インサイトセールスとは何か?|相手のAIが出せない論点

インサイトセールスとは何か?|相手のAIが出せない論点

「下調べはAIで済ませたのに、商談では相手のほうが自社の業界に詳しかった」「示唆を出せと言われても、AIに聞けば誰でも同じことが言える」。大手企業向けの商談の型を見直している営業部門で、何度も出てくる2つの声です。背景には、AIで下調べさえすれば相手に示す論点は作れる、という思い込みがあります。けれども買い手の側も、同じような生成AIで自社の課題の見立てを作ってから商談に来ます。AIで誰でも出せる一般論は、相手の手元にもう有ります。インサイトセールスの価値は、下調べの量ではありません。本当は、相手のAIが手に入れられない素材から、相手がまだ言葉にしていない課題を示せるかで決まります。この記事では、インサイトセールスとは何かを押さえたうえで、商談の前・商談中・示唆が外れたときの3つの場面に分けて、素材の作り方と持ち込み方、引き方を整理します。


カメ先生カメ先生

インサイトセールスは、相手が驚くような新しい情報を持ち込む営業だと思われがちなんだ。でも本当は、相手の会社の事情に照らして「その課題、まだ表に出ていないけれど、ここにありませんか」と示して、一緒に確かめる型なんだよ。


カメ子カメ子

情報の量で勝つのではなく、どこに課題があるかの見立てで勝つということですか。


カメ先生カメ先生

そう。しかも今は、相手も生成AIで業界の動向くらいは押さえて来る。だから示唆の素材は、自社の案件記録や、相手の公開情報どうしを読み合わせた所から作る必要がある。並べる作業はAIが手伝えるけれど、何を持ち込むか、外れたら引くかは人が決めることだね。


カメ子カメ子

AIに作らせた示唆をそのまま持って行くと、相手にも見えている話になってしまうんですね。


この記事のポイント
  • インサイトセールスは、相手がまだ気づいていない潜在課題を先に示す型。顕在化した課題を聞いて解決策を組むソリューション営業とは向きが逆
  • 買い手もAIで見立てを済ませて来るので、一般論の示唆は価値を失う。素材は自社の案件記録と、相手の公開情報の読み合わせから作る
  • 候補を並べる・似た案件を引く・根拠の抜けを指摘させるのはAI。何を持ち込むか、相手の業界での言い方、外れたときに引くかは人が決める

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目次

インサイトセールスとは:気づいていない課題を先に示す型

インサイトセールス(インサイト営業とも呼ばれます)は、見込み客がまだ気づいていない潜在的な課題を見つけ、それを相手に認識してもらったうえで解決策を提案する営業の型です。ハブスポット日本法人のブログの解説では、ソリューション営業が顧客のすでに認識している課題を対象にするのに対し、インサイト営業は潜在的な、まだ表に出ていない課題を対象にする、と整理されています。

ここで言う「インサイト」は、消費者の心理を指すマーケティングの用語とは使い方が違います。商談の場で、ある会社に向けて「御社のこの数字とこの動きを並べると、ここに課題がありそうです」と示す、個社向けの見立てのことです。業界に向けて主張を発信するソートリーダーシップとも別物で、相手1社の事情に結びつかない示唆は、インサイトセールスの示唆になりません。

なお、国内には「インサイトセールス」を社名やサービス名に含む会社もあります。本稿で扱うのは特定の会社の手法ではなく、営業の型としての一般的な呼び名です。研修や教材の選び方ではなく、営業部門が大手向けの初回から2回目の商談の型をどう組むかを決める立場から書いています。

聞いてから組む型と、示してから確かめる型

ソリューション営業とインサイトセールスの違いは、商談の最初の数分の向きに表れます。前者は相手の課題を聞き、深掘りしてから解決策を組みます。後者は、こちらから課題の見立てを先に出し、相手の反応で確かめていきます。どちらが優れているかではなく、相手の状態によって向き不向きが分かれます。

観点ソリューション営業インサイトセールス
出発点相手がすでに言葉にしている課題相手がまだ言葉にしていない課題
最初の数分聞く示す(そして確かめる)
準備の中心聞く順番と深掘りの問い示唆の素材と、その根拠
向く相手課題が明確で、比較検討に入っている現状に大きな不満がなく、検討が始まっていない
失敗の形相手の言う課題に合わせるだけで差がつかない見立てが外れて、相手の信頼を落とす

ソリューション営業の聞く順番を、買い手がAIで見立てを作って来る前提で組み直す方法は、ソリューション営業の型の組み直しを扱った別の記事で整理しています。本稿は向きが逆の型として、何を示すか、その素材をどこから作るか、外れたらどうするかに絞ります。聞く順番や課題の深掘りの手順には立ち入りません。

型を選ぶのは、商談の前の段階です。相手がすでに比較表を作り、候補の会社を並べて連絡して来たのなら、潜在課題を示すより、相手の挙げた課題に答えるほうが早く進みます。反対に、問い合わせではなく紹介や展示会で接点を持った相手、つまり検討がまだ始まっていない相手には、示す型が効きやすくなります。どちらの型で臨むかは、相手の検討の段階を見て商談ごとに決めるもので、部門で一方に統一するものではありません。

誤解:AIで下調べすれば示唆は出せる

生成AIに相手の会社名を入れて「この会社の潜在課題を挙げて」と頼むと、それらしい候補がすぐに並びます。人手不足、デジタル化の遅れ、原材料の高騰、海外展開の難しさ。どれも外れてはいませんが、同業のどの会社にも当てはまります。相手の担当者が同じ質問を自分のAIにすれば、同じような答えが出てきます。

ここに、インサイトセールスとAIの関係のねじれがあります。AIで下調べの手間は大きく減りましたが、誰でも同じ手順で出せる見立ては、もう示唆として働かないのです。買い手がAIで下調べを済ませてから接触して来る動きそのものは、買い手の側の変化として別の記事で扱っています。営業の側にとっての意味は、一般論を持ち込んだ時点で、相手の手元にある見立てをなぞるだけになるということです。

では、AIは役に立たないのかと言えば、そうではありません。AIが向いているのは、素材を並べ、つなぎ、抜けを指摘する作業です。示唆そのものをAIに考えさせるのではなく、人が持っている素材をAIで速く整理し、示唆を組む時間を増やすという使い方なら、相手のAIとの差は広がります。その素材がどこにあるかが、次の論点です。

相手のAIが出せない素材は3か所にある

相手が自分のAIで手に入れられないものは、大きく3種類あります。1つ目は、自社の案件記録です。過去に似た業種・規模の会社で何が起き、どこで課題が見つかり、何が効いて何が効かなかったか。これは自社の中にしかなく、相手のAIは読めません。

2つ目は、多くの会社を横から見ている立場でしか分からない並びです。たとえば「同じ規模の会社では、この段階でこの作業に人が張り付いていることが多い」という観察は、1社の中にいる担当者には見えにくいものです。ただし、これを数字で示すなら、自社の記録で数えた件数と期間を添える必要があります。出所を示せない業界平均を語らないことが、示唆の信頼を守ります。

3つ目は、相手の公開情報どうしの読み合わせです。決算資料、中期経営計画、求人情報、プレスリリースは誰でも読めますが、別々に読むと一般論しか出ません。中期経営計画で掲げた目標と、求人で急いで集めている職種、決算で増えている費用の項目を並べたとき、初めて「ここに無理がかかっているのでは」という見立てが立ちます。素材は公開でも、どれとどれを並べるかの組み合わせが示唆になります。

場面1 商談の前:公開情報から潜在課題の候補をAIに並べさせる

最初の場面は、初回商談の前の準備です。ここでAIに任せるのは、相手の公開情報を読み、潜在課題の候補を並べる作業です。決算の説明資料、中期経営計画、直近の求人情報、プレスリリースを渡し、「計画の目標と、足元の動きの間でずれている所を、資料のどのページの記述かを添えて挙げて」と頼みます。候補は多めに、10件前後出させると比べやすくなります。

このとき、候補ごとに出典の場所を必ず書かせます。生成AIは、資料に書かれていない数字を補ったり、別の年の資料の内容を混ぜたりすることがあります。出典のページが示せない候補は、その時点で外します。また、渡すのは公開されている資料に限り、商談の相手から預かった非公開の資料や、個人に関する情報を外部のAIサービスに入れる手順はここでは扱いません。

候補が並んだら、人が絞ります。絞る観点は、相手の担当者がその課題に責任を持つ立場か、自社がその課題に対して何かを差し出せるか、の2つです。どれほど鋭い見立てでも、自社の商材や支援と結びつかない課題は、商談で持ち込む示唆にはなりません。この段階で3件程度まで減らします。

資料の日付にも注意します。中期経営計画は数年に1度しか改まらず、求人情報は数週間で入れ替わります。古い計画と新しい求人を並べると、計画がすでに見直されているのに気づかず、ずれを読み違えることがあります。AIに渡す資料には公表日を添え、候補にも「どの日付の資料どうしを並べたか」を書かせておくと、商談の直前に最新の開示と照らし直す作業が短く済みます。

場面1 商談の前:自社の案件記録から似た状況を引く

次に、絞った候補ごとに、自社の過去の案件記録から似た状況を探します。顧客管理の仕組みや商談の記録に、業種、規模、当初の相談内容、最終的に見つかった課題、効いた施策が残っていれば、AIに「この候補と似た状況の案件を挙げ、共通点と違いを書いて」と頼めます。ここで得られる「似た会社で実際に起きたこと」が、相手のAIには出せない根拠になります。

案件記録が文章で散らばっている会社では、まずAIに記録を同じ項目で整理させる下ごしらえが効きます。ただし、整理した結果には必ず元の記録の場所を残しておきます。AIの要約は、記録の書き手が留保をつけて書いた部分を言い切りに変えることがあるからです。示唆の根拠に使う案件は、元の記録に戻って人が読み直すことを手順に入れてください。

引いた案件を商談で使うときは、社名や個社を特定できる内容を出さないのが前提です。「同じ業種で、同じくらいの規模の会社では」という言い方にとどめ、守秘の取り決めがある案件は使える範囲を先に確かめます。顧客の個人情報を含む記録をAIで扱うときの線引きは、個人情報の取り扱いを整理した既存の記事に従ってください。

場面1 商談の前:示唆を1枚に組む

素材が揃ったら、持ち込む示唆を1枚に組みます。形を決めておくと、担当者ごとの出来の差が小さくなり、上長が事前に確かめやすくなります。組み方の順番は次のとおりです。

STEP1
観察を書く

相手の公開情報から読み取れる事実を、出典の場所とともに1行から2行で書きます。

STEP2
似た状況を添える

自社の案件記録から、似た会社で何が起きたかを、社名を伏せて添えます。

STEP3
見立てを書く

観察と似た状況から、相手にありそうな課題を1文で書きます。言い切らず、仮説として書きます。

STEP4
確かめる問いを書く

見立てが当たっているかを相手に確かめる問いを、1つか2つ用意します。

STEP5
外れたときの次の手を書く

見立てが外れた場合に、次に確かめる候補か、引き下がる言い方を書いておきます。

5つ目の項目を準備の段階で書いておくのが、この型の要です。外れたときにどうするかを決めずに示唆を持ち込むと、商談の場で粘りすぎるか、慌てて話題を変えるかのどちらかになりがちです。AIには各項目の下書きと、観察と見立ての間に飛躍がないかの点検を任せられますが、見立ての1文は担当者が自分の言葉で書くようにします。

場面1 商談の前:AIに根拠の抜けと反論を出させる

1枚に組んだ示唆は、商談の前にAIで叩いておくと強くなります。頼む内容は2つです。1つは「この見立ての根拠のうち、資料の記述で裏付けられていない部分を指摘して」。もう1つは「相手の担当者の立場から、この見立てに反論するとしたらどう言うか」。前者で飛躍が見つかり、後者で商談の場で返ってきそうな言葉を先に知ることができます。

反論を出させると、思っていた以上に強い反論が返ってくることがあります。たとえば「その費用の増加は、計画どおりの先行投資です」といった反論です。こうした反論に資料で答えられないなら、その見立ては持ち込む前に弱めるか、問いの形に変えます。反論に答えられない示唆は、断言せずに質問として出すという切り替えを、ここで決めておきます。

ただし、AIの反論も一般論に寄りがちです。相手の会社の社内事情や、担当者個人の立場から出てくる反論は、AIには見えません。上長や同じ業界を担当した経験のある同僚に1枚を見せ、「この会社の人ならこう言う」という反論を足してもらうと、AIの点検では届かない穴が埋まります。

場面2 商談中:言い切らず、相手の数字で確かめる

2つ目の場面は商談そのものです。インサイトセールスで最も避けたいのは、準備した見立てを結論として読み上げることです。相手は自社の事情を一番よく知っている立場にあり、外から来た営業に結論を言い切られると、内容が正しくても受け入れにくくなります。示唆は問いの形で「公開資料のこの記述と、この動きを並べると、ここに負荷がかかっているように見えるのですが、実際はいかがですか」という形で出します。

相手が関心を示したら、次は相手の数字で確かめます。自社の案件記録から引いた「似た会社では」という話は、相手の会社にそのまま当てはまるとは限りません。相手に「御社では、この作業に何人が、月にどのくらいの時間をかけていますか」と尋ね、相手の口から出た数字で見立てを置き直します。示唆が相手の数字で言い直されたとき、初めて相手の課題になります。

商談中にAIを使う場面は限られます。商談の記録をAIで要約させる場合も、相手が示唆にどう反応したか、どの言葉で言い直したかは、要約の中で薄まりやすい部分です。反応の言葉は、担当者が商談の直後に自分で書き残しておくほうが、次の準備に使える記録になります。

出す示唆の数も絞ります。準備で3件まで減らしていても、初回の商談で3件を順に出すと、相手には売り込みの台本に聞こえます。最初に出すのは1件だけにして、相手が乗ってきたらその1件を深め、乗ってこなければ2件目を短く添える、という順番にしておくと、相手の反応を見ながら進められます。どの1件を最初に出すかは、相手の担当者の役職と、雑談で出た関心事を見て担当者が決めます。

場面2 商談中:相手の業界での言い方に直すのは人

同じ課題でも、業界によって呼び方が違います。製造業で「段取り替え」と呼ぶものを、物流では別の言葉で呼び、小売ではまた別の言葉になる、といった具合です。営業の側が自社の言葉や一般的なビジネス用語で示唆を語ると、相手は自分の現場の話だと受け取れません。示唆が刺さるかどうかは、中身と同じくらい言葉で決まります。

AIに「この業界の言い方に直して」と頼むと、それらしい言い換えは返ってきます。ただし、その業界の中でも会社や部署によって使う言葉は違いますし、AIの言い換えが現場で実際に使われているかは確かめようがありません。相手の業界での言い方は、相手が使った言葉を拾って直すのが確実です。初回商談では、示唆を出す前の雑談や相手の自己紹介の中で使われた言葉を書き留めておき、示唆を出すときにその言葉に置き換えます。

これは研修で教える技能というより、準備の手順に組み込める作業です。相手のプレスリリースや求人情報に出てくる言葉を、準備の1枚の余白に並べておくだけでも、商談の場での言い換えはしやすくなります。言葉を拾う作業はAIにも任せられますが、どの言葉を使うかの選択は担当者が行います。

場面2 商談中:相手が先にAIで見立てを持っていたとき

最近の商談では、相手の担当者が「AIで調べたところ、うちの課題はこのあたりだと思っています」と先に切り出してくることがあります。このとき、準備した示唆をそのまま出すと、相手の見立てと重なるか、ぶつかるかのどちらかになります。重なれば新しさがなく、ぶつかれば相手は自分の見立てを守ろうとします。

ここで効くのは、相手の見立てとこちらの見立ての差分だけを示すことです。「おっしゃる課題はそのとおりだと思います。そのうえで、似た会社ではその手前の段階で別のつまずきがあったのですが、御社ではどうでしょうか」と、相手の見立てを認めたうえで、相手のAIが知らない素材から1点だけ足します。相手の見立てを否定せず、その外側を1つ示すのが、この場面での型です。

相手の見立てを先に聞き、その根拠を一緒に確かめていく進め方は、ソリューション営業の組み直しの側で整理されています。本稿の型で準備しておくのは、相手がAIで出しそうな見立てを先に自分のAIで出しておき、それと重ならない示唆を1つ確保しておくことです。準備の段階で「相手のAIならこう言うだろう」を出させておくと、差分を作る作業が楽になります。

場面3 外れたとき:引くか粘るかを決める物差し

3つ目の場面は、示唆が外れたときです。インサイトセールスでは、外れることを前提に組む必要があります。外からの見立てである以上、相手の社内事情を知らずに立てた仮説は、一定の割合で外れます。問題は外れること自体ではなく、外れたときに相手の信頼を落とす振る舞いをすることです。

引くか粘るかは、相手の反応の中身で決めます。相手が具体的な事実を挙げて否定したなら、それは見立ての前提が違っていたということなので、素直に引き下がり、その事実を教えてもらったことに礼を言います。一方、相手が「そういう問題はない」と言いながら、具体的な根拠を挙げない場合や、別の部署の話として受け流した場合は、担当者の立場からは見えていないだけの可能性があります。この場合でも、その場で押し切らず、確かめる問いを1つだけ残して次の話題に移ります。

どちらの判断をするかは、準備の1枚に書いた「外れたときの次の手」に沿って担当者がその場で決めます。AIはこの判断に関われません。相手の表情や言葉の温度、同席者の様子といった、その場でしか分からない情報が判断の材料だからです。粘るかどうかを決めるのは、相手との関係を引き受けている担当者であるべきです。

場面3 外れたとき:外れた示唆を記録に戻す

外れた示唆は、捨てずに記録に戻します。どの公開情報から、どの案件を根拠に、どんな見立てを立て、相手がどんな事実で否定したか。これを案件記録に残しておくと、次に似た会社を担当する人が同じ外れ方を避けられます。外れた理由そのものが、相手のAIには出せない素材になっていきます。

記録の形は、準備の1枚に結果の欄を足すだけで足ります。結果の欄には、当たった・一部当たった・外れたの区分と、相手が使った言葉、次に確かめるべきことを書きます。AIには、たまった記録から「どの種類の見立てが外れやすいか」「どの業種で当たりやすいか」を集計させることができます。外れた示唆の記録が、次の示唆の精度を上げる素材になると考えると、記録を残す動機が持ちやすくなります。

ただし、集計の結果をそのまま方針にするのは早すぎます。件数が少ないうちは、たまたまの偏りが出やすいからです。集計はAIに任せても、そこから「この種類の見立ては持ち込まない」と決めるのは、営業部門の責任者が記録を読んだうえで行います。

示唆の素材を、営業とマーケティングで分けて持つ

ここまでの準備を営業の担当者1人で抱えると、商談の数が増えたときに続きません。素材のうち、相手1社に固有のもの(公開情報の読み合わせ、相手の言葉)は営業が持ち、多くの会社に共通するもの(自社の案件記録の整理、業種ごとの当たりと外れの集計、似た状況の事例の型)はマーケティングが持つ、という分け方が考えられます。マーケティングの側は、ホワイトペーパーや調査を作る過程で、業種ごとの論点をすでに集めていることが多いからです。

分けるときに決めておくのは、受け渡しの形です。マーケティングから営業へは「業種ごとに、外れにくかった見立てと、その根拠になった案件の要約」を1枚ずつ渡し、営業からマーケティングへは場面3で残した結果の欄を戻します。この往復があると、商談の現場で外れた見立てが、次の資料や事例の作り直しにつながります。AIには、両方の記録を同じ項目に揃える作業と、業種ごとの集計の下書きを任せられます。

ただし、マーケティングが作った業種ごとの見立てを、営業がそのまま個社に持ち込むと、場面1で見た一般論の問題に戻ります。業種の型はあくまで出発点で、相手1社の公開情報と言葉に当てて組み直すのは営業の仕事です。業種の型と個社の見立ての境目を、だれが持つかを先に決めることで、分担しても示唆の質は落ちません。

持ち込む示唆の点検表

商談の前に、上長と担当者が一緒に確かめる点検表です。すべてに答えられない示唆は、問いの形に弱めるか、持ち込みを見送ります。

点検の項目確かめること答えられないときの扱い
観察の出典公開情報のどの資料の、どの記述か出典を示せない観察は外す
根拠の案件自社の記録のどの案件か。元の記録に戻って読んだか一般論として扱い、示唆の根拠にしない
相手のAIとの差相手が自分のAIで出せる見立てと何が違うか差が無ければ持ち込まない
自社との結びつきその課題に自社が何を差し出せるか情報提供にとどめ、提案の入口にしない
相手の言葉相手の業界・会社で使う言い方に直したか商談中に相手の言葉を拾ってから出す
外れたときの手引く言い方と、次に確かめる候補を決めたか決めるまで持ち込まない
守秘社名や個社が特定される内容を含まないか表現を一般化するか、使わない

表の3行目の「相手のAIとの差」が、この型で最も重い項目です。準備の段階で、相手の立場で生成AIに同じ質問をしてみて、出てきた答えと自分の示唆を並べてください。ほとんど同じなら、その示唆は相手にとって新しくありません。差が出るのは、自社の案件記録か、公開情報の組み合わせのどちらかに由来する部分のはずです。

インサイトセールスでやりがちな失敗

型を取り入れた営業部門でよく見かける失敗を挙げます。多くは、AIの下書きと人の判断の境目があいまいなときに起きます。

  • AIが並べた潜在課題を、そのまま初回商談で読み上げる:相手のAIでも出せる一般論で、新しさが無い
  • 出所の分からない業界の数字で驚かせようとする:相手に出典を聞かれて答えられず、示唆全体の信頼を落とす
  • 見立てを結論として言い切る:相手の事情を知らない立場からの断言は、正しくても受け入れられにくい
  • 外れた後も同じ見立てで粘り続ける:具体的な事実で否定されたなら、前提が違っていたと認めるべき場面
  • 外れた示唆を記録に残さない:次の担当者が同じ外れ方を繰り返し、素材がたまらない

最後の失敗は、型を続けるほど効いてきます。インサイトセールスの強さは、担当者個人の勘ではなく、組織にたまった当たりと外れの記録から生まれます。記録が無ければ、毎回の準備がAIの一般論からやり直しになり、相手のAIとの差はいつまでも広がりません。

  • 本稿の定義は、ハブスポット日本法人のブログ記事など、公開されている解説で確かめた範囲に基づきます
  • 効果の大きさを示す数字は、出典を確かめられたものが無いため載せていません
  • 相手から預かった非公開の資料や個人に関する情報を外部のAIサービスに入れる場合は、自社の規程と契約を先に確かめてください

まとめ

インサイトセールスは、相手がまだ気づいていない課題を先に示し、相手と一緒に確かめていく営業の型です。買い手も生成AIで見立てを作って来る今、AIで誰でも出せる一般論は示唆として働きません。素材は、自社の案件記録、多くの会社を横から見ている立場の観察、相手の公開情報どうしの読み合わせから作ります。商談の前は候補の列挙、似た案件の検索、根拠の抜けと反論の指摘をAIに任せ、示唆は観察・似た状況・見立て・問い・外れたときの手の5項目で1枚に組みます。何を持ち込むか、相手の業界での言い方、外れたときに引くか粘るかは人が決め、外れた示唆は記録に戻して次の素材にしてください。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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