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設備の点検・修理の記録を音声で入力して保全台帳に残す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

保全担当者が作業を終えた直後に、その場でスマートフォンへ30秒から1分ほど話します。「3号ラインの充填機、A系統のシールヒーター。温度が上がりきらない。ヒーター本体を交換。品番はH-2140、1個。作業40分。次回、隣のB系統も同じ症状が出ていないか見ておく」。これだけです。

サマリー
利用ツール
Azure AI/ChatGPT/Claude/Gemini/Make/n8n/Power Automate
対象業界
宿泊/建設/物流/製造
対象部門
品質管理/生産
対象業務
台帳・マスタ管理/記録・議事録作成
主な課題
入力作業が多い/属人化している/引き継ぎができていない
AIで行う処理
抽出
主な効果
入力漏れ削減/属人化解消/工数削減/検索時間短縮
導入難易度
★★☆☆☆
実装レベル
半自動化
費用感
API連携(中)
人間の確認
必須
現在工数
96h/月
AI導入後
32h/月
想定削減
67%
年間削減
768h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 点検表または修理依頼を持って現場へ行く
  2. 作業しながら、手元のメモ用紙か点検表の余白に症状と処置を書く
  3. 交換した部品の品番を、部品箱の表示や図面から書き写す
  4. 作業を終えて事務所へ戻る(拠点内の移動で5分から15分かかる)
  5. 保全台帳を開き、設備番号を検索して該当行を出す
  6. メモを見ながら、現象・原因・処置・部品・時間を入力する
  7. 部品を使った場合は、出庫の伝票を別に起こす
  8. メモ用紙は破棄するか、点検表と一緒に紙で綴じる
導入後(After)
  1. 作業を終えた現場で、スマートフォンのアプリを開き、設備番号を選んで録音ボタンを押す
  2. 30秒から1分、症状・原因・処置・使った部品・所要時間・次回対応を話す
  3. 自動音声がSharePointへ保存される
  4. 自動文字起こしを行う(設備名・部品品番をフレーズリストで補強する)
  5. 自動設備マスタ・部品マスタと照合し、設備番号と部品品番を特定する
  6. 自動台帳の項目に切り分け、話されていない項目を「未記載」として立てる
  7. 自動同じ設備の直近3件の履歴を添える
  8. 担当者が確認画面で内容を確かめ、必要なら直して承認する
  9. 自動承認された内容を保全台帳へ登録し、音声と文字起こしを保管する
各工程の詳しい説明を読む
  1. 点検表または修理依頼を持って現場へ行く
  2. 作業しながら、手元のメモ用紙か点検表の余白に症状と処置を書く
  3. 交換した部品の品番を、部品箱の表示や図面から書き写す
  4. 作業を終えて事務所へ戻る(拠点内の移動で5分から15分かかる)
  5. 保全台帳を開き、設備番号を検索して該当行を出す
  6. メモを見ながら、現象・原因・処置・部品・時間を入力する
  7. 部品を使った場合は、出庫の伝票を別に起こす
  8. メモ用紙は破棄するか、点検表と一緒に紙で綴じる

問題は4つあります。

(a)同じことを2回書いている。 現場で書いたメモを、事務所で台帳に打ち直しています。ここが1件6分です。

(b)事務所に戻るまでに内容が痩せる。 現場では「A系統のヒーターだけ温度が上がらない。B系統は正常。去年も同じ時期に出た気がする」と分かっていても、台帳には「ヒーター交換」としか書かれません。次に同じ故障を追う人が使えるのは、落ちてしまったほうの情報です。

(c)書き方が人によって違う。 ベテランは原因まで書きますが、経験の浅い担当者は処置しか書きません。同じ設備の履歴を並べても、粒度がそろっていないため傾向が読めません。

(d)その日のうちに入力されないことがある。 突発修理が続いた日は、台帳入力が翌日以降に回ります。まとめて入力するので、さらに内容が薄くなります。

  1. 作業を終えた現場で、スマートフォンのアプリを開き、設備番号を選んで録音ボタンを押す
  2. 30秒から1分、症状・原因・処置・使った部品・所要時間・次回対応を話す
  3. 【自動】 音声がSharePointへ保存される
  4. 【自動】 文字起こしを行う(設備名・部品品番をフレーズリストで補強する)
  5. 【自動】 設備マスタ・部品マスタと照合し、設備番号と部品品番を特定する
  6. 【自動】 台帳の項目に切り分け、話されていない項目を「未記載」として立てる
  7. 【自動】 同じ設備の直近3件の履歴を添える
  8. 【人】 担当者が確認画面で内容を確かめ、必要なら直して承認する
  9. 【自動】 承認された内容を保全台帳へ登録し、音声と文字起こしを保管する

自動化されるのは「書く」「打ち直す」「探す」「型に当てはめる」の4つです。残るのは「合っているかを判断する」だけになります。

承認は現場でも事務所でも構いません。 移動時間や休憩中に片付けられるので、その日のうちに記録が閉じます。

02今回想定するシステム構成

構成図
現場(スマートフォン / タブレット)
   │ 設備番号を選んで録音(作業直後、その場で)
   ▼
SharePoint の音声フォルダ
   │
   ▼【トリガー】ファイルが作成されたとき
Power Automate
   │
   ├──▶ 音声認識サービス ── 文字起こし(日本語 / フレーズリストに設備名・部品品番)
   │
   ├──▶ 設備マスタ・部品マスタ照合
   │
   ├──▶ 生成AI ── 台帳項目への切り分け / 未記載項目の洗い出し
   │
   └──▶ 同一設備の直近履歴を取得
   │
   ▼
確認画面(文字起こしと抽出結果を並べる)──【人が承認】
   │
   ▼
保全台帳へ登録 + 音声・文字起こしを保管
役割想定する製品代替候補
処理エンジンAzure AI Speech(高速文字起こし)Google Cloud Speech-to-Text、Amazon Transcribe
生成AIClaude APIOpenAI API、Gemini API
ワークフローPower AutomateMake、n8n
録音アプリPower Apps(マイクコントロール)各社の現場アプリ、スマートフォンの標準の録音アプリ
保管SharePointBox、Google Drive
保全台帳SharePoint リストCMMS、保全管理パッケージ、基幹システムの設備テーブル

すでにCMMSや保全管理パッケージを使っているなら、そちらの現場入力機能を先に確認してください。 スマートフォンからの入力や音声入力に対応している製品があります。この構成に価値があるのは、台帳がExcelやSharePointリストで運用されていて現場入力の仕組みがない場合、または既存パッケージの入力画面が現場で使いものにならない場合です。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

SharePointの音声フォルダにファイルが作成されたことを起点にします。Power Automate の SharePoint コネクタには「ファイルが作成されたとき」トリガーが用意されています。

録音アプリの側では、録音を止めた時点でファイルを保存します。Power Apps のマイクコントロールは、録音した音声を Audio プロパティで受け取れます。公開ドキュメントでは、録音を止めたときに動く OnStop プロパティで CollectPatch を呼び、変数・コレクション・データソースへ保存する例が示されています。

ファイル名に、設備番号・作業日時・担当者を入れておきます。 音声だけから設備を特定させると精度の問題が残ります。設備は現場で選ばせるほうが確実です。

なお、Power Apps のマイクコントロールで録音される形式は、Androidが3gp、iOSがAAC、Webブラウザーが OGG と、端末によって異なります。どの形式が来ても処理できるようにしておきます。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
音声ファイル1件1作業。30秒〜2分SharePoint
設備マスタ設備番号、設備名、設置ライン、型式、メーカー台帳システム
部品マスタ品番、部品名、適合設備、単位台帳システム
保全履歴同じ設備の直近3件(現象・処置・交換部品)保全台帳
用語リスト設備の通称、部品の言い回し、現場でよく使う略語現場から集めて作る
Step3

データの取得方法を決める

文字起こし: Azure AI Speech の高速文字起こし(Fast transcription)APIに音声ファイルを渡します。公開ドキュメントによると、このAPIは音声ファイルを同期的に処理して、句読点の入った読みやすい形の文字列をJSONで返します。扱えるのは5時間未満・500MB未満のファイルで、WAV・MP3・OGG・FLAC・AAC・AMR・WebMなどに対応しています。応答には全体の文字列(combinedPhrases)に加えて、区間ごとの文字列・開始位置・長さ・確信度(confidence)が入ります。日本語(ja-JP)は対応言語に含まれています。

用語の補強: 同じくAzure AI Speech には、認識させたい単語をあらかじめ渡して精度を上げる「フレーズリスト」の機能があります。公開ドキュメントでは、リアルタイム文字起こしと高速文字起こしで利用できること、フレーズは500件を超えないようにすることが案内されています。ここに設備の通称と部品品番を入れます。 「シールヒーター」「Hの2140」のような、一般の辞書にない言い方が対象です。

なお、まとめて処理するバッチ文字起こしAPIのほうは、フレーズリストに対応していません。用語を効かせたいなら、高速文字起こし側を使います。

マスタと履歴: 台帳システムから日次でエクスポートしたファイル、またはSharePointリストを直接参照します。リアルタイム連携は必要ありません。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 無音と雑音の切り落とし … 録音ボタンを押してから話し始めるまでの数秒と、話し終えてから止めるまでの数秒を落とします。処理時間と費用が下がります
  2. 形式の統一 … 端末によって3gp・AAC・OGGと分かれるため、1つの形式へ変換してから渡します
  3. 設備番号の引き当て … ファイル名に入れた設備番号を設備マスタと照合し、設備名・型式・ラインを補います。音声から設備を推測させません
  4. 短すぎる録音の除外 … 5秒未満は押し間違いとみなし、処理せずに担当者へ戻します
Step5

AIに処理させる

音声認識と生成AIで役割を分けます。

音声認識にさせること: 話した内容を文字にすること。ここは生成AIにさせません。専用のサービスのほうが精度が高く、費用も安く済みます。

生成AIにさせること:

処理内容
台帳項目への切り分け一続きの話し言葉を、現象・原因・処置・部品・時間・次回対応に分ける
部品品番の正規化「エイチの2140」を H-2140 の形に直し、部品マスタと突き合わせる
未記載項目の洗い出し話されていない項目を列挙する(原因が語られていない、所要時間がない、など)
危険な内容の検出発煙・異臭・漏電・けがなど、すぐ人に知らせるべき語が含まれていないかを見る
書きぶりの統一「直した」「交換した」「取り替えた」を、処置区分の決まった言い方へ寄せる

原因を作らせないでください。 話されていない原因を生成AIが補うと、それが履歴として残り、後の分析を歪めます。語られていないものは「未記載」です。

Step6

指示内容を固定する

あなたは設備保全の記録を整理する担当者です。
現場担当者が作業直後に話した内容の文字起こしを、保全台帳の項目に切り分けてください。

【厳守事項】
- 文字起こしに無い内容を補わないでください。
  特に「原因」は、話されていなければ cause を null にし、
  missing に "原因" を入れてください。推測して書かないでください。
- 部品品番は、部品マスタの候補に一致するものだけ part_no に入れてください。
  一致しない場合は part_no を null にし、聞こえたままの文字列を
  part_no_heard に残してください。新しい品番を作らないでください。
- 数量・所要時間は、話された数値をそのまま使ってください。
  単位が不明なときは null にしてください。
- 発煙・異臭・発火・漏電・感電・けが・落下 のいずれかに当たる内容があれば、
  alert を true にし、該当箇所を alert_text に引用してください。
- 聞き取りが不確かな箇所は、書き換えずに uncertain に列挙してください。

【設備情報】
{equipment_master}

【この設備の直近3件の履歴】
{recent_history}

【部品マスタの候補(適合設備で絞った一覧)】
{part_candidates}

【文字起こし】
{transcript}

「原因を推測しない」の1行が、この構成でいちばん効きます。 保全台帳は、後から故障の傾向を読むための材料です。生成AIが埋めたそれらしい原因が混ざると、集計した瞬間に意味を失います。

Step7

出力形式を固定する

{
  "equipment_no": "",
  "work_type": "点検 | 修理 | 部品交換 | 調整",
  "symptom": "",
  "cause": null,
  "action": "",
  "parts": [
    {
      "part_no": "",
      "part_no_heard": "",
      "qty": 0,
      "unit": ""
    }
  ],
  "duration_min": 0,
  "next_action": "",
  "alert": false,
  "alert_text": "",
  "missing": [],
  "uncertain": [],
  "summary": ""
}

項目の型を決めて返させます。Claude API には、返す形を指定して構造化された出力を得るための仕組みが用意されています。所要時間や数量を文字列で受け取ると、後段の集計で必ず壊れます。数値は数値で返させてください。

missinguncertain は、確認画面で色を付けるために使います。ここが空でも、全件を人が確認します。

Step8

システムへ連携する

承認後、保全台帳へ登録します。連携方法は台帳の作りによって3通りあります。

方式内容
SharePoint リストPower Automate の標準アクションで項目を作成する
CMMS・保全パッケージのAPI製品がAPIを提供していれば、承認と同時に登録する
ファイル取込所定のCSVを書き出し、台帳側の取込機能で読ませる

この部分は利用環境に応じた個別確認が必要です。 使っている保全システムのAPIの有無と仕様は、製品のベンダーに確認してください。

部品の出庫や発注は、この構成では自動化しません。承認済みの記録を起点に、既存の手続きへ渡すだけにします。 在庫を動かす処理は、記録の誤りがそのまま数字の誤りになります。

alert が立った記録は、登録と同時に保全課の責任者へ通知します。発煙や異臭は、台帳に残すだけでは間に合いません。

Step9

人が確認する

全件、人が承認します。

理由は2つあります。第一に、聞き取りの誤りが残るためです。現場の録音は、機械音・送風・防音具越しの声という条件で行われます。第二に、保全台帳は設備の履歴そのもので、誤った記録が残ると、次に対応する人が誤った前提で作業します。

確認を速くするための設計が重要です。

  • 確認画面で、文字起こしの全文と、切り分けた項目を左右に並べて表示する
  • missing(未記載)と uncertain(聞き取りが不確か)の項目を色分けする
  • 部品品番は、マスタの候補を選択式で出す(手打ちさせない)
  • 同じ設備の直近3件を画面の下に置き、前回と同じ処置なら一目で分かるようにする

これらがないと、確認に6分かかり、打ち直していたときと変わりません。

Step10

例外に対処する

起きること対応
騒音で文字起こしの確信度が低いconfidence が低い区間を確認画面で目立たせ、音声をその場で聞けるようにする
部品品番が聞き取れない・マスタにないpart_no を null にして人へ回す。自動でマスタに追加しない
設備番号の選び間違い設備名と型式を確認画面に大きく出し、違っていれば選び直せるようにする
1回の録音に複数の設備の話が入る分割して処理せず、丸ごと人へ回す。運用として「1作業1録音」を徹底する
原因が語られていないmissing に入れて確認画面で促す。生成AIに埋めさせない
発煙・異臭・けがが語られたalert を立て、台帳登録とは別に責任者へ即時通知する
録音が5秒未満、または無音処理せず担当者へ戻す
通信が届かない現場だった端末にいったん保存し、電波の届く場所で送る(オフラインでの一時保存を前提に設計する)
録音を忘れた従来どおり手入力する導線を残す。音声しか受け付けない設計にしない
個人名や評価にあたる発言が入る保管はするが台帳の本文には載せない。第13章を参照
Step11

記録を残す

  • 音声の原本(承認後も一定期間残す)
  • 文字起こしの全文と、区間ごとの確信度
  • 生成AIが切り分けた結果(承認前の状態)
  • 承認者、承認日時
  • 人が直した項目と、修正前後の値

最後の項目が、精度の実測値になります。「部品品番は毎回そのまま通るが、所要時間は半分が直されている」と分かれば、次に手を入れる場所が決まります。

保存期間は自社の規程に合わせます。設備によっては、法令で点検記録の保存期間が定められている場合があります。 対象設備と保存年数は、自社の安全衛生の担当部署に確認してください。

04実装レベルの3段階

最小構成:スマートフォンで録音し、生成AIの画面に渡して整形、結果を台帳へ手でコピーする / 書き起こしと整形
半自動化:録音アプリ → フォルダ監視 → 文字起こし → 切り分け → 確認画面 → 台帳へ登録 / 承認以外のすべて
本格構成:上記+部品マスタ・保全履歴との照合、CMMSへのAPI登録、故障傾向の集計 / 承認以外のすべて+分析の下ごしらえ

半自動化までで、1件9分が3分程度になります。 打ち直しがなくなるためです。本格構成にしても1件あたりの時間はあまり変わりません。本格構成で得られるのは時間ではなく、台帳が分析に使える状態になることです。 部品品番と処置区分がそろっていれば、「この設備は3か月ごとに同じ部品を交換している」が集計で出ます。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
8 名
月間件数
640 件
1件あたり現在時間
9 分
1件あたり導入後時間
3 分
現在  640件 × 9分 ÷ 60 = 96 時間/月
導入後 640件 × 3分 ÷ 60 = 32 時間/月
月間削減時間
64h
削減率
67%
年間削減時間
768h
年間金額換算(時間単価3,500円)
269万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

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06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 設備の点検・修理の記録が月300件以上あり、現場で紙にメモしてから事務所で入力し直している組織。設備番号と部品品番がマスタとして存在すること。記録する項目(現象・原因・処置・交換部品)がおおむね決まっていること。現場担当者にスマートフォンまたはタブレットが配られていること。
向いていない
  1. すでにCMMSや保全システムの現場入力が定着していて、その場で登録が終わっている場合。点検がチェックボックスだけで済み、自由文の記録がほとんど発生しない場合。月50件程度で、担当者が1名しかいない規模。録音が禁止されている区域が作業場所の大半を占める場合。

07最小構成で試す方法

  1. 保全担当者3名に、1週間、作業直後の記録をスマートフォンの標準の録音アプリで吹き込んでもらう(20件ほど集まります)
  2. 音声を生成AIのチャット画面にそのまま渡すか、文字起こしサービスの画面で文字にする
  3. 「次の項目に切り分けて。無い項目は『未記載』と書いて」という指示を付けて、台帳項目への切り分けを試す
  4. 出てきた結果を、同じ人が普段書いている台帳の記載と見比べる

この比較だけは必ずやってください。 見るべきなのは「AIが正しく切り分けたか」だけではありません。現場で話した内容と、これまで台帳に書かれていた内容の、情報量の差を見てください。 ここに差がなければ、この構成で得られるのは入力時間の短縮だけです。差が大きければ、記録の質が上がることのほうが本命になります。

判断の目安は次のとおりです。

20件での結果判断
設備・処置・部品が8割以上そのまま使える自動化する価値がある
5〜8割用語リストで改善する余地がある。よく出る通称と品番を集めてから測り直す
5割未満録音の環境(騒音・距離)を見直す。改善しなければ、この業務では見送る

費用はほとんどかかりません。手持ちの生成AIの契約と、スマートフォンの録音アプリだけで測れます。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
機械音で文字起こしの精度が落ちる設備から数メートル離れて録音する運用にする。マイク付きのイヤホンを配る。録音の環境を変えるほうが、サービスを変えるより効く
部品品番が数字の羅列で聞き取れないフレーズリストに品番を登録する。それでも残る誤りは、確認画面で候補を選択式にして吸収する
現場の通称が変換されない「シールヒーター」「充填機」など、現場でよく使う言い方を用語リストに集める。運用開始後も、直された語を毎月リストへ足す
録音が長くなり、話があちこちに飛ぶ「設備・現象・処置・部品・時間・次回」の順で話す型を決め、録音画面に表示する
生成AIが原因を勝手に補うプロンプトで明確に禁じ、missing に入れさせる。確認画面でも未記載を色分けして、埋めたい気持ちを人に返す
確認画面が使いにくく、承認が滞る文字起こしと抽出結果を左右に並べる。音声をその場で再生できるようにする。ここを省くと削減効果が出ない
通信の届かない場所で使えない端末に一時保存し、後で送る設計にする。オフラインを前提に運用を組む
録音を嫌がる担当者がいる手入力の導線を残す。第13章のとおり、録音の目的と使い道を先に決めて説明する

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 設備の構成と型式、故障の履歴、部品の品番、作業者の氏名と作業時間、そして現場の音声そのもの。

  1. 音声は人の声である … 文字起こしの元になる音声は、誰が話したかが分かるデータです。取得と保存について、対象者への説明と社内規程上の整理を先に済ませてください。 何のために録るのか、どこに残るのか、誰が聞けるのか、いつ消すのかを決めてから始めます
  2. 周囲の会話が混ざる … 現場での録音には、本人が意図しない会話が入ります。作業の記録以外の発言を台帳の本文に載せない設計にし、保管した音声へのアクセスも限定します
  3. 評価に使わない … 所要時間が記録として残ります。これを個人の作業速度の評価に転用すると、現場が正確に話さなくなります。記録の質が落ちれば、この構成の価値そのものが消えます。 使い道を先に明言してください
  4. 外部AIへの入力可否 … 設備の型式と故障の履歴は、製造工程の情報につながります。自社の情報管理規程を確認してください。入力を学習に使わないことが契約で保証されるサービスを選びます
  5. 録音が禁止された区域 … 保安上の理由で録音・撮影が禁じられている区域があります。対象区域を先に洗い出し、その区域は従来どおりの手入力にします
  6. 自動実行してよい範囲 … 台帳への登録は、必ず人の承認を通します。部品の出庫・発注は自動化しません

誤りが起きた場合のリスクは、誤った履歴が残ることによる次回対応の誤り、部品品番の取り違えによる誤発注です。承認ログを残し、後から追跡できる状態にしてください。

10まず何から始めるか

1週目:20件ためて、情報量の差を見る

保全担当3名に、作業直後の記録を録音してもらいます。集まった音声を生成AIで整形し、同じ作業について台帳に書かれた記載と並べてください。 ここで差が見えなければ、先に進む理由は入力時間の短縮だけになります。

2週目:用語リストを作る

集まった20件から、変換されなかった通称と品番を書き出します。50語もあれば十分です。このリストが、精度をいちばん動かします。

3〜4週目:話す型を決める

「設備・現象・原因・処置・部品・時間・次回」の順で話す型を決め、3名で2週間使います。型を決めるだけで、切り分けの精度が上がります。 併せて、録音の距離とタイミングの目安も決めます。

2か月目以降: 手ごたえがあれば、録音アプリ・文字起こし・確認画面までを作り、保全課の1拠点で運用します。台帳連携は最後です。並行して、音声の取得と保存について社内の整理を済ませてください。ここは技術ではなく、運用の合意の問題です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-09-11/最終更新:2026-09-11
確認した内容情報源確認日
Azure AI Speech の高速文字起こしAPIが、音声ファイルを同期的に処理して句読点付きの文字列をJSONで返すこと。5時間未満・500MB未満、WAV・MP3・OGG・FLAC・AAC等に対応。応答に区間ごとの確信度が含まれること。日本語(ja-JP)が対応言語に含まれることMicrosoft Learn: Fast transcription2026-09-11
フレーズリストがリアルタイム文字起こしと高速文字起こしで利用でき、バッチ文字起こしでは利用できないこと。フレーズは500件を超えないことが推奨されていることMicrosoft Learn: Improve recognition accuracy with phrase list2026-09-11
Power Apps のマイクコントロールが端末の音声を録音でき、Audio プロパティで受け取れること。OnStopCollectPatch を使ってコレクション・データソースへ保存できること。録音形式がAndroidは3gp、iOSはAAC、Webブラウザーは OGG であることMicrosoft Learn: Microphone control in Power Apps2026-09-11
Claude API で、返す項目と型を指定した構造化出力が利用できることClaude Docs: Structured outputs2026-09-11

保全台帳・CMMSへの登録方式(API/ファイル取込)は製品によって異なります。この部分は利用環境に応じた個別確認が必要です。 点検記録の法定保存期間についても、自社の対象設備に応じて安全衛生の担当部署へ確認してください。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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