プロセスマイニングとは何を測るのか|聞き取りとのずれを埋める

「業務フローの図はもう作りました。それなのに、改善の議論になると『実際はそこを飛ばしています』という指摘が毎回出てきます」「プロセスマイニングを検討していますが、製品の説明を聞いても、結局うちの何が測れるのかが分かりません」。——この2つは別の困りごとに見えて、出どころが同じです。マイクロソフトが自社の業務自動化サービスの公式の手引きとして公開している資料(日本語版、2026年8月31日改訂)は、プロセスマイニングにデータを取り込むときに必要な欄として3つだけを挙げています。案件を一意に指す番号、実行された作業の名前、その作業が起きた日時。そして、この番号は記録のすべての行に存在する必要がある、と明記しています。測れるかどうかを決めているのは、業務が複雑かどうかではなく、この3つが仕組みに残っているかどうかです。つまりプロセスマイニングは、業務の良し悪しを判定する道具ではありません。仕組みに残っている記録から、実際に通った道筋を1本ずつ復元する測り方です。この記事では、聞き取りで描いた図が実態からずれる理由から始めて、何が測れて何が測れないのか、記録を出す前に決めることは何か、出てきた数を現場にどう当てるかまでを順に並べます。
カメ先生プロセスマイニングは業務を効率化してくれる道具だと思われがちですが、これ自体は何も改善しません。やっているのは、仕組みに残った記録を案件ごとにつなぎ直して、実際に通った道筋を数え上げることだけです。
カメ子図を描いてくれるのではなく、記録のほうから道筋を起こすということですか。
カメ先生はい。だから聞き取りで描いた図とは、たいてい食い違います。人は例外を語りませんし、手戻りは申告されないからです。
カメ子食い違ったときは、どちらを正しいものとして扱えばよいのでしょうか。
- 聞き取りで描いた図は、例外・順番・手戻りの3方向で実態より狭くなる。プロセスマイニングは、仕組みに残った記録から実際に通った道筋を復元する測り方である
- 必要なのは、案件を指す番号・作業の名前・その作業が起きた日時の3つが1行に揃った記録。表計算ファイルと電子メールと口頭で回っている工程からは、この3つが取れない
- 出てくるのは経路の種類の数・戻りの回数・待ちの場所の3つ。理由と、仕組みの外の相談と、書式の外の判断は残らないので、現場との読み合わせを予定に入れる
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聞き取りで描いた図が、実態とずれる3つの理由
業務の流れを書き出す作業は、たいてい担当者への聞き取りから始まります。聞き取りは早くて費用もかかりませんが、出てくるのはその人が思い出せる範囲の流れです。思い出せる範囲は、実際に起きていることより必ず狭くなります。しかも狭くなる方向は、ばらばらではありません。例外、順番、手戻りの3つに決まっています。方向が決まっているということは、記録で埋めるべき場所も決まっているということです。
1つ目は例外が語られないことです。聞き取りで「この作業のあとは何をしますか」と尋ねると、返ってくるのは「ふつうは次にこれをします」という答えになります。ふつうでない分は、説明が長くなるので省かれます。省かれた分が、実務では件数のかなりを占めます。特急扱い、金額が一定を超えたときの追加承認、取引先ごとの書式の違い、担当者が不在のときの代理。どれも例外と呼ばれているだけで、合計すると本流より多い工程も出てきます。
2つ目は順番です。人は業務を、手順書に書かれた順で記憶します。実際には、後の工程を先に始めておいて、前の工程の書類が届いたら空欄を埋める、という並行のやり方が広く行われています。これは手抜きではなく、待ち時間を吸収するための現場の工夫です。ただし図にすると消えます。3つ目は手戻りです。差し戻された、やり直した、という事実は、聞き取りの場では申告されにくいものです。結果として、聞き取りで得られるのは、あるべき流れに寄った図であって、実際に通った道筋ではありません。
プロセスマイニングが読むのは、3つが揃った1行の記録
では、実際に通った道筋はどこから復元するのか。使うのは、仕組みが動いたときに自動で残る記録です。先の公式の手引きは、取り込みに必要な欄として3つだけを挙げています。案件を一意に指す番号、実行された作業の名前、その作業が起きた日時です。手引きの言い方では、番号はそのプロセスが作用する対象を表すものとされ、記録のすべての行に入っていることが条件になります。
番号が何になるかは業務で決まります。同じ手引きは、注文の送信であれば注文の番号、承認の手続きであれば申請の番号、患者の受け入れであれば患者の番号、という例を挙げています。作業の名前の例として並んでいるのは、申請の送信、申請の承認、申請の却下、申請の修正の4つです。日時については、記録が時刻を1つだけ持つ形と、開始と終了の2つを持つ形が区別されています。手引きは前者を出来事の記録、後者を作業の記録と呼び分けています。作業そのものにかかった時間を見たいなら、開始と終了の2つが要ります。
この3つの上に、任意で足せる欄があります。手引きが挙げているのは、その作業を実行した人的または技術的な資源、作業ごとに値が変わる分析用の項目(実施した部門など)、そして案件ごとに1つの値を持つ項目(請求金額など)です。足せる欄が増えるほど、後から切り口を増やせます。ただし3つが揃っていない記録は、どれだけ欄が多くても道筋になりません。必要なのは記録の量ではなく、いつ・どの案件で・何をしたかが1行に揃っていることです。
記録が残る仕組みと、残らない工程
ここが最大の落とし穴です。同じ手引きは、業務システムのデータベースにある多くの表はいまの状態を持っているだけで、起きた出来事の履歴が入っていないことがある、と注意しています。注文の一覧表を開けば、その注文がいまは出荷済みだと分かります。しかし、いつ受付から与信待ちに変わり、いつ差し戻されたのかは、その表からは分かりません。状態を持つ表と、履歴を持つ表は別物です。取り出しを依頼するときに、この2つを取り違えたまま話が進むことがよくあります。
履歴が残りやすいのは、1件ごとに番号が振られて状態が進む仕組みです。稟議や購買の申請、問い合わせの受付、受注から出荷までの管理、経費の精算。これらは承認や差し戻しという行為そのものを記録として書き込む設計になっているため、道筋を起こせます。手引きも、大規模な業務アプリケーションでは履歴が特定の表に保持されていることが多いとし、製品ごとに表の名前が違う可能性、番号や名前を補うために別の表とつなぐ必要がある可能性、そして関心のある出来事がすべて記録されているとは限らない可能性に触れています。
残らないのは、表計算ファイルと電子メールと口頭で回っている工程です。ファイルは上書きされるので、いつ誰がどの行を埋めたかは残りません。プロセスマイニング製品を提供する事業者のセロニスは、日本語の解説で、独自に開発した仕組みや古い仕組みでは日時が記録されていないことも多いとし、その場合はまず対象となるデータを記録するところから始めなければならない、と書いています。工程ごとの見立てを、下の表にまとめます。
| その工程が回っている場所 | 記録が残るか | 取れないときの次の一手 |
|---|---|---|
| 申請と承認の仕組み | 残る。誰がいつ承認・差し戻ししたかまで残ることが多い | そのまま取り出す。一巡目はこの仕組み1つで足りる |
| 受注や購買の基幹の仕組み | 残ることが多いが、履歴は別の表に入っている | 履歴の表の名前を、その仕組みを管理している部署に先に聞く |
| 問い合わせ管理の仕組み | 残る。受付から解決までの状態の変化が取れる | 対応者の欄を氏名で持つか役割で持つかを、取り出す前に決める |
| 共有した表計算ファイル | 残らない。上書きで履歴が消える | 測る前に、状態が変わった日時を1列足す運用を3か月続ける |
| 電子メールの往復 | 実質的に残らない。件名の揺れで案件をつなげない | その区間は測らない。前後の仕組みの記録で挟み、間の所要時間だけ見る |
| 会って口頭で決めている | 残らない | 測る話を進めず、記録を作る話に変える |
国内の情報サービス事業者が2024年8月23日に公開した解説も、限界の1つとして、取引の記録を生み出さない業務にはそのまま適用できないことを挙げています。同じ解説は、対応していない仕組みからデータを取るには個別の開発が必要になる点も挙げています。つまり、測れるかどうかは業務の重要度ではなく、その工程が何の上で回っているかで決まります。重要な工程ほど対面と口頭で回っている、ということも普通に起こります。
記録を出す前に決める4つ
記録の取り出しを依頼する前に、決めておくものが4つあります。決めずに依頼すると、出てきた記録が使えず、依頼のやり直しになります。取り出しは情報システム部門や委託先の手を借りることが多いので、やり直し1回で数週間の遅れになります。逆にいえば、この4つが書いてある依頼書なら、業務の中身を知らない担当者でも作業に入れます。
- 対象の期間:直近3か月から6か月。繁忙期と閑散期が両方入る幅を選ぶ。1年分を出すと、途中の仕組みの入れ替えが混ざる
- 案件の単位:何を1件と数えるか。注文の単位か、明細行の単位か、請求書の単位か。ここが揺れると、同じ業務で件数が数倍変わる
- 始まりと終わりの定義:どの作業が現れたら開始とみなし、どれが現れたら完了とみなすか。決めないと、終わっていない案件が待ち時間の平均を押し上げる
- 持ち出してよい範囲:どの欄を外に出さないか。取引先の名称、担当者の氏名、自由記述の欄。出さない欄は、取り出しの時点で落としてもらう
4つのうち、後から直せないのは案件の単位です。明細行の単位で出した記録を、後から注文の単位にまとめ直すことはできますが、逆はできません。迷ったときは細かいほうで出しておく、というのが原則になります。ただし細かいほうは行数が増えて、扱いが重くなります。一巡目は期間を短くして単位を細かく取る、という組み合わせが、いちばん失敗しにくい形です。
4つ目は、依頼書に書かないと必ず漏れます。取り出しを担当する人は業務の中身を知らないので、落としてよい欄と落としてはいけない欄の区別がつきません。氏名を落とすと誰が担当したかという切り口が消えますが、落とさないと人の速さの比較ができてしまいます。氏名の欄は落とし、代わりに役割か拠点の欄を足してもらうのが、いちばん揉めない形です。この一文を依頼書に入れておくと、後の説明がずいぶん短くなります。
記録から見えるようになる3つ
3つが揃った記録を案件の番号でつなぐと、1件ごとに「どの作業を、どの順で通ったか」という並びができます。同じ並びどうしをまとめると、実際に通った経路の種類が数として出ます。ここが、聞き取りとの差がいちばん大きく出る場所です。1つの流れだと思っていた業務に、経路が数十種類あることは珍しくありません。種類の数そのものが、まず1つ目の成果になります。
2つ目は戻りの回数です。同じ案件の中で、同じ作業の名前が2回以上現れたら、そこで差し戻しか再入力が起きています。3回以上現れる案件だけを抜き出せば、手戻りの集中している経路が特定できます。聞き取りではまず出てこない情報です。3つ目は待ちの場所です。作業と作業のあいだの時刻の差を取れば、どの区間で時間が消えているかが分かります。先の国内事業者の解説も、最も時間がかかっている箇所やエラーが発生している箇所を、影響度が高い順に並べて示せる点を挙げています。
この3つは、どれも数として出ることに意味があります。経路が何種類あるのか、上位いくつまでで全体の何割を占めるのか、何番目から下は1件ずつしか通っていないのか。そこまで数字で並びます。数で並ぶと、会議の議題が変わります。「どこが非効率か」という漠然とした問いから、「上位いくつまでを正として扱うか」という決められる問いに移ります。図の美しさではなく、どこまでを正とするかが議題になったとき、その測定は成功しています。
記録からは見えないもの
測れるものを並べたら、測れないものも同じ精度で並べておく必要があります。記録に残るのは、仕組みの上で行われた操作だけです。なぜその操作をしたのかという理由は、1行も残りません。差し戻しの記録は残っても、差し戻した理由は残らない。同じ差し戻しという作業名の下に、書類の不備と、金額の交渉と、承認者の不在が同居しています。理由の欄がある仕組みでも、選択肢の「その他」に寄ることがほとんどです。
残らないものの2つ目は、仕組みの外で行われた相談です。承認の前に電話で確認した、席まで行って聞いた、別件の会議のついでに合意した。この時間は、記録の上ではただの「待ち」として現れます。待ちに見える区間の中身が、放置なのか調整なのかは、記録からは区別できません。だから待ちの区間は、原因を聞きに行く対象であって、そのまま削る対象ではありません。ここを取り違えると、調整の時間を削って、後工程の差し戻しが増えます。
3つ目は、書式の外で行われた判断です。備考欄に書かれた一文で処理の仕方が変わる、添付された資料の中身を見て金額を直す、といった判断は、作業名としては1つに見えます。分けたければ、備考欄が埋まっているかどうかを欄として足すしかありません。見えないものを先に一覧にしてから現場に持っていくと、話が早く進みます。何が測れていないかをこちらから言えば、現場は残りを埋める側に回ります。測れた分だけを持っていくと、抜けの指摘から会話が始まります。
個人が特定できる形で、人の速さを比べない
記録には、作業を実行した人の欄が付いていることがあります。先の公式の手引きも、任意で足せる属性として、その作業を実行した人的または技術的な資源を挙げています。この欄があると、担当者ごとの処理件数と所要時間が、何の追加作業もなく出せてしまいます。出せることと、出してよいことは別です。ここは、測る側が最初に自分で線を引く場所になります。
個人が特定できる形で速さを比べ始めると、記録の質そのものが落ちます。落ち方は具体的です。仕組みへの入力の順番を、実際の作業順ではなく見栄えのよい順に変える。その場で入力せず、まとめて後から入れる。差し戻しを記録に残さず、口頭で直してもらう。どれも悪意ではなく防衛です。そして、こうして変わった記録は元に戻りません。測られていると分かった工程の記録は、測るための記録ではなくなります。
実務的な線の引き方は3つです。1つ目は、氏名の欄を役割か拠点の単位に置き換えてから取り出すこと。2つ目は、人を軸にした集計を最初から作らないこと。作れる状態にしておくと、いつか誰かが作ります。3つ目は、測る目的を先に文章にして配ることです。測るのは工程であって人ではない、と最初に書いて渡す。この1行があるかないかで、二巡目以降の取り出しへの協力が変わります。労務や人事の観点で確認が要る場合は、取り出しの前に相談しておきます。
対象を1本に絞るところから、読み合わせまでの手順
手順は先に固定しておきます。順番が入れ替わると、道具の選定から始まってしまい、記録が取れない工程を測ろうとして止まります。データ活用の解説を公開している国内の事業者も、2020年11月の記事で、進め方を計画、データの準備、データの加工、分析、評価、改善活動と運用の6段階として並べています。ここでは、聞き取りとのずれを埋めるという目的に合わせて、同じ6つを実務の動作として書き直します。
部門ではなく工程です。申請から承認まで、受注から出荷まで、のように始まりと終わりを言い切れる範囲を1本だけ選びます。選ぶ基準は、件数が多いことと、1つの仕組みで完結していることの2つです。
先に決めた4つ、つまり期間・案件の単位・始まりと終わりの定義・持ち出してよい範囲を依頼書に書いて渡します。まずは小さく出して、形が合っているかだけ確かめます。公式の手引きも、試すときは記録の小さな見本を書き出して取り込む形を勧めています。
行を案件の番号でまとめ、日時の順に並べ替えます。ここで、番号が入っていない行と、日時がまったく同じ行の並び順が問題になります。同時刻の行は、業務上どちらが先かを人が決めて固定します。
同じ並びどうしをまとめて、経路の種類と件数を出します。この時点ではまだ図を作りません。数の一覧だけで、聞き取りで描いた図とのずれはほぼ見えます。
すべての経路を見る必要はありません。件数の多い順に並べ、全体の8割に届くところまでを読みます。残りは一覧として持っておき、後で例外の検討に使います。
上位の経路と、戻りの多い経路を紙にして、その工程の担当者と読み合わせます。ここが本番です。数を見せて、心当たりのある理由を出してもらいます。
この6つのうち、飛ばされやすいのは3番目です。番号でつなぐ作業を軽く見て、取り出したままの行を数え始めると、1件が複数件に割れます。割れたまま数えた経路の種類は、実態よりずっと多く出ます。経路が多すぎて読めないときは、業務が複雑なのではなく、つなぎ方を間違えていることのほうが多い。まず番号の入っていない行が何割あるかを数えます。
6番目を予定に入れていない計画も、よく見ます。数が出たところで終わりにすると、その一覧は誰にも使われません。読み合わせの場は、取り出しを依頼する時点で日付として押さえておきます。押さえておくと、出す記録の量も自然に決まります。読み合わせの1時間で読める量しか出さない、という制約が効くからです。
結果を現場に当てると、まず「そんなに戻っていない」と言われる
読み合わせの場で最初に返ってくる反応は、ほぼ決まっています。「そんなに差し戻していません」「その経路は、うちでは使っていません」。この反応は、現場が事実と違うことを言っているわけでも、記録が壊れているわけでもありません。人が覚えているのは頻度ではなく印象だからです。月に2回の大きな差し戻しは記憶に残り、週に3回の軽い修正は記憶に残りません。
ここで押し返すのは得策ではありません。効くのは、件数を1件ずつ見られる形に落とすことです。「先月この経路を通ったのは何件で、そのうち3件の番号はこれです」と出すと、話が具体に戻ります。番号を見た担当者からは、たいてい理由が出てきます。取引先ごとの書式の違い、月末に集中する処理、承認者の不在、前工程からの入力の欠け。ここで出てくる理由が、記録には残っていなかった情報そのものです。読み合わせは確認の場ではなく、記録に欠けている列を回収する場だと考えるほうが正確です。
この場で決めるのは、直し方ではありません。決めるのは2つだけです。どの経路を正として扱うか。そして、正から外れた経路のうち、残すもの(業務上どうしても必要な例外)と、なくすもの(惰性で残っている迂回)をどう分けるか。読み合わせの成果は、直した工程の数ではなく、正と例外の線が引けた工程の数で数えます。線が引ければ、改善の議論は次の回に回せます。
経路の名前付けはAIに、正の決定は人に
この一連の作業のうち、生成AIに任せて効く場所は3つあります。1つ目は経路のかたまりに名前を付けることです。上位の経路は作業名の並びとして出てきますが、そのままでは会議で読めません。並びを渡して、業務の言葉で短い名前を付けさせると、読み合わせの資料が作りやすくなります。2つ目は例外の一覧を作ることです。件数が1件か2件しかない経路を渡し、上位の経路とどこが違うかを1行ずつ書かせます。3つ目は、読み合わせで配る説明文の下書きです。
任せるときの条件は2つあります。1つは、どの行から言えることかを必ず併記させること。名前や説明の根拠になった作業名を書かせておかないと、それらしい要約がまぎれ込みます。もう1つは、渡す前に氏名と取引先の名称を落としておくことです。外部の生成AIに業務の記録を渡してよいかどうかは、社内の規程で決まります。決まっていない場合は、記録そのものではなく、作業名の並びと件数だけを渡す形にします。並びと件数だけでも、名前付けと例外の抽出はできます。
人が決めるのは3つです。どの経路を正とするか、直す順番、止める判断。どれも、間違えたときの影響が業務の外に出る決定です。「うちの業務のどこを直すべきか」と生成AIに尋ねると、それらしい優先順位が返ってきます。ただし返ってくる根拠は、渡した資料の中で件数が多い項目です。件数が多いことと、直す価値が高いことは別です。優先順位を判定させるのではなく、判定に使う条件の一覧を出させて、当てはまるかどうかは人が埋める。人が確認する範囲は、この段で先に決めておきます。
生成AIを差し込む判断に、この測り方がどう効くか
業務にAIを差し込む検討では、「この工程は同じ手順の繰り返しだから任せられる」という言い方がよく出ます。繰り返しかどうかは、聞き取りでは確かめられません。担当者は自分の仕事を繰り返しだと思っていませんし、逆に、繰り返しだと思われている工程に例外が集中していることもあります。経路の種類の数は、この繰り返しかどうかに数で答えてくれる指標です。上位1種類で大半を占める工程は繰り返しです。上位10種類でも半分に届かない工程は、繰り返しではありません。
差し込んだ後にも効きます。効果を「作業時間が減ったか」で測ろうとすると、測り方の合意で揉めます。同じ記録から出せる指標のほうが揉めません。経路の種類が減ったか、戻りの回数が減ったか、待ちの区間が短くなったか。差し込む前の3か月と後の3か月を、同じ手順で出して比べます。差し込む前に一度測っておくこと自体が、後の説明を楽にします。稟議の段階で「差し込む前の状態はこの3つの数で残しておきます」と書いておくと、翌期の報告が短くなります。
逆の結果が出ることもあります。AIを差し込んだのに経路の種類が増えた、という場合です。これは失敗の合図ではなく、AIが処理した案件と人が処理した案件で、後工程の扱いが分かれている合図です。分かれている理由を1件ずつ見に行くと、たいてい「AIの結果を人が確認してから流す経路」と「そのまま流れる経路」が混ざっています。経路が増えたら、確認の入れ方が案件ごとに揺れていないかを先に見る。揺れているなら、直すのはAIではなく確認の決めごとのほうです。
マーケティング部門の工程では、何が見えるか
測る対象は、生産や購買の工程だけではありません。マーケティング部門が回している工程にも、1件ごとに番号が振られて状態が進むものがあります。問い合わせの受付から商談として引き渡すまで、資料請求の受付から送付まで、共催のイベントの申し込みから当日の受付まで。これらは案件の番号と状態の変化が仕組みに残っているので、そのまま道筋を起こせます。追加の記録を作る必要がありません。
出てくるのは、たとえばこういう数です。問い合わせから商談になるまでに通る経路が、流入元や担当によって何種類に分かれているか。引き渡した後に差し戻された案件が何件あり、そのうち理由の欄が空のまま戻ってきたものが何件あるか。資料請求の受付から送付までのどの区間に待ちが集まっているか。件数の落ち方だけを見ている限り、どの区間で落ちたのかは分かりません。区間ごとの所要時間と件数が並ぶと、施策の善し悪しの議論から、手順の議論に移せます。
マーケティング部門でこの測り方が効くもう1つの理由は、工程が部門をまたぐことです。受付は自部門、審査や与信は別部門、最終の承認はさらに別、というつながり方をします。またいだ先の待ち時間は、聞き取りでは「先方の都合です」としか出てきません。記録には、渡した時刻と戻ってきた時刻が両方残ります。部門をまたぐ区間こそ、記録で測る価値がいちばん高い。ただし、またいだ先の仕組みが別で案件の番号が変わる場合は、番号どうしをつなぐ対応表が別に要ります。ここは取り出しの前に確認しておく項目です。
小さく始める形は、1工程・3か月ぶん・1つの仕組み
最初の一巡は、範囲を3つとも小さくします。工程は1本、期間は3か月ぶん、記録は1つの仕組みから。この3つを守ると、取り出しの依頼から読み合わせまでを数週間で回せます。回してみて初めて、自社の記録に何が入っていて何が入っていないかが分かります。分かってから、次の工程を選びます。範囲を広げるのは二巡目からで十分です。
道具も、最初から買う必要はありません。公式の手引きも、試すときはデータベースの担当者と一緒に記録の小さな見本を書き出し、それを取り込む形を勧めています。同じ資料には、標準の取り込み口が使えない環境では取り込める件数が少なくなる、という注意も書かれています。つまり試しの段階は、そもそも少ない件数で回すことが前提になっています。一巡目の目的は分析ではなく、記録が使える形で出てくるかの確認です。表計算ソフトで経路の種類を数えるだけでも、聞き取りとのずれは見えます。
選ぶ工程の基準を、もう1つ足しておきます。読み合わせに来てくれる担当者がいる工程を選ぶことです。数が出ても、当てる相手がいなければ止まります。件数がいちばん多い工程より、協力が得られる工程のほうが一巡目には向いています。一巡目で「記録から実際の道筋が出た」という事実が社内にできると、二巡目で件数の多い工程に入るときの説明が要らなくなります。
測る前につまずく3つの型
失敗の形は、驚くほど似ています。共通しているのは、記録が取れるかどうかの確認をいちばん後ろに置いていることです。確認の順番を1つ前に出すだけで、下の3つはほとんど避けられます。
- 道具を先に買う。契約してから、対象にしたい工程の記録に日時が入っていないことが分かる。取り込むものがないまま、初年度の費用だけが立つ
- 全社を一度に測ろうとする。取り出しの依頼が部門ごとにばらばらの形で出て、案件の単位も期間もそろわない。集まった記録をつなぐ作業だけで数か月が消える
- きれいな図を作って終わりにする。経路の図は会議で受けがよいので、そこで満足してしまう。どの経路を正とするかを決めないまま、次の期のテーマが変わる
3つ目については、先の解説サイトも、道具を導入しても、見つかった停滞に対して打ち手を見つけていく運用の体制がなければ、その課題は放置されたままになる、と書いています。図が出た時点は、作業の半分です。読み合わせの日付が予定表に入っていない測定は、始める前から半分で終わることが決まっています。予定表に入れる相手は、その工程の担当者と、その工程の手順を変えられる決裁者の2人です。
もう1つ、目立たない失敗があります。測る目的を「業務改善」とだけ書いて始める形です。目的が広いと、出てきた数のどれを見ればよいかが決まりません。目的は、答えたい問いの形で1つに絞ります。この工程は繰り返しか、どこで待っているか、どこで戻っているか。答えたい問いを1つだけ先に書く。問いが1つ決まれば、出す記録の範囲も、読む数も自動的に決まります。
実務仕様:記録の1行に入れる欄と、取り出しの条件
最後に、実際に依頼書へ書く欄を仕様として並べます。上の3行が無いと成立しない欄、次の3行が切り口を増やす欄、下の3行が取り出しの条件です。紙1枚に収まります。
| 書く欄 | 書き方 | 悪い例 |
|---|---|---|
| 案件を指す番号 | その工程で1件と数える単位の番号を1つ選び、すべての行に入っていることを確認する | 行ごとに採番された通し番号を入れる。案件としてつながらず、経路が1件ずつに割れる |
| 作業の名前 | 業務で使っている言い方で、動作が分かる名前にする。20種類前後に収める | 画面の名前や処理の記号をそのまま入れる。読み合わせで誰も読めない |
| 日時 | その作業が確定した時刻。作業時間を見たい区間は開始と終了の2つを取る | 日付だけを入れる。同じ日の並び順が決まらず、経路が実態と違う順に出る |
| 実施した部門か拠点 | 個人ではなく、役割か組織の単位で入れる | 担当者の氏名を入れる。人の速さの比較に使われ、記録の質が落ちる |
| 案件の区分 | 取引先の種別、金額の帯、商品の分類など、後で絞り込みたい軸を1つか2つ | 思いつく限りの欄を足す。取り出しが重くなり、依頼そのものが通らなくなる |
| 金額や数量 | 案件ごとに1つの値を持つ欄として入れ、いつ時点の値かを併記する | 途中で書き換わる欄をそのまま入れる。どの時点の値か分からなくなる |
| 対象の期間 | 直近3か月から6か月。繁忙期を含む幅にする | 1年分を指定する。途中の仕組みの入れ替えが混ざり、前後で作業名が変わる |
| 始まりと終わりの定義 | どの作業名が現れたら開始・完了とみなすかを文章で書く | 定義を書かずに出す。完了していない案件が待ち時間の平均を押し上げる |
| 落とす欄 | 氏名、取引先の名称、自由記述の欄を明示して落としてもらう | 落とす欄を書かない。出てきた記録を外に渡せず、そこで止まる |
この仕様で1回出せると、2回目からは条件を変えるだけで済みます。いちばん時間がかかるのは一巡目の取り出しで、そこを越えると、月に一度の更新は現実的な負荷になります。更新を続ける場合は、作業名の一覧が変わったときに知らせてもらう約束を、仕組みを管理している部署と結んでおきます。名前が変わったことに気づかないと、同じ工程が新しい経路として数えられ、前月との比較が壊れます。
- この記事で使った3つの欄の呼び方は、日本語で公開されている公式の手引きの言い方に寄せています。製品や解説によって欄の呼び名は異なります
- 引用した仕様は、マイクロソフトが自社の業務自動化サービスの公式の手引きとして公開している資料(日本語版、2026年8月31日改訂)の記述です。ほかの製品では必要な欄や取り込みの条件が違うため、導入する製品の資料で確認してください
- 端末の操作を1つずつ記録して個人の作業内容を分析する手法は、この記事で扱った測り方とは別のものです。取れる記録も、決めておくべき範囲も変わります
- どの工程にAIを差し込むかの選び方は、この記事では扱いません。測って数が出た後に、別に決める項目です
この記事に出てきた言葉
社内で相談するときに、意味がずれやすい語を並べます。とくに最初の2つは、製品の説明と業務の説明で指すものが変わるため、毎回そろえるところから始まります。
- プロセスマイニング:仕組みに残った記録を案件ごとにつなぎ直し、実際に通った道筋を数え上げる測り方。改善そのものは行わない
- イベントログ:案件を指す番号・作業の名前・その作業が起きた日時の3つが1行に揃った記録。この形に整うまでは分析に入れない
- 案件の単位:何を1件と数えるか。注文か、明細行か、請求書か。ここが決まらないと、同じ業務で件数が数倍変わる
- 経路:1件の案件が通った作業名の並び。同じ並びどうしをまとめた数が、経路の種類の数になる
- 戻り:同じ案件の中で、同じ作業名が2回以上現れること。差し戻しや再入力の合図として読む
- 待ちの区間:作業と作業のあいだの時間。放置と調整の両方が混ざっているため、そのまま削る対象にはしない
- 正とする経路:読み合わせで、これを標準として扱うと決めた経路。決まっていない状態では、改善の対象も決まらない
まとめ
聞き取りで描いた業務フローは、例外が語られず、順番が手順書の記憶に寄り、手戻りが申告されないという3つの方向で、実態より狭くなります。プロセスマイニングは、この狭くなった分を仕組みに残った記録から埋め直す測り方です。必要なのは、案件を一意に指す番号、実行された作業の名前、その作業が起きた日時の3つが1行に揃った記録で、公式の手引きはこの番号がすべての行に存在することを条件にしています。ただし、いまの状態を持つ表と履歴を持つ表は別物です。申請や購買や問い合わせの仕組みには残りますが、表計算ファイルと電子メールと口頭で回っている工程からは取れません。取り出しの前に、期間・案件の単位・始まりと終わりの定義・持ち出してよい範囲の4つを決めます。出てくるのは、経路の種類の数、戻りの回数、待ちの場所の3つです。理由と、仕組みの外の相談と、書式の外の判断は残らないので、数だけで結論を出さず、現場との読み合わせを予定表に入れておきます。生成AIには、経路への名前付けと例外の一覧づくりと説明文の下書きまでを任せ、どの経路を正とするか、直す順番、止める判断は人が持ちます。個人が特定できる形で人の速さを比べ始めると、記録そのものの質が落ちます。次の一手は、道具を選ぶことではありません。自社でいちばん件数の多い工程を1つ選び、その工程が回っている仕組みに、案件の番号と作業の名前と日時の3つが残っているかを確かめてみる。残っていなければ、そこが最初に手を付ける場所です。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
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