロジェクト管理
過去の誤りの事例科目を誤って計上し、振り替えた事例経理部の記録
Step3

データの取得方法を決める

科目表がこの構成の質を決めます。 現状の科目表は「科目コード・名称・定義」の3列だけのはずです。これを次の形に作り直してください。

列例
科目コード5230
科目名研修費
定義従業員の業務に必要な知識・技能の習得に要する費用
含むもの外部セミナーの参加費、通信教育の受講料、社内研修の講師謝礼、研修用の教材費
含まないもの資格の受験料(→ 福利厚生費)、案件のための技術調査(→ 外注費または仕掛品)
判断の分かれ目案件に紐づくかどうか。 特定の案件のための技術習得は、案件原価に入れる
よくある誤り書籍代を一律で研修費にしている。案件用の資料は別
金額の基準なし

「含まないもの」の列が、この構成でいちばん効きます。 定義文だけでは「これは当たるのか」が判断できません。「これは含まない、代わりにこの科目」と書かれていれば、その場で分かります。

「判断の分かれ目」の列も必須です。 現場の質問の大半は、2つの科目のどちらかで迷っているものです。「何を見れば決まるのか」を1文で書いてください。

「よくある誤り」は、過去の振替の記録から拾えます。 期末に科目間の振替をした事例を10件ほど見れば、繰り返し起きている誤りが分かります。

過去の仕訳の索引: 会計システムから月次で書き出します。全件は要りません。直近24か月、費用科目のみで十分です。

摘要の書き方がばらつく問題への対処が要ります。書き出すときに、次の列を足してください。

足す列中身
正規化した摘要「セミナー」「研修」「講習」を1つの語に寄せる
支出の種類物品/役務/会費/旅費 などの大分類
案件の有無案件コードが入っているかどうか

この正規化は、決まった置き換えの表で行ってください。 生成AIに毎回寄せさせると、寄せ方が安定しません。同義語の表を作り、機械的に置き換えるほうが確実です。

回答集: 運用を始めてからたまります。最初は空で構いません。 ただし、過去に経理がメールで答えた内容が残っているなら、そこから30件ほど拾って初期データにしてください。 これがあるだけで、最初の1か月の当たり方が変わります。

経費規程と科目表を、同じ知識ソースに混ぜないでください。 経費規程は「精算してよいか」を定めた文書、科目表は「どの科目か」を定めた文書です。質問の性質が違います。

質問見る文書
この支出は精算できるか経費規程
この支出はどの科目か科目表
いくらまで出るか経費規程
領収書は要るか経費規程

混ぜると、科目の質問に規程の記述が引かれてきます。 生成回答ノードの「選択したソースのみ検索する」で、科目の照会には科目表と回答集だけを見せる形にしてください。

金額の基準は、科目表の側に書いてください。 「10万円未満は消耗品費、10万円以上は工具器具備品」という基準は、科目の判断に直結します。経費規程を見に行かないと分からない状態にしないでください。

部署と人数の情報は、この構成では必須ではありません。 ただし、「案件に紐づくかどうか」が判断の分かれ目になる会社では、質問者の所属と進行中の案件が分かると、聞き返しが1往復減ります。 個人を特定する情報を渡すことになるため、必要性を検討してから決めてください。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 科目表の形式の変換 … Excel のままでは生成回答ノードの対象外です。PDF か Word に書き出すか、SharePoint リストへ移します
  2. 文書の粒度をそろえる … 科目1つにつき1ページ、または1項目にします。120科目を1つのファイルに詰め込むと、引用の粒度が粗くなります
  3. 摘要の正規化 … 同義語の表で機械的に置き換えます
  4. 個人名・取引先名の扱い … 過去の仕訳には取引先名が入ります。索引に残すかを経理部で決めてください
  5. 古い仕訳の除外 … 科目体系を変更した時期より前の仕訳は、索引から外します。古い体系の仕訳を根拠にすると誤った回答になります
  6. 知識ソースの限定 … 生成回答ノードの「選択したソースのみ検索する」を使い、科目の照会に使うソースだけに絞ります

6の設定について補足します。 この設定をオンにすると、そのノードは選んだソースだけを検索し、エージェント全体に登録した知識ソースは検索しません。 選んだソースで答えが出なくても、全体のソースへ自動でフォールバックすることはありません。科目の照会に、就業規則や営業資料が混ざるのを防げます。

Step5

AIに処理させる

処理内容
情報の聞き返し何を買ったか、何のためか、案件に紐づくか、金額
科目表の検索定義・含むもの・含まないものに照らす
過去仕訳の検索似た支出が過去にどの科目で処理されたか
候補の提示該当しそうな科目を1〜3つ、根拠とともに
判断の分かれ目の提示何で決まるのかを示す
経理への振り分け候補が絞れない場合、経理へ回すよう案内する

科目を確定させません。 「この科目で計上してください」ではなく、「科目表ではこう書かれています」「過去はこう処理されています」と示すにとどめます。

税務上の判断もさせません。 損金算入の可否、消費税の区分、償却の方法は、この構成の範囲外です。「交際費は年間800万円まで損金になります」といった記述を出させないでください。

金額の按分もさせません。 「この費用は3つの案件に按分してください」という判断は、実態を知る人が行います。

Step6

指示内容を固定する

エージェントの指示には、次の内容を書きます。

あなたは経理部で勘定科目の照会に答える担当者です。
社員からの「この支出はどの科目か」という質問に、
自社の科目表と過去の仕訳を根拠にして候補を返すことが役割です。

【厳守事項】
- 科目を確定させないでください。
  「この科目で計上してください」と書かないでください。
  「科目表ではこう書かれています」「過去はこう処理されています」
  という事実の提示にとどめてください。
- 税務上の判断をしないでください。
  損金算入の可否、消費税の区分、償却の方法について書かないでください。
  聞かれた場合は「経理部へご確認ください」と返してください。
- 金額の按分を指示しないでください。
- 科目表と過去の仕訳に書かれていないことを、一般的な会計の知識で補わないでください。
  該当が見つからない場合は「該当が見つかりません。経理部へお回しします」と返してください。
- すべての回答に、根拠となる文書と該当箇所を必ず引用してください。
  引用を示せない回答は返さないでください。
- 判断に必要な情報が足りない場合は、1つずつ聞き返してください。
  一度に4つ質問しないでください。
  聞くのは「何を買ったか」「何のためか」「案件に紐づくか」「金額」の4点です。
- 候補が2つ以上に絞れない場合、無理に1つへ絞らないでください。
  候補を並べ、何で決まるのかを示したうえで、経理部へお回しします。
- 過去の仕訳を示すときは、それが必ずしも正しい処理とは限らないことを添えてください。
- 回答の最後に「最終的な科目は経理部が確認します」と必ず書いてください。

「引用を示せない回答は返さない」の指示が、この構成の安全装置です。 Copilot Studio 側の設定でも、「根拠のない回答を許可する」をオフにしておくと、知識ソースへの本文中の引用を含む回答だけが返ります。 引用が付かない場合、回答は差し控えられます。

ただし、モデルが正しい回答を作りながら引用を付け忘れることがあり、そのときは回答が保留されます。 公式の案内では、指示の中で「すべての記述に出典の引用を付ける」と明示すること、出力形式を厳しく固定する指示(「JSONのみで返す」など)を避けることが対策として挙げられています。

「一度に4つ質問しない」の指示も実務では効きます。 「何を買いましたか、何のためですか、案件はありますか、金額は」と一度に聞かれると、社員は答えるのが面倒になります。1つずつ聞くほうが、結果として早く終わります。

「過去の仕訳が正しいとは限らない」の一文は、必ず入れてください。 過去に誤った科目で処理されていた場合、それを根拠に同じ誤りが繰り返されます。

「候補が2つ以上に絞れない場合、無理に1つへ絞らない」の指示にも理由があります。 現場の質問の多くは、2つの科目のどちらかで迷っているものです。そこで機械的に1つを選ばせると、判断の分かれ目を示す機会が失われます。

「交際費と会議費のどちらか」という質問に対して、「参加者に社外の人が含まれるかで分かれます」と示せれば、現場は自分で判断できます。 次回から聞かずに済むようになります。この構成の目的は、照会に答えることではなく、照会が減ることです。

指示のテストでは、次の4つを意図的に試してください。

試す質問期待する挙動
「懇親会の費用は損金になりますか」税務の質問として経理部へ回す
「これは経費で落ちますか」精算の可否は経費規程の範囲。科目の照会ではないと返す
科目表にない支出の質問「該当が見つかりません」と返す
情報が足りない質問1つずつ聞き返す(4つ一度に聞かない)

2つ目が実務ではよく起きます。 現場は「経費で落ちるか」と「どの科目か」を区別していません。質問の意図を確かめる工程が、対話の最初に要ります。

Step7

出力形式を固定する

回答は文章で返しますが、次の要素を必ず含めます。

要素内容
科目の候補1〜3つ。科目コードと名称
根拠科目表の該当箇所の引用(文書名とページ)
過去の処理似た支出の過去の仕訳(摘要・科目・件数)
判断の分かれ目候補が複数ある場合、何で決まるか
次の行動そのまま申請してよいか、経理へ回すか
注意書き最終的な科目は経理部が確認する旨

記録には、次の形で残します。

{
  "asked_at": "",
  "asker_department": "",
  "question": "",
  "clarifications": [],
  "candidates": [
    { "account_code": "", "account_name": "", "evidence_doc": "", "evidence_text": "" }
  ],
  "past_entries_found": 0,
  "routed_to_accounting": false,
  "accounting_answer": "",
  "final_account_code": "",
  "answer_matched": null
}

answer_matched の列が、この構成を育てます。 エージェントの候補と、最終的に計上された科目が一致したかを記録します。一致率が測れると、どの科目で外しているかが分かります。

routed_to_accounting も必ず記録してください。 経理へ回った件が減っているかが、削減の実感につながります。

past_entries_found が0の質問は、新しい種類の支出です。 科目表に項目を足す候補になります。

Step8

システムへ連携する

回答を返すだけで、会計システムや経費精算システムへの書き込みは行いません。

出力先内容
Teams質問への回答
SharePoint リスト質問と回答の記録
Teams(経理のチャネル)経理へ回った件の通知

経費精算システムへ科目を自動で入れないでください。 申請の内容は申請者が決めます。自動で入ると、申請者が内容を確認しないまま出すようになります。

会計システムへの書き戻しも行いません。 仕訳の起票は経理の作業です。

過去の仕訳の索引は、月次で作り直してください。 リアルタイム連携は要りません。月に1回、前月分を足すだけで十分です。 ただし、索引の最終更新日を回答に添えるようにしてください。古い索引で答えていることが分かります。

Step9

人が確認する

経理担当者の確認は、2つの場面で残します。

(1)経理へ回された件

候補が絞れなかった件、科目表に該当がない件です。ここは従来どおり経理が調べて答えます。 月180件のうち、40件程度がここに残る想定です。

(2)申請された内容の確認

エージェントの回答を見て申請された経費も、これまでどおり経理が確認します。エージェントを通ったことは、科目が正しいことを意味しません。

確認を速くするための設計が効きます。

  • 経理へ回った件に、エージェントが提示した候補と根拠を添える
  • 同じ質問が過去にあった場合、そのときの回答を併記する
  • 質問者の部署と案件を併記する(判断の分かれ目が案件の有無であることが多い)
  • past_entries_found が0の件に印を付ける(新しい種類の支出)

2つ目が効きます。 「この質問は3か月前にも出ていて、そのときは研修費と答えている」と分かれば、経理は即答できます。回答のぶれも減ります。

月次の見直しも、人が行う作業として組み込んでください。 前月の記録を見て、次を判断します。

見るもの判断
経理へ回った件の内訳同じ種類が繰り返されるなら、科目表に項目を足す
answer_matched が false の件科目表の記述が実態と合っていない
past_entries_found が0の件新しい種類の支出。科目表への追加を検討
質問の多い科目定義が分かりにくい。「含まないもの」を厚くする
Step10

例外に対処する

起きること対応
科目表に該当がない「該当が見つかりません」と返して経理へ回す。推測で答えない
引用が付かず回答が保留された指示に引用の徹底を書く。出力形式を固定する指示を避ける
過去の仕訳が誤っていた索引から除外する。誤った処理を根拠にしない
科目体系を変更した変更前の仕訳を索引から外す。科目表も差し替える
税務の質問が来た経理部へ回す。この構成は税務を扱わない
質問が曖昧で聞き返しが続く3回聞いても絞れなければ経理へ回す。しつこく聞かない
社員が根拠を読まずに使う回答の冒頭に候補、次に根拠を置く。根拠を先に置くと読まれない
部署によって回答が違うと言われる案件の有無で分かれることを説明する。科目表の「判断の分かれ目」を厚くする
索引が古いまま使われる回答に索引の最終更新日を添える
取引先名が回答に出る索引に残すかを経理部で決める
自分の見られない文書が根拠になるEntra ID 認証により、本人が見られる文書だけが対象になる
Excel の科目表が検索されない対象の形式はモダンページ・docx・pptx・pdf。形式を変換する
質問が経理以外の相談に及ぶ対象外として返す。エージェントの役割を指示に明記する

「Excel の科目表が検索されない」は、導入初期に必ず起きます。 経理の文書はほとんどが Excel です。生成回答が扱えるのは SharePoint のモダンページ、docx、pptx、pdf なので、そのままでは読まれません。 科目表を SharePoint リストにするか、PDF に書き出す作業が先に要ります。

Step11

記録を残す

この記録は、科目表を育てる材料になります。

  • 質問の全文と、聞き返しのやり取り
  • 提示した候補と、根拠にした文書
  • 経理へ回したかどうか
  • 経理の回答(回った場合)
  • 最終的に計上された科目
  • 候補と最終の科目が一致したか
  • 質問者の部署(個人は記録しない)

質問者を個人単位で記録しないでください。 「誰が何回聞いたか」という記録は、聞きにくさを生みます。部署単位で十分です。

「最終的に計上された科目」は、月次で会計システムから突き合わせてください。 申請番号と仕訳を紐づければ機械的に取れます。これがないと、当たっているかどうかが永久に分かりません。

保存期間は、会計帳簿の保存期間に合わせるのが安全です。 科目の判断の経緯は、監査で問われることがあります。

科目表と過去の仕訳には、取引先名と金額が含まれます。 SharePoint の閲覧権限を、この用途に必要な範囲へ限定してください。ただし、Entra ID 認証を使う構成では、利用者本人が見られない文書は回答に出ません。 この点は設計上の利点です。

04実装レベルの3段階

最小構成:科目表の抜粋をチャット画面に貼り、候補を出させる / 検索と候補の提示
半自動化:Teams のエージェントで、聞き返し・検索・候補の提示・記録まで / 照会対応のすべて
本格構成:上記+過去仕訳の索引+回答と実際の計上科目の突合+科目表の改善 / 精度の測定と改善まで

半自動化の時点で、18分が9分程度になります。 経理が対応する件数が減るためです。本格構成では6分になりますが、減るのは過去の仕訳を探す時間です。 本格構成の「回答と実際の計上科目の突合」が、この構成の分かれ目です。 これがないと、当たっているかどうかが分かりません。当たっていない状態に気づかないまま運用が続くほうが、何もしないより危険です。 「科目表の改善」は、3か月目から効きます。 質問の傾向が見えると、どの科目の定義が分かりにくいかが分かります。そこを書き直すと、質問そのものが減ります。 照会が減ることが最終的な目標です。 この構成は、照会に答える速度を上げるものではありません。科目表を現場が読める状態にして、聞かなくても分かるようにするための材料を集める仕組みです。 半自動化で止めるという判断も十分にあります。 月の照会が50件程度なら、過去の仕訳の索引を作る手間に見合いません。科目表を厚くして、Teams で引ける状態にするだけで、相当の効果が出ます。 索引を足す判断は、「過去はどう処理したか」という質問の割合で決めてください。 照会の3割以上がこの形なら、索引を作る価値があります。「科目表にはどう書いてあるか」で答えられる質問が大半なら、索引は不要です。 もう1つの発展の方向は、経費精算システムの入力画面への組み込みです。 申請の画面から照会できれば、別のアプリを開く手間が消えます。ただし、多くの経費精算システムは画面の拡張ができません。 できるかどうかを先に確かめてから検討してください。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
3 名
月間件数
180 件
1件あたり現在時間
18 分
1件あたり導入後時間
6 分
現在  180件 × 18分 ÷ 60 = 54 時間/月
導入後 180件 × 6分 ÷ 60 = 18 時間/月
月間削減時間
36h
削減率
67%
年間削減時間
432h
年間金額換算(時間単価3,500円)
151万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 月に100件以上、現場から勘定科目の問い合わせが来ている企業。科目表はあるが、どの科目に入れるかの判断がベテラン1〜2名に集中している場合。同じ支出でも部署や担当者によって違う科目に入っている場合。経費精算の差し戻しが多く、そのやり取りに時間を取られている場合。
向いていない
  1. 経費精算システムに科目の自動判定が組み込まれており、現場が科目を選ぶ場面がない場合。支出の種類が10種類程度で、科目の対応が固定されている場合。全社の仕訳を経理が一括で起票しており、現場が科目を意識しない運用の場合。問い合わせが月に数件しかない場合。

07最小構成で試す方法

  1. 質問の多い科目を10個選ぶ(経理担当者に聞けばすぐ挙がります)
  2. その10科目について、「含むもの」「含まないもの」「判断の分かれ目」を書く
  3. 過去の照会を30件集める(メールの履歴から拾う)
  4. 生成AIのチャット画面に、科目表の抜粋と質問を貼り付ける
  5. 実際に経理が返した回答と突き合わせる

見るのは次の4点です。

見る点判断
経理の回答と一致した件数30件中24件(8割)以上なら使える
外した件に共通する特徴案件の有無/金額の基準/新しい種類 のどれか
根拠が具体的に示されているか「科目表による」ではなく、該当の記述が引かれているか
税務の判断や推測が混ざっていないか1件でも混ざったら指示を直す

2つ目を必ず分析してください。 外した件がすべて「案件の有無で分かれるもの」なら、聞き返しの質問に案件の有無を必ず含めるだけで精度が上がります。

次に、「含まないもの」の効果を測ってください。 「含まないもの」の列を空にした版と、埋めた版で同じ30件を試します。差が大きければ、残り110科目についても書く価値があります。

科目表の書き直しは、10科目だけで止めて構いません。 質問の8割は、上位10〜15科目に集中しているはずです。全120科目を書き直そうとすると、そこで止まります。

測るときの注意が1つあります。 過去の照会30件は、経理が「答えた」記録です。答えられなかった質問、聞かれずに自己判断で処理された質問は、この30件には入っていません。 つまり、この測定で分かるのは「経理が答えたことを再現できるか」までです。

聞かれずに処理されている分を見るには、別の方法が要ります。 過去の仕訳から、同じような支出が違う科目で処理されている組み合わせを探してください。 「セミナー参加費」が研修費と福利厚生費と会議費に分かれているなら、そこが判断のばらついている領域です。そこを科目表で書き分けると、聞かれずに誤っていた分が減ります。

過去の仕訳の索引は、最小構成では要りません。 科目表だけで8割当たるなら、索引は後から足せばよい機能です。まず科目表の記述を厚くすることに時間を使ってください。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
Excel の科目表が検索されないPDF・Word・SharePoint リストへ変換する
科目表の定義文だけで運用する「含まないもの」「判断の分かれ目」を書く。ここが本体
引用が付かず回答が保留される指示に引用の徹底を書く。出力形式を固定する指示を避ける
全120科目を書き直そうとして止まる質問の多い10〜15科目から始める
AIが税務の判断を書く禁止する。テストで必ず確認する
AIが科目を確定させる禁止する。候補と根拠の提示にとどめる
一度に4つ聞き返して離脱される1つずつ聞かせる
古い仕訳を根拠に誤った回答をする科目体系の変更前を索引から外す
索引が古いまま使われる最終更新日を回答に添える
当たっているかを測っていない実際の計上科目と月次で突き合わせる
記録を個人単位で取る部署単位にする。聞きにくさを生まない
エージェントの回答で経理の確認を省く申請内容の確認は残す
経理以外の相談まで来る役割を指示に明記し、対象外は返す
全社へ一度に開放して件数が読めなくなる部署を限定して始める

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 科目表、過去の仕訳(摘要・金額・取引先・部署)、経費規程。自社の支出の内訳が読み取れる情報です。

  1. 社内のデータで完結する構成にする … 知識ソースは SharePoint 上の自社文書だけです。公開Webサイトを知識ソースに加えないでください。 一般的な会計の解説が混ざると、自社の判断基準と食い違います
  2. 利用者の権限に従う … SharePoint を知識ソースにすると、利用者本人の Microsoft Entra ID で認証され、その人が見られる文書だけが回答に出ます。 これは設計上の利点ですが、逆に言えば、権限設定が間違っていると見えてはいけない文書が回答に出ます。 導入前に権限を確認してください
  3. 必要な権限 … SharePoint を知識ソースにする場合、Microsoft Graph の委任された権限として Files.Read.All と Sites.Read.All が要ります。過剰な権限を与えないでください
  4. 取引先名の扱い … 過去の仕訳の索引には取引先名が入ります。科目の判断に取引先名が要るかを検討し、不要なら索引から外してください
  5. 税務判断との分離 … この構成は勘定科目の照会に答えるものです。損金算入、消費税の区分、償却の判断は含みません。 回答にその旨を明記してください
  6. 会計処理の責任 … エージェントの回答は、会計処理の正しさを保証しません。 最終的な科目は経理部が確認します。この点を回答の末尾に必ず書いてください
  7. 記録の扱い … 質問の記録は、科目表の改善のために使います。個人の評価に使わないでください。 「質問が多い人」という見方が生まれると、聞かずに申請するようになります
  8. 監査対応 … 科目の判断の根拠を記録に残すことは、監査上の利点になります。ただし「AIが判定した」ではなく「科目表のこの記述に照らした」という形で残してください
  9. 未公表の情報 … 上場企業では、進行中の投資や取引が仕訳から読み取れることがあります。索引の閲覧範囲を限定してください
  10. 自動実行してよい範囲 … 聞き返し、検索、候補の提示、記録までです。科目の確定、仕訳の起票、経費精算システムへの入力は人が行います

誤りが起きた場合のリスクは、誤った科目で計上され続けること、逆に回答を信用せず結局経理へ聞き直す状態になることです。前者への備えとして、実際の計上科目との突合を月次で行ってください。 後者への備えとして、根拠を具体的に示す設計を守ってください。

10まず何から始めるか

1週目:質問の多い科目を10個挙げる

経理担当者3名に「よく聞かれる科目はどれか」を聞きます。10分で挙がります。 多くの企業で、交際費と会議費、消耗品費と備品費、研修費と福利厚生費のあたりが挙がるはずです。

2週目:その10科目の「含まないもの」を書く

定義文ではなく、「これは含まない、代わりにこの科目」という形で書きます。 1科目あたり3〜5例。この作業がこの構成の本体です。 ここを飛ばすと、定義文を返すだけのエージェントになります。

3週目:過去の照会30件で当たり方を測る

メールの履歴から過去の照会を30件集め、経理が実際に返した回答と突き合わせます。8割当たれば先へ進めます。 外した件の共通点を必ず分析してください。

4週目:科目表の形式を変える

Excel の科目表を、SharePoint リストか PDF に変えます。科目1つにつき1項目の粒度にしてください。 全部を1ファイルに詰めると、引用の粒度が粗くなります。

2か月目: Teams のエージェントとして公開し、1部署で運用します。「根拠のない回答を許可する」をオフにしてください。 引用が付く回答だけが返る状態から始めます。

3か月目以降: 対象を全社へ広げ、過去の仕訳の索引を足します。同時に、実際の計上科目との突合を月次で始めてください。 これがないと精度が測れません。

半年後: 照会の件数そのものを見てください。減っていれば、科目表が読める状態になったということです。 同時に、期末の科目間の振替が減っているかを確かめてください。振替が減っていることが、この構成のいちばん確かな成果です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-09-25/最終更新:2026-09-25
確認した内容情報源確認日
Copilot Studio の知識ソースとして公開Webサイト・Dataverse の文書・SharePoint・Dataverse・コネクタ経由の社内データが使えること。SharePoint は GraphSearch で検索され、利用者本人の Microsoft Entra ID で認証されるため、その人がアクセスできる内容だけが回答に出ること。「根拠のない回答を許可する」をオフにすると、知識ソースへの本文中の引用を含む回答だけが返り、引用が付かない場合は回答が差し控えられること。対策として指示の中で出典の引用を求め、出力形式を固定する指示を避けることが挙げられていることMicrosoft Learn: Knowledge sources summary - Microsoft Copilot Studio2026-09-25
生成回答ノードの「選択したソースのみ検索する」設定をオンにすると、そのノードは選んだソースだけを検索し、エージェント全体の知識ソースは検索しないこと。選んだソースで答えが出なくても全体のソースへ自動でフォールバックしないこと。生成回答が扱える形式が SharePoint のモダンページ・Word(docx)・PowerPoint(pptx)・PDF であること。SharePoint を使う場合、Microsoft Graph の委任された権限として Files.Read.All と Sites.Read.All が必要なことMicrosoft Learn: Add a generative answers node - Microsoft Copilot Studio2026-09-25
Azure AI Document Intelligence のカスタム抽出モデルが、ラベル付けしたデータセットで学習でき、同じ様式の文書が5件あれば開始できること(証憑の読み取りを足す場合の代替構成として確認)Microsoft Learn: Custom document models - Document Intelligence2026-09-25

勘定科目の体系、科目の定義、判断の基準は企業ごとに異なります。この部分は自社の経理部門の定めに応じた個別対応が必要です。 税務上の取り扱い、損金算入の可否、消費税の区分については、自社の経理部門および税理士の判断に従ってください。この記事は税務上の判断を示すものではありません。仕訳データを外部のAIサービスへ渡してよいかは、自社の情報管理の責任者の判断が必要です。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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