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顧客マスタの重複と表記ゆれを見つけて、名寄せの候補を出す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

顧客マスタのレコードを入力に、表記ゆれと重複の候補を見つけ、法人番号で裏付けの取れたものと取れないものに分けます。担当者の作業は、登録のたびに既存を検索して見比べることから、提示された候補を判断することに変わります。

サマリー
利用ツール
ChatGPT/Claude/Gemini/Python
対象業界
EC/IT・SaaS/小売/製造
対象部門
マーケティング/情報システム
対象業務
データ入力・転記/台帳・マスタ管理
主な課題
入力作業が多い/属人化している/確認ミスが多い
AIで行う処理
分類
主な効果
入力漏れ削減/品質標準化/工数削減
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
半自動化
費用感
個別開発(大)
人間の確認
条件付き
現在工数
60h/月
AI導入後
16h/月
想定削減
73%
年間削減
528h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 新規の顧客・見込み客レコードが登録される(フォーム、名刺、展示会リスト、手入力)
  2. 登録時に、担当者が会社名でCRMを検索する
  3. 似たレコードが出てきたら、住所・電話番号・担当者名を見比べる
  4. 同じ会社と判断したら、既存レコードに紐づける
  5. 別会社と判断したら、新規に登録する
  6. 判断がつかないものは、いったん新規登録して後で見直す(多くはそのまま残る)
  7. 月次で、MAツールと販売管理システムのデータをCSVで突き合わせる(手が回らず、実際は年1回程度)
導入後(After)
  1. 新規レコードが登録される
  2. 自動会社名・住所・電話番号・ドメインを正規化する
  3. 自動法人番号システムのWeb-APIで、商号と所在地から法人番号を引き当てる
  4. 自動既存レコードのうち、同じ法人番号を持つものを抽出する
  5. 自動法人番号が引けなかった場合、文字列の類似度で候補を抽出する
  6. 自動ドメイン・電話番号・住所の一致状況を突き合わせる
  7. 自動候補ごとに、同一とみなす根拠と、みなさない根拠を並べる
  8. 自動支店・事業所の関係にあると考えられるものを、統合ではなく「親子」の候補として分ける
  9. 担当者が候補を見て、統合・親子づけ・別レコードのいずれかを決める
  10. 自動決定に従って、3システムを横断した名寄せIDを付与する
  11. 自動統合前の状態を記録する(取り消せるようにする)
各工程の詳しい説明を読む
  1. 新規の顧客・見込み客レコードが登録される(フォーム、名刺、展示会リスト、手入力)
  2. 登録時に、担当者が会社名でCRMを検索する
  3. 似たレコードが出てきたら、住所・電話番号・担当者名を見比べる
  4. 同じ会社と判断したら、既存レコードに紐づける
  5. 別会社と判断したら、新規に登録する
  6. 判断がつかないものは、いったん新規登録して後で見直す(多くはそのまま残る
  7. 月次で、MAツールと販売管理システムのデータをCSVで突き合わせる(手が回らず、実際は年1回程度

問題は5つあります。

(a)会社名の書き方が一致しない。 「(株)」「株式会社」「㈱」、全角と半角、スペースの有無、「東京本社」「本店」の付加。文字列検索では、同じ会社が別のものとして出てきます。

(b)支店・事業所の扱いが決まっていない。 「◯◯製作所 本社」と「◯◯製作所 大阪工場」を1件にするか2件にするかが、担当者によって違います。方針が文書化されていません。

(c)旧社名と合併が追えない。 社名変更や合併があると、新旧が別レコードとして残ります。

(d)同名の別会社がある。 「株式会社サンライズ」は全国に複数あります。会社名だけで統合すると、別会社を混ぜてしまいます。

(e)3システムに分散していて突合できない。 CRMで名寄せしても、MAツールと販売管理システムには反映されません。同じ会社に別々の案内が届く、という苦情につながっています。

  1. 新規レコードが登録される
  2. 【自動】 会社名・住所・電話番号・ドメインを正規化する
  3. 【自動】 法人番号システムのWeb-APIで、商号と所在地から法人番号を引き当てる
  4. 【自動】 既存レコードのうち、同じ法人番号を持つものを抽出する
  5. 【自動】 法人番号が引けなかった場合、文字列の類似度で候補を抽出する
  6. 【自動】 ドメイン・電話番号・住所の一致状況を突き合わせる
  7. 【自動】 候補ごとに、同一とみなす根拠と、みなさない根拠を並べる
  8. 【自動】 支店・事業所の関係にあると考えられるものを、統合ではなく「親子」の候補として分ける
  9. 【人】 担当者が候補を見て、統合・親子づけ・別レコードのいずれかを決める
  10. 【自動】 決定に従って、3システムを横断した名寄せIDを付与する
  11. 【自動】 統合前の状態を記録する(取り消せるようにする

自動化されるのは「正規化する」「法人番号を引く」「候補を出す」「根拠を並べる」の4つです。残るのは「同じ会社として扱うかを決めること」です。

02今回想定するシステム構成

構成図
新規レコード(フォーム / 名刺 / 展示会リスト / 手入力)
   │
   ▼
Python のバッチ処理
   │
   ├──▶ 正規化(会社名 / 住所 / 電話番号 / ドメイン)
   │
   ├──▶ 国税庁 法人番号システム Web-API
   │       └─ 商号・所在地から法人番号を引き当てる
   │
   ├──▶ 候補の抽出
   │       ├─ 法人番号が一致するもの(裏付けあり)
   │       └─ 文字列の類似度が高いもの(裏付けなし)
   │
   ├──▶ 属性の突合(ドメイン / 電話番号 / 住所 / 業種)
   │
   ├──▶ LLM API ── 法人番号で決まらない候補の判断材料の整理
   │                 + 支店・事業所の関係の推定
   │
   ▼
名寄せ候補の一覧 ──【担当者が判断】
   │
   ├──▶ 統合/親子づけ/別レコード
   │
   ▼
名寄せIDの付与(CRM / MAツール / 販売管理システムを横断)
   │
   ▼
統合前の状態を記録(取り消せるようにする)
役割想定する製品代替候補
実行環境Python個別開発
生成AIClaude APIOpenAI API、Gemini API
法人情報国税庁 法人番号システム Web-API商用の企業データベース
保管顧客データ基盤(データウェアハウス)スプレッドシート、SharePoint リスト

顧客データ基盤(CDP)や、名寄せ機能を持つデータ整備のサービスが多数あります。 まずそれを検討してください。自前で組む価値があるのは、自社の「支店を分けるか統合するか」の方針を細かく作り込みたい場合と、既存の3システムを入れ替えずに横断の名寄せIDだけを持ちたい場合です。

Python を選んだのは、正規化・類似度計算・APIの呼び出し・突合を1か所に書けるためです。 名寄せの大半は文字列処理であり、ノーコードのツールでは書きづらくなります。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

トリガーは2つです。

1つ目は、新規レコードの登録時です。登録と同時に候補を出せると、担当者がその場で判断できます。

2つ目は、日次のバッチです。既存レコードどうしの重複を、夜間に洗い出します。85,000件の総当たりは現実的でないため、正規化した会社名の先頭数文字でブロック分けしてから比較します。

最初の一括クレンジングは、別に計画してください。 既存の85,000件を一度整理する作業は、日常の運用とは別のプロジェクトです。日常の運用が回るようになってから着手するほうが確実です。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
顧客レコード会社名、部署、担当者名、住所、電話番号、メールアドレス、業種、登録日、登録元CRM / MAツール / 販売管理システム
法人番号情報法人番号、商号・名称、所在地、変更履歴国税庁 法人番号システム Web-API
取引実績商談、契約、請求、問い合わせの履歴CRM / 販売管理システム
名寄せの方針支店・事業所を統合するか分けるか、その基準営業企画(文書化が必要
表記ゆれの辞書「(株)」「㈱」「株式会社」などの対応自社で整備
過去の判断履歴過去に「同一」「別」と判断した組み合わせと、その理由運用で蓄積
除外リスト自社、テスト用レコード、同業他社運用で蓄積

「名寄せの方針」が、この構成でもっとも重要な入力です。

支店・事業所を統合するかどうかは、事業の形によって答えが変わります。

方針適する場合
法人単位で統合する契約が本社一括、請求も本社宛て
事業所単位で分ける事業所ごとに契約・請求・担当が分かれる
親子で持つ(法人が親、事業所が子)両方の見方が必要(多くの企業はこれ

この方針を決めずに始めると、出てきた候補を判断できません。 技術より先に決めてください。

Step3

データの取得方法を決める

法人番号の引き当て: 国税庁の法人番号システムには Web-API があります。REST方式で、法人番号を指定して基本3情報と変更履歴を取得する、期間を指定して差分情報を取得する、商号・名称から基本3情報を検索する、の3つの機能があります。

利用にはアプリケーションIDが必要です(発行に費用はかかりません)。 発行までに時間がかかるため、設計の初期に申請しておいてください。

商号での検索は、表記ゆれに弱い点に注意してください。正規化してから検索し、複数候補が返る場合は所在地で絞ります。 それでも1件に決まらないものは「法人番号なし」として扱います。

取引実績: 候補が同じ会社かを判断する材料になります。「同じ担当者名が両方のレコードに出ている」「同じドメインのメールアドレスが使われている」といった情報が決め手になります。

過去の判断履歴: 「この2件は別会社と判断済み」という記録があれば、再び候補として出す必要はありません。この履歴がないと、同じ判断を何度も求められます。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 会社名の正規化 … 法人格の表記((株)/㈱/株式会社)、全角と半角、スペース、括弧の種類、旧字体をそろえます。法人格の位置(前株・後株)も区別します
  2. 住所の正規化 … 都道府県の有無、丁目・番地の表記(1-2-3/一丁目2番3号)、ビル名の有無をそろえます
  3. 電話番号の正規化 … ハイフン、市外局番の括弧、国番号を除きます
  4. ドメインの抽出 … メールアドレスからドメインを取り出します。フリーメールのドメインは除外します
  5. ブロック分け … 正規化した会社名の先頭数文字、または電話番号の市外局番でグループを作り、その中だけで比較します。85,000件の総当たりは36億通りになるため、必ず必要です
  6. 除外の適用 … 自社、テストレコード、退会済みを除きます
Step5

AIに処理させる

文字列の正規化と類似度の計算は、プログラムで行います。 編集距離、n-gramの一致率、読みの一致といった手法があり、しきい値で候補を絞るところまでは計算で決まります。LLMを使う理由がありません。

法人番号による突合も、プログラムで行います。 APIの結果が一致するかどうかは、比較するだけです。

LLMにさせること:

処理内容
法人番号で決まらない候補の整理個人事業主、屋号、海外法人、法人番号が引けなかったものについて、判断材料を並べる
支店・事業所の関係の推定「本社」「工場」「支店」「営業所」といった記載から、親子関係の候補を示す
社名変更・合併の可能性の指摘法人番号の変更履歴と、レコードの登録日から、旧社名の可能性を示す
同一とみなさない根拠の提示住所が違う、業種が違う、取引の系統が違うといった、別会社である根拠を挙げる
判断に必要な追加情報の提示「どちらのレコードにも同じ担当者名が出ている」といった決め手を示す

「同一である」と断定させないでください。 LLMが出すのは、同一とみなす根拠と、みなさない根拠の両方です。どちらを取るかは人が決めます。

統合を実行させないでください。 これは技術的な制約ではなく、設計上の決めごとです。統合は取り消せません。

Step6

指示内容を固定する

あなたは、顧客マスタの名寄せを支援する担当者です。
2つのレコードについて、同じ会社とみなす根拠と、みなさない根拠を並べてください。

【厳守事項】
- 同一かどうかを断定しないでください。
  「同一です」「統合してください」「別会社です」と書かないでください。
  根拠を両方向で並べるだけにしてください。
- あなたの知識にある企業情報を使わないでください。
  「この会社は〇〇業界の大手です」といった記述をしないでください。
  判断材料は、入力に含まれるレコードの内容と法人番号の照会結果だけです。
- 法人番号が両方のレコードで一致している場合は、
  その事実を evidence_same の先頭に置いてください。
  ただし、支店・事業所を分ける方針の場合、
  法人番号の一致は「同一法人」を意味しても「同一レコード」を意味しません。
  下記の名寄せ方針に従って relation_candidate を選んでください。
- 法人番号が引けなかった場合は、その理由(候補が複数、該当なし、
  個人事業主と思われる、海外法人と思われる)を no_corporate_number_reason に書いてください。
  推測で法人番号を補わないでください。
- 過去に「別会社」と判断された組み合わせの場合は、
  past_decision にその記録を転記し、新しい情報がある場合のみ指摘してください。
- 個人名(担当者名)は、同一性の判断材料として使ってよいですが、
  その人物についての記述をしないでください。

【名寄せ方針】
{merge_policy}

【レコードA】
{record_a}

【レコードB】
{record_b}

【法人番号の照会結果】
A: {corporate_number_a}
B: {corporate_number_b}

【属性の突合結果(プログラムによる計算)】
{attribute_match}

【過去の判断履歴】
{past_decisions}

「同一かどうかを断定しない」の1行が、この構成の安全装置です。 これを書かないと「同一と判断されます。統合を推奨します」と返り、担当者が根拠を見ずに統合してしまいます。統合は取り消せません。

「あなたの知識にある企業情報を使わないでください」も必ず入れてください。 有名企業については学習内容から答え、無名の企業については推測で答えます。どちらも根拠になりません。

Step7

出力形式を固定する

計算部分(プログラム)の出力:

{
  "pair_id": "",
  "record_a_id": "",
  "record_b_id": "",
  "corporate_number_a": "",
  "corporate_number_b": "",
  "corporate_number_match": "match | mismatch | one_missing | both_missing",
  "similarity": {
    "company_name": 0.0,
    "address": 0.0,
    "phone_exact": false,
    "domain_exact": false
  },
  "shared_attributes": [],
  "block_key": ""
}

LLM部分の出力:

{
  "pair_id": "",
  "evidence_same": [],
  "evidence_different": [],
  "relation_candidate": "merge | parent_child | separate | undetermined",
  "relation_basis": "",
  "no_corporate_number_reason": "",
  "past_decision": {
    "found": false,
    "decision": "",
    "decided_at": "",
    "reason": ""
  },
  "additional_info_needed": [],
  "confidence": "high | medium | low"
}

evidence_sameevidence_different を両方出させることに意味があります。 片方だけを見せると、担当者はその方向に引きずられます。「住所は一致するが、電話番号の市外局番が違う」という両論が並んでいれば、判断の質が上がります。

relation_candidateparent_child を用意しているのは、「統合」と「別」の二択にしないためです。実務では、親子で持つのが正解であることが多くあります。

corporate_number_matchone_missing(片方だけ法人番号が引けた)は、片方が個人事業主・屋号・海外法人である可能性を示します。 自動で「別」と判断しないでください。

なお、Claude API には出力をJSONスキーマに沿わせる構造化出力の機能があります(2026-09-16時点ではベータ機能として提供)。件数が多く後段が機械処理なので、利用できると安全です。

Step8

システムへ連携する

つなぐ先内容
CRM(読み取り/書き込み)レコードの取得と、名寄せIDの付与
MAツール(読み取り/書き込み)同上
販売管理システム(読み取り/書き込み)同上
法人番号システム Web-API(読み取り)法人番号の引き当て
顧客データ基盤名寄せIDと判断履歴の保管

「名寄せID」を新しく持つ設計にしてください。 各システムの顧客IDはそのまま残し、横断の名寄せIDを別に付けます。 レコードを物理的に統合すると、商談・請求・契約の履歴が巻き込まれます。

統合が必要な場合も、統合前の状態を必ず記録してください。 どのレコードとどのレコードを、いつ、誰が、どの根拠で統合したかを残し、取り消せるようにします。

Step9

人が確認する

すべての候補を人が判断します。自動統合しません。

判断の重さは分けます。

区分条件判断
一括承認法人番号が一致/住所も一致/過去に同一と判断済み一覧でまとめて承認
個別判断法人番号が一致するが住所が違う(支店の可能性)親子づけか統合かを決める
要確認corporate_number_match: one_missing個人事業主・屋号・海外法人の可能性を確認する
要確認both_missing かつ類似度が高い取引実績を見て判断する
慎重判断会社名が同じで住所が遠い同名の別会社の可能性。安易に統合しない
保留confidence: low追加情報を集めてから判断する

「慎重判断」を軽く扱わないでください。 同名の別会社を統合すると、別の会社の担当者に他社の商談情報が見える状態になります。 これは情報漏えいです。

Step10

例外に対処する

起きること対応
法人番号が引けない(候補が複数)所在地で絞る。それでも決まらなければ「法人番号なし」とする。推測で選ばない
個人事業主・屋号法人番号がない。取引実績と住所・電話で判断する
海外法人法人番号がない。別の基準(登記番号、ドメイン)で扱う
同名の別会社住所・電話・ドメインで区別する。会社名だけで統合しない
社名変更法人番号の変更履歴で追う。旧社名のレコードを消さない
合併・分割法人番号が変わることがある。自動で判断せず人に回す
支店・事業所parent_child の候補として出す。方針に従って決める
過去に「別」と判断済み候補として出すが、過去の判断を添える。新しい情報がなければ再提示しない
誤って統合してしまった統合前の状態から復元する。記録がなければ復元できない
Web-APIの応答が遅い・失敗する再試行し、それでも取れなければ「法人番号なし」として処理を続ける。止めない
85,000件の一括処理が終わらないブロック分けして分割実行する。夜間バッチで数日に分ける
フリーメールのドメインで一致してしまうフリーメールのドメインを突合の対象から除外する
Step11

記録を残す

  • 名寄せ候補と、その根拠(evidence_same / evidence_different
  • 法人番号の照会結果(照会日時つき)
  • 担当者の判断と、その理由
  • 統合前の各レコードの状態
  • 名寄せIDの付与履歴
  • 過去に「別」と判断した組み合わせ

「統合前の状態」を残さないと、誤った統合を取り消せません。 これが、この構成でもっとも重要なログです。

「担当者の判断と理由」の蓄積が、次回の判断材料になります。 「この会社は事業所ごとに契約が分かれるので親子で持つ」といった判断が貯まれば、同じ判断を繰り返さずに済みます。

法人番号の照会日時を記録してください。 商号や所在地は変わります。いつ時点の情報で判断したかが分からないと、後から検証できません。

04実装レベルの3段階

最小構成:正規化と完全一致の検出をExcelまたはPythonで行い、担当者が判断する / 検出
半自動化:法人番号の引き当てと候補の抽出を自動化し、判断材料を整理して一覧に出す / 正規化・法人番号・候補・根拠
本格構成:上記+3システム横断の名寄せIDの付与+判断履歴の蓄積+日次の重複検出 / 判断以外のすべて

半自動化で3分が1.2分程度になります。 検索の1.5分がほぼ消えるためです。本格構成にすると0.8分程度ですが、本格構成の価値は時間より「3システムで名寄せが揃うこと」にあります。 同じ会社に別々の案内が届く問題は、横断の名寄せIDがないと解けません。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
2 名
月間件数
1,200 件
1件あたり現在時間
3 分
1件あたり導入後時間
0.8 分
現在  1,200件 × 3分 ÷ 60 = 60 時間/月
導入後 1,200件 × 0.8分 ÷ 60 = 16 時間/月
月間削減時間
44h
削減率
73%
年間削減時間
528h
年間金額換算(時間単価3,000円)
158万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 顧客・取引先のレコードが1万件以上あり、複数のシステムに分散している企業。法人顧客が中心であること。新規登録が月500件以上あり、登録時の重複確認が担当者の目視に頼っていること。
向いていない
  1. レコードが1,000件以下で、担当者が把握できている場合。顧客が個人中心で、法人番号による裏付けが取れない場合。すでに名寄せ機能を持つ顧客データ基盤を導入している場合。

07最小構成で試す方法

  1. 名寄せの方針を決める(支店・事業所を統合するか、分けるか、親子で持つか)
  2. CRMから1,000件を抽出する
  3. 会社名・住所・電話番号を正規化する(Excelの関数またはPythonで足ります)
  4. 正規化後の会社名が完全に一致する組み合わせを数える
  5. 重複が何件あるかを数える

この4ステップで、AIを使わずに重複の実態が分かります。 多くの企業で、想定より多い件数が出ます。

次に法人番号を試します。

  1. 法人番号システムのWeb-APIのアプリケーションIDを申請する(発行に時間がかかるので早めに
  2. 100件について、商号と所在地から法人番号を引き当てる
  3. 何件が1件に決まり、何件が複数候補になり、何件が該当なしだったかを数える

8の結果が、この構成の設計を決めます。 8割以上が1件に決まるなら、法人番号を軸にした構成が組めます。半分以下なら、顧客の性質(個人事業主が多い、海外法人が多い)を踏まえた別の設計が必要です。

最後に、AIの部分を試します。

  1. 法人番号で決まらなかった候補を20組選び、生成AIに判断材料を整理させる
  2. 担当者の判断と比べ、根拠が両方向で並んでいるかを確かめる

「同一です」と断定していないかを必ず確かめてください。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
AIが「同一です」と断定するプロンプトで禁止する。根拠を両方向で出させる。最重要
統合を自動実行してしまう実行しない。名寄せIDを別に持ち、物理的な統合を避ける
統合前の状態を残していない必ず残す。誤った統合は復元できない
同名の別会社を統合する住所・電話・ドメインで区別する。会社名だけで判断しない
85,000件の総当たりで処理が終わらないブロック分けする。先頭数文字または市外局番でグループを作る
法人番号を推測で補う補わない。「法人番号なし」として扱う
個人事業主・海外法人を「別」と自動判定するone_missing として人に回す
支店を統合するか分けるかで判断がぶれる方針を文書化する。技術より先に決める
フリーメールのドメインで一致してしまうフリーメールを突合の対象から除外する
Web-APIのアプリケーションIDが間に合わない設計の初期に申請する(発行に時間がかかる)
過去の判断が残らず、同じ候補が何度も出る判断履歴を蓄積し、再提示を抑える

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 顧客企業の名称・所在地・電話番号、担当者の氏名とメールアドレス、取引実績。担当者の氏名とメールアドレスは個人情報です。

  1. 個人情報の取り扱い … 名寄せの判断に担当者名を使いますが、その人物についての記述を生成させないでください。 判断材料としての一致・不一致の事実だけを扱います
  2. LLMに渡す情報の最小化 … 名寄せの判断に、取引金額や商談の内容は不要です。会社名・住所・電話番号・ドメイン・業種・担当者名の一致状況だけを渡す設計にできます
  3. 誤った統合による情報の混在 … 同名の別会社を統合すると、一方の会社の担当者に他社の商談情報が見える状態になります。これは情報漏えいです。慎重判断の区分を必ず設けてください
  4. 外部AIへの入力可否 … 顧客企業の一覧は、自社の取引先の全容を示す情報です。自社の情報管理規程と、顧客との秘密保持契約を確認してください
  5. 学習利用 … 入力を学習に使わないことが契約で保証されるサービスを選びます
  6. 法人番号システムの利用 … Web-APIの利用規約に従ってください。取得した情報の取り扱いの範囲を確認します
  7. アクセス権限 … 名寄せ候補と判断履歴の閲覧を、データ管理の担当者に限定します。顧客の一覧が広く見える状態にしないでください
  8. 自動実行してよい範囲 … 候補の抽出と根拠の整理までです。統合・親子づけ・別レコードの判断、および名寄せIDの確定は、必ず人が行います

誤りが起きた場合のリスクは、別会社の情報の混在と、統合の取り消し不能です。統合前の状態を残し、復元できる設計にしてください。

10まず何から始めるか

1週目:名寄せの方針を決める

営業・マーケティング・経理で、次を決めます。

  • 支店・事業所を統合するか、分けるか、親子で持つか
  • 統合の判断を誰がするか
  • 同名の別会社をどう見分けるか

技術より先にここを決めてください。 決まっていないと、候補が出ても判断できません。

2週目:重複の実態を数える

CRMから1,000件を抽出し、会社名・住所・電話番号を正規化して、完全一致の重複を数えます。AIは使いません。 この数字が、経営に説明するための材料になります。

あわせて、法人番号システムWeb-APIのアプリケーションIDを申請してください。 発行に時間がかかります。

3週目:法人番号の引き当て率を測る

100件について、商号と所在地から法人番号を引き当て、1件に決まった割合を数えます。 この割合が構成を決めます。

4週目:法人番号で決まらない候補を試す

20組について、生成AIに判断材料を整理させます。断定していないか、根拠が両方向で並んでいるかを確かめます。

2か月目:新規登録時の候補提示を作る

新規レコードの登録をきっかけに、候補と根拠を出す仕組みを作ります。統合は行わず、候補の提示だけです。 1か月運用し、3分が何分になるかを実測します。

3か月目以降: 名寄せIDの付与と3システムへの反映を追加します。既存85,000件の一括クレンジングは、日常の運用が回るようになってから、別のプロジェクトとして着手してください。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-09-16/最終更新:2026-09-16
確認した内容情報源確認日
国税庁の法人番号システムに Web-API があり、REST方式で、(1)法人番号を指定して基本3情報と変更履歴を取得、(2)期間を指定して差分情報を取得、(3)商号・名称から基本3情報を検索、の3つの機能が提供されていること。利用にはアプリケーションIDが必要で、発行に費用はかからないこと国税庁法人番号公表サイト:法人番号システム Web-API2026-09-16
法人番号システム Web-API が、利用者のシステムから条件を指定してリクエストを送信することで、商号又は名称・所在地・法人番号などのデータを取得できる仕組みであることe-Govポータル:法人番号システム Web-API(インターネット用)2026-09-16
Claude API に、出力をJSONスキーマに沿わせる構造化出力の機能があること(2026-09-16時点ではベータ機能)Claude Platform Docs: Structured outputs2026-09-16

法人番号システム Web-API の利用にあたっては、利用規約およびアプリケーションIDの発行手続を確認してください。この部分は利用環境に応じた個別確認が必要です。 CRM・MAツール・販売管理システムへの書き込み方式は製品によって異なります。顧客情報の取り扱いについては、自社のプライバシーポリシーと顧客との契約の範囲を確認してください。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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