PSM分析で払える価格を測る5工程|値決めの前に聞く

「新しいサービスの価格を決める会議で、根拠として出せる数字が原価だけでした」「競合が出している額に合わせただけで、本当はいくらまで払ってもらえるのかは誰も知りません」。値決めの相談では、この2つがほぼ同時に出てきます。国の調査では、2026年3月時点で価格交渉が行われた割合は90.7%に達する一方、価格転嫁率は54.2%にとどまっていました。交渉の席には着けているのに、通る額はおよそ半分。ここで足りていないのは交渉の技術ではありません。買い手がいくらまでなら払えるのかを、推測ではなく分布として測っていないから起きています。この記事では、支払意欲を測る代表的な手法であるPSM分析について、4つの質問の聞き方、4つの交点の読み方、必要な回答数、そしてBtoBで使うときの限界までを整理します。
カメ先生PSM分析は適正な価格を出してくれる道具だと思われがちなんだけど、本当は買い手が価格をどう感じているかを測る道具なんだ。
カメ子出てきた数字が、そのまま売る値段になるわけではないということですか。
カメ先生そのまま売値にはならないんだよ。読み取れる交点は4つあって、それぞれ違う問いに答えている。どれを採るかは調査の外側の判断になるんだよ。
カメ子道具が出せるのは選択肢のところまでで、最後に1つ選ぶのは人の側だということですね。
- 4つの質問への回答を累積の比率で描き、4本の線が交わる点から受容価格帯を読むのがPSM分析の中身
- 交点は上限価格・下限価格・最適価格・妥協価格の4つ。それぞれ別の問いに答えるため、名前だけで選ばない
- 決裁者と利用者で感じ方が違い、購入頻度も低いのがBtoB。聞いた価格と払う価格のずれを前提に他の測り方と重ねる
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値決めの前に抜けている一手。交渉は9割、通る額は半分
数字から入ります。国が年に2回行っている取引条件の調査では、2026年3月時点の状況として、価格交渉が行われた割合が90.7%、価格転嫁率が54.2%と公表されました。公表は2026年6月26日です。コスト要素別に見ると、原材料費が55.7%、労務費が50.0%、エネルギーコストが48.9%。官公需に限ると48.4%で、こちらは前回から約4ポイント下がっています。
この並びから読めるのは、交渉の場に出ること自体は、もう珍しくなくなったということです。9割で交渉は行われている。それでも通るのは半分程度。差が生まれている場所は、交渉の技術より手前にあります。持ち出す根拠が「こちらの原価が上がった」だけだと、相手にとっては相手の事情ではないからです。
必要なのは、相手の側の数字です。いくらから高いと感じ始め、いくらから検討の対象外になるのか。ここは想像では埋まりません。聞いて、集めて、分布として見る。この記事が扱うのは、その測り方だけです。値上げをどう伝えるか、価格をどう組み立てるかは別の話として切り離し、以降は測定の手順に絞ります。
いくらまで出せますかと聞くと、答えが歪む
支払意欲を測ろうとして最初に思いつくのは、直接聞く方法です。「この内容ならいくらまで出せますか」。この聞き方には弱点が2つあります。1つ目は、答える側に低めに答える誘因があることです。言うだけなら安いほうがよいと分かっているうえ、後で本当に請求されるわけでもありません。
2つ目は、返ってきた1つの数字が何を指しているのか分からないことです。それは買ってもよい上限なのか、妥当だと思う額なのか、安いと感じる額なのか。3つはまったく別のものですが、1問では区別できません。集計して平均を出しても、区別できないものを平均するだけになります。
さらに、1点の回答からは意見の割れ方が消えます。同じ平均でも、全員が近い額を答えた場合と、高低に大きく割れた場合とでは、値決めの意味がまるで違います。PSM分析は、1人から4つの数字を取ることで、この2つを同時に避けようとした設計です。4つ取れば、価格の軸の上に4本の線が描けます。
用語のミニ解説。この記事に出てくる言葉
以降で使う言葉を先に固定します。日本語の呼び名が複数流通していて、社内の会議で意味が食い違いやすい領域です。特に交点の名前は、日常の語感につられて誤読されやすいので、ここで定義を置いておきます。
- PSM分析(価格感度測定)……4つの質問への回答から、買い手が価格をどう感じているかの分布を描く調査手法。適正価格を自動で出す道具ではない
- 累積の比率……ある価格までに「高いと感じ始める」と答えた人が全体の何割かを、価格の低いほうから積み上げた値。線を描くための集計方法
- 上限価格……これ以上高くなると購入されなくなるとみられる価格。値上げの天井にあたる
- 下限価格……これ以上安くなると品質を不安に感じられるとみられる価格。値下げの床にあたる
- 最適価格……価格への拒否感が最も小さいとみられる価格。利益が最大になる点という意味ではない
- 妥協価格……高いと安いに評価が分かれる価格。相場に見える点という意味で、そこなら売れるという意味ではない
- 受容価格帯……下限価格から上限価格までの範囲。価格そのものが理由で外れる人が少ないとみられる幅
この中で誤解が集中するのは、最適価格です。名前が強いので、会議に出すと「これが答えだ」という受け取られ方をします。実際には、両端の抵抗が最も小さい点というだけの意味です。利益も、売れる数量も、この点は何も語っていません。
原因その1:買い手は価格を1点ではなく帯で見ている
直接聞いてもうまくいかない原因を、3つに分けて整理します。1つ目は、買い手の頭の中にあるのが1点ではなく範囲だという点です。これより安いと不安、この辺なら妥当、ここから上は苦しい、ここから先は論外。境目が複数あって、その間が帯になっています。
帯の幅は対象によって変わります。相場が定着しているものは狭く、前例の少ないものは広い。帯が広いというのは、買い手の中に基準がないということです。基準がない相手に1点を聞けば、その場で作られた数字が返ってきます。同じ人にもう一度聞けば、別の数字が出ることもあります。
帯で見ているものを、1点で聞いている。この不一致が、直接質問がうまくいかない一番の理由です。測るべきは点ではなく、境目がどこにあるかです。4つの質問は、その境目を安い側から2か所、高い側から2か所、合わせて4か所から挟みにいく形になっています。
原因その2:安すぎる側の抵抗が抜け落ちる
2つ目の原因は、値決めの議論がほぼ「高すぎないか」に集中することです。安すぎる側は、ほとんど検討されません。しかし安い提示が、そのまま歓迎されるとは限りません。品質が伴わないのではないか、途中で終わるのではないかという疑いに変わることがあります。
BtoBではこの疑いが強く出ます。導入したものが1年で立ち行かなくなれば、選んだ人の社内での評価に直結するからです。値引きで案件を取りにいったのに、決裁の場で安すぎることを理由に落ちるという事態が実際に起きます。安さは、担当者にとっては魅力でも、決裁者にとっては確認事項が1つ増える材料です。
PSM分析が4つの質問のうち2つを安い側に割いているのは、この抵抗を測るためです。下限価格は、値下げの床にあたります。床を割った提案は、価格の問題ではなく信頼の問題に変わります。高い側だけを測っている限り、この境目は最後まで見えません。
原因その3:払う人と使う人が分かれている
3つ目は、BtoBに固有の構造です。使う人、選ぶ人、払う人が別人です。払える額の感じ方は、この3者でそろいません。使う人は自分の手間がどれだけ減るかで見ます。選ぶ人は他社の提示額との差で見ます。払う人は年額と、社内の他の投資との比較で見ます。
誰に聞くかを決めないまま調査すると、3者の回答が混ざった線ができます。混ざった線の交点は、どの立場の感覚も表しません。使う人が「月に3万円までなら」と答え、決裁者が「年に200万円までなら」と答えたとき、この2つはそもそも同じ軸に乗っていません。単位をそろえないまま集めた時点で、線は意味を失います。
対策は、役割ごとに分けて集計することです。ただし分ければ、区分ごとの件数が減ります。分けたぶんだけ回答数が要る、という制約とセットで設計します。件数の目安は、後の見出しで具体的な数字にして置きます。ここでは、分けるかどうかを調査の設計時点で決めておく、という点だけ押さえてください。
PSM分析とは何を測る道具か。出どころと考え方
手法の出どころをはっきりさせておきます。考案したのはオランダの経済学者ファン・ウェステンドルプで、1976年のことです。発表の場は、同じ年に開かれた欧州の市場調査団体の年次大会でした。50年近く使われ続けている、かなり古い手法です。新しい分析技術ではなく、質問の設計の工夫だと理解したほうが正確です。
測っているのは価格の知覚です。買い手が価格をどう感じるか。買うかどうかや、どれだけの数量が出るかは測っていません。手法の解説でも、購買行動や販売数量ではなく、価格の受け止め方と価値の連想を測るものだと明確に区別されています。売上の見通しが必要なら、別の手法を重ねることになります。
この区別は、会議の場で効きます。PSMで最適価格が出たので、この値段にします、という進め方は誤りです。出てくるのは、抵抗の小さい価格帯という材料までです。そこから先、どの価格を選ぶかは、自社の狙いや原価や競合の状況を含めた判断になります。道具の守備範囲を先に共有しておくと、結果の使われ方がぶれません。
4つの質問の正確な聞き方。順番が答えを変える
原型の質問文を日本語にすると、次の4つになります。表現を短くしすぎると意味が変わるため、括弧の中の条件まで含めて聞きます。特に3番目は「買えない」ではなく「買うかどうか考え始める」水準を聞いている点が肝心です。
- 安すぎる……いくらになると、安すぎて品質が良くないのではないかと感じますか
- 安い……いくらなら買い得だと感じますか(支払う額に対して得があると思える水準)
- 高い……いくらから高いと感じ始めますか(買えないわけではないが、買うかどうか考える水準)
- 高すぎる……いくらになると、高すぎて買う対象から外れると感じますか
実務では、この安い側から高い側へ向かう順で並べる形がよく使われます。順序が答えを変えるのは、直前に自分が答えた数字が次の答えの基準になるからです。安い側から聞けば全体が低めに、高い側から聞けば高めに寄りやすくなります。どちらが正しいという話ではありません。大事なのは、比較したい調査のあいだで順序を固定することです。前回と順序を変えたら、その2回の結果は並べられません。
もう1つ必須なのが、回答の整合の確認です。安すぎる、安い、高い、高すぎるの4つは、この順に大きくなるはずです。崩れている回答は集計から除外します。除外した割合が2割を超えたら、集計に進まず、対象の説明か聞き方をやり直します。崩れる回答が多いのは、回答者が何を評価すればよいのか分かっていない証拠だからです。
払える価格を測る5工程
ここまでを踏まえて、実施の手順を5つの工程に整理します。調査の会社に委託する場合でも、この5つは発注側が中身を理解しておく必要があります。特に1つ目と3つ目は、外部に丸投げすると結果が使えなくなる部分です。
対象の説明文を作る。機能、数量、契約期間、含まれる支援の範囲まで書く。ここが曖昧だと、回答者ごとに違うものを想像して答えるため、線がぶれる。写真や画面の見本を添えられるなら添える
選択肢の刻みは、想定価格帯の1〜2%程度が目安。範囲は想定の半分から2倍程度まで用意する。刻みが粗いと交点が刻み1つ分だけ動き、結論が変わってしまう
使う人、選ぶ人、払う人のどれを対象にするかを決める。役割で分けるなら、分けた区分ごとに必要な件数を確保する。ここを決めずに集め始めると、後から分けられない
順序は前回の調査と同じにする。回収後、4つの大小関係が崩れた回答を除外し、除外した件数と割合を記録する。2割を超えたら設計をやり直す
価格の低いほうから積み上げて4本の線を作り、交わる点を読む。交点は1点の数字ではなく、刻み1つ分の幅を持つものとして扱う。実際の線は階段状になる
この5つのうち、実務で最も飛ばされるのが2つ目の刻みの設計です。自由記入にすれば刻みを決めずに済みますが、今度は端数だらけの回答が集まり、線が滑らかにならず交点が読み取りにくくなります。刻みは選択肢の形で先に決めておくほうが、後の作業がはるかに軽くなります。
工程に入る前に、次の項目が埋まっているかを確認してください。ここが空欄のまま集め始めた回答は、後から補正できません。
- 評価してもらう対象の説明が1枚にまとまっている。機能、数量、契約期間、含まれる支援まで書かれている
- 価格の刻みと範囲が決まっている。刻みは想定価格帯の1〜2%程度になっている
- 誰に聞くかが役割で決まっている。使う人、選ぶ人、払う人のどれを対象にするか
- 役割で分けるなら、分けたあとに区分ごとの件数が確保できる見込みが立っている
- 4つの質問の順序が決まっていて、比較したい前回の調査と同じ順序になっている
- 矛盾回答の除外の基準と、除外率が何割を超えたらやり直すかが決まっている
- 出た数字を誰がどう使うのかが先に合意されている。値段を決めるのか、案を比べるのか
最後の項目は見落とされがちですが、結果の扱いを先に決めておかないと、都合のよい交点だけが会議で引用されます。使い道を決めてから測る、という順番だけは崩さないでください。測ってから使い道を考えると、数字が後付けの根拠に変わります。
4本の線と4つの交点。それぞれが答えている問い
集計は累積の比率で行います。ある価格までに「高いと感じ始める」と答えた人が全体の何割かを、価格の低いほうから積み上げていく形です。4つの質問それぞれで積み上げると、価格を横軸にした4本の線ができます。高い側の2本は右上がりに、安い側の2本は右下がりになります。
| 交点 | 交わる2本の線 | 答えている問い | 実務での呼び方 |
|---|---|---|---|
| 下限価格 | 安すぎる と 高い | これより下げると品質を疑われ始めるのはどこか | 値下げの床 |
| 上限価格 | 高すぎる と 安い | これより上げると検討の対象から外れるのはどこか | 値上げの天井 |
| 最適価格 | 安すぎる と 高すぎる | 両端の極端な抵抗が最も小さくなるのはどこか | 拒否感が最小の点 |
| 妥協価格 | 高い と 安い | 高いと安いの評価がちょうど半々になるのはどこか | 相場に見える点 |
下限価格から上限価格までが、受容価格帯です。この幅の中であれば、価格そのものを理由に外れる人は多くない、という読み方になります。幅が想定の2倍以上に広がったときは、回答者の中に基準の違う層が混ざっていると考えて、区分を分けて引き直します。幅の広さそのものが、対象の相場観の有無を示す情報です。
使うときに大切なのは、名前に引きずられないことです。最適価格の「最適」は、利益が最大になるという意味ではありません。妥協価格も、そこに置けば売れるという意味ではなく、相場に見える点という意味です。4つはそれぞれ別の問いに答えているので、どれを採るかは、答えてほしい問いから逆に選びます。名前の響きで選ぶと、あとで根拠を説明できなくなります。
必要な回答数の目安。少ない件数で言えること
交点は、平均値ではなく分布の交わりで決まります。したがって、平均を見るだけの調査よりも多くの回答が必要になります。この点を知らずに数十件で実施して、出た数字をそのまま会議に出す例が少なくありません。目安を表にまとめます。
| 見たい単位 | 回収数の目安 | その数字の理由 |
|---|---|---|
| 全体で1本の線を引く | 100件以上 | 交点が刻み1つ分でぶれなくなる目安とされる |
| 役割や業種で分けて引く | 分けた区分ごとに100件 | 交点は分布の裾で決まるため、30件では動きすぎる |
| 値決めの判断に使う | 200件から300件 | 矛盾回答の除外で1割から2割減ることを見込んでおく |
この目安の背景にあるのは、交点が線の中央ではなく裾のほうで決まるという性質です。裾は回答の少ない領域なので、1件の増減で位置が動きます。50件で出した帯は、同じ条件でもう一度調べれば別の数字になると考えたほうが安全です。件数を書かずに帯だけを共有すると、この不確かさが消えて伝わります。
少ない件数で言えるのは、帯のおおよその位置と、明らかに範囲の外にある価格までです。言えないのは、1件単位の交点の値と、区分ごとの差の有無です。BtoBでは、そもそも母集団が小さくて100件に届かない場合があります。そのときはPSMを主役から降ろし、後述する他の測り方を主役にして、PSMは補助の材料として添えます。
BtoBで使うときの限界と、それでも使える場面
BtoBで使うときの限界は3つあります。1つ目は、回答者が値段を知らないことです。現場の利用者が契約金額を知らないまま使っている、という状況は珍しくありません。知らない人に4つの価格を聞けば、想像で答えることになり、線が緩やかになって交点の位置が広がります。対策は、契約金額を見ている立場の人に絞るか、単位を「1人あたり月額」「1件あたり」のように固定して、その単位の感覚を聞くことです。
2つ目は、購入頻度が低いことです。年に1回、あるいは数年に1回しか買わないものについては、相場観が育ちません。相場観のないカテゴリでは、4本の線がそもそも交わらないことがあります。対策は、直近で実際に検討や比較を行った人に対象を絞ることです。買った人だけでなく、検討して見送った人を含めると、上限側の情報が濃くなります。
3つ目は、決裁者と利用者で払える額の感じ方が違うことです。対策は、役割ごとに線を引き、2本の帯を重ねて見ることです。重なった範囲が、社内で合意を取りやすい範囲になります。逆に重ならない場合は、価格の問題ではなく、価値の説明が立場ごとに分かれていないことを示します。それでもPSMが素直に効く場面はあります。単価が小さく購入頻度が高いもの、利用者が金額を見ているもの、そして比較対象が世の中に十分あるものです。
聞いた価格と実際に払う価格がずれる理由
手法の最も深い限界がここです。回答は「言ったこと」であって、財布を開いた行動ではありません。仮の話なので、社内の承認や予算の枠といった実際の制約が反映されません。加えて、安いほうが得だと分かっている以上、低めに答える誘因も残り続けます。つまり、ずれること自体は避けられません。
研究の側からも、この手法は仮想の状況に基づくことと、抵抗が最も小さい価格に焦点を当てることから、結果が偏るという指摘があります。支払意欲そのものの直接の測定として読むべきではなく、他の手法を補うものとして位置づけられています。出てきた数字を絶対値として使わない、というのがこの指摘の実務的な意味です。
そこで使い方を変えます。絶対値ではなく、比較に使います。案Aと案Bで帯がどちらに寄るか、去年と今年で帯が動いたか、業種ごとに帯の幅がどう違うか。同じ設計で繰り返せば、ずれの向きはおおむね一定なので、差のほうは読めます。数量まで見たいなら、特定の価格で買う確率を追加で聞いて売上の曲線を推定する拡張があり、考案した3名の名前を取ってニュートン・ミラー・スミスの拡張と呼ばれています。ただし質問が増えるぶん、回答者の負担と途中離脱が増えます。
他の測り方と重ねる。見積もり・段階価格・失注価格
最も強い証拠は、実際に金額を出した結果です。見積もりの提示額と、その後の成否を記録に残します。残す項目は、提示額、決裁の可否、断られた理由、相手の予算の枠の4つです。ただし1つの案件には1回しか提示できないため、条件を変えた比較にはなりません。対策として、期間を区切って提示額の幅を意図的に変え、結果を並べる方法があります。
次に、段階価格の提示です。あらかじめ複数の価格帯の案を作って同時に見せ、どれを選ぶかを見ます。選択の結果は、言葉より強い情報です。ただし、選ばれた理由が「安いから」なのか「内容が合うから」なのかを分けて記録しないと、価格の情報にはなりません。選んだ直後に、選ばなかった案のどこが外れたかを1つだけ聞くと、理由が分かれて残ります。
3つ目は、過去の失注価格です。失注理由に価格と書かれた案件の提示額を集めます。ここには実際に断られた境目が入っています。ただし価格は断る理由として口に出しやすい言葉なので、そのまま上限とは読めません。可能な範囲で、採用された他社の価格帯も記録しておきます。この3つとPSMの数字が近い範囲に集まれば、帯の信頼度は上がります。大きく離れているなら、どれかの設計が間違っているという合図です。なお、機能と価格の組み合わせを選ばせる調査は別の手法にあたり、併用の相手として相性のよいものです。
AIに任せる範囲と、人が決める範囲
この調査でAIが担えるのは、大きく4つです。1つ目は調査票の文言をそろえること。4つの質問の日本語が、社内の言い回しに寄せた結果として意味が変わっていないかを確認し、前回の調査票との表現の違いを洗い出します。2つ目は自由記述の整理で、なぜその価格かという理由を短い分類にまとめます。3つ目は回答の集計と作図。累積の比率の計算と交点の算出は決まった手順なので、任せられる部分です。4つ目は異常な回答の洗い出しで、大小関係の崩れ、極端な値、全問同額といった回答を機械的に拾います。
一方で、任せない範囲をはっきり決めておきます。いくらに決めるかは人が決めます。4つの交点のうちどれを採るか、除外の基準を動かすかどうか、帯が広かったときに区分をどう分け直すか。これらはいずれも、根拠が調査の外にある判断です。事業として何を優先するかが決まらなければ答えが出ない以上、道具に委ねることはできません。
- 「いくらまで出せますか」の1問だけで済ませる——出てきた数字が帯のどこを指すのか分からない
- 質問の順序を調査のたびに変える——前回と比べられなくなり、変化の読み取りができない
- 矛盾のある回答を除外せずに線を描く——交点が実態から離れ、除外率という警告も失われる
- 30件の回答で区分ごとの差を語る——交点は分布の裾で決まるため、その件数では動きすぎる
- 最適価格をそのまま販売価格にする——利益が最大になる点ではなく、拒否感が最小の点にすぎない
- 契約金額を見ていない人にだけ聞く——想像で答えた数字が混ざり、帯が広く出る
- 集計と除外をAIに任せきりにする——除外の基準が途中で変わっても、誰も気づけない
任せ方にも作法があります。集計を頼むときは、必ず根拠を書かせます。除外した回答が何件で、その基準は何だったのか。除外後の件数は、必ず人が目で確認します。AIに「集計して」と頼めば表そのものはすぐ出ますが、その表からは除外の判断が見えません。作図した線は、もとの回答の数字と数点だけ突き合わせておくと、取り違えに気づけます。人が確認する範囲を先に決めておくのが、この作業では最も効きます。
まとめ
値決めの前に足りないのは、交渉の技術ではなく、買い手がいくらまで払えるのかという相手側の数字です。直接「いくらまで出せますか」と聞く方法が壊れる原因は3つありました。買い手は価格を1点ではなく帯で見ていること、安すぎる側の抵抗が議論から抜け落ちること、そしてBtoBでは使う人と選ぶ人と払う人が分かれていることです。
PSM分析は、1976年にオランダの経済学者が考案した、質問の設計の工夫です。安すぎる、安い、高い、高すぎるの4つを1人から聞き、累積の比率で4本の線を描いて交点を読みます。交点は4つあり、下限価格は値下げの床、上限価格は値上げの天井、最適価格は拒否感が最小の点、妥協価格は相場に見える点を示します。名前に引きずられず、答えてほしい問いのほうから採る交点を選んでください。回答数は全体で100件以上、判断に使うなら200件から300件が目安です。
そして最後に、この手法が測っているのは価格の知覚であって、買うかどうかでも数量でもありません。聞いた価格と実際に払う価格はずれます。だから数字は絶対値ではなく比較に使い、実際の見積もりの結果、段階価格を見せたときの選択、過去の失注価格と重ねて、複数の数字が同じ範囲に集まるかで信頼度を測ります。調査票の整備、自由記述の分類、集計と作図、異常回答の洗い出しはAIに任せられます。任せられないのは、どの交点を採り、いくらに決めるかという判断です。測るところまでは道具で速くなり、決めるところは速くなりません。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
AI活用を戦略に落とす前に、まずは導入・定着から始めませんか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
