Media > AI活用ユースケース > 経理 > 取引先からの振込口座の変更依頼を、確認項目に沿って検証して人の電話確認に回す

取引先からの振込口座の変更依頼を、確認項目に沿って検証して人の電話確認に回す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

口座変更の依頼メールと添付書類を入力に、確認項目に沿って検証し、不審な点を列挙します。経理の作業は、毎回どこを見るべきかを思い出しながら確かめることから、整理された確認表を見て電話確認に進むことに変わります。

サマリー
利用ツール
AWS Textract/Azure AI/ChatGPT/Claude/Gemini/Google Document AI/Make/n8n/Power Automate
対象業界
IT・SaaS/商社/建設/物流/製造
対象部門
経理/財務
対象業務
内容確認・チェック/台帳・マスタ管理
主な課題
判断に時間がかかる/属人化している/確認ミスが多い
AIで行う処理
判定
主な効果
判断支援/品質標準化/工数削減
導入難易度
★★☆☆☆
実装レベル
半自動化
費用感
ノーコード連携(中)
人間の確認
必須
現在工数
20h/月
AI導入後
6h/月
想定削減
70%
年間削減
168h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 取引先から、口座変更の依頼がメールで届く(依頼書のPDF、通帳の写し、銀行の口座証明書などが添付される)
  2. 経理担当がメールを開き、依頼内容を読む
  3. 添付書類を開き、金融機関名、支店名、口座種別、口座番号、口座名義を読む
  4. ERPの取引先マスタを開き、現在の登録内容と比べる
  5. 送信元のメールアドレスが、これまでのやり取りと同じかを確認する
  6. 過去の取引履歴を見て、この取引先との取引が実在することを確認する
  7. 取引先に電話をかけ、変更の事実を確認する
  8. ERPの取引先マスタを更新する
  9. 上長が承認する
  10. 変更履歴を台帳に記録する
導入後(After)
  1. 取引先から、口座変更の依頼がメールで届く(専用のメールアドレス宛)
  2. 自動メールを検知し、添付書類をOCRで読み取る
  3. 自動ERPの取引先マスタ、過去の取引履歴、過去のメールのやり取りを取得する
  4. 自動確認項目のチェックリストに沿って、1項目ずつ検証する
  5. 自動不審な点、確認できなかった点を列挙する
  6. 自動かけるべき電話番号を、取引先マスタから引いて表示する(依頼メールの番号は表示しない)
  7. 自動確認表を作り、経理担当へ通知する
  8. 経理担当が確認表を見る
  9. マスタに登録された番号へ電話し、変更の事実を確認する
  10. ERPの取引先マスタを更新する
  11. 上長が承認する
  12. 自動検証結果と判断を台帳に記録する
各工程の詳しい説明を読む
  1. 取引先から、口座変更の依頼がメールで届く(依頼書のPDF、通帳の写し、銀行の口座証明書などが添付される)
  2. 経理担当がメールを開き、依頼内容を読む
  3. 添付書類を開き、金融機関名、支店名、口座種別、口座番号、口座名義を読む
  4. ERPの取引先マスタを開き、現在の登録内容と比べる
  5. 送信元のメールアドレスが、これまでのやり取りと同じかを確認する
  6. 過去の取引履歴を見て、この取引先との取引が実在することを確認する
  7. 取引先に電話をかけ、変更の事実を確認する
  8. ERPの取引先マスタを更新する
  9. 上長が承認する
  10. 変更履歴を台帳に記録する

問題は4つあります。

(a)確認すべき点が担当者の記憶に依存している。 「送信元アドレスのドメインが微妙に違わないか」「口座名義が取引先の社名と一致するか」「請求書の金額と依頼書の記載が整合するか」。これらを毎回もれなく見るのは、慣れた担当者でも難しい作業です。

(b)電話確認の相手が問題になる。 依頼メールに書かれた電話番号にかけてはいけません。 かけるべきは、取引先マスタに登録済みの番号か、取引先の公式サイトに掲載された番号です。ここを間違えると、確認そのものが詐欺の一部になります。急いでいるとき、目の前のメールの署名にある番号にかけてしまいます。

(c)判断の記録が残らない。 「この件は口座名義が社名と違ったが、グループ会社名義だと確認した」といった判断が、担当者の記憶にしか残りません。同じ取引先から次の依頼が来たとき、また同じ確認をします。

(d)新規取引先の登録に紛れる。 月60件のうち40件は新規取引先の口座登録です。これは変更ではないため警戒が薄くなります。新規のふりをした偽の登録依頼は、変更依頼より通りやすいことになります。

  1. 取引先から、口座変更の依頼がメールで届く(専用のメールアドレス宛)
  2. 【自動】 メールを検知し、添付書類をOCRで読み取る
  3. 【自動】 ERPの取引先マスタ、過去の取引履歴、過去のメールのやり取りを取得する
  4. 【自動】 確認項目のチェックリストに沿って、1項目ずつ検証する
  5. 【自動】 不審な点、確認できなかった点を列挙する
  6. 【自動】 かけるべき電話番号を、取引先マスタから引いて表示する(依頼メールの番号は表示しない)
  7. 【自動】 確認表を作り、経理担当へ通知する
  8. 【人】 経理担当が確認表を見る
  9. 【人】 マスタに登録された番号へ電話し、変更の事実を確認する
  10. 【人】 ERPの取引先マスタを更新する
  11. 【人】 上長が承認する
  12. 【自動】 検証結果と判断を台帳に記録する

自動化されるのは「読む」「集める」「確認項目に沿って照らす」の3つです。電話確認とマスタの更新は人が行います。 この2つは自動化しません。

6番目が、この構成の要点です。 かけるべき番号を自動で表示し、依頼メールに書かれた番号を表示しないことで、「急いでいて目の前の番号にかけてしまう」を仕組みで防ぎます。

02今回想定するシステム構成

構成図
取引先
   │ 口座変更の依頼(メール+添付)
   ▼
専用メールボックス(例 payment-info@)
   │
   ▼【トリガー】新しいメールが届いたとき
Power Automate
   │
   ├──▶ Azure AI Document Intelligence(prebuilt-read)
   │       └─ 依頼書 / 通帳の写し / 口座証明書を読み取る
   │
   ├──▶ ERP ── 取引先マスタ(現在の口座 / 登録電話番号 / 担当者)
   ├──▶ ERP ── 過去12か月の取引履歴
   └──▶ Outlook ── この取引先との過去のやり取り(送信元の履歴)
   │
   ▼【判定】Claude API(構造化出力)
   │   ─ 確認項目のチェックリストを1項目ずつ検証
   │   ─ 不審な点を列挙(判定を断定しない)
   │
   ▼
確認表(SharePoint / Teams)
   │   ─ 検証結果
   │   ─ かけるべき電話番号(マスタの登録番号)
   │   ─ 依頼メールの番号は表示しない
   │
   ▼【人】マスタの番号へ電話して確認
   │
   ▼【人】ERPの取引先マスタを更新 → 上長が承認
   │
   ▼
変更履歴台帳へ記録
役割想定する製品代替候補
ワークフローPower AutomateMake、n8n
OCRAzure AI Document Intelligence(prebuilt-read)Google Document AI、AWS Textract
生成AIClaude API(構造化出力)OpenAI API、Gemini API
確認表の保管SharePointBox、Google Drive
取引先マスタERP各社の会計システム

専用のメールアドレスを用意することが前提です。 口座情報の変更依頼を、担当者個人のメールアドレスで受けないでください。専用アドレスにすることで、受付の記録が1か所に残り、担当者が休んでも他の人が見られます。

判定をAIに任せて自動で通す構成にはしません。 AIが行うのは、確認項目を1つずつ照らして結果を並べることです。「安全」「危険」の判定を出させる設計にすると、「安全」と出た件の確認が甘くなります。 それがこの構成で最も避けたい事態です。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

専用メールボックスへの新着メールを起点にします。Power Automate の Office 365 Outlook コネクタの「新しいメールが届いたとき」トリガーを使います。

口座変更以外のメールも届きます。 請求書の送付、支払条件の照会、督促。件名や本文から口座変更の依頼かを判定し、該当しないものは処理を止めて担当へ転送します。この判定も生成AIに行わせますが、判定が曖昧なものは処理対象にしてください。 口座変更の依頼を見逃すより、関係ないメールを検証するほうが安全です。

郵送やFAXで届く依頼もあります。 これは経理がスキャンして専用メールボックスへ転送する運用にします。同じ検証を通すためです。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
依頼メール本文、件名、送信元アドレス、送信日時、ヘッダーOutlook
添付書類口座変更依頼書、通帳の写し、銀行の口座証明書メールの添付
取引先マスタ社名、現在の口座、登録電話番号、担当者名、住所ERP
過去の取引履歴直近12か月の取引の有無、金額、支払実績ERP
過去のやり取りこの取引先との過去のメール(送信元アドレスの履歴)Outlook
未払の請求現在支払予定のある請求書ERP
確認項目リスト検証すべき項目(後述)経理部が管理
Step3

データの取得方法を決める

添付書類のOCR: Azure AI Document Intelligence の prebuilt-read モデルを使います。このモデルは、PDFやスキャン画像から印刷された文字と手書きの文字を抽出し、段落、行、単語、位置、言語を検出します。WordやExcel、PowerPoint、HTMLからのテキスト抽出にも対応します。手書きかどうかの判定結果が styles に信頼度とともに返るため、通帳の写しに手書きの書き込みがある場合にそれを検出できます。

請求書の項目を構造化して取りたい場合は prebuilt-invoice が適していますが、口座変更依頼書は書式が取引先ごとに違うため、まず prebuilt-read で全文を取り、そこから項目を読むほうが確実です。

送信元アドレスの履歴: この取引先と過去にやり取りしたメールの送信元アドレスを一覧にします。今回の送信元が初めて見るアドレスかどうかが、重要な確認項目のひとつです。

取引先マスタの電話番号: 確認表に表示する番号です。マスタに番号が登録されていない取引先については、その旨を大きく表示してください。 「番号が分からないので依頼メールの番号にかける」を防ぐためです。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 添付ファイルの分類 … 依頼書、通帳の写し、口座証明書、請求書のどれかを判別します。複数の書類が1つのPDFに入っていることもあります
  2. 取引先の特定 … 送信元のドメイン、本文中の社名、添付の社名から、取引先マスタを引きます。複数の候補が出た場合は、特定せずに候補を並べて人に選ばせます
  3. 口座情報の正規化 … 金融機関名、支店名、口座種別、口座番号、口座名義(カナ)を項目として取り出します。全角半角、カナの濁点、旧支店名を正規化します
  4. メールヘッダーの取得 … 送信元アドレス、返信先アドレス、経由したサーバの情報。返信先が送信元と違う場合は確認項目に立てます
  5. 画像の品質確認 … 通帳の写しが読めない場合、推測せずに「読み取れない」として扱います
Step5

AIに処理させる

確認項目のチェックリストを1項目ずつ照らして、結果を並べさせます。 総合判定はさせません。

確認項目何を見るか
送信元アドレス過去のやり取りと同じドメインか。似ているが違う文字列(英字の見間違いを狙ったもの)でないか
返信先アドレス送信元と異なる返信先が設定されていないか
取引の実在過去12か月に取引実績があるか。新規取引先の場合はその旨
口座名義取引先の社名と一致するか。カナ表記の揺れを超えて違う名義でないか
名義の種類法人名義か個人名義か。法人取引で個人名義の口座への変更は確認項目に立てる
金融機関これまでと大きく異なるか(国内取引で海外の銀行へ変更されていないか)
依頼の文面急を要する旨の記載、電話での確認を避けるような記載がないか
添付の整合依頼書の口座と、通帳の写しや口座証明書の口座が一致するか
未払の請求この取引先に支払予定の請求があるか。ある場合は金額
依頼者依頼者名が、これまでの担当者と同じか
書類の体裁手書きの書き込み、部分的な修正の痕跡があるか(OCRの styles で判定)

「急を要する旨の記載」と「電話確認を避ける記載」は、それ自体が確認項目です。 IPAが報告している事例には、急ぎを装って確認の手順を飛ばさせる手口が含まれます。ただし、本物の依頼でも急ぎのことはあります。 これは「怪しい」の根拠ではなく「確認項目」として扱ってください。

Step6

指示内容を固定する

あなたは経理の支払担当を支援する担当者です。
取引先からの口座変更依頼について、確認項目を1つずつ照らし、
事実だけを並べてください。

【厳守事項】
- 総合的な判定(安全 / 危険 / 問題なし)を出さないでください。
  各確認項目について、確認できた / 確認できなかった / 相違がある
  の3つのいずれかと、その根拠となる事実だけを書いてください。
- 「詐欺の可能性が高い」「正当な依頼と思われる」といった
  評価を書かないでください。判断は人が行います。
- 口座番号、口座名義、金融機関名を推測で補わないでください。
  OCRで読み取れなかった項目は unreadable にしてください。
- 送信元アドレスと過去のやり取りのアドレスを比べる際は、
  一致 / 不一致 / 過去の履歴なし のいずれかを返し、
  「似ているが違う」場合は不一致として、違う箇所を示してください。
- 連絡先として、依頼メールに記載された電話番号や
  メールアドレスを出力に含めないでください。
  確認の連絡先は取引先マスタの登録情報のみを使います。

【確認項目リスト】
{checklist}

【依頼メール】
{mail_body}

【メールヘッダーの情報】
{mail_headers}

【添付書類のOCR結果】
{ocr_text}

【取引先マスタの登録内容】
{vendor_master}

【過去12か月の取引履歴】
{transaction_history}

【この取引先との過去のやり取り(送信元アドレスの一覧)】
{past_sender_addresses}

「連絡先として依頼メールの番号を出力に含めない」の1行が、この構成で最も重要な指示です。 確認表に依頼メールの番号が載ってしまえば、担当者はそれにかけます。出力の段階で物理的に含めないのが確実です。

Step7

出力形式を固定する

{
  "vendor_candidates": [ { "vendor_code": "", "vendor_name": "", "match_basis": "" } ],
  "request_type": "new_registration | account_change | other",
  "extracted_account": {
    "bank_name": "",
    "branch_name": "",
    "account_type": "",
    "account_number": "",
    "account_holder_kana": "",
    "unreadable": []
  },
  "checks": [
    {
      "item": "",
      "result": "confirmed | not_confirmed | discrepancy",
      "evidence": "",
      "detail": ""
    }
  ],
  "attachments_consistent": "yes | no | cannot_determine",
  "handwriting_detected": true,
  "unpaid_invoice_total": "",
  "notes_for_caller": []
}

checksresult を3値にし、evidence に根拠となる事実だけを書かせます。総合判定のフィールドを作らないのが設計上の意図です。 フィールドが無ければ、そこを見て判断することもできません。

notes_for_caller には、電話確認のときに聞くべきことを列挙させます。「口座名義が社名と異なる理由」「変更の理由」など、確認項目で discrepancy になった点から作ります。

Step8

システムへ連携する

確認表: SharePoint のリストか、Teams のカードとして出します。表示する内容は次のとおりです。

表示項目内容
取引先マスタから引いた社名と取引先コード
連絡先取引先マスタに登録された電話番号と担当者名
依頼内容新規登録か変更か。読み取った口座情報
確認項目の結果11項目それぞれの結果と根拠
相違のある項目discrepancy の項目だけを上部にまとめる
電話で聞くことnotes_for_caller
未払の請求金額と件数
経理の判断更新した/保留/依頼を拒否(人が入力)

依頼メールの本文と添付は、確認表から別リンクで開く形にします。 同じ画面に並べると、担当者が本文の署名にある番号を見てしまいます。

ERPへの書き込みはしません。 マスタの更新は、電話確認の後に人がERPの画面で行います。ワークフローからマスタを更新する経路を作らないでください。その経路が存在すること自体が危険です。

Step9

人が確認する

全件、人が電話確認をしてからマスタを更新します。確認項目がすべて confirmed でも、この手順は省きません。

電話確認の手順を固定します。

  1. 確認表に表示された番号にかける(取引先マスタの登録番号)
  2. マスタに番号が無い場合は、取引先の公式サイトに掲載された番号を調べる。依頼メールの番号は使わない
  3. これまでの担当者に取り次いでもらい、変更の事実を確認する
  4. notes_for_caller の項目を聞く
  5. 確認できた内容を確認表に記録する

マスタの更新は、上長の承認を経てから行います。 経理担当1名で完結しない二重の手順にしてください。

「確認項目がすべて確認できたから電話は不要」という運用に流れないための歯止めが要ります。 確認表の「経理の判断」欄に、電話確認の日時と、話した相手の名前を必須入力にしてください。空欄では次に進めない形にします。

Step10

例外に対処する

起きること対応
取引先を特定できない候補を並べて人に選ばせる。自動で1社に決めない
OCRで口座番号が読めないunreadable に入れる。推測で埋めない。 読めない依頼は、書類の再送を依頼する
過去のやり取りの履歴が無い「履歴なし」として表示する。新規取引先なら正常。既存取引先で履歴が無いのは確認項目
送信元が過去と似ているが違うドメインdiscrepancy として最上部に表示する。似ているほど注意が必要
法人取引で個人名義への変更discrepancy として表示する。理由を電話で確認する項目に入れる
依頼書と通帳の写しで口座が違うattachments_consistentno にする。書類の再送を依頼する
手書きの書き込みがあるOCRの styles で検出し表示する。修正の痕跡がないかを人が現物で見る
急ぎを理由に電話確認を断られる手順を変えない。 確認が取れるまで支払を保留する
取引先マスタに電話番号が無い確認表に「登録番号なし」と大きく表示し、公式サイトから調べる旨を示す
同じ取引先から短期間に複数回の変更依頼直近の依頼履歴を表示する。繰り返しの変更は確認項目
メールが口座変更の依頼かどうか曖昧処理対象にする。見逃すより検証するほうが安全
海外送金先の変更別の確認手順を用意する。受取国が取引実態と違う場合は確認項目に立てる
Step11

記録を残す

  • 依頼メールの原本(ヘッダーを含む)
  • 添付書類の原本
  • OCRの抽出結果(生の状態)
  • 確認項目の検証結果と根拠
  • 電話確認の日時、かけた番号、話した相手の名前
  • 経理の判断と、上長の承認
  • 実際にマスタを更新した日時と、更新前後の口座情報

電話確認の記録は必ず残してください。 万一、誤った口座へ送金してしまった場合、どの手順が守られていたかが問われます。また、記録を必須にすることで、電話確認を省く運用への流れを止められます。

口座情報は機微な情報です。ログの保存場所へのアクセスは経理部門に限定してください。

04実装レベルの3段階

最小構成:チェックリストを文書化し、人が1項目ずつ確認する / なし(手順の標準化のみ)
半自動化:メール受信 → OCR → マスタ照合 → 確認項目の検証 → 確認表の作成 / 読み取り・照合・確認表の作成
本格構成:上記+過去の変更履歴の分析、海外送金の別手順、確認記録の必須化 / 確認の準備まで

本格構成でも、電話確認とマスタ更新は自動化されません。 この業務では、自動化の上限がここに置かれます。 最小構成(チェックリストの文書化)を必ず先に行ってください。 AIは、文書化された手順を毎回実行する道具です。手順が無いままAIを入れると、AIが何を確認しているのか誰も分からない状態になります。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
2 名
月間件数
60 件
1件あたり現在時間
20 分
1件あたり導入後時間
6 分
現在  60件 × 20分 ÷ 60 = 20 時間/月
導入後 60件 × 6分 ÷ 60 = 6 時間/月
月間削減時間
14h
削減率
70%
年間削減時間
168h
年間金額換算(時間単価3,500円)
59万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 取引先が200社以上あり、月30件以上の口座の新規登録・変更依頼が届くこと。海外取引または海外子会社との送金があること。口座情報の登録を経理が手作業で行っていること。過去に不審なメールを受け取ったことがあるか、同業で被害の報告があること。
向いていない
  1. 取引先が50社未満で、口座変更がほとんど発生しない場合。口座情報の登録に、電話確認と二重承認を含む手順がすでに文書化され、守られている場合(この構成はその手順を置き換えるものではない)。すべての支払をファクタリング会社や決済代行に委託している場合。

07最小構成で試す方法

  1. 経理部で確認項目のチェックリストを文書にする(上の11項目を自社に合わせて調整する)
  2. 過去1年の口座変更依頼を10件集める
  3. 依頼メールと添付書類のテキストを、生成AIに1件ずつ貼り付ける
  4. チェックリストに沿った検証結果を出させる
  5. 経理担当が「この結果を見て、電話確認の準備ができるか」を評価する

1番目が本体です。 チェックリストを文書にするだけで、確認の質がそろいます。AIを入れなくても、この1番目に効果があります。 実際、この構成の価値の大半はチェックリストの側にあり、AIはそれを毎回もれなく実行する役割です。

判断の目安は次のとおりです。

結果判断
確認表を見て電話確認の準備ができる進めてよい
根拠の記述が曖昧で、結局メールを読み直すevidence に事実だけを書かせる指示を強める
AIが「問題なさそうです」と書いてしまう禁止事項を強める。それでも出るなら、出力から該当フィールドを削る

OCRの精度は別途測ってください。 通帳の写しや口座証明書は、コピーの品質が低いことがあります。Document Intelligence Studio に10件投入し、口座番号と名義が正しく読めた件数を数えます。8割を下回るなら、読み取りに頼らず、依頼書の記載を人が入力する設計にしてください。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
確認表に依頼メールの電話番号が載る出力に含めないようプロンプトで禁止する。確認表のテンプレートにも項目を作らない
AIが「問題なさそう」と総合判定を書く出力スキーマに総合判定のフィールドを作らない。フィールドが無ければ書けない
電話確認が省かれる運用になる確認表の「電話確認の日時」「話した相手」を必須入力にする。空欄では承認に進めない
通帳の写しが読めないunreadable として扱い、書類の再送を依頼する。推測で埋めない
口座名義のカナ表記が揺れる正規化してから比較する。それでも違う場合は discrepancy として人に判断させる
取引先マスタに電話番号が無い「登録番号なし」を大きく表示する。この機会にマスタの電話番号を整備する
新規取引先の登録が素通りする新規登録も同じ検証を通す。「過去の取引履歴なし」は正常だが、電話確認は必須
海外取引先で電話確認が難しい時差と言語の問題がある。別の確認手段(既知の担当者への別経路の連絡)を事前に決めておく
郵送・FAXで届いた依頼が検証を通らないスキャンして専用メールボックスへ転送する運用にする
依頼が急ぎだと手順が飛ばされる手順を変えない。確認が取れるまで支払を保留する方針を、経理部長の承認事項として文書化する

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 取引先の社名、銀行口座情報、取引金額、担当者名。口座情報そのものであり、扱いを誤れば送金の誤りに直結します。

  1. 外部AIへの入力可否 … 取引先の口座情報を外部サービスに渡すことになります。口座番号を伏せて検証できる項目と、口座番号が必要な項目を分けてください。 「依頼書と通帳の口座が一致するか」はマスキングした状態でも判定できます(一致するかどうかだけを見るため)。取引先との秘密保持契約の確認も必要です
  2. 学習利用 … 入力を学習に使わないことが契約で保証されるサービスを選びます
  3. ログのアクセス権限 … 確認表とログには全取引先の口座情報が並びます。経理部門と、権限を持つ役員に限定してください。 情報システム部門の運用担当が閲覧できる状態にしないよう、権限設計を確認してください
  4. 依頼メールの連絡先を使わせない … 技術的な対策ではなく、出力と画面の設計で防ぎます。確認表に載せない、同じ画面に本文を表示しないの2点です
  5. 自動実行してよい範囲 … 読み取り、照合、確認項目の検証、確認表の作成までです。電話確認、マスタの更新、支払の実行は人が行います。運用が安定しても変えません
  6. この仕組み自体が攻撃対象になり得る … 確認表の作り方が外部に知られれば、確認項目を回避する依頼を作ることができます。確認項目リストを社外に出さないでください
  7. 万一の場合の手順 … 誤った口座へ送金してしまった場合の連絡先(取引銀行、警察)と手順を、先に決めておいてください

誤りが起きた場合のリスクは、偽の口座への送金です。送金してしまった資金は、多くの場合すぐに引き出され、取り戻せません。 この構成は、そのリスクを下げる補助であって、なくすものではありません。

10まず何から始めるか

1週目:チェックリストを作る

AIより先にこれです。 経理部で「口座変更の依頼が来たとき、何を確認するか」を11項目程度に書き出します。IPAのビジネスメール詐欺対策の資料と事例集を読み、自社に当てはまる手口を確認項目に反映してください。このチェックリストを紙で運用するだけで、確認の質がそろいます。

2週目:取引先マスタの電話番号を整備する

確認表に表示する番号が無ければ、この構成は成り立ちません。 取引先マスタの電話番号の登録率を数え、主要取引先から埋めます。この作業は、AIを入れるかどうかにかかわらず価値があります。

あわせて、口座変更の依頼を受ける専用メールアドレスを用意します。

3週目:OCRの精度を測る

過去の口座変更依頼の添付書類10件を Document Intelligence Studio に投入し、口座番号と名義が正しく読めるかを確認します。8割を下回るなら、読み取りに頼らない設計(依頼書の記載を人が入力する)に切り替えてください。

4週目:検証を試す

過去の依頼10件について、チェックリストに沿った検証を生成AIに行わせます。経理担当が「この結果で電話確認の準備ができるか」を評価します。

2か月目以降: ワークフローを組み、確認表の自動作成まで進めます。電話確認の記録を必須入力にする運用を、同時に始めてください。 後から足そうとすると、省く運用が定着した後になります。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-09-15/最終更新:2026-09-15
確認した内容情報源確認日
ビジネスメール詐欺(BEC)の手口として、攻撃者が取引先になりすまし、偽口座に差し替えた請求書を送って振り込ませるパターンがあること。海外取引先の担当者を装って偽口座に改ざんした請求書を送った事例、海外子会社の担当者を装って送金先の変更を依頼した事例、取引先のメールアカウントが乗っ取られて詐欺メールが送られた事例、銀行口座証明書類を偽造して振込先口座の変更を依頼した事例が報告されていることIPA: ビジネスメール詐欺(BEC)対策 / IPA: ビジネスメール詐欺のパターンとは2026-09-15
振込先口座の変更といった通常とは異なる対応を求められた場合、送金を実施する前に、電話やFAXなどメールとは異なる手段で取引先に事実を確認することが推奨されていることIPA: ビジネスメール詐欺(BEC)対策2026-09-15
Azure AI Document Intelligence の prebuilt-read モデルが、PDFやスキャン画像から印刷文字と手書き文字を抽出し、段落・行・単語・位置・言語を検出すること。手書きかどうかの判定結果が信頼度とともに styles に返ること。PDF・画像(JPEG/PNG/BMP/TIFF/HEIF)・Office文書(DOCX/XLSX/PPTX)・HTMLに対応することMicrosoft Learn: Read model OCR data extraction2026-09-15
Claude API の構造化出力が、JSON Schema で指定した形式に沿った応答を保証すること。定義していないフィールドは返らない(additionalPropertiesfalse が必須)Claude Docs: Structured outputs2026-09-15

ERPからの取引先マスタと取引履歴の取得方法は製品によって異なります。この部分は利用環境に応じた個別確認が必要です。 口座情報の取り扱いと、誤送金が発生した場合の対応手順については、取引銀行と自社の規程を確認してください。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。この構成は誤送金のリスクを下げる補助であり、なくすものではありません。

自社の業務に使えるAI活用候補を整理します

このユースケース(UC-0070)についてのご相談はこちらから。

AI活用について相談する
目次