ハウスリストが増えても商談は増えない|使える名簿に変える順番

「1万2千件という件数を会議で報告したところ、では商談は何件になるのかと返され、そこで話が止まりました」「昨年より件数は増えているのに、配信から生まれる問い合わせは減っています」。——メール配信やMAの運用を任されている担当者から、期の終わりに集中して届く声です。件数は毎月きちんと積み上がっているのに、その先の数字だけが動かない。件数が増えても商談が増えないのは、名簿が足りないからではありません。1万2千件のうち、いま実際に送れて、届いて、読まれている件数が数えられていないからです。ハウスリストとは、自社で集めて自社が持っている名簿のことです。買ったリストや、媒体から借りたリードとは、使ってよい範囲も育て方も違います。この記事では、件数ではなく「使える件数」で名簿を捉え直し、足りない情報をどの順番で埋めていくかを整理します。
カメ先生名簿は件数を増やせば商談が増えると思われがちなんだ。でも増えているのは、たいてい送れない件数のほうなんだよ。宛先が変わっている、同意をいつ取ったか分からない、そもそも自社の商材と関係がない。この三つが混ざったまま件数だけが積み上がっていく。
カメ子名簿に載っている件数と、使える件数は、別のものだということですか。
カメ先生そうなる。もう一つ厄介なのは、使えない件数が多いほど、使える相手にも届きにくくなることなんだ。反応のない宛先に送り続けると送信元の評価が下がって、同じ送信元から出している他の配信まで巻き込まれてしまう。
カメ子増やす前に、いま何件が使えるのかを数えるところから始める、という順番になるのですね。
- 名簿は件数ではなく、届く件数・反応が続いている件数・企業として見た社数で数える
- 埋める順番は会社の情報、人の情報、行動の履歴。使えるかどうかは入口の設計で先に決まる
- AIには推定と候補出しを任せ、送ってよい相手かどうかと除外の最終決定は人が持つ
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「1万件あります」で会話が止まる
報告の場で同じ止まり方をする会社は多くあります。名簿の件数は前年より確かに増えている。配信の本数も減らしていない。それでも、そこから生まれた商談の数を聞かれると、答えが出てきません。件数と商談のあいだをつなぐ数字が、どこにも用意されていないからです。件数が表しているのは「持っている」ことだけで、「届く」ことでも「読まれる」ことでもありません。
商談は、三つの条件がそろった相手からしか生まれません。宛先が今も生きていること。送ってよい相手であること。そして、いま自社の商材が関係する状況にあること。名簿の件数は、この三つのどれも表していません。だから件数を積み上げても、商談の数は動きません。動かないまま件数だけが増えると、翌年の道具の費用と、配信の到達だけが静かに悪くなっていきます。
この記事は、原因を五つに分けて先に押さえます。そのうえで、件数に代わる数え方を決め、足りない情報をどの順番で埋めるかを組み立てます。表記のゆれをどう寄せるか、同じ会社の行をどう一つにまとめるかといった手順の細部には踏み込みません。ここで扱うのは、その前段にある「何を数え、どこから埋めるか」の設計のほうです。
ハウスリストとは何を指すのか
ハウスリストとは、自社で集めて自社が持っている名簿のことです。資料請求、ウェビナーの申込、問い合わせ、展示会での受付、名刺交換、そして既存の取引先。取得の経緯が自社の中にあり、自社の名義で連絡できるものがここに入ります。「自社が集めた」と「自社が持っている」の両方がそろって、はじめてハウスリストと呼べます。
買ったリストは、集めたのが自社ではありません。名簿を提供する側は、本人の同意を一件ずつ取り直さずに提供するために、個人情報保護法第27条第2項の枠組みを使い、提供する項目や取得の方法などを本人が容易に知り得る状態に置いたうえで、個人情報保護委員会に届け出ています。買った側から見れば、その相手が自社に連絡を求めたわけではない、という事実は変わりません。借りたリストはさらに別で、配信の名義は媒体の側にあります。反応した一部だけが自社に渡り、それ以外の件数は自社の名簿にはなりません。
この違いは、育てるときに効いてきます。ハウスリストは入口を自社で設計できるので、あとから項目を足せます。次に資料を出すとき、次にウェビナーを開くときに、足りない項目を一つだけ聞き足す、という積み上げ方ができます。買ったリストと借りたリストには、この積み上げ方が使えません。取得の経緯を後から作ることはできないからです。
件数が増えても商談が増えない五つの原因
件数が増えても商談が増えない理由は、だいたい次の五つに収まります。順に、届かない、送ってよいかを確かめられない、誰なのかが分からない、取引の履歴とつながっていない、そもそも自社の商材に関係がない。五つのうち四つは名簿の中を見れば分かりますが、五つ目だけは商材の側から見ないと分かりません。
| 原因 | 名簿の上での見え方 | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 宛先に届かない | 配信のたびに一定数が戻る。戻らないが誰も開かない行が層になっている | 直近の配信で、送った件数と実際に届いた件数の差を出す |
| 送ってよいかを確かめられない | 取得日と取得元の列が空欄、または全行に同じ日付が入っている | 1行を選び、いつどの入口から入ったかを画面で追えるか試す |
| 誰なのかが分からない | 会社名とメールアドレスはあるが、部署と役職の列が半分以上空いている | 役職で絞り込んで件数を出す。極端に少なければ埋まっていない |
| 取引の履歴とつながっていない | 同じ会社が配信の道具と販売管理の両方に、別々に存在している | 直近に受注した会社が名簿の中でどう見えているかを5社ぶん照らす |
| 自社の商材に関係がない | 反応はあるのに商談にならない層が、特定の入口に固まっている | 入口ごとに、商談になった件数とならなかった件数を並べる |
この表の右の列は、どれも半日あれば終わります。順番も大事で、上から順に確かめると、下の原因を調べる手間が減ります。届かない行を先に外せば、誰なのかを埋める対象がその分だけ減るからです。逆に、誰なのかを埋める作業から始めると、そもそも届かない相手の情報を埋めるために時間を使うことになります。
原因1:届かない件数が見えていない
最初に見るのは、送った件数と実際に届いた件数の差です。差の中身は二つに分かれます。宛先そのものが無くなっていて戻ってくるものと、戻りはしないが受信箱には入っていないものです。前者は数えられますが、後者は数えられません。だから届く件数は直接は測れない数字だと割り切って、届かなかったことが分かった件数を引いた残りとして扱います。
届かない件数を抱えたままにすると、届く相手にも影響が出ます。Googleが公開しているメール送信者向けの指針では、個人の受信箱あてに24時間以内に5,000件近く、あるいはそれ以上を送る送信者を一括送信者と呼びます。件数は同じ主要ドメインからの送信を合算して数え、一度でも該当した送信者は恒常的に一括送信者として扱われ、この状態に期限はありません。送り方を変えても、いったん付いた区分は外れないと明記されています。
同じ指針は、利用者から迷惑メールとして報告される割合を0.1%未満に抑え、0.3%以上にならないようにすることを求めています。0.3%を超えた送信者は緩和の申し立てができず、7日間続けて0.3%を下回ってはじめて申し立てができます。要件は2024年2月以降に適用が始まり、2025年11月からは要件を満たさない送信への措置が強められています。反応のない件数を抱えたまま送り続けると、同じ送信ドメインを使う他部署の配信まで一緒に沈みます。
原因2:同意の記録が残っていない
次は、送ってよい相手かどうかです。日本では特定電子メールの送信の適正化等に関する法律が、広告や宣伝を目的とするメールの送信先を限定しています。2002年4月17日に公布された法律で、第3条第1項は送ってよい相手を四つに分けています。あらかじめ送信を求めるか同意する旨を通知した者、省令の定めに従って自分のメールアドレスを通知した者、その営業を営む者と取引関係にある者、そして省令の定めに従って自分のメールアドレスを公表している団体または営業を営む個人です。
このうち二つ目は、施行規則第2条で「書面により通知する方法」と定められています。名刺の交換がここに当たると説明されるのは、この条文があるからです。四つ目は施行規則第3条で、インターネットを利用して公衆が閲覧できる状態に置くこと、と定められています。ただし、そのアドレスと併せて送信を求めない旨の文言が置かれているときは除かれます。公開されているアドレスだから送ってよい、とは限りません。同じ場所に断り書きがあれば、四つ目からは外れます。
記録の側にも条文があります。法第3条第2項は、同意があったことを証する記録を保存する義務を定め、施行規則第4条第2項が期間を決めています。送信をした場合は、その送信を最後にした日から起算して一月を経過する日まで。措置命令を受けた場合は一年に延びます。送り続けているあいだは、この期間の起点がずっと先送りされる仕組みです。裏を返せば、送るのをやめた名簿ほど、記録のほうが先に消えていきます。
原因3:会社は分かるが、誰なのかが分からない
三つ目は、会社は分かるのに、その人が誰なのかが分からないことです。会社名とメールアドレスだけの行も、名簿の上では1件として数えられます。しかし、その1件に何を送るかを決める段になると、材料が足りません。情報システムの担当なのか、マーケティングの担当なのか、その上長なのか。同じ会社に届く1通でも、読む人が違えば次に起きることはまったく変わります。
この列が埋まらない理由は、入口の設計にあります。資料請求のフォームで聞く項目を増やすと、途中でやめる人が増えます。だから項目を削る。削ると、あとで出し分けができなくなる。この綱引きは避けられません。折り合いのつけ方は、全部を最初に聞かないことです。一度目は会社名と氏名とメールアドレスだけにして、二度目の接点で部署と役割を1問だけ足します。
足す聞き方にも順番があります。役職を先に聞くより、「この件について、社内でどこまで決められる立場か」を選択肢で聞くほうが、実務では使える答えが返ってきます。役職の名前は会社ごとに幅がありますが、決められる範囲は自社の側で意味を定められるからです。ウェビナーの申込画面は、この1問を置くのに向いています。参加の目的を書く欄が既にあるので、違和感が出にくいのです。
原因4:取引の履歴とつながっていない
四つ目は、配信の道具の中にある行動の履歴と、販売管理の中にある取引の履歴が、別の場所にあることです。同じ会社が、二つの世界に別々に存在しています。配信の側から見れば新規の見込み客で、販売の側から見れば3年前からの取引先。この状態で配信を回すと、既に取引がある相手に新規向けの案内が届きます。
実務でよく起きるのは三つです。失注した直後に、同じ商材の案内が自動で届く。担当営業がついている会社に、別の切り口の初回提案が届く。解約の申し出をしている最中に、活用事例の案内が届く。どれも配信の側からは見えません。見えないので、止める判断も起きません。配信でつまずく原因の多くは、内容が悪いことではなく、相手の状態を知らないまま送っていることのほうです。
つなぐときの軸は、人ではなく会社に置きます。メールアドレスを軸にすると、担当者が変わった瞬間につながりが切れます。会社を軸にしておけば、担当者が入れ替わっても、その会社との関係は残ります。国が付与している法人番号のように外から確かめられる番号を軸に据える方法もありますが、まず必要なのは、会社の単位で数えられる状態にしておくことです。
原因5:自社の商材に関係のない相手が混ざっている
五つ目は、そもそも自社の商材に関係のない相手が混ざっていることです。学習のために資料を集めている学生、同業の調査、求職の下調べ、無料の資料だけを集めている層。どれも名簿の上では他と同じ1件で、区別は付いていません。件数を目標にしていると、この層はむしろ増やしやすい相手になります。
混ざったまま運用すると、三つの副作用が出ます。反応の割合の平均が下がり、内容の良し悪しを判断する材料が濁ります。読まれないまま残る行が増えて、迷惑メールとして報告される割合を押し上げます。そして、件数で費用が決まる道具では、関係のない相手のぶんも毎年払い続けることになります。件数を目標に置いた瞬間から、この三つは静かに積み上がります。
見分け方は、1件ずつではなく、入口ごとに束で見ることです。入口別に、商談になった件数とならなかった件数を並べると、特定の入口だけ極端に偏っていることが分かります。その入口をやめる必要はありません。やめるのではなく、そこから入った相手を別の名簿に分けて、送る内容と頻度を変えます。ひとつの名簿にまとめて入れているから、判断がぶれるのです。
「使える件数」の数え方を決める
ここから対策です。最初にやるのは、件数に代わる数え方を決めることです。柱は三つ。届く件数、反応が続いている件数、そして企業として見たときの社数。いずれも、定義を先に文章で書いてから数えます。定義を書かずに数え始めると、翌期に別の人が数えたときに違う数が出て、比べられなくなります。
| 数え方 | 定義の例 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 届く件数 | 直近の配信で、宛先が無いなどの理由で戻らなかった件数 | 配信の設計と、道具の費用の見直し |
| 反応が続いている件数 | 過去6か月に一度でも、こちらのページを開くか申し込んだ件数 | 内容の良し悪しを判断するときの母数 |
| 社数 | 同じ会社に属する行をまとめて一つと数えたときの数 | 営業と共通で使う目標 |
| 接点のある社数 | 社数のうち、直近1年に何らかの反応があった会社の数 | 商談の見込みを見積もるときの母数 |
| 名簿の総件数 | 登録されている行の数。上の四つの分母としてのみ使う | 報告の主役にはしない |
社数で数え直すと、話が変わります。5,000件の名簿が800社になることは珍しくありません。1社から6人が登録している会社もあれば、1人だけの会社もあるからです。営業の会話は、はじめから社数で行われています。件数で報告している限り、名簿の話は営業の会話に接続しません。
注意点も書いておきます。開封の数え方は、受信側の仕組みが変わったことで実態を表しにくくなっています。だから反応の定義には、開封ではなくページを開いたことと申し込んだことを入れます。そして期間を必ず入れます。期間の無い「反応がある件数」は名簿を作った日からの累計になり、時間が経つほど良く見えてしまいます。
育てる順番は、会社、人、行動
数え方が決まったら、足りない情報を埋めます。順番は、会社の情報、人の情報、行動の履歴です。この順番には理由があります。会社の情報が無いと束にできず、人の情報が無いと出し分けができず、行動の履歴は貯まるのに時間がかかるからです。逆から進めると、集めたものが使える形になりません。
会社の情報は、所在地、業種、規模、そして既存の取引があるかどうかの四つで足ります。人の情報は、部署と、社内で決められる範囲の二つ。行動の履歴は、資料請求、ウェビナーの参加、価格や導入の手順を説明したページを見たかどうか。この三段がそろうと、はじめて「この条件の相手にはこれを送る」という文が書けるようになります。
よくある逆順は、行動から始めることです。道具を入れると行動は自動で貯まるので、着手した実感が得られます。ところが、会社が特定できていない行動の記録は、束になりません。誰のものか分からない行動が10万件貯まっても、送る相手を1社も決められません。先に会社を特定し、次に人を特定し、そのうえで行動を紐づけます。
入口ごとに、あとで使えるかどうかが決まる
埋める作業と並行して、入口を作り直します。入口ごとに、あとで使えるかどうかがその場で決まるからです。先に挙げた法第3条第1項の四つの区分は、そのまま入口の分類として使えます。資料請求とウェビナーの申込は同意を通知してもらう一つ目、名刺の交換は書面で通知してもらう二つ目、既存の取引先は三つ目、公開されているアドレスは四つ目に当たります。
気をつけるのは、この対応づけを取得の時点で決めておくことです。展示会でバーコードを読み取っただけの取得や、名刺を撮影して取り込んだだけの取得は、あとから「どの区分だったか」を確かめる材料が残らないことがあります。取得の画面と文言を保存しておくか、少なくとも取得元と取得日を1行ごとに残します。この列が空欄の名簿は、送ってよいかどうかの判断が、その日その人の記憶に依存します。
資料請求、ウェビナー、展示会、問い合わせ、名刺。それぞれが四つの区分のどれに当たるかを、運用を始める前に文章で決める
取得日、取得元、そのとき画面に出ていた説明の文言。名簿の列として持ち、あとから1行を追える状態にしておく
一度目は最小限に。二度目の接点で、部署と決められる範囲を1問だけ足す。全部を最初に聞かない
送信者の名称、断りの連絡先、解除できる旨、住所、苦情の受付先を毎回同じ形で載せる。入口を作るときに一緒に決める
出口の設計は入口とひとそろいです。法第4条は、送信者の氏名または名称と、送信を断る通知を受けるためのアドレスなどを表示するよう定め、施行規則第9条は、そこに断りの通知ができる旨、住所、苦情や問い合わせの受付先を加えています。解除しやすくすることは、名簿を減らす行為ではなく、迷惑メールとして報告される割合を下げる行為です。
名簿が古びる速さを見積もる
育てる作業を一度で終わらせられない理由を、数字で見積もっておきます。厚生労働省が2025年8月26日に公表した令和6年の雇用動向調査によれば、2024年の1年間で、一般労働者の離職率は11.5%、入職率は11.8%でした。パートタイムを含む常用労働者の全体では、離職率が14.2%、入職率が14.8%です。この調査は、常用労働者を5人以上雇う事業所から14,867事業所を抽出して行われています。
ここで示されているのは、事業所を離れた人の割合です。同じ会社の中での異動や部署替えは、この数字には含まれていません。名簿の連絡先が使えなくなる速さは、離職だけを見た数字より速いと考えるのが自然です。1万件の名簿なら、1年で1,000件を超える行について、その人がもうそこに居ない可能性が出てくる計算になります。
この見積もりが効くのは、作業の計画を立てるときです。一度きりの棚卸しで名簿をきれいにしても、翌年には1割強が同じ状態に戻ります。だから、まとめて直す作業と、日々の運用で古びさせない作業の両方が要ります。前者は年に一度、後者は配信のたび。この二本立てにしておかないと、棚卸しのたびに同じ作業を最初からやり直すことになります。
生成AIに任せてよいところ
ここまでの作業のうち、生成AIに向いているものと向いていないものを分けます。向いているのは二種類です。決めた条件と突き合わせれば答えが出る作業と、人が選ぶための候補を並べる作業。どちらも、最後に人が見て決める前提でなら、作業量をはっきり減らせます。
- 会社名と公開されている事業内容から業種の区分の候補を挙げ、そう判断した根拠の記述を一緒に返させる
- 同じ会社と思われる行の組み合わせを、似ている理由つきで並べさせる。まとめる判断そのものはさせない
- 役職名の書き方の揺れを、社内で決めた区分に対応づける案を出させる。対応づけの表は人が先に作る
- 入口ごとの反応の偏りを見て、送る相手を切り分ける案を3通り出させる。それぞれの想定件数も添えさせる
- 問い合わせの本文から、困りごとと検討の段階を要約させ、そう読み取った箇所を示させる
使い方には条件を付けます。第一に、推定した値と本人が書いた値を別の列に分けて持つこと。混ぜると、次に見た人が事実として扱います。第二に、根拠を書かせること。第三に、確からしさを添えさせること。根拠の書けない推定は、埋まっているように見えるだけの空欄です。
実務では、この三つを指示の文に固定しておくと安定します。推定の列は名前を分ける、根拠は必ず添える、迷ったら空欄にして理由を書く。三つ目が抜けると、分からない場合にも、もっともらしい値が入ります。空欄のほうが、あとで埋めるべき場所として残るぶん扱いやすくなります。
生成AIに判断させてはいけないところ
一方で、任せてはいけない判断があります。四つです。送ってよい相手かどうか。同意が今も有効かどうか。名簿から外すかどうかの最終決定。そして、消すかどうか。どれも、AIに渡していない情報に依存する判断だからです。取得したときに画面に出ていた文言、その後に本人から届いた申し出、契約の状態。いずれも名簿の列には載っていません。
- 送信してよい区分に当たるかは、取得の経緯を確かめないと決まらない。列の値だけでは足りない
- 同意が有効かどうかは、いつ何に対して同意したかで決まる。古い同意を今の商材に当てはめる判断はさせない
- 除外の最終決定は人が持つ。AIには除外の候補と、その理由になった列の値までを出させる
- 消す判断は戻せない。候補の提示までにとどめ、実行は権限を持つ人が別の手順で行う
- 決めた結果は必ず記録に残す。誰がいつ、どの材料で決めたかが残らないと、次の四半期に同じ議論が起きる
この線引きを最初に書いておかないと、作業の速さに引きずられます。AIは、材料が足りないときに止まるのではなく、それらしい答えで埋めるほうに倒れます。だから止まってよい条件のほうを、先に指示の中に書いておきます。分からない場合は空欄で返す、判断が要る場合は候補までで止める。この二つを入れるだけで、返ってくるものの性質が変わります。
- 名簿の全件をそのまま外部のAIに渡して、送ってよい相手を選ばせる——委託の枠組みを整えないまま個人データを渡すことになる
- 推定した業種や役職を、本人が入力した値と同じ列に上書きする——次に見た人が事実として扱い、元に戻せなくなる
- 反応が無い行をAIの判定だけで一括削除する——取引先の窓口や、社内で転送されているアドレスまで消える
- 根拠を書かせずに合格か不合格かだけを返させる——確認のために結局すべて人が見ることになり、二度手間になる
- 件数を減らすこと自体を目標にしてAIに任せる——減らしやすい行から消え、育てるべき相手が先に消える
外部のAIに個人データを渡す場合は、個人情報保護法の枠組みを先に確かめます。取扱いの一部を委託することに伴う提供であれば、第27条第5項第1号により第三者への提供には当たりませんが、委託先を監督する責任は自社に残ります。渡す範囲を、判断に必要な列だけに絞るのが実務の基本です。会社名と業種だけで足りる作業に、氏名とメールアドレスまで渡す必要はありません。
貯め込みと、消す運用を先に決める
育てる話の最後に、減らす話を置きます。名簿を扱う道具の多くは件数で費用が決まるので、使えない件数のぶんも毎年払うことになります。しかも件数は、放っておけば増えます。増やす仕組みだけを作って減らす仕組みを作らないと、費用は毎年上がり続けます。
法令の側にも根拠があります。個人情報保護法第22条は、利用目的の達成に必要な範囲内で個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めなければならない、と定めています。努力義務ですが、向いている方向ははっきりしています。あわせて第17条は利用目的をできる限り特定することを、第21条は取得したときに利用目的を本人へ通知するか公表することを求めています。集めるときに書いた利用目的の範囲が、あとでその名簿に何を送れるかを決めます。
制度は動いています。2026年7月17日に公布された改正法により、規制は段階的に施行される予定で、罰則に関わる部分は公布から6か月後、本体の多くは公布から2年以内に政令で定める日からとされています。具体の中身は今後の政令や規則、指針で固まります。だからこそ、消す運用は制度が固まるのを待たずに、いまの名簿の形で文章にしておくほうが安全です。
四半期の運用に載せる
最後に、続ける形を決めます。育てる作業は、四半期に一度の点検と、配信のたびの処理に分けます。四半期の点検でやることは決まっているので、手順を書いて回します。毎回ゼロから何をするか考えていると、忙しい四半期に丸ごと飛びます。
- 届く件数、反応が続いている件数、社数、接点のある社数を出し、前の四半期と並べる
- 入口ごとの新規登録の件数と、そこから商談になった件数を並べる
- 取得日と取得元が空欄の行の件数を出し、埋める計画を立てるか、送信の対象から外す
- 部署と決められる範囲の列が埋まっている割合を出し、次の接点で何を聞き足すかを決める
- 直近1年で一度も反応が無い行を抜き出し、送る内容を変えて一度だけ試すか、対象から外すかを決める
- 営業側に社数の一覧を渡し、担当がついている会社と、既に取引がある会社を返してもらう
この点検は、配信の担当だけでは終わりません。六つ目にあるとおり、営業側が持っている情報が要ります。その会社にもう担当がついているかどうかは、名簿の中を何度見ても分かりません。四半期に一度、社数の一覧を渡して返してもらう形にしておくと、この情報は安定して入ってきます。
報告の形も変えます。件数の増減ではなく、使える件数と社数の推移を主役にします。そのうえで、増えた理由と減った理由を1行ずつ添えます。減ったことは悪い知らせとは限りません。使えない行を外した結果として減ったのなら、それは名簿が良くなった証拠です。この1行があるかどうかで、翌期に何をするかの議論の質が変わります。
まとめ
ハウスリストは、自社で集めて自社が持っている名簿です。件数が増えても商談が増えないのは、名簿が足りないからではありません。増えているのが、届かない件数、送ってよいかを確かめられない件数、誰なのか分からない件数、取引の状態が見えない件数、そして自社の商材に関係のない件数のほうだからです。件数は「持っている」ことしか表しません。
だから、数え方を先に変えます。届く件数、反応が続いている件数、社数、接点のある社数の四つを、定義を文章で書いてから数えます。とくに社数は効きます。5,000件が800社になると、営業の会話と同じ単位になり、名簿の話がそこに接続します。総件数は、この四つの分母としてだけ使い、報告の主役にはしません。
埋める順番は、会社の情報、人の情報、行動の履歴です。同時に入口を作り直します。特定電子メール法第3条第1項の四つの区分を、資料請求、名刺、取引、公表されているアドレスという入口に対応づけ、取得の時点で取得日と取得元を残します。表示の側は、法第4条と施行規則第9条にあわせて毎回同じ形で載せます。名簿は、集めた瞬間に、あとで使えるかどうかが決まっています。
生成AIには、業種や役職の推定、重複の候補出し、送る相手の切り分けの案を任せます。ただし推定は別の列に分け、根拠を書かせ、分からない場合は空欄で止めさせます。送ってよい相手かどうか、同意が有効かどうか、外すかどうか、消すかどうかの四つは人が決めます。そして、増やす仕組みと同じ場所に、減らす仕組みを置きます。使える名簿とは、きれいな名簿のことではなく、いまどこが使えないのかを自分で言える名簿のことです。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
メール・MAにAIを活かす第一歩、まずは導入から始めませんか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
