AI研修の費用は助成金で下がる?|申請の要件と落とし穴

「AI研修に助成金が使えると聞いたので、予算は半分で見ておけばいいですよね」「研修会社から『実質の負担なしでできます』と言われたのですが、そのまま進めて問題ないでしょうか」。——見積りを受け取った直後は、この読み方に傾きやすい場面です。どちらも助成金を値引きの一種として捉えている点が共通しています。ですが制度の側から見ると、助成金は値引きではありません。いったん全額を自社で払い、決められた順番で届け出て、記録を残して申請し、審査を通ってはじめて一部が戻る後払いの仕組みです。順番を1つ間違えるだけで、研修の中身がどれだけ良くても支給されません。この記事では、AI研修の費用を「いつ払っていつ戻るか」の時間軸で組み立て直したうえで、どの制度がどの研修に当たるのか、対象から外れる線はどこに引かれているのか、当てが外れたときにどう畳むのかまでを整理します。数字はすべて、2026年9月1日の時点で公開されている令和8年度の公式資料を取り直して確かめたものです。
カメ先生助成金というと、費用が最初から割り引かれる仕組みだと思われがちなんだ。でも制度の側から読むと、これは値引きではなく後払いの払い戻しでね。会社がいったん全額を払い、計画のとおりに訓練を実施して、記録を揃えて申請して、審査を通ってはじめて口座に入る。しかも順番まで決まっているんだよ。
カメ子先に全額を払う前提で予算を組む必要がある、ということですか。
カメ先生そうだね。そしてもう一つ、「AIの研修だから対象になる」とは限らない。国が出した資料には、生成AIを使って営業の提案書を作る手順を学ぶ訓練は対象、汎用的な指示文の書き方だけを学ぶ訓練は対象外、と例が並べて示されている。同じAI研修でも、受ける人の業務にそのまま当たるかどうかで線が引かれているんだ。
カメ子研修の名前ではなく、中身がどこまで具体的かで分かれるのですね。予算を組む段階で、その線引きを先に見ておかないと当てが外れそうです。
- 助成金は値引きではない。全額を先に払い、訓練が終わってから2か月以内に申請し、審査を経て戻る。予算は戻りを見込まない額で先に通しておく
- 同じAI研修でも線引きがある。令和8年8月3日以降に提出する計画では、汎用的な指示文の書き方や概念の理解にとどまる訓練は対象外と示された
- 国の制度は10時間以上、東京都の制度は3時間以上10時間未満。研修を何時間で設計するかが、先に申請先を決めている
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「半分になる」ではなく「全部払ってから一部が戻る」
最初に、お金と手続きが動く順番を並べます。事業内職業能力開発計画を作って職業能力開発推進者を選ぶ、職業訓練実施計画届を出す、訓練を実施する、経費を全額支払う、支給申請する、審査を受ける、入金される。この7段階です。受講料の請求書が来るのは3段目から4段目のあいだで、戻ってくるのは7段目ですから、あいだには数か月の開きがあります。
開きが生まれるのは、支給要件そのものがそう書かれているからです。パンフレットには「対象となる経費は、支給申請までに申請事業主が全て負担していることが必要です」とあります。支払いが済んでいないと申請自体ができません。さらに「対象労働者に訓練経費を一部でも負担させている場合、賃金助成を含め、不支給となります」とも書かれています。受講者から少額でも徴収する運用にしていると、経費助成だけでなく賃金助成まで消えます。
ですから予算は2段構えにします。一次予算は、助成がまったく通らなくても事業として成り立つ額で組む。そのうえで、戻ってきた分は翌期の研修原資として扱う。この順番にしておけば、審査に時間がかかっても、要件の解釈が窓口と食い違っても、研修そのものは止まりません。逆に助成を織り込んだ額で稟議を通すと、不支給になった瞬間に研修の可否まで巻き戻ります。
AI研修の費用は、受講料の外側にもある
見積書に載る受講料は、AI研修の費用の一部でしかありません。演習で使う生成AIの利用料、自社の資料を教材に作り替える手間、受講者が席を外している時間、そして申請のための書類を揃える社内の作業。このうち助成の対象になるのは、原則として外部に払った受講料まわりだけです。
対象になる経費は具体的に列挙されています。外部の教育訓練機関に委託する場合は、受講に際して必要となる入学料・受講料・教科書代等で、しかも「あらかじめ受講案内等で定めているもの」に限られます。逆に対象外として名指しされているのが、受講生の旅費や宿泊費、消費税、そして繰り返し活用できる教材です。パソコンのソフトウェアや学習用の動画は後者に入ります。訓練以外の場面でも汎用的に使うパソコンや周辺機器も対象になりません。
AI研修に固有の事情もあります。扱うツールの画面も機能も半年で変わるため、教材は毎年作り直しになります。この更新費は受講料に含まれていれば対象、自社で作り直すなら対象外という分かれ方をします。「戻る可能性のある費用」と「絶対に戻らない費用」を最初から別の行に書いておくと、稟議の場で助成の話と研修の話が混ざりません。
助成を使ったことがある会社は6社に1社しかない
実際にどれくらい使われているのかを、公表されている調査で確かめます。厚生労働省が2026年に公表した令和7年度の能力開発基本調査によると、人材開発支援助成金を受給したことがある企業の割合は15.3%でした。内訳は、令和6年度に初めて受給した企業が1.8%、令和6年度と令和5年度以前の両方が5.5%、令和5年度以前のみが8.0%です。
使っていない企業の内訳のほうが示唆的です。「制度について知っていたが、受給したことはなかった」が51.9%、「制度について知らなかったため、受給したことはなかった」が32.8%。同じ調査は「受給したことがない企業が8割以上を占めている」と書いています。つまり最大の関門は制度の存在ではなく、知ったうえで申請まで進まないことにあります。手続きの重さが、そのまま利用率の差になっています。
費用そのものの水準も同じ調査に載っています。業務を離れて行う訓練に費用を支出した企業は50.1%、支出した企業の労働者一人当たり平均額は2.0万円で、前回の1.5万円から0.5万円上がりました。一方で、訓練にも自己啓発支援にもまったく支出していない企業が45.5%あります。今後3年間の見込みでは、正社員向けの支出を「増加させる予定」が34.3%、「減少させる予定」が1.7%、「実施しない予定」が41.0%。増やす会社とやらない会社に割れており、AI研修の予算を通す側は、この分岐の上で説明することになります。
国の制度には入口が3つある
人材開発支援助成金は複数のコースに分かれており、AI研修で使う可能性があるのは主に3つです。どれを選ぶかで助成率も上限も変わるので、先に横に並べます。数字はいずれも中小企業の場合で、令和8年8月3日版の案内に基づくものです。
| 入口 | 経費の助成率 | 1人1訓練の上限(10時間以上100時間未満) | 向いている研修 |
|---|---|---|---|
| 人材育成支援コース | 45%(要件充足で+15%) | 15万円 | 職務に関連した一般的な研修 |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 75% | 30万円 | デジタル化などに直結する研修 |
| 人への投資促進コース(定額制訓練) | 60%(要件充足で+15%) | 1人1月あたり2万円 | 定額の受け放題サービス |
経費のほかに賃金助成もあります。人材育成支援コースは1人1時間あたり800円、事業展開等リスキリング支援コースは1,000円です。ただしeラーニング、通信制、定額制サービスによる訓練は経費助成のみで、賃金助成はありません。動画で学ばせる設計にすると、この分がまるごと落ちます。所定労働時間外に実施した時間も賃金助成の対象から外れます。
上限は2種類あります。1人1訓練あたりの限度額は表のとおりで、これは訓練時間で区分が変わります。加えて1事業所が1年度に受け取れる額の上限があり、人材育成支援コースは1,000万円、人への投資促進コースは2,500万円、事業展開等リスキリング支援コースは1億円です。1人が1年度に受けられる回数も3回までと決まっています。年度とは、支給申請日を基準にした4月1日から翌年3月31日までを指します。
どの入口に入るかは、訓練の長さと目的で決まる
3つの入口に共通する下限が、実訓練時間数10時間です。通学制や同時双方向型の場合は、1コースあたりの実訓練時間数が計画届を出す時点と支給申請の時点の両方で10時間以上であることが求められます。eラーニングや通信制の場合は、標準学習時間が10時間以上、または標準学習期間が1か月以上です。半日の研修を1本だけ、という設計は国の制度では届きません。
事業展開等リスキリング支援コースは助成率が最も高い代わりに、訓練の目的に条件が付きます。事業展開に伴うもの、デジタル化や脱炭素化を進めるうえで必要なもの、企業内の人事及び人材育成に関する計画に基づき今後従事する予定の職務に必要なもの、のいずれかです。1つ目は訓練開始日から3年以内に実施予定か6か月前までに実施した事業展開に限られ、3つ目は定額制サービスが対象外で、しかも訓練開始時点で従事している職務と異なる職務でなければなりません。異なるかどうかは職業分類の小分類で判断されます。
なお、より高い助成率の枠として高度デジタル人材訓練もありますが、事業主の側に条件が付きます。主たる事業が情報通信業であること、産業競争力強化法に基づく事業適応計画の認定を受けていること、情報処理推進機構からデジタル化推進の認定を受けていること、推進指標の自己診断を提出していること、といったもののいずれかです。一般的な事業会社がAI研修の入口として使うのは現実的ではありません。まずは前の3つで考えるのが順当です。
生成AIの研修が外れる線は、令和8年8月3日に引き直された
ここが、この記事で最も注意して確かめた箇所です。厚生労働省は令和8年8月3日付で事業展開等リスキリング支援コースの改正リーフレットを出し、デジタル化や脱炭素化に関する訓練であっても、「職務に間接的に必要となる知識・技能を習得させる内容のもの」と「職業、または職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となるもの」は助成対象外になったと示しました。
同じリーフレットは、生成AIの研修を名指しで例示しています。助成対象とされたのは「生成AIを活用して商品提案書の構成案作成、文章生成、修正方法を学ぶ営業担当者向けの訓練」で、理由は営業担当者の具体的な業務に直結し、そのまま活用可能な内容だからと書かれています。逆に助成対象外とされたのは「生成AIを利用するために汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練」で、理由は特定の業務への具体的適用を伴わない汎用的内容だから。あわせて「DXの概念、デジタル技術の概要、データ活用の考え方を学ぶ訓練」も、共通知識の習得にとどまるとして対象外に挙げられています。
さらに、受講者の選び方でも結論が変わります。同じリーフレットは、自社のエネルギー使用量データの収集方法と排出量の計算手順を学ぶ訓練について、その算定業務を担当する者を対象にする場合は助成対象、人事や営業に従事する者を対象にする場合は助成対象外としています。つまりAI研修という名前では判定されない。誰のどの業務に、そのまま当たるかで判定されるということです。全社員に一律で同じAI研修を配る設計は、この一点で落ちます。
対象外は、研修の名前ではなく実施目的で判定される
生成AIに限らず、実施目的そのもので対象外になる訓練が列挙されています。カリキュラムを作る前に一度目を通しておくと、後から時間数が足りなくなる事故を防げます。
- 職務に間接的にしか関わらない内容:普通自動車運転免許の取得のための講習など
- 職種を問わず職業人として共通して必要なもの:接遇・マナー講習など、社会人としての基礎的なスキルを習得するための講習
- 趣味教養を身につけることを目的とするもの:日常会話程度の語学の習得のみを目的とする講習、話し方教室
- 通常の事業活動として遂行されるもの:コンサルタントによる経営改善の指導、自社の業務で用いる機器・端末等の操作説明、自社製品の説明、業績報告会
- 職務に関する知識・技能の習得を目的としていないもの:意識改革研修、モラール向上研修
- 役職として求められる知識・技能:管理職研修、マネジメント研修、リーダーシップ研修(人事及び人材育成に関する計画に基づく訓練の場合)
重要なのは、これが全体か無かの判定ではないことです。案内には「カリキュラム全体のうち一部に含まれる場合も、その時間は助成対象となりません」とあり、除外して算定した実訓練時間数が10時間以上必要だと明記されています。AI研修は冒頭に「生成AIとは何か」の概論を置きがちですが、その時間は数から抜けます。抜いた残りで10時間に届くかを、時間割の段階で確かめる必要があります。
実施方法で外れるものもあります。専らビデオのみを視聴して行う講座、海外や洋上で実施するもの、営業中の生産ラインや就労の場で行うもの、年次有給休暇を与えて受講させる訓練、あらかじめ定められた計画通り実施されない訓練、文章や図表で内容を表現した教材を使わずに行う講習。最後の2つは運用でつまずきやすく、日程を後から動かしたり、口頭説明と画面共有だけで進めたりすると該当します。
申請の順番を間違えると、中身が良くても通らない
順番の話に戻ります。ここを外すと、要件をすべて満たしていても受け取れません。事業展開等リスキリング支援コースを例に、期限の付いた手順を並べます。
職業能力開発促進法上は努力義務ですが、この助成金では前提条件です。案内には「職業訓練実施計画届の提出までに選任・策定・従業員への周知を行っていることが必要です」とあります。届出の直前に思い出しても間に合いません。
誰のどの業務に、どこがそのまま当たるのかを、カリキュラムと対象労働者一覧の両方で説明できる形にします。受講者の職務が合っていないと、内容が適切でも対象外になります。
提出期間は訓練開始日の6か月前から1か月前までの間です。定額制サービスの場合は契約期間の初日から起算して1か月前まで。期限が土日祝なら翌開庁日、郵送は到達日が提出日で、消印有効ではありません。
受講時間は実訓練時間数の8割以上が必要です。出勤簿、賃金台帳、受講の記録は、後から作るのではなく訓練と同時に残します。日程や講師が変わったら変更届を出します。
支給申請までに申請事業主が全額を負担していることが要件です。分割払いの残りがあると申請できません。
訓練終了日の翌日から2か月以内が期限で、厳守と明記されています。一度提出した書類は、事業主の都合による差し替えや訂正ができません。
先に契約したり先に開催したりすると、なぜ取り返しがつかないのか。計画届の提出期間が「訓練開始日の1か月前まで」だからです。来月から始める研修は、今日届け出ても期間の外になります。ここに例外があるのは定額制サービスだけで、すでに利用が始まっている場合は、計画届を提出した日から起算して1か月後を契約期間の初日とみなし、その先の期間分が助成されます。過去にさかのぼる救済ではありません。
訓練時間は、思っているより短く数えられる
10時間という下限は、時間割の合計とは一致しません。数え方が決められているからです。昼食などの食事を伴う休憩時間は含められず、総訓練時間数にも入りません。移動時間も含められません。訓練の合間にとる1回30分以下の小休止は1日あたり累計60分まで、開講式・閉講式・オリエンテーションは1回の計画届あたり累計60分までしか算入できません。
この数え方を当てると、見積りは簡単にずれます。1日6時間の研修を2日で12時間、という計算は成立しません。昼休みを引き、初日の説明と最終日の講評を60分までに抑え、そこから概論部分を対象外として引くと、10時間を割ることが起きます。研修会社の見積書に書かれた「研修時間」と、制度上の実訓練時間数は別の数字です。
対策は単純で、時間割に列を1つ足すことです。各コマの横に「助成の対象として数える時間」を書き、合計を出しておく。所定労働時間外に実施する分は、実訓練時間数に含まれても賃金助成の対象からは外れるので、そこも分けて書きます。この1枚があると、研修会社との調整も、社内の稟議も、労働局の窓口での確認も同じ数字で話せます。
支給申請でつまずくのは、記録が揃わないとき
要件を満たしていても、証明できなければ支給されません。申請時に求められる主なものは、対象労働者の雇用契約書または労働条件通知書の写し、賃金台帳または給与明細書の写し、出勤簿またはタイムカードの写し、訓練の実施状況の報告書、修了を証明するもの、受講の進み具合が分かる記録、そして請求書と領収書または振込通知書です。出勤簿については「日ごとに始業時刻、終業時刻、休憩時間が分かるもの」と条件まで書かれています。
写しの作り方にも決まりがあります。案内は、添付書類の写しは「原本から転記および別途作成したものではなく、実際に事業場ごとに調製し記入しているもの、または原本を複写機を用いて複写したもの」を出すよう求め、加工や転記が確認された書類は無効になると明記しています。申請用にきれいな一覧を作り直すと、その書類は使えなくなります。日々の運用でつけている帳簿そのものが証拠になります。
保存期間は支給決定後5年間です。加えて、訓練実施日に訓練が行われているかどうかや関係帳簿類を確認するため、事前連絡をせずに事業所を訪問する調査があり得ると書かれています。調査に協力できないと受給できません。記録は申請のために整えるものではなく、5年後に説明できる状態で残すもの、と考えたほうが実態に合います。
- 制度は年度で変わります。同じ令和8年度でも、コース共通の改正が4月8日に、事業展開等リスキリング支援コースの改正が8月3日に入っています。ここに書いた数字は2026年9月1日時点で公開されていた資料に基づくものです。申請の前に、必ず最新の案内と支給要領を発行元で確かめてください。
受講料の値付けと返金は、いま最も厳しく見られている
冒頭の「実質の負担なしでできます」に戻ります。これは制度の側から明確に否定されています。まず値付けについて、案内は「受講料等が他の講座等と比べて著しく高額に設定されている場合」で合理的な理由がないとき、その差額は支給対象にならないと定めています。挙げられている例は、助成金を申請する事業主の受講料が30万円、申請しない事業主が10万円という価格設定で、差額の20万円は対象外になるというものです。
返金はさらに重く、全額が飛びます。教育訓練機関等から、実施済みの訓練経費の全部または一部について負担額の実質的な減額となる金銭の支払いを受けた場合、または受ける予定がある場合は、全額が支給対象外になります。対象とならない例には、訓練成果のレビューや受講インタビューといった広告宣伝業務の対価、営業協力費、協賛金が並び、「名目を問いません」と念を押されています。
公式資料自体が注意喚起を載せています。助成金を活用して従業員に訓練を実質無料で受けさせることができるなどと謳い、本来受けることができない助成金や訓練の提案・勧誘を行う訓練機関やコンサルティング会社が存在する、という情報が寄せられているという記述です。不正受給と判断されれば、返還に加えて年3%の延滞金と返還額の20%の違約金がかかり、企業名の公表や5年間の不支給措置もあり得ます。「実質無料」という言葉が出た時点で、その提案は制度の外側にあると考えて構いません。
定額制のサービスを助成で見るときの数え方
AI研修を受け放題のサービスでまかなう会社も増えました。定額制訓練は経費助成のみで、中小企業は60%、賃金要件などを満たすと+15%です。上限は受講者1人1月あたり2万円、訓練の実施期間は1年以内。業務上義務付けられ、労働時間内に実施される訓練であることも要件です。就業時間外に各自で見てもらう運用は、この時点で外れます。
割合の要件が2つあります。1つは講座の中身で、サービス内に趣味教養型などの対象外訓練が含まれる場合、全体の講座数に占める対象講座の割合が5割以上でなければなりません。もう1つは受講者側で、修了した訓練の標準学習時間が支給申請時に合計10時間以上の人だけが対象です。この下限は令和8年4月8日の改正で1時間から10時間に引き上げられました。同じ改正で、eラーニングと通信制の1人1訓練あたりの経費助成の上限も、中小企業で30万円から15万円に下がっています。
契約の仕方でも減ります。受講者数の区分で料金が決まるサービスで、対象者が30人なのに50人から99人の区分で契約した場合、対象になるのは30人に対応する区分の料金までです。公式の例では、1つのアカウント1万円と10アカウント9万円という設定のとき、10人分を1つずつ契約して10万円払っても、対象は安いほうの9万円分とされています。加えて、令和8年8月3日以降に提出する計画では、eラーニングによる訓練は1労働者につき1年度で1回までです。
自治体の制度は、短い研修を拾う
国の制度が10時間以上を下限にしているため、半日のAI研修は入口がありません。ここを埋めるのが自治体の制度です。東京都の例では、公益財団法人東京しごと財団が令和8年度のDXリスキリング助成金を実施しています。都内の中小企業等が対象で、助成額は助成対象経費の4分の3、受講者1人1研修あたり上限75,000円、1つの申請企業等あたり100万円が上限です。上限に達するまで複数回の申請ができます。
特徴は時間の条件です。1研修あたりの総研修時間数が3時間以上10時間未満であること、と定められています。国の下限とちょうど裏返しになっており、3時間から10時間未満は都、10時間以上は国、という住み分けになります。総研修時間数の8割以上を受講することが必要で、賃金が発生しない休憩時間は含めません。業務命令として労働時間内に実施し、所定の賃金を支払っていることも条件です。
併給はできません。要件に「助成を受けようとする研修について国又は地方公共団体から助成を受けておらず、今後受ける予定もないこと」と明記されています。期限も国とは別で、交付申請書の提出は研修開始予定日の1か月前まで、受付期間は令和8年3月1日から令和9年2月28日まで。対象は令和8年4月1日から令和9年3月31日までに開始し、令和9年8月31日までに終了する研修です。自社の所在地に同種の制度があるかは、着手前に自治体の公式ページで確かめてください。
助成が当てにできない前提で、費用を組み直す
要件を読むほど、通らない可能性は現実味を帯びます。そこで、助成をゼロと置いても成り立つ組み立てを先に用意します。打ち手は4つあり、効くところと副作用が違います。
| 打ち手 | やること | 効くところ | 副作用 |
|---|---|---|---|
| 対象人数を絞る | 業務が決まっている部署の担当者だけに限定する | 誰のどの業務かが明確になり、要件とも一致しやすい | 全社の底上げは別の手段で用意することになる |
| 内製の割合を上げる | 外部講師は設計と初回のみ、2回目以降は社内で回す | 外に払う費用が減り、教材の更新も社内で回せる | 社内の人の時間が増え、質が担当者に依存する |
| 複数年に分ける | 1人1年度3回までの回数と上限に合わせて分割する | 上限に当たらず、翌年度の改正にも合わせやすい | 効果が出るまでの期間が延びる |
| 長さで分けて出す | 3時間から10時間未満は自治体、10時間以上は国に出す | 時間の下限で落ちる事故がなくなる | 申請先が2つになり、事務の手間が増える |
選ぶ順番が大事です。まず戻りゼロでも通る額を決め、その中に収まる人数と時間で研修を設計する。そのうえで、どの制度の条件に寄せられるかを見る。逆にすると、制度の条件に合わせて研修の中身が歪みます。要件を満たすためだけに時間を水増しした研修は、受講者にすぐ見抜かれます。
見るべき数字は総額ではなく1人あたりの単価です。国の制度は1人1訓練あたりの限度額(10時間以上100時間未満で中小企業15万円または30万円)、都の制度は1人1研修75,000円と、いずれも1人あたりで頭打ちになります。少人数向けの単価が高い研修ほど上限に当たりやすく、助成率どおりには戻りません。助成率ではなく上限額のほうが、実際の戻り額を決めていることが多い点は、見積りの段階で押さえておきたいところです。
AIに申請の可否を判断させない
最後に、この記事の内容そのものの扱い方です。生成AIに「この研修は人材開発支援助成金の対象になりますか」と尋ねれば、それらしい答えが返ってきます。しかし要件は年度で変わり、令和8年度だけでも4月8日と8月3日に別の改正が入っています。学習した時点の古い条件で答えているかどうかは、答えの見た目からは判別できません。もっともらしさと正しさは、ここでは連動しません。
判定は人がします。要件の解釈は、事業所の所在地を管轄する労働局の窓口と、社内で申請を担当する人が決めるものです。AIに任せてよいのは、公開されている資料の該当箇所を探すこと、提出書類の一覧を作ること、自社に揃っている書類と突き合わせて抜けを挙げること。可否の判断そのものは渡さない、と決めておくだけで、事故の芽はかなり減ります。
そのために、着手前に線を引いておきます。AIの出力をそのまま使ってよい範囲と、必ず人が原典に当たる範囲を紙に書く。要約させるときは、出典のページ番号か見出しを一緒に出させ、人がそこを開いて確かめる。根拠を示せない答えは使わない。人が原典に当たる項目は、次の6つに絞れば十分です。
- 訓練時間の下限と、そこに数えてよい時間の範囲
- 計画届の提出期限と、支給申請の期限
- 対象になる経費と、対象にならない経費
- 助成率と、1人あたり・1事業所あたりの上限額
- 対象外となる訓練の実施目的と、受講者の職務との関係
- 国と自治体の制度を併せて使えるかどうか
まとめ
AI研修の費用を組み立てるときの要点は、助成を値引きとして計算に入れず、後払いで戻る可能性として扱うことです。全額を先に払い、計画届を訓練開始の1か月前までに出し、記録を残し、終了の翌日から2か月以内に申請する。この順番が守れて初めて、経費の45%から75%が戻る可能性が生まれます。そして令和8年8月3日以降は、生成AIの研修であっても、汎用的な指示文の書き方や概念の理解にとどまるものは対象外と示されました。通るのは、受講者の業務にそのまま当たる内容です。まずは、いま検討している研修について「誰の、どの業務に、どこが当たるのか」を1行で書いてみてください。それが書けない研修は、助成の可否以前に、費用をかける理由のほうを整え直す段階にあります。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
AI活用を戦略に落とす前に、まずは導入・定着から始めませんか?
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