サービスブループリントとは?|表と裏を1枚で見る

「サービスブループリントを作ろうと言われたのですが、カスタマージャーニーマップと何が違うのか分かりません」「顧客体験の図なら、去年すでに作りました」——2つ目の受け取り方のほうに、この道具についての誤解がそのまま出ています。サービスブループリントは、顧客体験を描くための図ではありません。本当は、顧客が触れる場面の裏側で社内の誰が何をしているかを同じ時間軸に並べ、作業が受け渡される断面を見つけるための設計図です。この記事では、1枚に並ぶ5つの帯と3本の線の意味、5工程での作り方、事故が起きている断面の探し方を順に整理します。書き起こしを生成AIに手伝わせるときの線引きは、工程の途中で挟みます。
カメ先生サービスブループリントというと、顧客体験を丁寧に描いた図の上位版だと思われがちなんだ。でも実際に効いてくるのは、顧客に見えない側を書いたときのほうだね。
カメ子見えない側を書くと、何が分かるのですか。
カメ先生作業が誰から誰へ渡っているかが見える。事故はたいてい、作業の中ではなく、渡す瞬間に起きているんだよ。
カメ子工程そのものではなく、工程と工程のあいだを見るための図ということですね。
- 顧客体験を描く図ではない。顧客が触れる場面と、その裏で動く社内の作業を同じ時間軸に並べる、社内向けの設計図
- 線が3本ある。顧客との境、見えるか見えないかの境、応対する部署としない部署の境。線の位置で図の意味が変わる
- 見る場所は箱の中ではなく箱と箱のあいだ。AIには裏の工程の洗い出しと抜けの指摘まで、どこを直すかを決めるのは人
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顧客体験の図と混同されるが、これは社内に向けた設計図
この図を作ろうという話が出ると、社内では2通りの受け取られ方をします。1つは顧客体験を描く作業の続きだという受け取り方、もう1つは業務の流れ図を清書する作業だという受け取り方です。どちらも半分だけ当たっていて、そのために作業が途中で目的を見失います。この図は、顧客の側と社内の側を同じ時間軸に載せたときに初めて意味が出ます。片側だけを丁寧に描いた図は、すでに社内にあるものの描き直しにしかなりません。
顧客の側だけを描いた図からは、体験が悪くなる場所は分かっても、その原因が社内のどこにあるかは分かりません。逆に業務の流れ図からは、社内の手順は分かっても、その手順が顧客のどの場面と重なっているかが分かりません。並べて初めて「顧客が待たされている3日間のあいだ、社内では2つの部署のあいだで書類が止まっていた」という形の事実が出てきます。原因と結果が1枚の上でつながる、というのがこの道具の働きです。
この図の読者は顧客ではなく、社内の人です。顧客に見せる資料ではないので、見栄えを整える必要はありません。整えるべきなのは、誰から誰へ何が渡っているかの正確さのほうです。清書に時間をかけた図ほど、書いた人しか直せなくなり、組織が少し変わっただけで更新されずに古くなります。
出自は1984年の論文。形の無いものを設計できるものに変えた
この図の出発点は、1984年1月のハーバード・ビジネス・レビュー誌に載った、リン・ショスタックの論文だとされています。書いたのはデザインの専門家ではなく、当時、銀行の役員だった人物です。金融サービスを提供する側にいた人が書いたという点が、この道具の性格をよく表しています。机上の理論ではなく、提供する側が自分たちの仕事を管理するために作った図でした。
当時、サービスは形が無く、その場限りのもので、製品のように設計したり測ったりはできないと考えられていました。この論文の主張は単純で、サービスも製品と同じように体系的に設計できるというものです。図に落とせば、問題を起きる前に見つけられるし、新しい機会も見えてくる。形の無いものを、記録し、測り、管理し、直せるものへ変えたところに、この仕事の値打ちがあります。いまサービスデザインと呼ばれる領域で、この図が基本の道具として扱われているのもそのためです。
出自を押さえると、使いどころが決まります。この図が効くのは、複数の人と部署を経由してサービスが届く場合です。1人が最初から最後まで担当し切る仕事には向きません。経由する数が多いほど、渡す瞬間の数も増える。その渡す瞬間こそが、この図が見ようとしているものです。
1枚に並ぶのは5つの帯。横は時間、縦は見える度合い
図の縦方向は、上から下へ帯が重なる形になります。標準的な整理では、顧客の行動、顧客から見える側の応対、顧客から見えない側の作業、それらを支える仕組み、そして顧客が実際に手に取る物的な手がかり、の5つです。横方向は時間で、左から右へ場面が進みます。同じ列に並んだ箱は、同じ時点で起きていることを表します。
| 帯の名前 | そこに書くもの | 書くときにつまずくところ |
|---|---|---|
| 顧客の行動 | 顧客が目的に向かって自分で行う操作や連絡。申し込む、待つ、問い合わせる、社内で承認を取る | こちらがしてほしい行動ではなく、実際にしている行動を書く。待っている時間も1つの箱として置く |
| 見える側の応対 | 顧客の目に触れる、こちら側の人や仕組みの動き。返信、電話、画面の表示、届く書類 | 人がする応対と仕組みがする応対を書き分ける。混ざると、次の工程で直す場所が決まらない |
| 見えない側の作業 | 顧客には見えないが、応対を成り立たせている社内の作業。確認、入力、承認、手配 | 担当者本人しか知らない作業が最も多い帯。ここが薄い図は、書いた人の想像で埋まっている |
| 支える仕組み | 作業を成り立たせている社内の道具や取り決め。台帳、承認の規則、外部への委託 | 名前を書くだけで終わりやすい。どの作業がその仕組みに依存しているかまで線でつなぐ |
| 物的な手がかり | 顧客が実際に見たり受け取ったりするもの。画面、書類、封筒、案内文 | 見た目の議論に流れやすい。ここは点検の材料であって、この図の主役ではない |
5つの帯のうち、書き手が最も時間をかけるべきなのは3つ目の「見えない側の作業」です。ここが薄いまま図が完成すると、顧客から見える側だけが詳しい、いつもの顧客体験の図に戻ります。見えない側の帯の行数が、見える側の帯の行数を下回っているなら、まだ聞き取りが足りていません。
5つ目の物的な手がかりは、省いても図としては成立します。ただ、書いておくと後の点検で効きます。顧客が受け取る書類や画面を並べると、同じ内容を別の言い方で2回送っている場面や、どこにも案内されていない場面が見つかるからです。優先順としては、他の4つを埋め切ってから足します。最初から5帯すべてを埋めようとすると、いちばん重要な3つ目が薄いまま完成してしまいます。
線は3本ある。どこで切るかで図の意味が変わる
帯と帯の境目には線が引かれます。標準的な整理では3本で、上から順に、顧客とこちら側が直接やりとりする境の線、顧客から見えるか見えないかの境の線、そして顧客に応対する従業員と応対しない従業員の境の線です。研究者によっては4本目として、現場の管理が及ぶ範囲と、それを支える側との境を足す整理もあります。
3本のうち、実務でいちばん効くのは2本目の「見えるか見えないか」の線です。この線を引くと、顧客が待っている時間の裏で何が起きているかが1枚に載ります。顧客の不満は線の上側で発生し、その原因は線の下側にあることがほとんどです。上側だけを直す取り組みは、返信を早くする、言い回しを丁寧にする、といった対症療法で止まります。
3本目の線を引く意味は、法人向けのサービスで特に大きくなります。応対する部署としない部署の境を引くと、社内の受け渡しが図の上に現れるからです。線を引く位置を間違えると、事故の起きている場所が図から消えます。たとえば、営業が顧客に伝えている内容を実際には別部署が作っているのに、その境の線を引かなければ、遅れの原因はいつまでも営業の怠慢として記録され続けます。
カスタマージャーニーマップとの違いは、裏を書くかどうかだけではない
よく聞かれる違いから整理します。カスタマージャーニーマップは、顧客がサービスと関わる過程と、そこで生まれる感情を可視化したものです。サービスブループリントは、そこに提供する側の動きを足し、顧客と提供者が接する点まで描きます。ある解説では、この図はカスタマージャーニーマップの次の一手にあたる道具だと説明されています。順番としては、顧客側を描いてからこちら側を描く形になります。
ただ、違いは「裏を書くかどうか」だけではありません。もう1つの違いは、作る目的です。顧客側の図は、どこで気持ちが落ちるかを見つけて、体験を改める方向を決めるために作ります。裏まで書く図は、直す場所と、直す責任を持つ部署を特定するために作ります。前者の成果物は方向で、後者の成果物は担当です。目的が違うので、完成の判定も違います。方向が定まれば前者は完成ですが、後者は担当が空欄のあいだは未完成です。
3つ目の違いは、古くなる速さです。顧客側の図は、顧客の行動が大きく変わらなければ数年もちます。裏まで書いた図は、社内の担当や道具が変わるたびに古くなります。組織変更のたびに直す前提で作らないと、1年後には「この部署はもうありません」という注記だらけの図になります。作り込みすぎないほうがよい理由の1つがここにあります。
作る手順は5工程。上の帯から順に、時間軸をずらさずに埋める
作り方は、上の帯から順に埋めていくのが基本です。一般的な解説でも5段階の手順として整理されており、顧客の行動を時間順に書き出し、それに対応する見える側の応対を当て、次に見えない側の作業を当て、支える仕組みを足し、最後に補足の要素を書き込む、という並びになっています。工程ごとの重さは均等ではなく、3つ目に時間が集中します。
対象にする場面の範囲と時間軸を先に決め、顧客が実際に行う操作と連絡を左から右へ並べる。待っている時間も1つの箱として置く
各行動の真下に、顧客の目に触れるこちら側の動きを置く。人がする応対と、仕組みが自動で行う応対を書き分ける
応対を成り立たせている社内の作業を、担当部署と担当者の名前とともに置く。ここが最も時間のかかる工程になる
台帳、承認の規則、外部への委託などを下段に置き、どの作業がどれに依存しているかを線で結ぶ
各工程にかかる時間と、担当が変わる箇所と、待ちが生じている箇所に印を付ける。ここまでやって1枚が完成する
順番を守る理由は、上から埋めるほど下の帯の抜けが見つかりやすくなるからです。逆に社内の作業から書き始めると、いま社内でやっていることが図の骨格になり、顧客の行動のほうがそれに合わせて書かれます。顧客が実際に何をしているかから始めないと、社内の手順の清書に戻ります。この逆転は、業務の改善から入った作業でほぼ必ず起きます。
5つ目の工程を省く図が非常に多く、省いた瞬間に、この道具はただの絵に変わります。時間と受け渡しと詰まりの3つが書かれていない図は、眺めることはできても、どこから直すかを決められません。最後に書き込む3つが、この図を点検の道具に変えます。
工程1でつまずくのは、範囲の広さと箱の粒度
実際に手を動かすと、最初の工程でほぼ必ず止まります。理由は2つあり、1つは範囲が広すぎること、もう1つは箱の大きさが揃わないことです。範囲については、「顧客がこのサービスと関わる全部」から始めると、最初の問い合わせから解約までが1枚に入り、どの帯も薄くなります。薄い図からは断面が見つかりません。
範囲の決め方は、直したい詰まりから逆算するのが早道です。「申し込みから利用開始までの3週間」「問い合わせを受けてから回答するまで」のように、始まりと終わりを1文で書ける長さに切る。1枚の図に載せる場面は、多くても10前後までにします。それ以上になるなら、図を2枚に分けたほうが読めます。分けた図どうしは、つなぎ目の場面を重ねて書いておくと、あとで並べられます。
粒度のほうは、書いた後で揃えます。最初から揃えようとすると手が止まるので、まず全部書いてから、極端に細かい箱と極端に大きい箱を探して直す。目安として、1つの箱は、担当が変わらず、1回で終わる作業の単位。担当が途中で変わる箱は分け、複数回のやりとりが1箱に押し込まれているものも分けます。この基準1つで、粒度の議論はほぼ収まります。
見えない側の作業は本人しか知らない。聞き取りの型を決めておく
この図でいちばん難しいのは、見えない側の帯を埋めることです。理由ははっきりしていて、その作業を知っているのは実際にやっている本人だけだからです。手順書に書かれている内容と、実際にやっている内容がずれていることも多く、書類の上だけを見て埋めた帯は、後の点検で使い物になりません。
聞き取りは、工程を尋ねる形ではなく、直前の1件を追う形にします。「普段どういう流れですか」と聞くと、返ってくるのは手順書の内容です。「いちばん最近に対応した1件を、受け取ったところから終わりまで教えてください」と聞くと、実際の作業が出てきます。手戻り、確認の電話、本来の担当ではない人が代わりにやった作業は、この聞き方でしか出てきません。
聞き取りの相手は、部署ごとに1人ではなく2人に取ります。同じ作業でも人によってやり方が違うことがあり、その違いこそが、後で見つかる詰まりの原因になっているからです。2人に聞いて答えが違った工程は、その場で印を付けておく。図が完成したあと、真っ先に点検する場所になります。違いの理由を尋ねると、たいてい「以前こういう失敗があったので」という説明が出てきます。
事故は工程の中ではなく、受け渡しの断面で起きる
図が埋まったら、見る場所は決まっています。箱の中ではなく、箱と箱のあいだです。担当が変わる位置、部署が変わる位置、そして顧客の側とこちら側が入れ替わる位置。顧客の不満として現れる遅れと間違いの大半は、作業そのものではなく、渡す瞬間に生まれています。作業自体は、担当者が慣れているぶん、たいてい速く正確です。
渡す瞬間に何が起きているかというと、情報が減っています。前の担当が知っていた事情のうち、渡す様式に書ける項目だけが次へ渡り、それ以外は消えます。消えた事情を次の担当が顧客に聞き直すと、顧客の側からは「同じことを二度聞かれた」という体験になる。この構図は、業種が違っても同じ形で現れます。減っているのは情報の量ではなく、前後の文脈のほうです。
サービスの研究では、顧客の満足や品質に影響しうる地点を失敗点と呼び、図の上で特定する対象としています。印を付けるのは工程ではなく、工程と工程のつなぎ目です。つなぎ目に印を付けてから、その印の数だけ、渡す様式と渡す相手を点検していきます。印が図の右半分に偏っているなら、後半の工程ではなく、前半で渡した内容が足りていない可能性を先に疑います。
事故の起きている断面を見つける4つの目印
どのつなぎ目から見るかは、目印で決められます。図の上に現れる形が決まっているので、探し方も決まります。次の4つを順に探すと、直す価値の高い断面から順に出てきます。全部の断面を点検する必要はなく、目印の付いたところだけを見れば足ります。
| 図に現れる目印 | その断面で起きていること | 先に確かめること |
|---|---|---|
| 顧客の帯に長い待ちがある | 待ちの真下で、作業が別の部署へ渡ったまま止まっている | 渡したあと、次の担当がそれに気づく仕組みがあるか。知らせが無ければ止まる |
| 同じ内容を2回聞いている | 渡す様式に、前の担当が持っていた情報を書く欄が無い | 様式に欄を足すのが先か、そもそも渡す相手を減らすのが先かを分けて考える |
| 見えない側の箱に担当名が入らない | その作業を誰の仕事とも決めていない。気づいた人がやっている | 現状で誰がやっているかを実名で埋める。空欄のまま図を完成にしない |
| 支える仕組みに依存が集中している | 特定の台帳や1人の承認に、複数の工程がぶら下がっている | その1点が止まったときに何工程が止まるかを数える。数が多いほど先に手を打つ |
3つ目は、法人向けのサービスで特によく出ます。契約の内容が特別だった顧客、途中で担当が交代した顧客、他部署が持ち込んだ案件。こうした例外の処理が、誰の仕事とも決まっていないまま、気づいた人の善意で回っていることがあります。善意で回っている工程は、その人が休んだ日に止まります。図の上では空欄として現れるので、空欄を埋めないまま完成にしないことです。
4つ目の集中は、直す価値が最も高い割に見つけにくい断面です。1つの承認に複数の工程がぶら下がっていても、普段は流れているので誰も困りません。図に依存の線を引いたときだけ、ぶら下がりの数が見えます。数を数えて、多い順に、代わりの経路を用意するか、承認が要る条件を絞るかを決めます。数えるまでは、集中している事実そのものが誰にも見えていません。
必要に応じて足す5つの補足要素
基本の帯が埋まったら、点検したい内容に応じて足す要素があります。一般的な解説では、矢印、時間、社内の規則や指針、感情、そして指標の5つが挙げられています。全部を足す必要はなく、むしろ全部足すと図が読めなくなります。目的に合うものだけを選びます。
実務で効くのは時間と矢印です。時間は、各工程にどれだけかかっているかを数字で書く。書くと、顧客が待っている合計と、実際に手が動いている合計の差が出ます。この差の大部分は、作業ではなく順番待ちです。矢印は、情報がどちらへ流れているかを示します。往復している矢印は、そのまま確認の手間の記録になります。
感情の欄は、顧客の側だけでなく、社内の担当者の側にも書けます。手間が集中している工程、断りの連絡をする工程、板挟みになる工程。担当者の側の負担は、顧客の不満より早く現れます。負担が集中している工程を先に直すと、そこで起きていたはずの遅れも一緒に消えることがあります。
- 時間は、手が動いている時間と、待っている時間を分けて書く。合計だけでは直す場所が決まらない
- 矢印は、往復しているものだけを目立たせる。往復の数が、そのまま確認の手間の量になる
- 規則や指針は、その工程を遅くしている取り決めがある場合だけ書く。全部書くと図が読めなくなる
- 感情は顧客の側だけでなく、社内の担当者の側にも書く。負担の集中は担当者の側に先に現れる
- 指標は、工程ごとではなく断面ごとに置く。渡してから次が動き出すまでの時間を測ると、詰まりが数字になる
AIの使いどころは、裏の工程の洗い出しと抜けの指摘
この作業のどこに生成AIを入れるかは、はっきり決められます。向いているのは、量を出す作業と、抜けを機械的に指摘する作業です。特に効くのは、見えない側の帯を埋める前の下準備と、埋めたあとの点検の2か所です。逆に、決めごとを含む工程には入れません。
- 裏の工程の候補を先に出させる:顧客の行動と見える側の応対を渡し、それを成り立たせるために社内で必要になりそうな作業を列挙させる。聞き取りの前に一覧があると、質問が具体的になる
- 埋めた図の抜けを指摘させる:完成した帯を渡し、応対があるのに裏の作業が書かれていない場面と、裏の作業があるのに支える仕組みが書かれていない場面を挙げさせる
- 担当の書かれていない箱を拾わせる:担当名の欄が空いている箱と、同じ担当名が異常に多く並んでいる箱を、機械的に抜き出させる
1つ目は聞き取りの代わりではありません。出てきた一覧は仮説であって、事実は本人に確かめます。ただ、一覧があるかないかで聞き取りの質が変わります。「普段の流れを教えてください」ではなく「この確認作業は、どなたがどの段階でやっていますか」と聞けるようになるからです。洗い出しの目的は答えを得ることではなく、質問を具体的にすること。
2つ目の抜けの指摘は、人がやると見落とす種類の作業です。図を書いた本人は、書いた過程を覚えているので、空欄を空欄として認識しにくい。機械は覚えていないぶん、空欄をそのまま空欄として拾います。指摘された箇所のうち、本当に作業が存在しない場所と、聞き取りが足りていない場所を人が分ける。この分ける作業のほうが本体です。
AIに決めさせてはいけないのは、どこを直すかの判断
渡してはいけないのは、見つかった断面のどれから直すかを決める工程です。理由は能力ではなく、この判断が社内の力関係と資源の配分を含むからです。図の上では同じ大きさに見える2つの断面でも、片方は様式に欄を1つ足せば済み、もう片方は部署の役割分担を変える必要がある。直す難しさは、図の上には書かれていません。
もう1つ渡してはいけないのは、実際の作業内容を推測で埋めさせることです。もっともらしい工程を作れてしまうため、実在しない承認や、実際とは違う順番が図に入ります。図は社内の点検に使われるので、間違った箱が1つ混ざるだけで、そこを起点にした議論が全部ずれます。聞き取りで確かめられていない箱は、空欄のまま残す。空欄は、埋まっていないという事実を正しく伝えるので、間違った箱よりも役に立ちます。
線の引き方も人が決めます。どこまでを顧客から見える範囲にするかは、サービスの設計そのものだからです。たとえば進み具合を顧客に開示すれば、見えない側にあった作業が見える側へ移ります。この移動は、問い合わせの数と、担当者の負担と、顧客の安心のどれを取るかの選択です。線を動かす判断は、そのままサービスの方針を決める判断になります。だから、線の位置を変えた回は、変えた理由を1行で残しておきます。
効かない場面は、サービスが1工程しかないとき
この図が効かない場面もはっきりしています。いちばん分かりやすいのは、サービスが実質1工程で終わるときです。顧客が申し込み、その場で受け取って終わり、という形なら、帯を分けても各帯に1箱ずつしか入りません。受け渡しの断面が存在しないので、この道具が見ようとしているものが最初から無いことになります。
同じ理由で、担当が1人で完結する仕事にも向きません。この場合は、その1人の時間の使い方を並べたほうが早く直せます。目安として、経由する部署が3つ以上、または担当の交代が2回以上あるときに、作る価値が出ます。それ未満なら、聞き取りの結果を箇条書きにまとめるだけで足ります。図の形にする手間が、得られるものを上回ります。
もう1つ、作ってはいけないのは、直す権限が誰にも無い状態で作る場合です。図を作れば断面は見つかりますが、見つかった断面のほとんどは部署をまたぎます。またぐ調整をする人が決まっていない図は、断面の一覧を作って終わります。作業を始める前に、見つかった断面を誰が引き取るかを決めておく。引き取る人が決まらないなら、その時点では作らないほうが賢明です。
法人向けでは、担当が複数部門にまたがることが最大の差
一般的な解説は、店舗や個人向けのサービスを例に書かれていることが多く、法人向けでそのまま使うと3つの点で噛み合いません。1つ目が最大の差で、1つの顧客に対して、複数の部門が同時に関わっていることです。営業、導入の担当、技術の窓口、請求の担当。それぞれが別々に顧客と接しているので、見える側の帯が1本では足りません。
この場合、見える側の帯を部門ごとに分けて書きます。分けると、同じ週に3つの部門が別々に連絡している場面や、逆に誰も連絡していない空白の期間が見えます。空白の期間は、顧客の側から見れば放置されている時間です。図の上で最初に手を打つべきなのは、たいていこの空白のほうで、連絡が重なっている場面より優先されます。
2つ目の差は、顧客の側にも複数の担当がいることです。使う人、決める人、支払う人が別なので、顧客の行動の帯も1本では足りません。3つ目は、案件の数が少なく、1件ごとの違いが大きいことです。法人向けでは、平均的な1件の図を作らず、代表的な3件の図を作る。平均で作ると、どの案件にも当てはまらない図ができあがります。
作りっぱなしにしない。失敗の型と、作ったあとの1周目
最後に、実際に起きる失敗と、作ったあとの1周目に何をするかをまとめます。この道具は作る作業が重いぶん、作り終えたところで満足しやすく、そこで止まると単に大きな図が1枚残ります。ある解説でも、作るだけでは意味がなく、設計を見直す実行につなげることが重要だと明記されています。
- 清書に時間をかけ、見た目を整える。整えた図ほど書いた人しか直せず、組織が変わった時点で捨てられる
- 全部の場面を1枚に載せる。範囲が広いと各帯が薄くなり、断面の印がどこにも付かない
- 手順書だけを見て、見えない側の帯を埋める。実際の作業と食い違う図は、点検の議論を最初からずらす
- 担当名を空欄のまま完成にする。誰の仕事とも決まっていないという事実が、図の上から消える
- 断面に印を付けたあと、引き取る人を決めずに解散する。一覧だけが残り、翌年も同じ一覧が作られる
- 組織変更のあとに更新しない。部署名が古い図は、読んだ人がその場で信用しなくなる
作り終えたあとの1周目は、印を付けた断面の数を数えるところから始めます。数えたら、直す難しさで3つに分ける。様式や知らせの設定だけで済むもの、部署の中の手順の変更で済むもの、部署をまたぐ調整が要るもの。最初の1周では、1つ目の区分だけを片づけます。ここだけで顧客の待ち時間が縮むことは珍しくなく、それが次の調整を通すための材料になります。
- 印を付けた断面を、直す難しさで3つに分けて数える
- 1周目は、様式と知らせの設定だけで直る断面に絞って着手する
- 直した断面ごとに、渡してから次が動き出すまでの時間を前後で測る
- 図の更新の担当と周期を決める。組織変更があった月は、周期を待たずに直す
- 図の版と更新日を必ず入れる。日付の無い図は、半年後に誰も信用しない
更新の担当を決めるところまでが、この作業の範囲です。この図は完成品ではなく、社内の現状を写した記録なので、写した時点から少しずつ古くなります。周期を決めて写し直す前提で作れば、清書に時間をかける気も自然に無くなり、結果として更新され続ける図になります。
まとめ
サービスブループリントは、顧客体験を描く図の上位版ではありません。顧客が触れる場面と、その裏で動く社内の作業を同じ時間軸に並べ、作業が誰から誰へ渡っているかを見えるようにするための、社内向けの設計図です。1984年の論文が変えたのは、形が無いとされていたサービスを、記録し測り直せるものとして扱えるようにした点でした。だからこの図の読者は顧客ではなく、直す責任を持つ社内の人になります。
縦に並ぶのは5つの帯で、間に3本の線が引かれます。いちばん効くのは、見えるか見えないかの境の線です。不満は線の上側で起き、原因は下側にある。そして見る場所は箱の中ではなく、箱と箱のあいだです。渡す様式に書ける項目だけが次へ渡り、書けない事情は消える。長い待ちの真下、二度聞いている場面、担当名が空欄の箱、依存が集中している1点。この4つの目印から順に断面を拾えば、直す価値の高い順に並びます。
生成AIには、裏の工程の候補出しと、埋めた図の抜けの指摘と、空欄の抽出を任せられます。ただし、出てきた工程は仮説なので事実は本人に確かめ、確かめられない箱は空欄のまま残します。どの断面から直すかと、線をどこに引くかは人が決め、決めた理由を1行残す。サービスが1工程で終わるとき、経由する部署が少ないとき、そして見つかった断面を引き取る人が決まっていないときは、作らない判断のほうが正しい。作るかどうかの見極めから、この作業は始まっています。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
AI活用を戦略に落とす前に、まずは導入・定着から始めませんか?
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